種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
俺の目の前には、定食が並んでいる。
2人分奢ってもらったので、価値としては銀貨2枚くらいだろうか。
柔らかい肉、新鮮な野菜を使ったスープ。
旅の中では到底味わうことができなかった、素晴らしい逸品である。
「なるほどなるほど。
干し肉は十分補充していたが、具体的な消費量が分かったのはありがたい」
「ええ、どうにも、ドワーフと獣人は我々とは味覚がだいぶ異なっているようですから」
「参考になったよ」
と、お互いに、料理を口に運びながら、酒を片手に、和やかに会話をしていく。
さて、ここまでは世間話と、その延長みたいなものだ。
本題はここから。
「さて、ここからが本題なんだが、これから隊長にこの計画書を提出したい。
確認を頼めるかな」
俺は机の上に、新しい計画書を出した。
「これは一体なんですかな」
「新しい配膳計画だ。このプランに沿えば、消費する食材の量を2割程抑えることが可能だと俺は見ている」
俺の要望にそうだけの食料を提供できるのか、できないとしても、他の商人を巻き込んで計画を進めることはできないかと俺はたずねた。
「まぁ、私は長年、この町で、食料を扱ってきた身。特に肉に関しては専門としておりますから、可能でしょうね」
返答はイエスだった。
仮にノーだとしても、この返答が出るまで、他の人間を尋ねるつもりだったので、最終的な成果に違いがないが、いきなりでこれ。
なかなかに、幸先がいい。
「なら、この計画に問題がないか確認してくれ。こっちにはこの辺りの地理に関する知識が不足しているからね。
複数人が確認したほうが、隊長もいらぬ疑いを抱かないだろう」
「それについては任せてください」
「では、俺はこれから、隊長に安く干し肉を入荷できるかもと営業をかけるつもりだ。ついでに、これが前回の、干し肉の仕入れ価格」
「最低限、これよりは安くということですな」
こうして、明日の朝一番に、この商人の店を訪れることが決まった。
そこで実行するかどうかの最終確認を行う。
「ついでと言っては何だが、もう一つそちらに頼みたいことがあるんだ」
「確かに、素晴らしい情報だが……、もう、私は君に奢るという対価を払った」
やはり、今日初めて出会った相手ということで、向こうはこちらを完全に信用はしていないらしい。
こちらが、何かを要求するそぶりを見せれば、さっそく釘を刺されてしまった。
「頼みたいことは商品の注文だ」
俺は虎の子である全財産金貨22.5枚を机の上にたたきつけた。
「これで、干し肉、脂身、少量でいいから、ナッツだとか、ドライフルーツ、乾燥した野菜を購入したい」
もし失敗したら俺は無一文だ。
しかし、データを見るかぎり、十分な勝算があった。
「まさか、たったこれだけの額で商売をすると」
袋の中身を見て、商人の男から、こちらに払っていた敬意が薄らいでいくのを感じる。
ちょっとした大金だが、商売をするには少なすぎる額だ。
こうなると、俺が適当に自称した役職そのものにうさん臭さを感じているのかもしれない。
向こうには、この隊商においてなくてはならない人種、つまりは恩を売っておきたい認定がないと困る。
こちらがタダのバイトだとばれれば、祭りの前の大量注文なんて受けてくれないかもしれない。
「それで、ダーリン。これでいったい何するの?」
「ああ、それね。君にちょっとした一品を任せて見ようと思ったんだ」
ここで、妻設定が生きた。
商人の顔が一気に和らいだ。
女へのプレゼントなら、この程度の額でもそうおかしくはないと考えたのだろう。
「それで、まさか、この程度の額で根を上げることはないだろ」
もし、用意できないなら、そもそも、俺が求める水準を満たしていないという烙印を押されることになる。
「ええ、これからもいいお取引をしたいものですから、安くしときますよ」
こうして俺は、欲しくて欲しくてたまらなかった確約を手に入れたのだった。
「一つ聞きたいんだが、あのデータはここまで効果があるものなのか?」
サムエラはおごってもらったのはいいが、いまだにデータの価値に懐疑的らしい。
「そもそもの話だ。ツルヒコらは隊長が自身の改善案を受け入れることを前提に動いているが、受け入れてくれる保証などどこにもないはずだ」
「これについては別に受け入れてくれなくとも俺は困らない、というか、隊長に話を持って行けた時点で、勝みたいなものだ」
「それはなぜだ」
サムエラはしつこく聞いてきた。
「理由は大きく分けて3つだな。
第一に、ここの商人に俺の顔を覚えてもらえた。
おかげで、ただ飯を食えたし、安く肉を手に入れることができた。
第二に、隊長のところに話をするだけで俺たちは得をしているからだ。
無名のアルバイトが、これだけの企画力を持っている、あるいは隊長に顔を覚えてもらえるだけでも俺たちにはプラスなんだ。
第三に、今の段階では俺たちは時間を消費したが金はまだ消費していない。
たとえ、全てが失敗しても、失うものなんて、微々たるものだからだ」
一つずつ、指を折り、俺は現状を説明してやった。
「ということは、残る問題はその大量の在庫をどうするかだな。
その感じ。どこかでまた儲ける方法があるんだな」
「ああ、ここにあるデータが生きた」
そういって、俺は木片の項目である、ドワーフが肉が好きという重要情報を指さした。
「そんな当たり前の情報のどこが重要なんだ」
「考えてみろ。俺たちはまたすぐに旅に出るんだ。みな、多かれ少なかれ個人で食糧を買いあさるぞ」
「まぁ、いくら金欠と言っても、私でもそうするな」
「ここで、止まっている宿についても書かれたあのデータが生きてくる。他の店よりも先回りして、自分の商品を個人に売りつけることができるんだ」
「さすがだな。おごらせた分と割引分を考えれば、金貨6枚は得をしたのではないか」
「だとしたら、あと4枚儲ければ俺の勝ちだな。いや、これで全損しても俺の勝ちは確定したな。
何せ、俺はこれと同じ手段を何度でも使える」
「訂正しよう。こんな紙切れで何ができると言ったが、これもまた立派な商品だ」
自分では、このような儲け方思いつきもしないだろうとサムエラは感心していた。
「だがだ、それはいくら何でもずるくないか。節約しただけで、もうけたわけではないだろ」
確かに、そういわれると否定できないな。
だが、儲けることはできる、後でいくらでもな、それに。
「でもまぁ、これで一番最初の目的である、君に金儲けの方法を教えることができたな」
「えっと、どういうことだ」
「これは、古いおとぎ話なんだが、
ある町に、銀細工師がいた。
客に品物を見せる際、表面に傷があることが分かったんだ。
弟子はその傷を見るや否や、急いで、昼食のパンを口に突っ込み、客に不良品が見つからないように隠した。
だが、弟子はできたやつではあるがそそっかしいやつでね。
片づける際に、パンくずを落としてしまったんだ。
慌てて、弟子がそれを片付けようとするんだが、師匠は残しておけという。
そして、次の客が皿を見ると、細かい粒が散っていることで、光が反射し模様が浮き出たんだ。
客はその光景を気に入り、皿を購入した。
こうして、新商品ができたという。
これと、今回のデータは同じだよ」
「まてまてまて、意味が分からない」
話が回りくどすぎたなと、俺は少し反省した。
「ある人にとって、ゴミのようにしか見えないものであろうとも、別の人からは宝だと思えるってことだよ。
これこそが商売の基本だ。
君の進言を受け入れ、データを取らなければ、ここでの食事はなかった」
それが事実だけに、サムエラは口をつぐんだ。
「商売の基本というのは安く買って高く売ることだ。
人がタダで手放してもいいと思えるものを、それを高値で欲するもののところに届ける。この種類が多ければ多いほどに、商売人は多くの稼ぎを手に入れられる」
「なるほど、参考になった」
本当に興味深かったのだろう、彼女は瞬きすることなく俺の話を聞いていた。
さて、本題はこれからだ。
「今から、この肉を俺が採取した食事事情のデータから金に換えようと思うんだが、手伝ってくれない」
さすがにこの量をどうにかするのは難しい。