種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
ゴリゴリ、ゴリゴリ
「まさかとは思うが、お前は私を都合のいい肉体労働要因と考えていないか」
「その通りだ。金を払ってるんだから、文句言うなよ」
サムエラには、その肉体強化スキルからくる怪力によって干し肉を細かく砕いてもらっている。
大量の干し肉が手元にあるが、それをそのまま、右から左に流しただけでは、大した稼ぎにはならないだろう。
ならどうするのか。
答えは2つ。
第1に、高い金を出してでも買ってくれる場所を探す。
第2に、ひと工夫を加えてほしいと思わせる商品にする。
サムエラが潰してくれた干し肉から、さらに水分を抜くために、すりつぶしたそばからさっと炒める。
その横で、たっぷりの脂肪がついた牛脂を熱し、脂肪を搾り取る。
グツグツと油が浮き上がるのと同時に、周囲に食欲を誘うにおいが立ち込め、俺のお腹がグーグーとなりだした。
ここで、有り金すべてを放出したのがプラスになった。
金があったならば買い食いしただろうから。
はっきりと言って、そんな余裕、今の俺にはない。
水分を飛ばした干し肉に、ドライフルーツ、乾燥させた野菜、ナッツ類を投入。
ここに、先ほど作ったラードをくわえて、練り合わせ、冷まして固めると、
「よし、ぺミカンの完成だ!」
インディアンの伝統的な保存食が完成した。
「それで、これを一体どうするのだ……?」
あっ、おいしいと!
味見がてら、一本頬張ったサムエラからうれしい感想が聞こえた。
「まぁ、明後日は市なのだ。これだけの味ならば十分戦えるだろう」
気に入ったからだろうか。もう一本と強欲に伸ばされた手をペシンとはたきながら、あれだけ説明してやったというのに、俺の説明を理解できていないサムエラを冷笑した。
「確かにこれは、保存も効くし、普通の干し肉にはない味わいがある。だがな、俺たち素人がチョイと手を加えた程度のもの、市では埋もれるぞ。何せ、向こうは料理のプロだからだ」
もっとも、それはこっちの世界の料理のレベルを知らないから、杞憂だという可能性もある。
だが、俺は駿馬のように、商売では先頭をかけたいのだ。
「いや、だが……。正直、市のときほど財布のひもが緩むときはないだろ」
市を経験するのは初めてだが、お祭りをイメージすればいいのだろう。
なるほど、食品を売るなら、ここ以上に的確な場所はないだろう。
「確かに、食品を売るなら、祭りの日が一番いいだろう。
だけど、君は一つ見逃している。実は今日、お祭りの本番をやっている連中がいるってことを」
皆の食事事情を聴いたからこそ分かる。
早速、俺は祭りの場へと向かった。
「どうも」
同じ隊商の仲間ということで、宿の人間はあっさりと通してくれた。
そう、俺の狙いはドワーフだ。
もとから、ドワーフは職人であり、隊商の中で上位の商人。
加えて、いざという時の護衛役でもある。
隊商の地位は俺なんかとは比べ物にはならず、立派な宿を俺はじっと見た。
重厚な扉を開けると、
うわ、酒クサ!
予想通りに宴会していたが、予想以上に出来上がっていた。
「ひっく、確かぁ……、隊商の若造じゃったなぁ」
若造かぁ。
俺もいい年だと思うんだが、まぁ、ドワーフの平均寿命は500年。
長命種なので、人間だと、たとえお爺ちゃんでも若造なのだろう。
「いったい何の用じゃ」
「実はですね、この度、市で酒のつまみを販売しようと思い、あなた方に試食をしてもらいたくて」
「まぁ、もらえるというのならもらうが」
やはり、無料という言葉が聞いたのだろう。
ドワーフ達は小さく切り裂いたペミカンを口に運んでいく。
「おお、これはうまい」
「ただの肉ではなく、ナッツの触感とベリーの酸味がアクセントとなっておる」
「こいつは、酒にも合うぞ」
もっと、もっとこのつまみはないのか。
ドワーフたちは大食いであると同時に、酒のみ。
つまみにもちょうどいい一品をもっていけば売れると思ったが、その予測は見事に的中した。
「あ、有りますが、これは明日の市で出す要の代物で」
「なら、金を出そう」
「ああ、ジャンジャンもってこい!」
やはり、酒の入った人間ほど、財布のひもが緩くなるやつらもそうはいない。
あの商人は大量購入と、これからの取引への投資として、干し肉を三割引きで売ってくれた。
つまり、今の肉の総額金貨29.25枚
それを加工したのだから、少しでいいから色を付けたい。
だが、あまりにも高すぎると競合他社にシェアを奪われかねない。
販売金額は1.4倍でいいだろう。
よって.金貨40.95枚が目標となる。
「うまいうまい」
「これ、他にもないのか」
「この宿はどうにもつまみが少なくてな」
ここで俺に追い風になったのは、ドワーフたちの酒癖の悪さだった。
国民性というべきだろうか。
ドワーフというのは喧嘩早いやつらが多く、酒が入ればなおさらだ。
過去に、あびるように酒を飲んだドワーフが、他の客と取っ組み合いの喧嘩をやらかしたらしい。
市を開いたのはいいが、評判の悪さから、客足が遠のき、それ以来、酒を飲むなら、せめて身内だけにしてくれと、隊長から頼まれたらしい。
幸いなことに、店側も、飲めや歌えの宴会をやっているドワーフは酒と食料を大量に消費してくれる上客だ。
何度も何度も、店と宿を往復しているというのに、いやな顔を見せていない。
行くときも帰るときも、ニコニコ笑顔だ。
あれ、顔が変わったな。
どうやら、あの笑顔はようやく面倒な仕事から解放されるかららしい。
こんな風に、絶えず、酒と食べ物が補給されるのはいいが、飲み会でよくやるように、飲食店を何件もはしごするような真似は流石にできない。
だからこそ、真新しいつまみを持ってきた俺が大歓迎された。
それからも、どんちゃん騒ぎが続き。
俺は最終的に、ドワーフの宿の床を借りることができた。
マットを敷いただけ、背中が休めと抗議でもするかのように、じんわりと熱いのだが、寝ながらおしくらまんじゅうをする、安宿よりは随分ましだった。
「ずいぶんご機嫌そうだな」
「残念ながら、絶不調だ。
ドワーフの親方に、強い酒を無理やり飲まされてな」
ごめん、ちょっと、便所に行ってきていいか。
そう断りをいれ、急いでこの場所から、戻って来た時、すっきりした顔を浮かべている俺に、サムエラは何も言わなかった。
ただ、優しく、水を恵んでくれた。
やばい、惚れそう。
「それで、商人との交渉はどうだ」
「うまく行った。これから市の設営だから、昼に交渉だ。もうこれに関しては十分も受けたから、たとえ失敗しても問題はない」
「それで金は?」
期待を込めた俺に、彼女は冷徹に返した。
ですよねぇ。
俺は売り上げが詰められた、袋を広げた。
「金貨が1、2……」
「16枚だ」
「たった1日でそんなに!」
稼ぎを聞き、サムエラは驚愕した。
「お祭りもまだだというのに、よくここまで稼げたな」
「途中で、連中と仲がいい獣人連中も来たしな。それ以上に。昨日は競合他社がいなかったのが大きかった」
「どういうことだ?」
と、疑問に感じている相手に対して、俺は丁寧に説明を開始する。
「俺が作った料理は、肉の加工である。
この味を特に好むのは獣人とドワーフ。
どちらに売り込むべきかというとまず俺は考えた。
獣人連中の多くは単なる人手。肉体労働者だ。当然金はない。
一方で、ドワーフは商人であり、職人だ。
たんまり金を持っている。
そして、市に参加するというのもお得な情報だった。
明日、正確には今日は店の準備で忙しい。
市の日に、商売成功を祝して、打ち上げするのも悪くないが、それだと、この町からの出発に差し障る。
ドワーフたちが心置きなく騒げるのは、今日をおいてほかにないのだ。
だからこそ、今日、物を売ると決めた俺は優位に立てたんだ。
明日同じことをしても、こう上手くはいかない。ライバルが多いからな。
そうなれば、自分の商品は単に物珍しいだけ。
それがうまく転ぶのか、裏目にできるのは分からない。
だからこそ、昨日こそが昨日だけが俺がもっとも稼げる時期だった」
「いや、驚いた。本当に、あの皿洗いの記憶を使ってお金を生み出したのだな」
ただの皿洗いが本当に金になったので、サムエラは心底から驚愕していた。
「それで、儲けなのだが。金貨10枚に達したのか」
「ああ、そういえば、そんな賭けをしていたな。今の段階だと、もうけはマイナス。でも、賭けの内容は如何に稼げるかだ。
余っている全財産をよこせ」
「そ、そうだな。というよりもだ。
これ、いくら何でも情報によって金を稼いだのか、それとも、商品で金を稼いだのか、はた目には判断できなくないか」
こいつ、自分が負けるかもしれないから、条件を厳しくしてきたな。
「そうか、俺としては今回の一件も、情報がなければ金を稼げなかったと感じているが」
サムエラは、こっちが弱みを見せたから、条件を厳しくしてきやがったという目になった。
「販売とかも併せて、金貨20、いや、30枚は」
「てめぇ、負けそうになったからって、ゴールポストを動かすんじゃねえ」
「貴様こそ、無から金を生み出すという誓いを忘れたとは言わせんぞ!」
「うるせぇ、先に約束を破ったのはそっちだろうが!」
「いやいや、そっちだ。
手持ちの金を使った時点で、話の趣旨が違うだろ」
「だったらさ、干し肉買った時点で止めろよ。
お前も何食わぬ顔で、干し肉加工していたじゃないか」
「そ、それは」
「ああ、仕方ないな」
いつまでたっても平行線をたどるやり取り。
俺たちはあらゆるもめ事を解決する、最終手段に手を出した。
「最初はグー、じゃんけん」
正確にはよく似たルールを持つ、まったく別のゲームだが、翻訳魔法によって、俺には慣れ親しんだ掛け声が聞こえてくる。
「負けたぁ~」
「勝ったぞぉ!」
ここに、勝者と敗者は分かたれた。
この女から金を巻き上げるためには、後金貨15枚を稼がなければならないらしい。
「さてと、物は相談なのだが……」
俺は彼女の前に金貨を2枚、いや、3枚置いた。
「この商品製造と運搬をお願いしたい」
サムエラも金額変更には思うところがあったのだろう。
同情もあり、二つ返事で受け入れてくれた。