種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「提案についてはどうだ」
約束の通り、朝、俺は商人の店をノックした。
「計算したところ、問題はありません」
手には、俺がしたためた記録が残っている。
そこにはいくつかの数式、意見、簡易的な地図などの複数の加筆が付け加えられている。
もう使わないとはいえ、人のノートに手を加えるのはどうなんだ。思わず、抗議をしたくなったが、それを言うならばこっちの方が謝らなけれ場ならないことは多い。
ぼろが出る前に、こっちの方が先に切りださなければならないだろう。
「話差なければならないことがいくつかあるんだ」
「はて、それは何なので?」
「実は補給部隊の実行部隊隊長っていうのは嘘で、俺はアルバイトなんだ!」
「なんと! 妖しいなとは思いましたが、全く気が付きませんでした」
良かった。ちゃんと騙せてたんだ。
「後、サムエラは偶然ついてきただけ。
妻でも愛人でもないんだ」
「そちらは、妖しいとすら思いませんでした。
後、一押しすれば行けるのでは?」
茶化してくるものの、こっちに関してはいろいろとあとくされがあるので、騙されないでほしかった。
「ということは、この集計表にも嘘が混じっていると」
「それは本当。嘘なんて一つも混じってはいない」
ここで疑われてしまえば話が進まなくなるので、真実だと太鼓判を押した。
「俺は出世をしたいんだ。
今はアルバイトだが、この提案が通れば確実に出世できる」
場合によっては、正社員という名の幹部になれるかもしれない。
「私としても新規事業の開拓をしたい。
あのコック長はなじみの店でしか買い付けを行わない。
そこに、風穴をいれる可能性があるだけで十分だ」
それからも、短い会話のキャッチボールを繰り返し、交渉のオフェンスとディフェンスが確定した。
必要以上に食料を買いあさっていると俺がアタック。自分の策が十分実現可能だと商人がディフェンスを担う。
きっと、どこの馬の骨かもわからない新人がこの計画書をもっていっても、門前払いされるのが落ちだ。
安くできる点は一切疑っていない。
隊長がこっそりと、干し肉の値段を教えてくれたが、通常と同額。
だが、大量注文するとなると保管量、利益の増大、スペースの確保などさまざまな利点がある。
社長をやっていた時でも、大量注文をすれば喜んで値引きをしてもらえたものだった。
それがないということは、コック長の前には山吹色の輝きが天高く積まれたのであろう。
故に、勝機は十分ある。
完璧な計画が出来上がる。
もちろん、採用されない可能性はある。
というか、そっちの可能性のほうがはるかに高いだろう。
何せ、悪名は無名に勝るのだから。
失敗したら、コック長にはにらまれるだろうが、隊長に顔を覚えてもらえるだけで、金貨3枚くらいの値打ちはある。
「たとえ、全ての情報が嘘だったとしても、たった一つ。
そう、それが金になるという情報が真実であったというのならば、私は構いませんよ。
商人というのはそういった生き物なのですから」
「もし、成功したら」
「金貨3枚でどうでしょう」
「それだと、そちらに悪い。成功しても、失敗しても干し肉を金貨15枚分購入しよう」
「せっかく用意した分が在庫になるよりはましですね。3割、いや、4割は値引きしましょう」
もしも俺の計算が正しければ、どっちみち干し肉は不足するのだ。
なら、買えるだけ買おう。そして、売るべきタイミングで売れるだけ売る。
それが俺の商売だ。
あらかじめ、隊長にはお得なお話があると伝えていた。
彼はこちらの話を面白がり、市の設営の仕事を休みにしただけではなく、コック長と彼の顔見知りの商人との商談の場に俺を招待してくれた。
「すいません、しばしの間、邪魔をしてもいいかな」
「邪魔をするなら、帰れ」
問いかけに対して、コック長は即答した。
頼み込んでいる手前、否定されると帰るしかないのだが、こっちもこっちで、はいそうですかと帰るわけにもいかず、どっしりと椅子に腰を下ろした。
「おい!」
「いや、いい。実は昨日、ここにいるツルヒコ君から面白い提案を受けてね。
この話し合いの場に参加してほしいと、僕が頼んだんだ」
まだ、俺たちの世界では20代前半程度にしか見えない、若者が不機嫌そうに俺を追い出そうとする、コック長を静止した。
「というよりもだ。このまともに荷物運びすらできないへっぴり腰にいったい何ができるってんだ」
「それが、なかなかに面白い提案をしてくれてね。確か大幅に」
「私も確認しましたが、ここにあるコック長の計画書よりも20%は安くできますね」
まず、コック長の計画というのは無駄に物資が多いうえに、店も、きっと賄賂とかの関係があるのか、割高になっている。
色々と計算した結果、判定はここに落ち着いた。
「ふむ」
隊長が興味深そうに俺を見た。
こうして、俺たちは邪魔ものでも何でもないことが証明されたからこそ、発言権を得られたと判断してもいいだろう。
そんな権利認められないと、コック長は俺のことを忌々し気に見つめてくるが、知ったことか。
「いくら何でも、食費を20%も削減とは、ふかしすぎではなかろうか」
「ここにある資料を見てください」
そして出てきた。意地悪な上司の鉄板。
ここ本当に理解してますか攻撃だ。
昔、俺がこれをやる側だったのだが、今度は、上司になった奴からこれをされるとは思わなかったなぁ。
そして、やられるとここまでうざいとも全く思わなかった。
「食事に関して、そのほぼすべてが長期間保存のきく、干し肉などとなっています。
この保存食に関してですが、緊急事態にそなえて、常時、一週間分以上の備蓄があります。
川の氾濫、野党、土砂崩れなどの突発的な災害対策ですが、その対策のためと定義しているからこその問題が起きているんです。
それがこれ」
俺はグラフを見せた。
ある一定のタイミングを超えると、食料の消費量が跳ね上がっている。
「食糧というのは、特定の地域が飢饉などで値上がりすることがありますが、それでも、かさばるために現地調達が基本となっています。
しかし、それは町につきさえすれば食料を補給できると言う甘えになってしまっている。
足止めになるようなことが起こらないと判断される平坦な道では荷物を減らすために食糧庫の鍵が緩くなっている。
それらをなくし、常時同じ量だけ、食料を提出すれば問題はないのではないでしょうか」
俺の熱弁に、隊長は熱心にあいづちを打ってくれて、コック長は舌打ちを打ってくれた。
「それはつらい旅を過ごすうえで、英気を養うためであって」
「それについては、これ。則ち、料理の消費スピードを見てください。
料理の消費量には差が存在します。最も多いのが肉類。それを奪い合う様にしてくらい、パンとスープは時間があればという程度。
これまでは、全てを放出しました。しかし、干し肉さえ増やしたのならば、他の連中からの反発もだいぶ抑えられるはずです」
こちとら、プレゼンなんてものは昔、飽きるほどやったのだ。
こんなすぐに出てくるような質問は全て、対策してるんだよ。
「しかしながら、これからのことを考えると……。
ここまで大量の物資を買いそろえることができるのは、ここにいるにコルド―殿の商会との縁があってこそ」
「それはまぁ、そうだな……」
ここで、若き隊長が初めて、頭を悩ませた。
いきなり、新規に食糧の受注を丸投げすることに不安を感じているのだろう。
「だとしたら、干し肉のみを注文するのでどうでしょう。このロメオどのの専門は肉。だからこそ、ここまで安くできたという側面もありますし」
俺の提案は、物を買う量を少なくすることと、ただ一品、減らさないものを安いところから注文するという事だった。
「隊長。このような、荷運びすらまともにできない、雑用係の話など、聞くものではありません。
ここは元の案をそのまま」
自分のテリトリーに土足で入り込まれるのがよほどいやらしく、コック長は全身全霊で抗議していた。
「いや、その提案を受け入れよう」
プレゼンの成功に、俺はほっと息を吐いた。
「待て、そんなことが許されるとでも」
「僕が隊長だぞ」
その一言で、コック長は黙った。
「それで、ツルヒコ今日から君が料理の副隊長だ」
「それだけは認められんぞ」
この提案に、コック長は怒りを顕にした。
「いいか、これは決定だ」
隊長は組織の長だというのに、言い争いになっていた。
これにはきちんとした理由がある。
隊長の若さからもわかるように、つい最近、この隊のリーダーを代替わりしたばかりだからだ。
だからこそ、長い間、ここでやってきたベテランたちとの力関係に微妙なものが混じる。
でも、それはチャンスでもある。
新人であり、自分に忠誠を誓いそうな優秀な奴を欲しているということもある。
「さてと、やはり報酬は金貨がいい。10枚だ」
俺は隣にいる商人に契約の変更を打診した。
結果、金貨7枚が俺の懐に飛び込んだ。
その金貨を、俺は右から左に流した。
ついでに、懐から、金貨を出した。
これであるだけ、干し肉を購入したことにしたのである。
もちろん、急な予定の変更で、多数の在庫を抱えているから、安く売ってくれた。