種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「また、データ収集か。
あれだけの成果を出したのだ。続けたいのは分かるが、仕事は増えたのだ。少しは休んだらどうだ?」
「目の前に大金が眠ってるんだ。真の商人なら、この状況で手を抜くことはありえない」
副コック長になっても、俺の活動は何も変わらない。
今まで通りに荷物を運び、皿を洗い、配膳をする。
給料が増えただけで、やっていることに変化はない。
いや、仕事量が増えたのだから、厳密には給料が増えたと言えないだろう。
そう、コック長は自分の分を犯されることをきらって、雑用全般を俺に押し付けたのだ。
目の前には山積みの日持ちする野菜が置かれていた。
「昼までには必ず終わらせろよ!」
背後からはコック長のありがたい言葉が飛んできた。
今まで、役に立たなかったとはいえ、手伝おうとしていたサムエラすら、役割から外された。
そのまま他の業務ということになったのだが、持ち前の不器用さを存分に発揮したせいで追い出され、ここに戻ってきたのである。
見ているだけの状況に申し訳なさを感じているのだろう。
こちらに、何かと気にかけてくれていた。
それがますますコック長の気に障り、さらに仕事が増えるという悪循環に陥っているのだが、それは言わぬが花だろう。
なので、俺は彼女に情報を求めた。
こっちに来てから、まだまだ俺はそれほど多くの時を過ごしていない。
各国の雨や風といった風土、美味しいお菓子から、おしゃれな小物といった特産品、その地で当たり前のように暮らす人々など知りたいことなどいくらでもあったからだ。
もちろん、彼女が一方的に話をするだけではない。
彼女も俺の話、特に商売について知りたがった。
というのも、あの町での一件以来、彼女は俺のことを凄腕の商人と誤解したのである。
「そもそもの話、こんな山の中で金を稼ぐ方法などあるのか?」
まずい、口を滑らせた。
これからの稼ぎに目を輝やかせていたから、隠したいことまで悟られた。
どうにも、彼女は俺が払った料金と持ち金の多くを市で見つけた、安く、されど業物の剣につぎ込んだらしい。
財布が軽く、また稼ぐ方法はないか、あれば一枚かませてくれとたびたびお願いしに来るのである。
「言葉の綾だ、無茶を言わないでくれ」
むろん、嘘である。
稼ぐ計画は今も進行中だ。
ばれたくないので、口を閉ざしているのだが。
「怪しいな」
雑念を嗅ぎ取ったらしく、サムエラはこちらを疑っている。
「なら、とっておきの商売の知恵を授けよう。
必ずもうかると言って、こちらに商売を進めてくる相手を信用するな。
絶対に儲かる商売なんてものがあるとすれば、自分でやってる、他人には金以外出させないからな」
「それは確かに金言ではあるが、私が求めているような方向ではないな」
どんなにお願いしても無駄と悟ったのか、彼女は露骨にがっかりしていた。
「つまりだ。ツルヒコの計画には私が邪魔ということだな」
「いったいどうして、そう思うんだ」
決めつけはよくないよ。事実だけどさ。
「あの商人から話を聞いた。金貨10枚を搾り取れるはずだったというのに、それをしなかったそうだな」
あいつ、余計なことを。
「つまりだ、ドワーフの商売よりも大きな悪だくみを企てているんだろ」
「そ、そんなことない」
やばい、動揺したせいで、舌を噛んだ。
というか、近い近い近い!
その端麗な顔を、グイッと近づけてくるものだから、この子もしかして俺のこと好きなんじゃという誤解が生まれる。
「やっぱり何かあるだろ!」
「あるよ、あるけど、それは秘密だ!」
さて、どうやってごまかそうかと、頭を悩ませていると、
「これは」
彼女が俺を押し倒してきた。
一体何事!
もしかして、夜這い!
何て、都合のいいことを考えていたのだが、
――グルルルルるるぅッ!
視界が効かない森の中から、強烈な威圧感がたたきつけられた。
低いうなり声の正体は1mはあろうかという巨体を持つ、巨大な狼、グレイ・ウルフだった。
敵は2体3体と数が増えていく。
美味そうな匂いを嗅ぎ付けたのか、離れたせいで襲いやすいとでも思われたのか。
「ど、どうすんだよこれ!
お前、せっかく雇ってやったんだ! 速く前に出ろ」
コック長はこの光景に腰を抜かした。
今まで、散々役立たずとバカにしてきたサムエラのことを、ここに来て初めて傭兵だと思いだしたのか、その背中に隠れるという腰抜けっぷりだった。
傭兵ということもあり、散々役立たずと罵った、サムエラの腰に手を回す始末だ。
さすがは傭兵。
この危機的な状況の中にあっても、彼女の心はなぎのように静まり返っていた。
俺もまた、獣を刺激しないように、ただじっと息を細くする。
しばし睨み合う。
俺たちはこちらの動揺を狙い、圧力をかけてくるこいつらに、自分の方が上だと知らしめるつもりでにらみ返した。
一瞬にも、永遠とも思える睨み合い。
その終わりは遠方からこちらに迫ってくる土煙によってだ。
援軍を察した彼らは、森の闇に溶けるように消えた。
「本当に、山奥は油断ならない。視界が聞かないうえに、いつ強大な魔物に出くわすのか分かったものではないのだからな」
サムエラは、固く握っていた剣を鞘に納めると、木にその体を預けた。
極度の緊張のせいか、忘れようとした疲労が顔を出したのだ。
その疲労も無理はない。
今、俺たちはこの行商における最大の難関。
おおよそ、10日間の山岳踏破コースに挑んでいるのだから。
辛い道のりだが、それは同時に、この行商がもうすぐ終焉を迎えるという意味を持っている。
大河川に面したレイ国から、俺たちは魔王からの防波堤である無限城を目指して進軍している。
ここに、塩だとかの生活必需品、戦うための鋭利な武器、英気を養う食糧を納品すれば、後は戦士が最前線へと物資を運んでくれる。
地形が山なりになったのを見れば、目的地に近くなっているのが分る。
こんな状況だからこそ、当然問題は多数起きる。
「おい、肉がないというのはどういう事じゃ」
「そ、それは……」
炊事担当の一人が、その事実を発見した。
事ここにいたり、干し肉をすべて使い果たしてしまったのである。
「肉がないというのなら、力がでん」
「なぜ、こんなところで」
「我々に餓死しろというのか」
特に、肉がなければならないという獣人とドワーフの反発は大きい。
「おい、ツルヒコ。
貴様の計画が不完全だったせいで、肉の補給に不足が出たぞ」
「それは本当か」
コック長の叫びに隊長も反応してくる。
「それは違います」
証拠ということで、最初に計画した肉の使用量。そして、俺が献立に関わっていないという証言を炊事担当にしてもらった。
「そんなものでたらめだ。ここに書かれたものなど、こいつが記載しただけのもの。
幾らでも偽装できる」
コック長はもともときらっていた自分に罪を擦り付けたいのだろう。
こちらを指さし、唾を飛ばしてくる。
「いや、計算に偽装はない。少なくとも、私も配膳計画に問題がないのかを確認している」
だが、隊長がそれに待ったをかける。
「あの、あてし、コック長がドワーフと干し肉の取引をしている姿を何度も見ましたぁ~」
噂好きのホビットの女性、コレットがそういうと、隊長はあわててドワーフを呼ぶ。
事ここにいたり、真実が露見した。
「まさか、貴様。物資を横領していたというのか」
「ち、ちがう!」
とっさに、コック長は否定の言葉を口にするのだが、味方はいなかった。
お話をするために、彼はテントの裏手に引きずられていく。
「残念ですが、今回の一件はあなた方が横領した肉類を買いあさったから発生しました」
「ふざけるな。それに関しては、俺たちはそれが横領品だと知る由もない」
「在庫の管理をろくにしなかった、そちらの落ち度をこちらに押し付けるな」
「ふざけんな。おまえらのその不注意のせいで、こっちは肉無しだぞ」
「せめて、横領した分は返しやがれ」
コック長から肉を買った連中と、そうでない者との間でいがみ合いが発生した。
バチバチと火花を飛ばしながら、ああでもない、こうでもないと議論を加速させていく。
「皆、落ち着いて、落ち着いてくれ」
隊長としては、どちらに肩入れしようにも、確実に肩入れしなかった方から突き上げられる状況となっていた。
とにかく、静まりたまえと、当たり障りのない言葉をつぶやくだけだった。
「隊長。実は俺、干し肉を少し加工した保存食をちょっとした量ですがもっていまして」
その肩に手を置き、ニッコリ笑顔で俺は提案した。
「つまり、それを提出するってことだな」
「むろん、ただといううわけにはいきません」
俺はそっと、縮こまっているコック長を見た。
「それは、そうだろうな。
幸い、こちらにはそれを喜んで払いたいと言ってくれる人物に心当たりがある」
「待ってくれ、どうして俺がそんなものを払わなければならん。それにだ、いくら何でもタイミングが良すぎるのではないか」
コック長はまだあきらめていないらしい。
「どう思いますかね、ドワーフさん。知らずに肉を購入していたあなたたちはどう思いますか」
俺はあえて、気まずそうにしているドワーフに話を振った。
「ワシらは確かにそいつから肉を買った」
「横領品だと知っていたら、そんなことはせんかったわ」
すると、あっさりと切り捨てられた。
何せ、このまま話が進めば、ドワーフたちは一銭も払うことなく、この隊商に与えた損害を補填できるのだ。
下手に話をひっかきまわしたくはない。
「嘘をつくな! 俺は知ってるんだぞ、おまえらが知っていて購入したことを、それなのに」
「いいからいいから。
後、ついでに言うと何ですけど。俺、献立の設定とか、得意なんですけど」
「いいだろう。今日からお前がこの隊のコック長だ!」
こうして俺は、この隊のコック長の称号を獲得したのだった。