種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
俺の名前は丸亀鶴彦(まるがめつるひこ)。
どこにでもいる、情けないおっさんだ。
最近の悩みは、運動不足のせいで少しでぱってきたメタボ気味の腹である。
今では、学校の用務員をやっている、うだつの上がらない中年だが、こんなんでも昔はすごかった。
まじで。
なにせ、従業員100名を超える、企業の社長だったんだから。
若い頃が忙しくも、充実していた日々を過ごしていた。
人生上がり調子、30台で子供も生まれ、老後もあんたいだと思ってたんだが……、その日常は一瞬で消し飛んだ。
下請けに仕事を丸投げしたんだが、その下請けが不正しやがった。
不正には一切かかわっていないのに、マスゴミに事件を嗅ぎつけられ、後は人生下り坂。
まぁ、最初の頃は貯金がまだまだたんまりあるし、このまま引退しても何とかなるだろうとは思っていた。
その計画を――、妻がぶっ壊した。
全財産を以て、夜逃げしたんだ。
後で分かったんだが、外で若い愛人を作っていたらしい。
そいつと楽しく過ごすために、俺の全財産を持ち去ったんだ。
2人の子供のことも一切気にも留めず。
酷くない。
警察に連絡したものの、すべては後の祭り。
まだ高校生の長女と、中学生の息子を進学させるために、俺は職を探した。
その結果、以前からの知り合いだった。この群青丘高校で用務員の仕事を紹介してもらった。
とはいっても、まだまだ、お金は足りない。
どうにかして、もっといい職を探さなければってところだな。
それも、もう簡単な話ではない。
俺は40過ぎ。
まともな就職先が得られるとは自分でも思えない。
そんなうだつの上がらない日々が続いたからだろう、娘も息子も、俺をさげすんだような目で見てくる。
息子はただ視線を合わせてくれないだけだが、娘に関しては顔を合わせるたびに罵声を浴びせかけてくる。
ただ、つらい。
これまでは社会のてっぺん。
誰からもうらやましがられる、絢爛豪華な生活を怒っていたというのに、これなのである。
やり直したい。
そう何度も何度も願うのだが、ドラ〇もんも、ドラゴン〇ールも現実にはない。
人生にはそんな気軽に使えるリセットボタンがないことは100も承知だが、それでも、毎日、あのころの夢に進んでいたら、こんなことできたらいいなという妄想をする毎日だ。
もちろん、昔はよかった。
こんなことばかりを考えているとかえって、自分が年を食ったことを自覚せざるを得ないので、本当に嫌になる。
それでも、そう思わないとやってられない。
20代。大学を卒業すると同時に、友人たちとベンチャー企業を建設。
25になろう頃には、当時の日本の好景気の影響もあって、工場は拡大。
30代はまさにこの世の春。
結婚もして、会社も順調に拡大。
預金は脅威の10億。
まさに勝ち組だったのに。
「何あのおじさん、きも」
朝。すがすがしい空気を這い一杯にため込みながら、登校して来る生徒一人一人に挨拶をしていると痛烈な言葉を投げかけられた。
「心愛(ここあ)、さすがに本当に事でもさ、そういうこと言うのはどうかと思うぞ」
「いやさ、そっちの方が酷いこと言ってない、慎吾君」
まず俺に対して痛烈な罵倒をしてきたのは長い髪を茶髪に染め、大きく制服を着崩した少女、心愛。
彼女に便乗して、俺に痛烈な皮肉を浴びせて来た2色に染めたツンツンヘアーの少年は宮本慎吾。
そいつをたしなめた、眼鏡をかけた一見地味目の少年は、なんと、この学校で一番成績がいい鈴木賢(すずきけん)。
こんな女子高生にすら会うたびに罵倒される底辺が今の俺だった。
改めて、家にも、そして職場にも自分の居場所がないのだと突きつけられる。
「もう、用務員のおじさんにそんなこと言っちゃ可哀そうだよ」
「そうそう、真面目に警備員をしているおじさんに出合い頭に罵倒するのは幾らなんでも失礼だ」
俺を擁護してくれたのは、黒髪ロングの清楚そうな子。
名前はそう、黒鉄聖だったかな。
この学校の生徒会副会長をしている。
そこに援護射撃をしてくれた黒髪の爽やか系イケメンがこの学校の野球部のエースで四番。
斎藤勇(さいとうゆう)。
そんな風に、俺のことを擁護しているのに、彼らが名札を付けているというのに、俺の名前を呼ぶことはなかった。
たしなめているというのに、俺に対して罵声を浴びせた方も、そうでない方もその関係に一切の揺らぎすらない。
きっと、俺のことを心底どうでもいいと思っているのだろう。
だから、ひどいことを口にしても気にしないし。
擁護しようとも、名前を認識しない。
ただ、いいことをしたなという実感を感じているだけなのだろう。
まぁ、俺にしても生徒のことなんて、この目立つ集団以外、ただの一般生徒というくくりでしか見ていないのだ。
人のことは言えない。
同じ大人である先生が生徒と仲良く話しているのを見て、人に囲まれているのに絶海の孤島で遭難しているような気分にさせられる。
本当に、家でも仕事場でも自分に居場所がないということを感じさせられる。
――やり直したい!
機会さえあれば、成功できる。
それだけの経験とスキルが自分にはある。
それを生かせる環境さえあれば、自分は今からでも、また頂点を目指せるのにと、思ってしまう
「こんな、あほなことを考えてないで、まじめに仕事しよう」
いかん、いかん。つい、センチメンタルになってしまった。
こんな身ではあるが、無職よりはだいぶましだ。
それに、こんな私を拾ってくださった、学園長への恩もある。
任された仕事嫌をきちんとやらなければ、罰が当たってしまう。
もうこの年だ。
いまさら新し成功なんて夢を見すぎである。
まじめに、つつましやかに日々の業務を一つ一つ達成していく。
こういった地道なことを続けていく人間にこそ、やがて成功がおとずれるものなのだ。
「なんだ」
「嘘」
「きゃっ」
「もしかして、地震」
「みんな、ふせろ」
その惰性によって続く、日常はこの瞬間崩れた。
立っていた地面が大きくゆれた。
グラグラと揺れているものだから立っていられない。
地震だ。
日本において、いずれ自分のもとに降りかかると分っている災害だというのに、無意識に意識から外していたそれが今起きたのだ。
それだけならば、きっと不思議なことではない。
本当に不思議なことが直後に訪れた。
俺たちの体を黒い球体が包み込んだのである。
目をあけると、そこは絢爛豪華な宮殿だった。
左右には磨き抜かれた鎧を着込んだ、中世風の騎士としか言いようがない人間が並ぶ。
彼らを盾にでもするように、背後には明らかに上等なドレスやスーツのようなものを着込んだ男女がいた。
まるで貴族のようだ。
「ようこそ、勇者よ」
俺たち、騎士、貴族。
それらすべてを見下ろすように、豪奢な椅子に座った王冠をかぶった男の威厳のある声が響く。
「もしかして、これって、最近話題になってる異世界転生」
「この場合転生してないから、正確には異世界転移だと思ではないかしら」
心愛の驚きを聖が訂正する。
見た目も趣味も正反対の面々だが、同じグループにいるだけあって、仲がいいのだろうか?
「あなたたちを、ここに呼んだのはこの世界を魔王の手から救って欲しいからです」
「ほら、やっぱりこれってなろう系のお約束じゃん」
と、慎吾は大はしゃぎだ。
危ない、危ない。この喜びの舞がなければ俺が同じことをしていただろう。
何せ、ずっと待ち望んでいたやり直す機会が向こうからやって来たのだ。
世の中、自分以上にいかれている奴がいると冷静になるというのは本当のようで、俺は一歩引いた態度で、こいつら一体何やってんだと、高校生諸君を眺めていた。
「まあ、慎吾がそれでいいなら、あたしもそれでいいや」
おい、ギャル。
なんで、そんな事で、納得しちゃったの。
もっとさぁ、ツッコミどころとかあるだろう。
「ほかに確認をしないといけないことがありますよね。
その、私たちは元いた世界に戻れるんですか」
聖さん、それ、それが聞きたかったんだ。
まあ、こういった展開のお約束だと、魔王を倒さないと戻れないんだろうけど。
「帰れますよ。まだ、異次元への門が開いているので、30分以内であれば」
って、帰れるのかよ!
「でも、それならそっちが困るんじゃね」
この新しい世界で冒険する気満々の慎吾君が、帰らされるのが面白くないのか抗議する。
さて、これからは話が非常に複雑になるので要約になるのだが、大量の魔力を俺たちがいた世界に押し込み、代わりに俺たちをここに呼んだ形だ。
感覚としてはクーリングオフが近いのだろうか。
魔力というお金で、世界から俺たちを買った。
しかし、いまだお試し期間でクーリングオフすれば代金である魔力が返ってくる。
「あのさ、そんな事情を説明してもいいのかい」
「構いませんわ。
なにせ、こちらとしても強大な力を持った勇者に反乱されても困りますし、異世界召喚はそこまで細かく召還者を指定できませんし」
「なるほど、嘘をつく必要もないという事か」
眼鏡を光らせて、賢君が質問した。
それに、王様の横にいるから、おそらくは王女様だろうが返答した。
その返答には一切よどみがなく、嘘をついているとは思えない。
そこまで大きなリスクがなく、初期配布をリセマラできるのだ。乗り気でないというのならば、帰ってもらった方が向こうとしてもありがたいのだろう。
「もう一つ質問いいか、それだと、30分過ぎればこの世界に永眠しないといけなくないか」
「その心配は杞憂ですわ。
10年ほど時間がかかりますが、魔力をためれば異世界に帰還できます。まぁ、これに関してはこちらの国庫に尋常ではないほどの負担がかかりますけど。
もう一つの方法が魔王を倒すこと」
うわ、嘘くさい。
「あのすいません、それ俺たちを魔王と戦うように誘導していない」
「事実ですわ。要するに、異界への門を開くには強大な魔力が必要。
故に、強大な魔力を持つ魔王を打倒し、魔石を入手すれば、それを燃料に帰還できるのです」
魔石ってなんだと聞くと、魔力、つまりエネルギーの結晶体だと教えてくれた。
どうにも、学生たちが相談タイムを始めた。
そりゃあ、急にこんなこと決められない。
俺、壁の華ですが何か。
仲良しグループ、しかも年の離れた若人の中に加わるのはきついです。
「分りました。俺たちはこの世界で勇者として、魔王を倒します」
「その、あなたには関係ない世界でしょ。
いったいどうしてですか?」
「俺は困っている人を見捨てられない。ただ、それだけだ」
きりっとした顔で宣言する勇に王女様は顔をほんのりと赤く染めている。
この世界にいたい俺としては万々歳の展開だ。
でも、戦争かぁ。
よし、さすがに負け戦は嫌だ。
なので、確かめないといけないことがある。
「あの、少しよろしいかな」
俺は手をあげた。
「まずはこの国と敵の統治状況。
国民の戦争への取り組み方。
次に、季節による気候の変化。
この国と敵国との自然状況の違い。
あとは軍のシステム。
そしてこの国と、敵国の法律の比較。
その上で、勇者としての力とそれをどう活用するのかを教えていただきたい」
と、質問すれば皆がめんどくさい奴が来たという風に俺を見た。