種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
もし、間違えていたらどうしよう。
仲間には、俺を信じろと自信満々に言ったのに、手は汗でぬかるんでいた。
空に浮かぶ暗雲と同じように、俺の心もまた暗く陰っていた。
――タッタッタッタッ!
いや気にするな!
弱気になった自分を、己で叱咤する。
もし、失敗したとしても、それは長時間大人数で、見張りをしただけだ。
土砂崩れが落ちるほど、危険な場所なのだから、決して無意味な行為などではない。
そう自分に言い聞かせたときだった。
小さな足音が俺の方へと近づいてきた。
「まさか、本当に……」
そこにいたのは小さな亜人。
すなわち、人類の天敵たるゴブリンだ。
グレイウルフがコック長を襲撃している姿を見たとき、周辺を探索していた俺はグレイウルフの物ではない小さな足跡を見つけていた。
地面がぬかるんでいたおかげで、その足跡がついさっきついたものであると分る。
それに集団だ。
こいつらは一体なんだという疑問に対して、俺は話に聞いた、人類の天敵である魔王軍を思い出した。
それこそがゴブリンだ。
それほどまでに恐れられているのに、ゴブリンは最弱の魔物と評価される。
この世界では、人間が多様なスキルを持つように、魔物たちもまた一人一種、固有能力を持っている。
オーガは強力。フェニックスは再生能力。
では、ゴブリンは一体何かというと、それは生殖能力である。
相手が哺乳類であれば、それが何であろうとも己の子供を産ませることができる。
それゆえに、十分な食料を手に入れただけで、爆発的にその数を増やしてしまう。
人海戦術、数の暴力こそがこいつらの強みだった。
「げっげっげっ!」
「げぇっ!」
「げっ、げっ」
ゴブリンを始めてみた。
言語理解のおかげで、どのような言葉も理解できるが、さすがにゴブリンの言語には対応していないらしい。あるいは、ただの動物の鳴き声と判断されているのか。
それでも、崖下を指さし、篝火に視線を向け、目を凝らして人影を確認する姿を見れば、こいつらが何をしゃべっているのか想像できる。
彼らは、荷台を使い運んできた大岩を投げ捨てた。
「あぁ」
彼女が小さくも、悲痛な声をあげた。
大岩はがけ下に転がり落ち、そして、炎と兵士を粉砕した。
「さあ、皆、魔王軍の先兵をここに釘付けにしろ!」
「今こそ、根性を見せるべきだ」
俺の叫びに、部下たちは雄たけびを上げた。
「まさか、本当にゴブリンがいたとはな」
「疑い半分だったが」
「おまえら、俺たちを殺そうとしたんだ、覚悟はできてるよなぁ」
部下たちは目の前の間抜けを見てあざ笑う。
崖下では、何の被害もなかったように、あちらこちらで、篝火がともされていく。
俺はリーダーにいくつかの依頼を出した。
すなわち、崖下にいくつかテントを張ったままにしてほしい。
そこに篝火をたいて、あたかも人がいるように演出してほしいと。
当然、リーダーはどうしてそんな面倒なことをしなければならないんだと、再三にわたって文句を口にしたのだが、何度も何度も交渉し、お願いした。
もしも、これが杞憂だった場合、テントの設営費用を出すということで、合意に至ったのである。
「さあ、本体がここに来るまでの辛抱だ。それまで、こいつらを足止めできれば、俺たちの勝利だ」
結果、隊商には一切の被害を出さず、その上で、俺たちがゴブリンを奇襲することに成功していた。
「げっげっげっ」
何もかもがうまく行っている状況。もちろん、幸運の女神は何度も何度も微笑むことはない。
ゴブリンの数はおおよそ30。
対して、崖の上にいるのは12人。
数において、倍以上の差が存在している。
「いけぇ、いけいけぇ」
そんな状況であるというのにだ。冒険者の皆さんはいけいけドンドン。
様子見なんてことは一切考えることなく、真っすぐと敵に向かっていく。
暴走か。
そう思ったが、すぐにそれが違うことを察した。
こちらは、相手の背後を取った完全なる奇襲。
そして、暗い闇の中。
完全に、意表を突かれたゴブリンたちは抵抗すらできず、ボーナスタイムが発生した。
「かかれ、かかれえ!」
2つの軍勢がぶつかり合っていく。
そして、戦いを挑むのは俺もまた同様だった。
若い男でだしね。
「いくぞ、コンドーム」
酷い技名を叫ぶと、Y字型の木の枝にはゴム製の糸のようなものが伸びる。
これはスリングショット。
要するにパチンコ。
海外では狩猟にも使われる立派な武装である。
鉛球を放てば肉程度余裕で貫通する。
でも、暗いせいで、敵がどこにいるのか分からん。
「皆さん、頑張って』
俺と同じく、遠距離武器の使い手だから、動くに動けないナフリーがせめてこの暗いわと声援を送る。
皆の士気をあげようとしたのだろう。
すると、世界が光り輝いた。
間違いない。ゴブリンどもは女の声を聴いて発情したんだ。
俺の鼻が敵の位置を教えてくれる。
1体、2体、3体とパチンコから放たれる鉛球が、ゴブリンに命中した。
をしとめていく。
「げっげっげっ!」
崖下では、無数の松明がこちらに向かって移動してきている。
その動きを見て、ゴブリンたちが何やら指令を出した。
すると、後ろから切りかかられることも承知で、彼らは背を向け撤退した。
その背中を、俺たちはあえて追わなかった。
「勝った! 勝ったぞ!」
皆がカチドキをあげる。
夜中、それもよく知らない森の中で敵をおうことなどできやしない。
敵に釣りのぶせをされる恐れがあるし、それ以上に遭難する可能性が高いので、やってられるかという話だ。
「げっ!」
それに、まだゴブリンがいないとも限らないのだ。
もし、夜襲されればたまったものではない。
皆、一刻も早く安全を確保しようとてきぱきと動き出す。
その、第一歩として、地面に倒れ伏したゴブリンに槍を突き刺し、生死を確認する。
やはり、まだ息があるものも結構いて、3体ほど悲鳴を上ゲ、息を吹き返した。直ぐまた眠ることになるのだが。
「それにしても2体もゴブリンどもを倒すとは」
「ここまで、弓の腕前を持っている奴はそうはいねぇよ」
「おまえさん、これなら冒険者としてもやっていけるぜ」
「どうだ、俺たちの仲間にならないか」
雑な検分であるが、どうやら俺がゴブリン討伐数2位になっているらしい。
自分の射撃の才能があるなんて、思いもしなかった。
人間には、一つは意外な才能が隠れているのだとよく分った。
「ああ、どうだすごいだろ」
今はおどろくときではなく、喜ぶ時だ。
皆で、この喜びを噛みしめようと、辺りを見渡して気が付いた。
「あれ、彼女は……」
ナフリーがいない。
まさか、さらわれたのか?
一気に、勝利の美酒が苦い者になってしまった。