種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「た、助けに、助けに行かないと……」
短いとはいっても、付き合いがあった人間がさらわれた。
こちらの世界にやってきて、それなりの鉄火場を経験したとはいっても、まだまだ人の死を達観して受け入れられるほどに俺は老成してはいない。
「ゴブリンにさらわれた……」
「まさか、ゴブリンの花嫁か……」
「まだ、若いっていうのに、可愛そうに」
周囲の人間たちが、彼女に対するお悔やみの言葉を口にする。
こっちの世界にやって来たのはまだ数ヶ月。
それでも、噂話から、彼女がどんな末路をたどるのか俺にはわかってしまう。
どうにも、ゴブリンというのはゲーム知識と非常に似通っているらしく、異種族の女を孕ませ、数を増やすのだという。
彼女を放置すれば、死よりも悲惨な目にあうのは分かりきっている。
「残念だ……。
彼女は私たちを引率し、最前線で道を示してくれたというのに……」
やっと合流した隊長は心底残念そうにしていた。
「しかしながら、もうどうしようもない。いったん町に戻り、この事態を報告しよう」
「いや、それだと彼女が……」
ゴブリンの生態を聞いたいうのに、この反応である。
俺は隊長に血も涙もないのかと詰め寄った。
「だがだ、一体僕たちにどうしろというんだ。
ここは何度も通った道だが、それでも、地元の人間ほど、ここらを把握しているわけではないんだぞ」
義をもって、彼女を助けに行こうとする俺を、隊長は理路整然と否定する。
「分かってくれとまではいわん、だが理解してほしい。
僕たちの本文は商売であり、戦闘は威嚇ために行っているに過ぎない」
隊長は決意は揺るぎそうにない。
俺はチラリとコック長の方を見た。
「それでも、彼女を救いに行くべきだ。
誘拐されてからまだ時間がたっていない。
時間をかければ、ゴブリンどもが住居を動かす可能性があるしな」
「だが、僕はそれを認めないぞ」
隊長は正しい。
冷たいが、俺たちは傭兵ではないのだ。
ここはおとなしく、地元の自警団に任せるのがもっともコスパがいいことくらい。
それでも俺は、目の前で一人の人間の命が失われる姿を見たくなかった。
「隊長。今まで本当にお世話になりました。
俺、ここでここの部隊から離脱します」
組織の一員だとすれば動けないというのならば、組織の中から抜ければいい。
「待て、お雨はここではコック長。残り数日とはいっても、お前が隊商を離れるのは……」
「変わりの人物ならば、ここにいますよ」
そういって、俺は元コック長の肩を叩いた。
「いや、だが……」
「隊長。俺からもお願いします。たとえ短い間であろうとも、ゴブリンにつかまった女を見捨てるなど、人の名折れ。
冒険者の皆さんに、俺が数日間依頼を出そう」
「その、いいのか」
俺はたずねた。
「ああ、お前が出て行けば俺が元の地位に戻れるからな。俺の全財産だ、持って行け」
そういって、金貨をぶちまける姿を見て、思わず笑ってしまったのは俺は悪くないと思う。
☆
何か、何か彼女を探す手がかりはないのか。
ナフリーがさらわれてから、何か手掛かりがないのかと俺は頭を悩ませた。
どんな些細なものでも、見つかれば彼女の生存率が段違いだからだ。
「そんな、こんな時だっていうのに」
目を血走らせ、一つのことに集中しているさなかでも、別の厄介ごとは容赦なくやってくる。
「グルルルルぅ」
そこにいたのはグレイウルフだった。
白い歯がきらりと光る。
他の連中からは遠い。
もう、これまでかと思ったのだが、グレイウルフは口の中に加えていた何かを放りだすと、くるりと反転した。
「まさか、ついて来いってことか」
それはナフリーが身につけていたハンカチだった。
ナフリーがこいつの面倒を見ていたことを俺は思いだした。
どうしてコック長を仕留めていなかったのか、近場にある小さな足跡。そして今の姿。
それらを総合して判断すると、一つの可能性に行きついた。
「ゴブリンの巣穴がどこにあるのか、大まかな場所が分った気がする」
それを最初に話したのは、自分でも意外なことに元コック長だった。
「いや、どうして俺に話をするんだよ」
「俺はさ、どうしてもナフリーを助けに行きたい。
でもだ、さすがにコック長の業務を行っているのに、何日も隊商を離れるわけにはいかない」
「ほう」
話の方向性が見えたからだろう、コック長は一歩身を前にだした。
「だが、あまり惹かれないな。
幾ら名声を得ようとも、横領をした俺の評判は戻らない。どうせ、次の街で俺はここからおさらばだ」
「その問題を、今ここで何とかして見せよう。
今の状況にぴったりな昔話があるんだ。
ヨセフという商人がいた。
彼の誠実さは町の中にとどろいていたという。
そんな彼のもとに、ある日、若者が訪ね、その名を貸してくれないか、自分の後継人になってくれと頼み込んだ。
その真摯な態度にヨセフは好感を持った。
だからこそ、迷ったんだ。
自分が首を縦に振れば、この未来ある若者の助けになれる。
しかし、失敗すれば自分の信用に瑕がつくのではないかと。
迷いに迷ったあげくに、彼はその申し出を断ることにした。
数か月後、ヨセフはその若者が別の商人から名を借り、不正を働いたと」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「金を失っても稼ぎ直せる。だが、名声は簡単には回復しない。
これが物語の作者の意図だろう。
だが、俺からすればこうも見えると思う。
名声もまた売り買いできる商品だと」
「なんというか……。お前もなかなかにえぐいことを考えるもんだな」
「だけど、そちらにとっては都合がいい話でもあるはずだ」
何せ、そっちはただ賛同するだけで、元の地位を買い戻せるのだから。