種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
――はぁはぁはぁはぁっ……
腕に深い傷を負った。
泣きだしたうえで、周囲に当たり散らしたい気分なのだが、残念ながら、周囲にいる面々は怪我をしたくらいでは、泣き言どころか表情一つ変えない超人ぞろい。
「げっげっげっげっげ!」
「さっさとくたばりやがれ」
「げぇ!」
「これでどうだ」
血が流れていようとも、元気に走り回っていた。
俺、もう息切れしたうえで、パチンコすら握れないほどに腕力が低下しましたが何か。
だが、事態は想定以上に、こっちに有利に進んでいるな。
奇襲攻撃の成功。
体格差による、個人個人の性能。
それらがうまくかみ合い、上手く集団として機能できていないゴブリンたちは徐々に押され初めていた。
これ、無理に戦う必要なんてないんじゃないか。
だからこそ生まれる、心の余裕。
だけど、仲間が必死に戦っているさなか、皆がかすり傷扱いしている怪我で、後方待機して、何もしないというのは気が引ける。
「よし、怪我人を引っ張って行こう」
コンドームで、腕を止血。
とにかく、包帯代わりに使用。
まずは、倒れ血を流した仲間を地上へ運ぼうと思ったのだが、俺のフェロモンスキルが何やら、ある一点から異変を感じた。
匂いに誘われるままに進めば、俺は半裸の女性たちが鎖につながれているのを発見した。
「俺は彼女たちを地上に運びたいんだが」
誰か来てくれと仲間を呼ぶ。
どうやら、先頭に恐怖を覚えていたのは俺だけではないらしく、経験の浅そうな、まだ若い冒険者や、伏日の汚れが出ている奴らが来てくれた。
「ほ、本当に助かるんですか」
「ああ、もちろんだ」
本当は、まだ先頭のさなかなので、どうなるかわからないが、こんな状況で、相手をわざわざ不安にさせる必要もない。
俺は彼女らに上着を貸し、断言した。
幸い、鎖事態にさほど強度はなく、あっさりと壊せた。
一人の少女を腰に乗せれば、リーダーということで、撤退の合図を出した。
「まさか、助けが来るなんて思いもしませんでした。正直、何もかもを諦めていたので」
「こっちらとしても、君たちを発見できてよかったよ」
背負っているから、過酷な環境で浮き出た骨が少し痛い。
きているのがぼろきれなので、その感触はなおさらだ。
そんな弱り切ったレディーに本当に申し訳ないのだが、通路が狭いせいで、何度も何度
も、彼女を壁にぶつけてしまう。
人命救助など、これが初めてなので、どうか大目に見てほしい。
彼女自身、一秒でも早く、日の光を浴びたいのか、気遣うそぶりを見せれば、速く進んでくださいとせかしてくる。
なら、乱暴でも、素早く進むのが正解なのだろう。
そのかいあってか、もう、洞窟の出口が見えて来た。
暗闇にいたせいか、斜めに差し込んでくる太陽の光が、とんでもなくまぶしい。
彼女たちは外の世界に帰還する。これで、後ろの連中が一人もかけることなく戻ってくれば、物語の大縁談。
めでたしめでたしで終わるんだが……。
現実とは、そううまく行かないのが常だ。
「何だ、これは」
「嘘でしょ、せっかく助かったと思ったのに」
「そんな風に、驚いている暇があるなら、石でも何でも投げつけなさいよ」
と、ナフリーさんのマジレスに俺たちは正気に戻った。
状況としては、退路の確保のために、洞窟内に入れなかった大柄の獣人たちがゴブリンの進行を食い止めるべく円陣を組んで戦っていた。
洞窟の外にもゴブリンがいるかもしれない。
それは想定内だった。
しかし、本当にいるとは思わなかったというのが本音だ。
だって、あれだけの数が居たんだ。
敵陣奥深くでかく乱している、別動隊だから、そこまで数がいないと甘く見たのが敗因だった。
いや、落ち着け。まだ、挽回のチャンスはあるのに、リーダーがあきらめるな。
責任感が、俺を奮い立させてくれた。
「違うんです、ゴブリン様、私たちはさらわれただけで」
だが、責任感も何もない、元人質たちはさっそく心が折れてしまった。
地面に這いつくばり、許しを請えば助かると高をくくっているのだろう。
俺の背中の上で暴れまわるものだから、敵を撃退すべく、態勢を整えることすらできない。
――ドン
相手は怪我人。どうにか穏便に済ませようと思ったのに、どこからか伸びた手が鈍い音を響かせ、そのまま、その手は暴れまわる女の首筋に回された。
「あんたらもこうなりたい」
髪を振り乱して、いつも温和で、優しそうなナフリーがどすの利いた声でそう告げる。
その豹変ぶりは軽くホラーだった。
思わず、おしっこちびりそうなくらい怖い。
いや、実際にちびった奴もいるな。俺の鼻が教えてくれる。
「いい、私たちには退却路なんてものはないの。
進め、ただ前だけを見て、自由を勝ち取れ」
短くも迫力のある叫び。
これまで、散々に意思を折られた奴隷たちの瞳に、かすかな希望の光が宿るが……、想い程度で人の強さは変わらない。
ナフリーの背後、つまり俺たちの正面で獣人の一人が、ゴブリンたちの投石の礫に倒れた。
「さあ、水の弾丸よ」
「土の壁よ」
スキルを使える連中が攻撃魔法を繰り出すも、ゴブリンたちも負けじと防御魔法を展開する。
これこそが、ゴブリンたちの厄介なところだ。
能力が生殖能力であるから、己の母体の能力を高頻度で継承する。
スキルを使ったということは……、俺はそっと後ろで怯えている彼女たちを見た。
あえて、口に出さないが、そういう事なのだろう。
一進一退の攻防、
本隊が洞窟の中にいるせいで、俺たちはじりじりと後退を強いられていた。
あまりものの俺たちが、一体何ができるというのだ。
勇気が、恐怖によって、だんだんと浸食されていく。
「Gururururururu!」
もはやこれまでかと、皆の瞳が勇気ではなくあきらめに染まっていく。
ナフリーなんか、近場の傭兵から、ナイフを借りたくらいだ。
それで戦闘でもするのかと思ったのだが、すぐさま、別の使用法を思いつく。
抜き身のままに、腰に差しているのだ。
まったく、暗い話題ばかりだな。
何か明るい知らせはないものか。
その願いを天は拾ってくれたらしい。
低く、それでいて頼もしい、唸り声が響いた。
「レイグ!」
一番付き合いが長いからこそ、ナフリーがその名を呼んだ。
そういえば、道案内しただけで、どこかに消えたんだが、まだ近場にいたらしい。
洞窟内での戦闘ができないから、そのまま帰ったとばかり思っていた。
だが、こいつらが大きな隙を見せたこと。森を荒らしたうっぷんがたまっていたこと、リーダーの個人的な感情。
これらの要因が奇跡的にかみ合った結果、狼たちは獲物の喉笛に牙を突き立てることを選んだらしい。
「まさか、これほどのグレイウルフの群れが」
「このまま、ゴブリンたちが全滅してくれればいいんだけど」
「というか、この状況まずくない?」
無意識に、味方だと思い、ゴブリンと狼の正規の対決を、気分でだけ、ポップコーンをつまみながら見つめていたのだが、狼と目が合った瞬間事情が変わった。
あれはそう、野獣の目だった。
ただ、何でもいいから食事にありつきたいという、凶悪な野生動物のエゴ全開の瞳だった。
まずい!
そう思った俺たちは洞窟の中に逃げ込んだ。