種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「うおおおぉぉぉっ! コンドォームゥ!」
俺は少年漫画の熱血主人公が必殺技を繰り出すようなテンションで、下ネタを叫んだ。
洞窟の中へは、まずは人質にされていた女性、次に人間の冒険者。獣人、最後に俺という順番で侵入した。
その理由こそが、これだった。
大きな岩を引っ張り、積み、重ね、それをゴムで包んだり固めたりしていく。
俺たちが入り口側を押さえていたからこそできた、防衛作戦だった。
「げっげぇげっ」
「げぇ!」
「げっげっ!
ゴブリンどももまた、ここが安全地帯だと理解したのだろう。
背後から、グレイウルフに襲われているというのに、逃げるではなく、こちらに突撃してきた。
開けろと、俺が創り出した防護壁をノックするが、こいつらを招き入れることはなかった。
ならばどうするか。
答えは一つ、力づくである。
元々コンドームは避妊具を生み出す魔法だ。
ゴムのような弾性を持っているから、物理にはめっぽう強いのだが、刀なり牙で切断されれば壊れてしまう。
とはいえだ、俺も俺で、最後の命綱を軽々しく手放そうとは思わない。
傷つけられると同時に、その場所に新しいゴムの膜を追加する。
いたちごっこの始まりだが、修復するのは俺一人で、向こうは複数人。
どちらが有利かなど、火を見るよりも明らかだ。
「誰か、防御系、もしくは地形を変化させることができるスキル持ちはいないのか!」
あまりもののメンツだけで来たのが裏目に出た。
今も、洞窟の奥で、ドワーフ連中は勇敢に戦っている。
つまり、土を操作できるスキル持ちがこの場にいないかもしれないのだ。
獣人たちは岩くらいなら運べると、洞窟に体をぶつけながらと申し出た。
「残念だが」
サムエラを代表する人間の傭兵どもも、ゴブリンに一矢報いてやると武器を構えるだけだった。
「で、でも」
最後の最後。
誰一人として期待していなかった、ゴブリンに誘拐された連中が、提案を拒絶してきたとき、皆の目の色が変わった。
迷うということは、できる能力があるということだ。
それは神の悪戯か、あるいは悪魔の祝福か。
助かる手段を持つ者が、意志ではなく、成り行きにすべてを任せようとしているのだ。
彼女は一歩前に出たかと思うと、皆の視線に委縮して後ろにさがり。
できるんでしょという確認に、でもゴブリン様がと見当違いな返答を返す。
ゴブリンが施した隷属の首輪は肉体だけではなく、精神にも巻き付いているらしい。
「もう持たない!」
ゴムの膜に、剣が突き刺さり、そこから、ゴブリンたちの濁った瞳が覗いてくる。
「ひいいぃぃ!」
さらわれてきた女たちはトラウマを思い出し、みっともなく悲鳴を上げた。
「やれ!」
ナフリーが、女の肩をギシギシ音が出るほどに、きつく握りしめ、無理やり前に押し出した。
「ムリムリムリムリ」
それに抵抗するように、彼女は背中を後ろにそらした。
「やらないと、全員がここで死ぬのよ」
「で、でもぉ」
と、煮え切らないやり取りを繰り返す。
「とにかく岩だ、岩をゴムにかぶせて。そうすれば、少なくとも剣は通さない」
ゴブリンたちがここに侵入していないのは運が良かったからだ。
あいつらの中には土を操作できるやつがいた。
最初の襲撃でやられたのか、自分だけ穴を掘って隠れたのかまでは分からないが、いつ、この均衡が壊れてもおかしくない。
とにかく、できる手段を根こそぎ使って、時間稼ぎを私用と、後ろを向いてお願いした。
すると、ナフリーの手には白い何かが握られていた。
「まさかこいつ」
従わなかったら、強硬手段を取るつもりか。
だが、それでいいのか。
未だに怯えている、背後の女の子たちを見た。
この状況で、ストレスを与えれば、最悪爆発しかねない。
「このままだと、ゴブリンが勝とうが負けようが狼のえさだぞ」
俺は説得の方向性を変えることにした。
「ほら、狼が巣の中に侵入するのを防いでくれ」
まぁ、入ってくれば機動力がそがれて、簡単に処分できるんだけどね。
故に、入ってくることはないだろう。
それでもあえて嘘をついた。
そう、俺たちはゴブリンと戦うんじゃない。狼から身を守るだけなんだと。
「ああ、もう」
まじめな顔をして嘘をつくと、彼女たちは騙されてくれたらしい。
その小柄な体を生かして、すいすいと獣人たちの脚の間を通ると、俺の横に並ぶ。
『守りよ』
長年の不健康な生活のせいか、出力が安定しないものの、スキルは発動し、俺が作りだしたゴムの膜の内側に、薄い透明なバリアが張られた。
「これ、想像以上に、相性がいいな」
何せ、振動をゴムが吸収しているのだ。
この二重構造のおかげか、俺がコンドームを修復する速度が大きく緩まった。
やがて、嵐が過ぎ去るように、洞窟の向こう側に静寂がおとずれた。
「しのぎ切ったのか……」
万感の思いで、確認の声を出した俺のささやきを、獣人たちの太い指が塞いだ。
そうだな。相手は野生動物だ。刺激するのはナンセンスだ。
それからは、皆が静寂を保った。
その静寂は、俺たちの背後から仲間たちが洞窟内のゴブリンたちを始末して戻ってくるまで続いた。
そして、洞窟の入り口に光がさすと、そこには首筋を食い破られたゴブリンどもの死体が転がっていた。
狼の姿はない。
十分すぎるほどの食料が手に入ったからこそ、俺たちへの興味を失ったのだろう。
ようやく自由の身だ。早く街に帰りたいとせかす、さらわれた女の子たちを、宥め、すかして、俺たちは洞窟の中に戻った。
もしかしたら、ゴブリンがまだ残っているかもしれない。
どこかから逃げ出しているかもしれない。
不安を消すためだった。
この洞窟は俺たちが想定していたよりも、深く、そして大きかった。
奥に進んでいくと、計5つの分かれ道が見つかった。
小柄なメンバーが、安全を確保したうえで、ゆっくりと進んでいった果てに、3番目の横道から、小さな抜け道が見つかった。
よく目を凝らせば、木の枝が折れているのが分かり、さらに注意して落ち葉をどければ、その下にはゴブリン数体分の足跡が見つかった。
追うべきだという意見も出たのだが、遭難する可能性の方が高いのと、逃げ出したのが立った数体なので、放って置けば、勝手に野生動物が始末をつけるだろうと判断し、来た道を戻ることにした。
ここからはボーナスタイムだ。
ゴブリンたちは武装する程度の知能を持っている。
ならば、略奪の戦利品をため込んでいるわけだ。
宝物の中にはたくさんの武器や防具、食糧に、金貨や宝石のたぐいまであった。
そんな中で、ナフリーは一本の弓の前で立ち止まった。
「一体どうしたんだ?」
「これは、私が主人に送ったものなの」
彼女は崩れ落ち、涙を流した。
「そうか……」
きっと、彼女も内心では夫の死を理解していたのだろう。
それでも、死体が見つからなければ、もしもと思ってしまうのが人間という生き物だ。
「理解は、そう、理解はしていたのよ。でもね……。いざ真実を突きつけられると、どうすればいいのか分からなくなって」
泣き崩れる彼女に、俺はそっと背を向けた。
「とりあえず、あの狼、レイグだっけ。あいつがここまで案内してくれたんだ、仲直りして、その後に、ここの遺品の正式な持ち主を探す。
余った代物を売り飛ばすんで、その店番を頼めるか」
「たった今、夫を失ったばかりの女に、そんなことをいうなんて、厳しいのね」
「だからこそだ。君は、そんなことで足を止めるほど、弱い人間ではないだろう。君に今必要なものは、夫のことを想い足を止めることではなく、夫の死を乗り越え、先に向かう理由だ」