種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「これは……」
「間違いない」
どうにか街に到達した俺たちは、簡単に事の次第を説明した後、宿でいびきをかいて眠った。
だというのに、今日も全身が筋肉痛で痛かった。
それでも、当初の予定通りに、ゴブリンの巣穴で獲得した戦利品を店先に並べた。
朝から昼の半日間。
それが遺品だと、証明することは難しいが、家庭内で複数人が同意した場合に限り、無償で引き渡すことが決まっていた。
中には、品物を見つけたとたんに、涙を流して、その場に崩れ落ちる相手もいるのだが、そういった相手に関しては、さすがだましていないだろうという判断のもとに、戦利品を渡す。
そういった光景を、何度も何度も目にするうちに、こいつらから家族を奪った害獣を始末したんだという達成感と、誰かの辛さに共感してしんどくなるという疲労感を同時に味わうこととなった。
「それでこれからどうする」
「これだけの金、それも評判があれば女なんて選び放題だろ」
「さあ、遊ぶぞ!」
夜。
俺たちは酒場に集合していた。
功績をたたえられ、無料で飯も酒も提供される。
ここでの反応は奇麗に二分化していた。
自分の功績を誇り、酒と女を片手に、どんちゃん騒ぎを繰り広げるお調子者と、店の隅で静かに酒を飲む物静かなものたち。
俺は後者。
ゴブリンたちを己の手で倒したことで、その被害の大きさと、根深さ、そして直接被害を受けた犠牲者を見たからこそ、どうしても騒ごうとも思えなかった。
もっとも、これは個人のこだわりなので、仲間に強制使用などとは思わないが。
「その、少しいいかしら」
その黄昏バリアーを貫通して、一人の黒髪の女性、ナフリーが俺に歩み寄ってきた。
奇麗なワンピースと、丁寧に編み込んだ髪を見るかぎり、案外大丈夫そうなので俺は安心した。
ぴゅーッと口笛が吹かれた。
見ると、酒場にいた仲間たちがニヤニヤと俺を楽し気に見つめている。
いやないから。
この人は旦那さんを亡くしてすぐなんだぞ。
甘酸っぱい展開にはなるはずがないのである。
「その……、御主人の一件についてはお悔やみ申し上げます」
「狩猟で生計を立てている身ですもの。
そういったことについてはあらかじめ覚悟はできています」
気にしてないということは何度も確認している。
何なら、同じようなやり取りをしたことも覚えている。
それでも、弓の前で泣く彼女の姿を覚えているからこそ、どうしても、相手を気づかい、その思いやりが言葉のナイフになっていたことに遅れて気が付いた。
コソコソ、気が付かれないように彼女を見るが、良かった、気にしているようなそぶりは見えない。
「それで、ここにはどうして?」
「あなたにお礼を言いたくて。
証拠を見つけなければ、今頃、私は身勝手な勘違いで暴走していたでしょう。
もしかしたら、レイグを殺していたかもしれない。
それに、明日の商売についても、話しておかないと」
今日サボった分も明日働いてあげると、彼女は申し出た。
正直な話、働いてもらう約束は彼女を元気づけるためのもので、半ば冗談だった。
約束をすっぽかされても、そういうものだと納得していたのに、律義なものだ。
「お礼についてはもういい。
ゴブリンは思っていたよりも戦利品をため込んでいたからな。
金銭面での問題はカバーできそうだ」
「それでも、この感謝を伝えたいのよ」
と、熱い情熱をぶつけてくるのだが、実際のところ、それは有難迷惑以外の何物でもなかった。
もう大丈夫だろうと、たかをくくっているが、俺は追われている身だ。
目立ちたくないので、さっさと忘れてくれるのが何よりの報酬だったりする。
「なら、言葉だけでも十分だ」
「人がせっかく感謝してるのに、あなたのお願いなら、どんな無茶なお願いでもかなえてあげるわよ」
ナフリーは一歩、俺の方に足を進めた。
ワンピースから、健康的な白い脚が覗く。
その艶っぽい健脚に目を奪われるも、直ぐに気まずくなって、視線をそらす。
「俺は商人だ。
報酬への対価が、大きすぎても、小さすぎてもひずみが出てくることくらい、身をもって知っている」
「律儀ね」
だから結構と言えば、こう返された。
本音でいえば、つい最近、夫を亡くしたばかりの彼女から何かを取り立てるのは気が引けたのである。
「いったい何の話をしているんだ」
グダグダと話しながら、酒とつまみをとっかえひっかえしていると、酒場に新たな来客がやって来た。
「まさか修羅場か!」
「正妻登場!」
「これからどうなるんだ、ワクワクが止まらない」
おい、おまえら、聞こえてるぞ。
俺は酒場の隅で、コソコソ噂話に興じている奴らを睨みつけた。
すると目をさらし口笛を吹くものだから、俺のイライラはさらに増大していく。
「それで、2人は何について話していたんだ? もしかして、人の話せないようなことか?」
「まさか、そんなわけないでしょ。
というか、そんな事を勘ぐるということは、あなたの方にこそ人に言えない、何かやましいことがあるのではないでしょうか」
「それこそ、まさかだ」
どうしてだろうか。2人の間で、火花が散ったように見えた。
「まぁまぁ、せっかくの祝勝会だ。店の雰囲気をわざわざ悪くすることはないだろ」
とりあえず、俺は2人に釘をさすことにした。
「ああ、そうだな」
丸いテーブルで、ナフリーは向かい側に。
サムエラはどっしりと俺の横に腰を下ろした。
「それで、どうしてここに来たのかだが、これはツルヒコにとっては初の大成果。感想を知りたくてな」
「まぁ、本当にすごかったですしね」
「ああ、ツルヒコがいなければこの町をもっと長い期間ゴブリンどもが苦しめていたことだろう」
両者にとってゴブリン退治というのはそれほどまでに大きな問題らしい。
話している中で、確執が消えていくのを感じた。
人類と長年戦ってきた天敵だからな。この反応も仕方がないと言えばしかたがないのだろう。
「今、この町ではその話で一杯よ」
その反応を見て、改めて俺はすごいことをやり遂げたんだなと、自信を持つことができた。
「それでここからが本題なんですが、今日あなたの約束を違えた埋め合わせをしたいのよ」
ナフリーはずいと俺の方に身体を向け、前かがみの姿勢のまま、上目使いで俺を見た。
ワンピースを着ているせいだろう。その豊かな双球がたぷんと揺れた。
「私としては休ませてやるべきだと思うぞ。昨日はゴブリン退治での大活躍。その上で、今日は遺族への対応。余った時間くらいはゆっくりと過ごさせてやれ」
と、女騎士は俺へ気を使ってくれた。
正直どちらもありだ。
この街を見て回るのも、ゆっくりと休みのも。
手伝ってくれるというのなら、鎧だとか、剣だとか、明日売るために手入れしてもらうのもありかもしれない。
「また、この街に来た時に役に立つように、美味しいレストラン、地元民しか知らない安いお店、後は、あなたに好意的な猟師だとかを紹介できるわよ。
何でも、ゴブリンが父の仇だったらしくて」
あ、それ、今回でないと手に入らないやつだ。
鎧類に関しては、最悪、ドワーフに交渉してうっぱらうという選択肢もあるし。
ここの住民は俺が掘り出した品がゴブリンからとり返したものだと知っている。
長年の雑な手入れのせいで、品質には厳しい目で見られるかもしれない。
よしだったら。
未亡人に伸ばそうとした手を、机の下でサムエラが強引につかんだ。
えっ、嘘だろ!
俺の手は、そのむっちりとしたお尻のほうに誘導された。
何のつもりだと、俺が困惑していると、なんと、彼女は自らお尻を撫でるように手を動かす。
それがいったい何を意図するところかなど、明らかだった。