種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「それではアサ」
「かしこまりました」
この国にあるありとあらゆる贅と技術を注ぎ込んだであろう王城の門から出発するのはびっくりするくらいみすぼらしい馬車だった。
装飾のない荷台。よれよれの馬具、そこにつながれているのは年を取り老いぼれたロバだった。
「本当に、本当に名残惜しいですわ」
口ではそういっているものの、王女様は満面の笑みで、俺にさようならの挨拶をしていた。
「俺も、この城で、皆と戦えないなんて本当に名残惜しいものだ」
くしくも、王城の主と、王城から追放された道化。
両者の内心は奇妙なほどに合致していた。
俺もまた、ここから出れることがうれしくて仕方がない。
だって、戦うの怖いし。
俺は羽のように軽やかな足取りで、おんぼろ馬車に乗り込んだ。
ギィーギィーと板がきしむ。
馬車がぼろいのか、それとも俺の体重と、それにプラスされた金貨千枚という心地よい重みのせいの物なのかわからない。
一歩歩くたびに、あまりの重量に、足腰が悲鳴を上げるが、これはこれでいいダイエットだと思えるから不思議だ。
日本では何度かダイエットをやろうとして失敗したが、使う重りこれならば、心配で心配で肌身離さず持っていたから、痩せることに成功していただろう。
「それじゃあ、これからしばらくよろしくお願いします、アサさん」
足取りが軽い理由は金貨の袋だけではなかった。
「何か、不便なことがあれば、何なりとお申し付けください」
彼女はスカートのすそをもちあげ、丁寧にお辞儀をした。
世界そのものが違うので、礼儀に関しては一切わからない。
それでも、洗練された動作を見ると美しいと感じるので、不思議だ。
不思議と言えば、アサさんの服装もだ。
たくさんのフリルで彩られた、黒と白の意匠。
日本では馴染みのないのに、馴染み深いメイド服。
使用人が着る、動きやすい服ということで収れん進化したのだろうか?
疑問は尽きないが、一番重要なこと。則ち、アサさんがかわいいという事実が動かないので、俺はもう、それでよかった。
しかも、この人可愛いだけではなく頭もいいのだ。
退屈な場所のたびに、最初の10オウンかそこらで飽きた俺は彼女にこっちの世界の質問をした。
すると、間髪を容れずに質問が返ってくる。
メイドという、下位のものであろうと、王宮というこの国の頂点で住まっていたのだ。
ただものでないというのはうなずける。
顔立ちの方もつややかな黒髪をショートに切りそろえ、切れ長の目を持ったなかなかの美人さん。
というか、天使。結婚したいというのは流石に冗談だが、こんな美人で有能そうな子を、旅の期間だけとはいえ、俺に貸し出ししてくれるなんて。
金貨千枚も本当にくれたし。
送り迎えがみすぼらしいのは気になるところだが、急に出発することになったのだ。
用意できただけありがたいと思うべきだろう。
思い出がない城と、思い入れのない国ではある。
が、もし助けを求められたのならば、できる限りのことはしてもいい程度の感謝を抱いた。
「それにしても、勇君たちは大丈夫だろうか……」
「心配なのですか」
「ここだけの話なんだが……、俺は向こうの世界に居場所がないと感じていたんだ。最悪こっちに骨を埋めても、それはそれでっていう思いがある。
でも、彼らは……」
「我々としても、勇者様方には最大限のおもてなしをするつもりなのですが……」
眼を細く、鋭くしてアサさんはこちらを見た。
やはり、同じ世界の人間である俺の勇者評というのは喉から手が出るほど欲しい情報らしい。
そりゃあ、懐柔したい相手に、どうすれば気分がいいですかなんて聞けないだろうしな。
「君たち基準の最大限でも不足だろう。そもそもの話、文明のレベルが3から4段階ほど違うんだ」
数日で、いろいろと見て回った。
ポーションを始めとした傷薬など、俺たちの世界よりもはるかに上の部分は多い、しかし、情報面と食事の質に関しては地球側の方が数百年先を言っている。
「つまり、君たちがいくら贅を凝らしたおもてなしをしようとも、勇君たちにとっては退屈な出し物程度に感じるんじゃないだろうか。
実際、性格を考えると……、心愛ちゃんからは反感の言葉が出ているだろ」
ただの使用人がそんな事情を知っているかどうかは分からなかったが、憶えがあるらしく、アサさんは顎を刻々と上下に振っていた。
「どうすれば、説得できるのか知りたいか?」
「ええ、私はツルヒコさんのこともっとよく知りたいです」
「なら、王城に提出するレポートに俺の名前を記載しておいてくれよ」
こちらに媚を売るべく、にっこりと花が咲くような笑みが凍り付いた。
「俺のいた世界の海外の昔話にこんなものがあるんだ。
水汲みを生業とする男がいた。
両肩にそれぞれに桶をぶら下げているんだが、右の桶は新しく、水をこぼすことなく運べるのに、もう片方にはひびがあり、村につく頃には空になっている。
そのことを心苦しくなった桶はある日自分を捨て得てくれと言ったんだが、持ち主はそれを断ったそうだ、どうしてだと思う」
「思い出の品だからですか?」
「違う。その漏れ出ていた水を糧に花が咲いていたからだ。その不完全さが人々の目を楽しませる助けになっていたわけだ」
俺は未だ遠くに見える王城を、次に、馬車の御者をしているアサさんに目線を向けた。
「役立たずだと判断された俺だが、その口から漏れ出る戯言が花を咲かせることもあるかもしれないんだ」
「それで、蔦を生やすためにはどうすればいいとお考えですか」
「簡単だ。勇君たちには共に戦うと約束したという事実を明言すればいい。
日本人の国民性でね、一度約束したことは絶対に守り通す。
約束したと、自分の決定を引き合いに出せば逃げることはしないはずだ」
正直な話、自信満々に世界を救うと断言した勇君たちの将来を俺は心配していた。
何せ、戦争をやっているのだ!
それも、国家の命運をかけた大戦争をだ!
国にいたお偉方が、子供のように喜んでいたものだから、勇者の力がすさまじいというのは分かる。
女に強かろうが、数ヶ月で全てが終わることはないだろう。
というか、努力しなければ強くならないのだから、何とか社会に復帰できる数か月の期間は全て鍛錬に捧げられるのではないだろうか。
勝ったとしても、彼らはそのことを大いに悩み苦悩するだろう。
頑張れ若人、と同じ境遇の俺は応援するも、やはり神剣にはなれなかった。
きっと、この思いは勇君達も同じなのだろう。
だから、過酷な試練を安請け合いした。
あるいは、彼らの心は燃えているのかもしれない。
年甲斐もなく、俺の心も熱く燃え滾っているのだから。
彼らは世界を救うという熱い使命に熱狂し、俺は一千万という元手でどこまでできるかに熱中する。
自分の欲を満たすか、世界のために己をささげるか。
方向性は真逆でも、彼らの胸には俺と同じく熱があるのではと思う。
今、俺の手元には一千万しかない。
つつましく暮らすには十分だが、豪勢な暮らしをするとすぐに使い切ってしまう程度の金だ。
しかし、チャランチャランという音を耳にするたびに、血潮が燃え滾る。
ずっと、ずっと欲しかったやり直しの機会が来たのだ。
今度こそ、俺は欲望のままに生き抜いてやる、誰に遠慮などするものか。
「つきましたよ」
この世界で何をしようと、工場をやっていた時の癖で、遠大な計画を立てるも、そういえばこっちの世界のこと何も知らないなと思いだし却下。
でも、先の計画を立てないわけにはという無限ループが不意に断ち切られた。
町という教材にルンルンとご機嫌なステップを刻みながら下り立った。
何をするにも、まずは人々の暮らしを知らなければならない。
「この都市の名前はライバッハ。
あなたが目指す、シュラークはここから南東にすすみ、1週間ほどで付きますよ」
「移送も面倒ですし、もう、ここで暮らすのはダメだろうか?」
「規則ですので」
王都から1日の距離だ。
遠くからでも、立派な城門と、人々の生活の息吹が熱波となって伝わってくる。
1週間後に到着すると言われているシュラークがここよりも都会だとはどうしても思えない。
慣れない馬車のせいで、お尻も痛いし、俺はここの子になると提案するも却下された。
王城に住まわせてもらえないことからも予想はできていたが、使えないと判断されていても、俺は称号持ち。
警戒されているらしい。
認識としては、いつ爆発するか分からない不発弾なのだろう。
近くに置いておきたくないが、完全に目を話すのは怖い。
なので、爆発しても構わない場所に隔離する。
正しい。
間違いなく、国としては正しい選択だ。
それに従わされる俺からしたら、くそくらえ以外の感想が出てこないが。
俺はアサさんに連れられるままに、宿屋に行く。
到着時、この町を見て回ると決めていたのに、ドーパミンが切れると、体にガタが来た。
5分、いや、10分だけ休もうとベットに横になれば、いつの間にか夢の世界に旅立っていた。
起きたころには、もう太陽が沈みかけていた。
自分の若いころだったらと、老害のようなことをつぶやきながら、予定が狂ったことを後悔する。
日本なら、夜の本番はここからなのだが、この町は違うらしい。
何せ、ろくな明かりが見えないのだ。
一カ所を除いて。
宿の人間に、そのことについて聞くと、言葉を濁した末に、歓楽街だと教えてくれた。
俺も男だ。誘蛾灯のように、その光に吸い込まれそうになるが、不思議なお風呂屋さんがあれど、原則そういうことが禁止されている国の住人であるから、さすがに気が引ける。
それに、旅立ちから1日。
まともな収入源がない状況で、そういった店で金を落とすわけにはいかないと自粛する。
「ネットもテレビもない場所で夜眠れないのがこんなにもきついことだったとは」
あまりにも長い時間横たわっていたせいで、ベットにはいまだ俺の体温が残っている。
2度寝しようと思い目を閉じても、空気が抜けて固いベットは俺を包み込んではくれなかった。
――コンコンコンッ!
とりあえず日記を書こう。
それが書き終わっても、眠くならないので辞書をにらめっこ。
どうにか、勇君たちからもらった教科書を翻訳できないかと試していた。
宿にある机と椅子だ。
当然俺の体にジャストフィットすることはなく、前のめりになったり、背中を逸らしたりして、ジクリジクリと熱を持つ。
何度か立ち上がり、背筋を伸ばし体を軽く動かしていく。
電灯のないここで、夜の執筆作業はあまりにもきつすぎる。
もう、ベットの上で羊でも数えていこうと思ったのだが、扉がノック。
運がいいことに向こうから暇つぶしの機会がやって来た。
「どうしたんだ、アサさん」
昼間のメイド服ではなく、スッケスッケのネグリジェのような寝巻のアサが部屋に入って来た。
昼は分厚い服のせいで分かりづらかった、女性的なふくらみが目に毒だ。
直視するのは失礼だと思い、俺は視線を逸らした。
ついでに、机の上のものを片付ける。
特に、教科書の翻訳は絶対に隠さねばならない。
別世界の記憶だ。
こちらの世界で、どれだけの勝ちに化けるか分かったものではない。
「あ、おぉっ」
と、どんなに理屈をこねくり回しても、視線が吸い込まれる。
だって、俺男出し、しかたがない。
というよりも、アサさんは弾むような足取りで近づいてくるのが悪いと思う。
その度に、何がとは言わないがゆれる。
これはE、あるいはFはあるかもしれない。
扉越しの時ならなんともなかったが、直視したら、緊張でうまく舌が回らない。
初めから分かっていたことだが、薄着のアサさんも美人だった。
引き締まった肉体でありながら、女性的なやわらかさは失われておらず。
これまで華奢な印象を受けていたのだが、なかなかに豊満な体系だ。
若いころはさんざん、女体を味わってきた俺でさえ、思わずに喉を鳴らしてしまうほどに極上の肉体美がそこにはあった。
いかん、いかん。
はしゃいでしまった自分を、落ち着けと戒める。
思いだせ、娘からのさげすんだ目を。
こんなおじさんに対して、言い寄ってくる女など罠に決まっている。
だから、そんな風にこっちににじり寄ってこないで、あっ、やわらかい。
年頃の女の子がそんな風に肌を引っ付けるんじゃありません。
やばい心臓がバクバクして来た。
俺があと10年若かったらまずかった。
娘からの、苦行を受講していなくてもやばかった。
年と共に衰えた身体能力と、重厚になった人生経験が思慮を与えてくれる。
「ですから……、これからの旅路は」
「ああ、そうなんだ」
ほんの少し、内股になったものの、その窮屈さが解放されることはなかった。
分かっていたことだが、期待していた色っぽい事態は起こらず、俺たちは至極真面目にこれからの旅路に関する計画を立てていた。
「あら……?」
でもね、いくら相手がおじさんだといっても、女の子がそんなに無防備な姿をさらすんじゃありません。
いくつになっても男の子は男の子。
オープンな態度をしていると、勘違いしてしまうんだ。
チラリ、チラリと俺の視線は……、ネグリジェ、そしてそこから覗いている白い北半球に、チラリチラリと吸い込まれていく。
そして、今、目線がばれた。
や、やめてくれぇ!
これは単なる生理現象でセクハラではございません!