※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

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 「……き、君は?」

 

 現れた少女を前に、俺は思わず声を漏らした。

 

 ――ヒロイン召喚。

 何度経験しても、この瞬間だけは慣れない。

 光の中から現れる存在は、いつだって現実離れしていて、そして妙に“完成されている”。

 目の前の少女もそうだった。

 

 透き通るような黒髪。

 整った顔立ちに、どこか人形めいた無機質さ。

 感情の起伏を感じさせない紫色の瞳が、真っ直ぐこちらを見つめている。

 豊葦原学園の制服とは明らかに違う。

 白を基調とした制服に、頭には紫色のヘアバンド。

 

 「クリス・カヌ。……あなた様の奴隷です。不束者(ふつつかもの)ながら、お仕えさせていただいております」

 「……ど、奴隷?」

 

 あまりにも自然に言われ、逆に反応が遅れた。

 少女――クリスさんは淡々と頷く。

 

 「はい。失礼ながら、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 「あー……悪い。俺の名前は幹隆。影山幹隆だ。んで、後ろにいるのが――」

 「マスターの一番奴隷のサクラなんだよ!」

 

 いつの間にお前は俺の奴隷になったんだ。

 ……と、反射的にツッコミかけたが、サクラが得意げに胸を張っているので途中でやめた。

 相変わらず変なところでポンコツというか、自由というか……。

 そんなことを考えている間にも、クリスはじっとこちらを見つめていた。

 

 「……幹隆様」

 

 小さく名前を呟く。

 その声音は驚くほど静かで、感情が薄い。

 だが、どこか確かめるような響きがあった。

 そして彼女は、そのまま考え込むように黙り込んでしまう。

 ――そこでようやく、俺の記憶が繋がった。

 

 「あ……」

 

 思い出した。

 彼女は――『EDEN-最終戦争少女伝説-』のヒロインの一人だ。

 ただ、途中で未完のまま終わってた気がする。

 前世の世界ではもう完結はしてるんだろうか。続きが気になる。

 

 

 ――『EDEN-最終戦争少女伝説-』。 

 物語の舞台は、『御六島(みろくじま)』という孤島。

 それは、夏休みの離島旅行から始まる現代ファンタジーアクションノベルだ。 

 主人公たちは学園の仲間たちと共に、九日間の旅行へ向かう。

 最初はただの退屈な学生旅行になるはずだった。

 だが、島に到着した瞬間から全てが狂い始める。

 人が死ぬ。首が飛び回る。怪異が現れる。

 助けに入った人間すら、あっさり殺される。

 島全体が、理解不能な災厄に飲み込まれていく。

 

 そんな極限状態の中、主人公はクラスメイトの少女――栗栖花濡(くりすかぬ)を助けようとする。

 だが、その行動すら新たな悲劇の引き金となってしまう。

 そして最後には、島そのものを消し飛ばすほどの破滅が訪れる。

 逃げ場はない。 誰も助からない。

 主人公も、ヒロインも、島にいる全員が死を迎える。

 ――しかし、物語はそこで終わらない。

 死の間際。

 主人公の脳裏に蘇るのは、ある少女と交わした『心臓と手のひらの契約』の記憶。

 絶望と死に満ちた世界の中で、それでも誰かを救おうともがく。

 

 

 「クリスさんだっけ? いろいろ質問していい?」

 「はい、なんなりと。……あと、幹隆様……カヌとお呼びください」

 「な、なんで?」

 

 すると彼女は少し視線を伏せ、どこか申し訳なさそうに口を開いた。

 

 「それは……奴隷の分際で、王に敬称で呼んでいただくなど……恐れ多いことです。も、もちろん、不快でしたら今のままでも構いません」

 「いや、不快とかじゃないけど……」

 

 なんというか、距離感が極端だ。

 サクラの図々しさを少し分けてやりたくなるレベルである。

 

 「わかったよ。……カヌ」

 

 一瞬。彼女の紫色の瞳がわずかに見開かれた。

 

 「はい! ありがとうございます!」

 

 ぱあっ、と。

 今までほとんど無表情だった顔に、小さな笑みが咲く。

 ……いや、そんな喜ぶことか?

 名前を呼んだだけなんだが。

 この子、もしかして凄く自己肯定感が低いのでは……?

 というか、『王』とか『奴隷』とか。

 俺は気を取り直すように軽く咳払いする。

 

 「じゃあ、まず聞きたいんだけど。カヌは神様的なモノに呼ばれて、ここに来たのか?」

 

 その質問を聞いた瞬間、彼女は少し黙り込んだ。

 まるで、自分の記憶を慎重に探るように。

 

 「……神様、ですか」

 

 小さく呟き、カヌはゆっくり首を横に振る。

 

 「すみません……よく、わからないんです」

 「わからない?」

 「はい。何かに呼ばれた感覚はありました。ですが、それが何なのかまでは……」

 

 そう言いながら、彼女は胸元に手を当てる。

 

 「ただ、確かにわかったんです。この世界に、“幹隆様”がいると」

 「……俺が?」

 「はい。私が探していた王が、この世界に存在していると。その声を聞いた瞬間、気づけばここにいました」

 

 王。

 またその単語だ。

 けれどカヌは、冗談を言っている様子ではなかった。

 むしろ、それを疑う発想自体が存在しないような口調だった。

 

 「その前までは?」

 

 俺が尋ねると、彼女は静かに答える。

 

 「……エデンにいました」

 

 その言葉と同時に、彼女の瞳の奥に微かな陰が落ちた。

 

 「……エデンって?」

 「私が住んでいた島の名前です」

 

 つまり、島からこの世界へ転移してきたのか。

 それとも、“エデン”そのものが別世界に存在していたのか。

 どのみち、豊葦原学園じゃインターネットは使えない。

 今ここで調べることは不可能だ。

 

 「カヌ。この世界には、そのエデンは存在するのか?」

 「まだ存在は確認できておりませんが……限りなく、“無い”可能性が高いかと」

 

 カヌは静かに首を横へ振る。

 その声音には、どこか諦めにも似た響きが混じっていた。

 やはり、サクラとマリィと同じパターンか。

 世界そのものではなく、“彼女だけ”がこちらへ渡ってきた可能性が高い。

 

 「わかった。じゃあ次の質問なんだが……なんで俺が王なんだ?」

 「それについては、私と幹隆様との関係からお話いたします」

 

 カヌは背筋を正し、まるで謁見の場で報告でもするように姿勢を整えた。

 

 「今の幹隆様にお会いしたのは、今回が初めてです。ですが私は――太陽暦で12000年前。幹隆様が“別のお姿”をされていた頃より、お仕えしておりました」

 

 別の姿だと?こちとら前世は一般サラリーマンやっていたんだが、それとは違うってことか。

 つまり、この転生体ボディのことを言ってるのか。心は社畜。身体は王様ってか。ハハハ

 『召喚せし者(マホウツカイ)』だの『エイヴィヒカイト』だの。

 最近の俺、属性盛りすぎてキャラ設定が渋滞起こしてるんだが。

 

 「ええっと、つまり俺は生まれ変わりみたいな感じか?」

 「はい。そのようなものだと思っていただいて問題ございません」

 

 確かカヌは不老だったのは覚えている。まさか、そんなに年上だったとは

 

 「そして私は、肉体も記憶も当時のまま――12000年間を生き続けてきました」

 「……まじかよ」

 

 思わず素で声が漏れた。

 確かにカヌが不老だという話は覚えていた。だが、“12000年”はスケールがおかしい。

 歴史の教科書どころの話じゃない。文明そのものを見てきたレベルだ。

 

 「たしか……現在は12016歳になるかと思われます。……少々記憶がおぼろげなので、正確ではないかもしれませんが」

 「おお……めっちゃおばあちゃんなんだよ」

 「おいコラ、サクラ」

 

 即座にツッコミを入れる。だが当のサクラは悪気ゼロだった。

 純粋な感想だったのだろう。

 

 「だ、だって一万年以上だよ!? もう伝説超えてるんだよ!」

 「それはそうだが!」

 「い、いえ……滅相(めっそう)もないです」

 

 カヌは慌てた様子で首を振る。というかこの子、本当に怒らないな。

 いや、怒れないのか?

 “王に仕える奴隷”という立場が、そこまで彼女を縛っているのかもしれない。

 話が少し脱線してしまった。

 それにしても12000年。

 俺の前世込みの人生全部足しても、砂粒ほどにも届かない時間だ。

 

 「では、説明を続けさせていただきます」

 

 カヌは胸元へ手を添えながら、静かに語る。

 

 「私たちのクニ――『ムー帝国』。その王こそが、幹隆様なのです」

 「ムー帝国……」

 

 その名を聞いた瞬間、脳裏に断片的な知識が浮かぶ。

 確か。

 かつて“万物の創造主たる神”を崇め。

 “太陽の化身”とされる王を中心に栄えた、人類史上最古の超文明国家。

 その王が――俺?

 

 「そして、私は“王室奴隷騎士団”の一人です」

 

 そう言って、カヌは自らの胸元に触れた。

 そこには淡く輝く紋様――『護者の証』が刻まれている。

 

 「この証は、王へ絶対の忠誠を誓う者へ宿るもの。幹隆様が“王”であることを、何より確かに示しております」

 

 王室奴隷騎士団。確か、カヌ以外にも三人存在していたはずだ。

 選ばれる条件は一つではない。

 戦闘能力。護衛能力。 誠心。

 そして――美貌や、知識・書を扱う才。

 要するに。

 王に仕えるために必要なあらゆる資質を兼ね備えた、“最高峰”だけを集めた存在ということだろう。

 

 「カヌ以外の王室奴隷騎士団もこの世界に来ているのか?」

 

 原作設定を思い返しながら問いかける。

 もし他の連中まで来ているなら、色々な意味で洒落にならない。

 設定上、王室奴隷騎士団は単騎で国を落とせる化け物クラスだったはずだ。

 

 「いえ……おそらく、わたしだけかと……」

 

 カヌは静かに首を横へ振った。

 その言葉に、少しだけ安堵する。

 いや、“安心”と言っていいのかわからないが。

 もし四人全員がこの世界に現れたら、豊葦原学園どころか国家レベルで大騒ぎになる未来しか見えない。

 

 「そうか……」

 

 すると今度は、カヌのほうが遠慮がちに口を開いた。

 

 「私からも、お聞きしたいことがあるのですが……よろしいでしょうか」

 「ん? ああ、別にいいぞ」

 「ここは……どこなのでしょうか」

 

 そう言って彼女は周囲を見渡した。石造りの壁。

 無造作に積み上げられた素材や武具。

 空間そのものが静止しているような、不思議な空気。

 異空間の倉庫。

 普通の人間なら、せいぜい“妙な部屋”程度の認識だろう。

 だがカヌは違った。

 彼女はこの空間そのものに宿る異質さを、肌で感じ取っているようだった。

 

 「ここは、俺が作り出した異空間の倉庫だ」

 「……異空間」

 

 その瞬間。カヌの瞳がわずかに揺れる。

 驚愕。 あるいは、畏怖。

 

 「幹隆様も、神の奇跡である――神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)を使えるのですか?」

 「いや、この力は神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)じゃない」

 

 俺は軽く首を振る。

 

 「とある神から貰ったスキルの一つだ」

 

 その答えを聞いた瞬間。カヌは小さく息を呑んだ。

 まるで、信じ難いものを見るように。

 

 「神より……直接、力を……」

 

 彼女がぽつりと呟く。

 その反応を見る限り、どうやら向こうの世界でも相当レアケースらしい。

 

 神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)――

 それは、創造神ナラヤナによってこの世界へ遣わされた存在。

 神々。聖獣。精霊。

 あるいは、その他人智を超越した存在たち。

 そうした“神秘”の力――奇跡を。

 脆弱な人間でも扱えるよう体系化した禁書群。

 言うなれば。

 “神の権能を、人が再現するための手引書”だ。

 当然、扱える者は限られる。

 才能。適性。膨大な知識。

 そして、時には神性との接触すら必要になる。

 

 「そういえば、忘れていた。こっちの状況も話さないとな。悪い、サクラ。マリィを呼んできてくれ」

 「わかったんだよ」

 

 サクラは軽く手を振ると、ぱたぱたと奥の居間へ走っていった。

 その背中を見送りながら、俺は改めてカヌへ向き直る。

 

 「さて……どこから説明したもんかな」

 「幹隆様のお話でしたら、どれほど長くともお聞きいたします」

 

 相変わらず真面目すぎる返答である。しかも姿勢が妙に正しい。

 なんかもう、面接官に説明してる気分になってきた。

 俺は頭を掻きながら、今までのことを順番に説明していった。

 前世では普通のサラリーマンだったこと。

 死後、この世界へ転生したこと。

 

 そして現在。

 豊葦原学園に通いながら、ダンジョン攻略を行っていること。

 神から授かったスキル。

 異空間。召喚能力。

 その他諸々の、もはや自分でも把握しきれていないチート群。

 

 さらにはサクラとマリィのこと。

 二人が単なる人間ではないこと。

 この世界の住人ですらない可能性が高いこと。

 途中、カヌは何度か小さく目を見開いていた。

 特にマリィについて説明したときは、さすがに衝撃が大きかったらしい。

 

 「……神格存在を、従えている……?」

 「いや、従えてるっていうか……普通に一緒に暮らしてるだけなんだが」

 「それが異常なのです」

 

 真顔で断言された。そんなにか。

 サクラについても、霊的存在としての性質や異常な成長速度を話すと、カヌは神妙な顔で頷いていた。

 どうやら向こうの世界基準でも、二人は相当規格外らしい。

 それから俺は、豊葦原学園の現状についても説明した。

 ダンジョン。モンスター。俱楽部。パートナー制度。

 豊葦原学園の特殊性。日常的に行われる性行為。

 

 そして――俺の目的。

 ただ生き残るだけじゃない。

 この力を使い、ダンジョンを攻略していくこと。

 そのために戦力を集め、強くなる必要があること。

 神の真意を探ること。

 

 カヌは途中で一度も話を遮らなかった。

 ただ静かに、真剣な眼差しで耳を傾けていた。

 まるで。

 王の言葉を一つたりとも聞き漏らすまいとする臣下のように。

 いや、実際そういう立場なんだろうけど。

 どれくらい時間が経ったのかはわからない。

 異空間内は外界と時間感覚がズレるせいで、余計に感覚が曖昧になる。

 気づけば、かなり長い時間話し込んでいたらしい。

 

 「……幹隆、お腹空いたよ」

 

 マリィが、ぐてっとした様子で呟いた。

 

 「ああ、そうだな」

 

 そういえば、かなり時間が経っていた。そろそろ夕食の時間か。

 すると、カヌが遠慮がちに口を開いた。

 

 「で、では……私がお作りしてもよろしいでしょうか」

 「ん? カヌ、料理できるのか?」

 「はい。王に仕えるための家事全般は、一通り修めておりますので」

 

 その言い方が、さらっと重い。

 料理。掃除。 洗濯。護衛。戦闘。教養。書物管理。

 全部込みで“王室奴隷騎士団”らしい。

 なんだその万能メイド騎士みたいな存在。

 

 「そうか。じゃあ頼む。キッチンはそっちだな」

 「はい」

 

 カヌは静かに頭を下げると、迷いのない足取りでキッチンへ向かった。

 その動きには無駄がなかった。

 まるで長年その役目を果たし続けてきた人間の所作。

 自然すぎて、“仕える”ことが呼吸になっているようにすら見える。

 

 「……なんか、すごい人増えたんだよ」

 

 サクラがぽつりと呟く。

 

 「うん。……本当に“王の側近”という感じだね」

 

 その後。

 完成した料理が食卓に並べられる。

 湯気を立てるスープ。香草の香りが漂う肉料理。

 焼き立てのパン。 色鮮やかな野菜料理。

 どれも見た目からして明らかにレベルが高い。

 

 「……なんか、すごいんだよ」

 

 サクラが目を丸くする。

 

 「お口に合えばよいのですが……」

 

 そう言ってカヌは静かに頭を下げる。

 そして――

 

 「「おいしい……!」」

 

 サクラとマリィの声が綺麗に重なった。

 サクラは夢中で頬張り。

 マリィは上品に口へ運びながらも、隠しきれない驚きを表情に浮かべている。

 俺も一口食べてみる。

 

 「……うまっ」

 

 思わず素で声が漏れた。味付けが絶妙だ。

 素材の旨味をしっかり活かしているし、何より食べていて妙に落ち着く。

 学園の食堂も決して不味くはない。むしろかなり良い部類だ。

 だが、これはそれ以上だった。

 

 「えへへ、カヌちゃんすごいんだよ!」

 「……お店を出せるレベルだと思う」

 「そ、そこまででは……」

 

 二人に褒められ、カヌは少しだけ困ったように視線を逸らす。

 けれど、その口元はほんの僅かに緩んでいた。

 どうやら褒められるのは普通に嬉しいらしい。

 その後も、四人で他愛もない話をしながら食事を続けた。

 その光景が少しだけ不思議で――悪くないと思った。

 食事が一段落した頃。カヌが静かに口を開いた。

 

 「……幹隆様」

 「ん?」

 「私も、ダンジョンへ連れて行ってください」

 

 その声音は穏やかだった。

 だが、その瞳には強い意思が宿っている。

 

 「役には立つと思います」

 「危険だぞ」

 

 俺は即座に返す。モンスターとの戦いは、一歩間違えれば死ぬ。

 だがカヌは、まったく怯まなかった。

 

 「王のお傍に仕えることこそ、王室奴隷騎士団の役目です」

 

 彼女は胸元へそっと手を当てる。

 そこに刻まれた『護者の証』が、淡く輝いた気がした。

 

 「幹隆様をお守りすること。それが私の存在価値ですから……問題ありません」

 

 存在価値。その言葉の重さに、思わず少し黙ってしまう。

 この子は本気なのだ。

 自分の命すら、“王へ捧げるためのもの”として扱っている。

 そこには迷いも恐れもない。

 ……忠誠心が重い。いや、もう信仰に近い。

 

 「わかった。じゃあよろしくな」

 

 そう言った瞬間。

 

 「――はい!」

 

 ぱあっ、と。カヌの表情が明るくなった。

 今までで一番わかりやすい笑顔だった。

 

 「よろしくなんだよ!」

 

 サクラが元気よく手を振る。

 

 「……よろしくね」

 

 マリィも小さく微笑みながら頷いた。

 カヌは二人へ向き直り、深々と頭を下げる。

 

 「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 その姿はどこまでも丁寧で。

 どこまでも真面目だった。

 ……うん。 たぶん、このメンバー。

 賑やかになるな。

 

 『EDEN-最終戦争少女伝説-』のヒロイン――クリス・カヌが、正式に俺のパーティへ加わった。

 

 

 

 ――――

 

 

 ――翌日。朝。

 

 豊葦原学園の教室『(ひのえ)』クラスは、いつも通り騒がしかった。

 ダンジョンダイブの話。 昨夜どこの寮で寝泊まりしただの。

 新しくパートナーを作っただの。

 そんな猥雑な会話が飛び交う。

 その中で。俺は一人、席に座りながら頬杖をついていた。

 昨日のこともあってか。

 教室では叶馬がちらりとこちらを見ていた。

 いや、“ちらり”というレベルではない。

 普通に観察されている。 しかも隠す気がない。

 『情報閲覧(インターフェース)』でも使っているのか、時折目を細めながらこちらを見てくる。

 ……めんどくせぇ。だが。

 俺は気づかないふりをして、そのまま視線を窓の外へ逃がした。

 今のところ、こちらから積極的に関わる気はない。

 昨日の共闘で、ある程度の実力は見せた。十分だろう。

 下手に近づけば、原作の流れへ深く巻き込まれる可能性が高い。

 俺としては、なるべく安全圏から立ち回りたい。

 ……まあ。

 既に安全圏からだいぶ外れてる気もするが。

 

 『匠工房(アデプトワーカーズ)』へ行くのもしばらく控えたほうがいいかもしれない。

 昨日の時点では、まだ叶馬と彼女たちは接触していなかった。

 だが、あいつのことだ。 近いうちに絶対見つける。

 原作でも、あの俱楽部との出会いが『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』結成の始まりだった。

 なら。今のうちに距離を取っておくべきだろう。 少なくとも、恩は十分売れた。

 あとは必要な時だけ関わればいい。

 

 そんなことを考えながら、俺はダンジョン探索を思い返す。

 第肆階層。そして、その奥。――第伍階層へ続く界門。

 まだ発見できてはいない。

 だが。今なら、なんとなくわかる気がしていた。

 

 

 

 

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