※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

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 「……いやだなぁ、先輩。俺はただの一般生徒ですよ。人違いじゃないんですか」

 

 できる限り平静を装って答える。この先輩が何者なのかはわからない。

 だが、少なくとも“普通”じゃない。しかも場所が悪い。

 今の『羅城門(らじょうもん)』前には、ダンジョンから帰還した生徒たちが大勢いる。

 こんな場所で目立つのは得策じゃない。

 

 「……ハハハハ」

 

 波留先輩は、楽しそうに笑った。

 その笑い方が妙に自然で、逆に不気味だった。

 

 「――君が一般生徒?」

 

 彼女は肩を震わせながら、こちらを見る。

 

 「馬鹿言っちゃいけないよ」

 

 すっと。彼女の笑みが深くなった。

 

 「こうして、『規格外(イリーガル)』の私と対等に話してる時点で、それはないんだから」

 

 その瞬間。周囲の空気が、僅かに変わった気がした。

 『規格外(イリーガル)』。

 その単語を聞いた途端、周囲にいた探索者たちが一瞬だけ波留先輩へ視線を向ける。

 恐れ。警戒。様々な感情が混じっていた。

 

 「ねぇ、君の名前を教えてよ」

 

 逃がさない。そんな圧を感じる笑みだった。

 

 「……一年の幹隆です」

 「へぇ、幹隆くんねぇ」

 

 波留先輩は、相変わらずニヤニヤと笑っている。だがその視線は、まるで獲物を観察するみたいだった。

 ――厄介なのに目を付けられたな。俺は内心で小さく舌打ちする。

 原作で知らない規格外(イリーガル)ホルダーだ。

 

 学園の認定している基本クラスは六種とされる。その中でも保有者(ホルダー)が少ないものはレア”R”、あるいはスーパーレア”SR”としてカテゴライズされる。

 レア度が高い=強い。というわけではない。あくまで稀少性の話である。

 つまり、レア系統はクラスホルダーが稀少というだけで、基本のアーキタイプから逸脱したクラスではない。

 特殊派生の”SSR”も同様である。ただ、次のクラスチェンジに膨大な量の経験値が必要なため一度取得すると変更できないとされている。

 そして、そのアーキタイプから大きく外れたクラスを総称として『規格外(イリーガル)』と呼称する。

 イリーガルクラスは学園が想定しているレベルシステムが適応されず、また同時期に同じクラスホルダーがいないことから、『ユニーククラス』と呼ばれることもある。

 取得方法は様々だが、最初からイリーガルクラスに転職するものや、既存のクラスを喪失してクラスチェンジするものもいる。

 また、本来のアーキタイプのクラスに追加されて獲得する『二重保有者(ダブルホルダー)』もいる。

 なお、『二重保有者(ダブルホルダー)』になった者は、レベルアップのための経験値が倍になる。

 

 目の前の先輩がどんなクラスホルダーなのかは知らないが、『規格外(イリーガル)』クラスについている者は頭がぶっ飛んでいる。(叶馬みたいにな)

 

 「それでさ、幹隆君。……一人でダンジョンダイブしてるの?」

 

 波留先輩は、まるで雑談でもするみたいな軽い口調で聞いてきた。

 だが、その瞳は鋭い。試している。探っている。そんな視線だった。

 ――ここで「仲間がいます」って嘘をついても意味ないよな。

 この人は多分、そういうハッタリを見抜くタイプだ。

 

 「まぁ……そうですね。……一人でダイブしています」

 

 俺がそう答えると、波留先輩は「ふーん」と面白そうに目を細めた。

 

 「やっぱり一人かぁ~」

 

 彼女はくるくると髪先を指へ巻き付けながら笑う。

 

 「一年生でこの時期にソロダイブするのって、よっぽどのお馬鹿さんか――」

 

 そこで一度言葉を切る。

 

 「私みたいな『規格外(イリーガル)』のクラスホルダーくらいなんだよねぇ」

 「…………」

 

 じーっと観察される。まるで珍しい動物でも見るみたいに。

 しかも本人は妙に楽しそうだった。

 

 「ねぇ、幹隆君」

 

 波留先輩が、不意に一歩距離を詰める。

 ふわり、と甘い香水の匂いが鼻を掠めた。

 

 「今度、一緒にダンジョンダイブしない?」

 

 そこまではまだよかった。だが次の瞬間。

 

 「それかぁ、セックスでもいいけど♡」

 「…………は?」

 

 思考が止まった。何を言い出したこの人。しかも本人は冗談を言ってる顔じゃない。

 むしろ反応を楽しんでいる。

 

 「いきなり何なんですか……?」

 「う~ん?」

 

 波留先輩は悪戯っぽく笑う。

 

 「一緒に潜れば、幹隆君の“秘密”が知れるかなって思って」

 

 「秘密って……俺、何も隠してないですよ」

 「あ~、それは嘘だねぇ」

 

 即答だった。しかも確信している声。

 俺の背筋へ冷たいものが走る。波留先輩は楽しそうに続けた。

 

 「私の友達に『鑑定人(アプレイザー)』のクラスがいるんだけどさ~。見ちゃったんだよね、君の職業」

 「……っ」

 「それに、一年生とは思えないレベル」

 

 ――見られていた。しかも職業まで。

 《ステータス》を隠蔽しているわけじゃない以上、鑑定系統なら見えても不思議じゃない。

 だが問題はそこじゃない。この人は、俺へ興味を持つ程度には“異常性”へ気づいている。

 波留先輩は一息つき、にこっと笑った。

 

 「それでね~。もし使えそうなら、私たちの俱楽部に呼ぼうかなって」

 「……勧誘ですか?」

 「うん、表向きはねぇ」

 

 彼女はあっさり認める。

 

 「もちろん、私個人として幹隆君に興味あるのも本当だけど」

 「まだ五月じゃないので、勧誘活動ってまずいんじゃ……」

 

 すると波留先輩は吹き出した。

 

 「あははっ、幹隆君って意外と真面目だねぇ」

 

 彼女は肩を揺らしながら笑う。

 

 「今のうちに有能な一年へ唾つけとくなんて、どこもやってるよ?」

 「……」

 「それに、うちの『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』はAランクだし♡」

 

 学園内の俱楽部は実績と戦力によってランク分けされている。

 学園での俱楽部でランク分けされているうちの上から二つ目に位置する実力。

 全部で十二枠あるうちの一つか。

 少なくともかなりの実力がある集団とみて間違いないだろう。

 少なくとも、“遊び半分”で所属できる場所じゃない。

 それにしても、俱楽部の名前物騒だな。

 ――その時だった。

 

 「波留。こんなところで何をしている」

 

 低く落ち着いた声が響く。振り返ると、一人の女性がこちらへ歩いてきていた。

 腰には二本の刀。長い黒髪。切れ長の瞳。無駄のない立ち姿。

 制服姿にも関わらず、まるで歴戦の剣士みたいな空気を纏っている。

 

 「これから幹部メンバーでミーティングがあるのだぞ」

 

 腰に二本の刀を差した黒いストレートヘアの女性が波留先輩に声を掛けていた。

 

 「え~楓夕(ふゆ)ちん。もうそんな時間。今幹隆君と話しているんだけど~」

 

 波留先輩が露骨に嫌そうな顔をする。

 

 「私は“楓夕(ふゆ)”と呼べと毎回言ってるだろう」

 

 黒髪の先輩――楓夕(ふゆ)先輩は、呆れたように眉を寄せた。

 

 「それで、幹隆君とは誰だ?」

 「彼のことだよ~」

 

 波留先輩が、にこにこしながら俺を指差す。楓夕先輩の視線がこちらへ向いた。

 その瞬間。空気が変わった。鋭い。

 まるで刀を突きつけられたみたいな圧迫感。

 

 「……一年か」

 

 彼女は静かに呟く。

 

 「何か用があったのか?」

 「亜季(あき)ちゃんが言ってた例の子だよ~。見かけたから声かけてた♡」

 「……なるほど」

 

 楓夕先輩は、じっと俺を見つめる。

 その視線には、探るような鋭さがあった。

 

 「確かに……普通ではないな」

 「でしょ~?」

 「私たちを前にしても、ほとんど動じていない」

 「…………」

 

 いや、内心では普通に警戒してるんですが。ただ顔へ出さないようにしてるだけだ。

 それにしても――。この人も、多分イリーガルだ。

 波留先輩とは別方向の異常性。刃物みたいに鋭い輪郭をしている。

 

 「だよね~。やっぱり面白いよねぇ、幹隆君♡」

 

 波留先輩は満足そうに笑う。そして、不意にこちらへ近づいた。

 耳元へ囁くように。

 

 「……てことで、話の途中だけどごめんね。行かなくちゃ」

 

 甘い声。だが、その目は獲物を逃がさない捕食者みたいだった。

 

 「時間ある時に、私たちの俱楽部棟へ来なよ」

 

 彼女は妖艶に微笑む。

 

 「その時は、“おもてなし”してあげる♡」

 

 そう言い残し、二人はそのまま歩き去っていった。

 黒髪を揺らしながら進む楓夕(ふゆ)先輩。

 その隣で楽しそうに笑う波留(はる)先輩。

 周囲の生徒たちが、自然と彼女たちへ道を開けている。

 やはり、ただ者じゃない。

 

 「…………なんだったんだ、あの人たち」

 

 思わず小さく呟く。そして心の中で静かに付け加える。

 

 ――俱楽部棟は、多分行かないです。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 ――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』

 ――第伍階層、『既知外』領域

 

 神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)を手に入れてから次の日。

 俺たちは四人で、第伍階層『既知外』領域へ潜っていた。

 第肆階層とは比較にならないほど、瘴気の濃度が濃い。

 空気は重く。洞窟の岩肌には黒紫色の血管のような紋様が浮かび上がり。

 地面からは、まるで生き物の吐息のような瘴気が絶えず噴き出している。

 普通の生徒なら、立っているだけで精神を削られる環境だ。

 だが――

 

 「はああぁぁッ!!」

 

 轟音。俺はマリィと融合した黒き断頭刃を振り抜く。

 漆黒の軌跡が空間を裂き。

 目の前へ突進してきた鎧犀(アーマーライノセラス)の首を、一撃で断ち切った。

 ぶしゅり、と。断面から黒赤い血飛沫が噴き上がる。

 体長三メートル。鋼鉄のような灰黒色の装甲皮膚。

 突進力だけなら装甲車レベル。

 本来なら複数人で囲み、装甲を削りながら倒すタイプの重装甲モンスターだ。

 ……まあ。

 うちのパーティには、あまり関係なかった。

 

 「レーヴァテイン!!」

 

 サクラが穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)を放つ。

 瞬間。桜色の聖剣が暴風のように吹き荒れた。

 通路を埋め尽くす熱量。爆ぜる瘴気。

 悲鳴すら上げる暇なく、二体の鎧犀(アーマーライノセラス)が閃光に飲み込まれる。

 装甲ごと。骨ごと。肉ごと。消滅した。

 

 「ふふっ……綺麗なんだよ!」

 

 いや。本人楽しそうだけど威力が全然可愛くない。

 しかもサクラ。最近、火力が日に日に上がっている。

 さらに――ドゴォォォォン!!

 鈍い衝撃音が洞窟全体へ響いた。視線を向ける。そこでは。

 カヌが素手で鎧犀(アーマーライノセラス)を殴り飛ばしていた。

 ……いや。殴り飛ばすってなんだ。

 拳が装甲へ突き刺さった瞬間。

 衝撃が内部へ浸透し。

 巨大な犀型魔物の全身が内側から爆ぜるように吹き飛ぶ。

 砕け散る装甲。宙を舞う肉片。崩れ落ちる巨体。

 しかも本人は涼しい顔だ。

 

 「幹隆様。装甲内部は意外と脆いようです」

 「そうだな!」

 

 いや理解できるか。

 普通、“内部へ浸透させる打撃”なんて漫画の達人みたいなことしないんだわ。

 怖い。

 

 そんな感じで。

 第伍階層の魔物たちは、比較的“重装甲型”が多かった。

 墓荒猪(グレイブ・ボア)―― 腐肉の臭気を纏った巨大猪型魔物。

 牙には死毒が宿り、突進と同時に瘴気を撒き散らす。

 だが。

 

 「……遅い」

 

 マリィが呟いた瞬間。

 俺の右腕の黒刃が滑るように動く。次の瞬間には。

 突進していた墓荒猪(グレイブ・ボア)の脚が全て切断されていた。

 体勢を崩したところへ――ズドンッ!!

 カヌのゴブリンソードが頭部を貫通。

 そのまま地面へ縫い付ける。

 

 「討伐完了です」

 

 淡々としている。まるで作業。怖い。

 鉄嘴鴉(アイアン・レイヴン)もいた。全長二メートル近い異形の大鴉(おおからす)

 鋼鉄の(くちばし)を持ち。群れで獲物の眼球や関節を正確に抉る厄介なモンスターだ。

 本来なら、フィールド型ダンジョンでは上位脅威扱いされる魔物らしい。

 ……だが。第伍階層は洞窟型ダンジョンだった。

 天井が低い。つまり。

 

 「逃げ場ないんだよ!」

 

 サクラの穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)が横薙ぎに閃く。

 桜色の斬撃が洞窟内を埋め尽くし。

 飛翔しようとした鉄嘴鴉(アイアン・レイヴン)の群れをまとめて焼き払った。

 羽が燃える。悲鳴が響く。

 黒焦げの鴉たちがぼとぼと地面へ落下していく。

 ……哀れである。いやマジで。

 もう少し魔物側にも有利な地形用意してやれよ。

 エントの時もそうだったが、このダンジョン設計したやつ絶対頭悪いだろ。

 そして――ガゴンッ!!前方の岩壁が突然砕け散った。

 現れたのは岩殻蜥蜴(ロック・スケイル)。大型四足蜥蜴型モンスター。

 全身が岩盤のような鱗で覆われ。防御性能は第伍階層でもトップクラス。

 しかもこいつ。擬態まで使う。

 気づいた時には噛みつかれる厄介タイプだ。

 

 「マスター危ないんだよ!」

 

 サクラの声。巨大な顎が俺へ迫る。だが。

 

 「遅い」

 

 瞬間魔力換装《ブリューゲル・ブリッツ》。

 足元で魔力を炸裂。身体を強制加速。

 景色が歪む。一瞬で懐へ潜り込み。

 黒刃を振り上げた。スパァァァンン!!

 マリィの力を纏った黒刃が、岩殻を容易く両断する。

 そこへ。

 

 「援護いたします」

 

 カヌが滑り込む。剣を構え。全身の重心を一点へ集中。

 突き。――轟ッ!!空気そのものが爆ぜた。一点集中された衝撃が。

 岩殻蜥蜴(ロック・スケイル)の頭蓋を内部から粉砕する。

 巨体が崩れ落ちる。静寂。瘴気だけが漂っていた。

 

 「……なんか、攻略速度おかしくなってないか?」

 

 思わず呟く。サクラは元気よく笑い。

 

 「うちは最強パーティなんだよ!」

 

 マリィは静かに脳内で頷き。

 

 「……敵が可哀想」

 

 カヌはゴブリンソードを収めながら、真面目な顔で言った。

 

 「幹隆様の進まれる道を阻む存在ですので、容赦は不要かと」

 

 ……うん。頼もしい。頼もしいんだが。

 うちのパーティ、火力思想が極端すぎる気がする。

 

 《境界の記(ヘルメス)》のおかげで、既に次の階層までのルートは把握済みだった。

 やはり神様からの修正パッチなだけあって性能が狂っている。

 意識を集中すると、脳内に半透明の光が広がる。

 そして視界の奥に、迷宮全体の二次元マップが浮かび上がった。

 現在地。通路構造。未探索領域。瘴気濃度。

 それらが立体的に整理され、瞬時に脳へ流れ込んでくる。

 

 《境界探知(リミナル・ヴィジョン)》――境界面を感知し、周囲の空間情報をマッピングする能力。

 そして、その情報を基に最適経路を自動算出するのが、《神路導標(サイコポンポス)》だった。

 目的地をイメージするだけでいい。

 すると脳内地図に淡い金色の線が走り、現在位置から最短かつ最も安全なルートが表示される。

 モンスターと多く戦いたい場合は、敵性反応の密集している玄室を優先ルートに設定することもできた。

 しかも優秀なのは、単なる道案内だけではないところだ。

 敵の位置が見えている時点で、探索者側のアドバンテージが違いすぎる。

 普通の『文官(オフィサー)系』でも、界門の位置を把握する程度なら可能らしい。

 だが、《境界の記(ヘルメス)》のように迷宮全体を詳細マッピングし、最適ルートや敵性反応まで解析できるわけではない。

 罠の位置や宝箱の存在、さらには、周辺に存在する敵性反応の総数まで把握できる。

 《境界の記(ヘルメス)》を手に入れたことで、迷宮探索の難易度そのものが変わっていた。

 今までランダムエンカウントだったが、シンボルエンカウントになった感覚だ。

 

 《境界の記(ヘルメス)》では、魔物の種類や能力まではわからなかった。

 よって、魔物の能力は、サクラの対魔術兵器戦略思考(ミーミスブルン)で解析してもらっている。

 

 他の神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)の反応も探れないか、《神路導標(サイコポンポス)》で周辺一帯を走査してみた。

 だが、脳内地図に新たな反応が浮かび上がることはない。

 まるで最初から存在していないかのようだった。

 何か特殊な出現条件があるのか。

 あるいは、《境界の記(ヘルメス)》では神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)を感知できないのか。

 現状では判断材料が少なすぎた。

 

 今日だけで既に八つ目となる宝箱を発見していた。

 その解除を担当しているのがカヌだ。

 

 「……解除します」

 

 カヌが片膝をつき、宝箱へ触れる。カチ、カチ、カチ――

 わずか数秒。複雑に絡み合っていた術式が静かに停止する。

 

 「解除完了しました」

 

 解除も早い。なんでも、そういう訓練もやってきたのだという。ムー帝国12000年の歴史はすごかった……

 しかも、仮に失敗しても大きな問題にはならない。

 最悪、罠が発動しても――俺には『復元する世界(ダ・カーポ)』がある。

 ある程度の傷であれば()()()()()()()ことができる。

 裂傷。骨折。内臓破裂。

 その程度なら数秒で完全修復可能だ。

 普通の探索者なら命懸けになる罠解除を、半ばゴリ押しで突破できてしまう。

 

 改めて考えると、うちのパーティはかなり完成度が高かった。

 俺が索敵、近接、回復担当。

 サクラが解析、支援、遠距離殲滅。

 カヌが斥候、奇襲、罠解除、遊撃。

 こうして整理してみると、うちのパーティは単純火力だけじゃなく、探索能力までかなり高水準だった。

 ……というか、主にカヌの担当範囲がおかしい。

 ちなみに異空間での俺たち三人のお世話をしているのもカヌだ。もう、ママである……

 

 たった一日の探索で、俺たちは界層守護者のいる玄室へ到達してしまった。

 普通なら数日。いや、『既知外』領域なら一週間以上足止めされてもおかしくない。

 それを、《境界の記(ヘルメス)》による最適ルート探索で半ば強引に突破していた。

 巨大な玄室の前で足を止める。

 

 「ここだな」

 

 脳内マップに表示された赤い反応は一つだけ。だが、その光点だけ異様に大きい。

 界層守護者(ゲートキーパー)。下手な群体より危険度が高い、階層の主だ。

 玄室中央にいたのは、鎧犀(アーマーライノセラス)の『超越個体(オーバーボーダー)』。

 大角鎧犀(ビッグボーンアーマーライノセラス)。通常種より一回り以上巨大な、全長五メートル級の怪物だった。

 漆黒の装甲外皮。槍のように伸びた巨大角。踏み込むたび、床岩が砕け散る。

 とても固そうだな。通常の武器なら装甲を貫くのに苦労しそうだ。

 装甲表面に赤黒い紋様が浮かんでいた。

 通常個体以上に外殻強度が強化されているらしい。

 

 「ブゴォォォォオオオオオッ!!」

 

 咆哮。直後。ドガァァァァン!!

 巨体とは思えない速度で突進してきた。

 岩床が爆ぜる。

 衝撃だけで暴風が吹き抜けた。

 

 「マスター、どうする?」

 

 サクラが楽しそうに笑う。

 

 「このまま行こう。問題ないはずだ」

 「……幹隆様は、私が護ります」

 

 カヌが静かに前へ出る。よし。やるか。

 まず最初に動いたのはカヌだった。

 ――消える。そう錯覚するほどの速度。

 神速の槍主(スカイランサー)の軌跡が一瞬だけ視界を走り、

 ズバァァァン!!

 大角鎧犀(ビッグボーンアーマーライノセラス)の前脚へ斬撃が叩き込まれる。

 だが。ギギギギギッ!!

 完全には切断できない。

 硬い。通常個体より明らかに装甲強度が上がっている。

 

 「なら――!」

 

 俺も踏み込む。マリィと融合した黒刃が瘴気を撒き散らした。

 加速。視界が流れる。

 巨体の側面へ潜り込み、そのまま後脚へ黒刃を振り抜いた。

 ズガァァァッ!!

 黒い斬撃が装甲を食い破る。

 肉を断ち、骨を砕き――後脚が吹き飛んだ。

 巨体が大きく傾く。

 

 「ブゴォォォッ!?」

 

 そこへ。

 

 「今なんだよ!」

 

 サクラが穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)を掲げた。

 瞬間。ブゥン――

 空間に桜色の魔法陣が展開する。

 一つ。二つ。三つ。

 幾重にも重なった術式が、玄室全体を淡い光で染め上げていく。

 その光景は幻想的ですらあった。

 

 「――穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)!」

 

 次の瞬間。ズガァァァァァァァンッ!!

 三つの魔法陣から極太の桜光が同時に放たれた。

 収束された高密度魔力奔流。

 光線は空気そのものを焼きながら一直線に走り、大角鎧犀(ビッグボーンアーマーライノセラス)を正面から呑み込む。

 

 「ブゴォォォォォオオオオッ!?」

 

 超越個体が咆哮を上げる。だが、意味はない。

 第一射で装甲が融解。第二射で肉体内部を焼却。第三射で残った骨格ごと消し飛ばした。

 ドゴォォォォォォォォンッ!!!

 轟音と共に玄室が激震する。

 爆風が吹き荒れ、砕けた岩片が雨のように降り注いだ。

 数秒後。煙が晴れる。

 そこに残っていたのは――

 上半身を完全に消失させた大角鎧犀(ビッグボーンアーマーライノセラス)の残骸だけだった。

 断面から赤熱した肉と骨が覗いている。

 ……あっけなかったな。

 いや、普通なら階層主ってもっと苦戦する相手だろ。

 

 「ふ、やってやったんだよ」

 

 ドヤ顔でこちらを振り向くサクラは可愛かった。

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