波留先輩と協力することを決めた翌日。
俺たち四人は、『
休日の学園は平日より静かだった。
それでも、ダンジョンへ向かう学生たちの姿はちらほら見える。
武器を背負った生徒、仲間と談笑するグループ。
死と隣り合わせの学園とは思えないほど、どこか青春じみた空気が流れていた。
そんな中を歩きながら、カヌが不安そうに口を開く。
「……幹隆様。本当によろしかったのですか? 俱楽部入部の件」
彼女の紫水晶みたいな瞳には、僅かな後悔が滲んでいた。
おそらく、自分の力不足のせいで、俺に余計な選択をさせたと思っているのだろう。
俺は小さく息を吐く。
「この学園に五年間いる以上、どこかで俱楽部には入る必要があったんだ」
豊葦原学園において、“無所属”は弱者の証明に近い。
情報、人脈、装備、レイド攻略、その全てが俱楽部単位で回っている。
なので、学園では、ほとんどの生徒が俱楽部に所属する。
ソロで強くなれるほど、この学園は甘くないのだ。
「それに――」
俺は前方に見える巨大な俱楽部棟を眺めながら続ける。
「これから俺たちは、“その判断が正しかったのか”を確認しに行くんだろ?」
するとカヌは、ぎゅっと胸元を押さえながら俯いた。
「……申し訳ありません」
消え入りそうな声だった。
「……私が不甲斐ないばかりに。王へ、このような判断をさせてしまうとは……」
その声音には、本気の自責が混じっていた。
カヌはいつもそうだ。自分より先に、俺のことを考える。
全部、自分の責任だと思い込む。
だから俺は、苦笑しながら首を横に振った。
「大丈夫だよ」
「ですが――」
「それに、どっちかというと俺の問題だ」
俺は自嘲気味に笑う。
「俺がもっと強ければ、誰かに頼る必要なんてなかったかもしれない」
だから協力を求めた。それが事実だった。
すると隣から、呆れたような声が飛んでくる。
「マスターは、物事を深く考えすぎなんだよ」
サクラだった。
彼女は両手を頭の後ろで組みながら、けらけら笑っている。
「こういうのは勢いが大事なんだよ!」
「勢いで極級レイド行くやつがあるか」
「ここにいるんだよ!」
どや顔だった。
……いや、間違ってはいないんだけど。
その隣では、マリィが静かにこちらを見ていた。
「……幹隆」
「ん?」
「私たちは、幹隆が秘密を守ろうとしてくれてるの知ってる」
金色の髪を揺らしながら、マリィはゆっくり言葉を紡ぐ。
その声は穏やかだった。責めるでもなく、怒るでもなく。
ただ、優しく。
「でもね――」
マリィは小さく微笑む。
「もう少し、私たちのことを信用してほしい」
その言葉に、一瞬、胸の奥が熱くなる。
……ああ、俺はずっと、“守る側”でいようとしていたのかもしれない。
けれど本当は、彼女たちもまた、俺を支えようとしてくれていたんだ。
「……そうだな」
自然と笑みが漏れる。
「ありがとう、マリィ」
するとマリィは少しだけ照れたように目を逸らした。
前を歩くサクラは鼻歌交じり。
カヌはまだ少し不安そうだったが、それでも俺のすぐ隣を歩いている。
そして俺たちは、そのまま巨大な俱楽部棟へ足を踏み入れた。
――――
豊葦原学園では、俱楽部のランクによって与えられる待遇が大きく変わる。
下位俱楽部は、教室を少し広くした程度のプレハブしか与えられない。
共有施設を使うことも多く、設備面でも決して恵まれているとは言えなかった。
だが――S、Aランククラスになると話は別だ。
学園側から独立した専用施設が与えられる。
ミーティングルーム、仮眠室、娯楽室、ロッカールーム。
専用トレーニングルーム、医療設備、シャワールーム。
さらに上位俱楽部になると、簡易ダンジョンシミュレーターまで存在するらしい。
要するに、“小規模な軍事拠点”だ。
レイド攻略を前提とする以上、学園側も戦力育成には本気なのだろう。
そして、『
「……でかいな」
思わず声が漏れる。
目の前にそびえていたのは、もはや“部室”と呼ぶには無理がある建築物だった。
外観は近未来的なオフィスビルに近い。
黒と灰色を基調にした重厚なデザイン。
目視で確認できるだけでも七階建て、横幅もかなり広い。
下手な企業ビルより遥かに豪華だった。
この学園でAランクへ到達できるのは、ほんの一握り。
単純な実力だけではなく、レイド実績、生存率、貢献度、その全てが求められる。
つまりここにいる連中は、“選ばれた側”だ。
もっとも――俺の隣にいる三人も、十分化け物なんだけどな。
そんなことを考えていると、自動ドアが開き。
中から、見覚えのある茶髪の先輩が手を振りながら出てきた。
「お、来た来た! 幹隆君たち!」
彼女は満面の笑みを浮かべながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「ようこそ、『
両手を広げながら歓迎してくる姿は、まるでテーマパークにでも案内するみたいに軽い。
だが、その背後にあるのは学園でも指折りの危険俱楽部だ。
俺は軽く苦笑しながら後に続いた。
俺たちは波留先輩の案内で、幹部メンバーが集まるというミーティングルームへ向かう。
途中ですれ違った生徒たちが、波留先輩を見るなり軽く頭を下げていた。
やはり、この人はこの俱楽部の中でも絶対的な立場にいるらしい。
「ここが、ミーティングルームね。今日は幹部メンバーが集まる定例会の日だから、丁度よかったよ」
そう言って波留先輩は扉を開ける。
瞬間、空気が変わった――視線。
部屋の中にいた四人の視線が、一斉にこちらへ突き刺さる。
部屋自体は広く、長机と高級そうな椅子、壁際にはモニターがあった。
奥にはダンジョン地図らしき立体投影装置まで置かれている。
だが、そんな設備よりも先に意識を持っていかれたのは、“人”だった。
見渡した感じ、女の先輩が三人、男の先輩が一人。
その中には、以前会ったことのある
彼女は椅子に深く腰掛けながら、こちらを静かに見つめている。
その目は、まるで獲物の値踏みをする剣士のようだった。
……こうして見ると、とんでもない待遇だ。
普通、一年に対して幹部全員を集めたりはしない。
つまり、波留先輩は、本気で俺たちを引き入れるつもりなのだろう。
「おお~、きたきた。その子たちが、
最初に声を上げたのは、扉近くに座っていた黒髪のボーイッシュな先輩だった。
短く整えられた黒髪、細身、中性的な顔立ち、だが、目だけが異様に爛々としている。
「へぇ~……確かに僕たちと同じ匂いがする」
その言葉に、俺はわずかに眉を動かした。
同じ匂い。つまり、“普通ではない”という意味だろう。
「あん?」
低い声が部屋に響く。
「その一年共が、うちに入るだと? いつからここは託児所になったんだ」
机に脚を乗せ、腕を組んでいた大柄な男の先輩が俺たちを睨みつけていた。
筋肉の鎧みたいな身体、鋭い目、猛獣じみた威圧感、視線だけで空気が重くなる。
「波留。俺はまだ認めてねぇぞ」
「
気怠そうに呟いたのは、長い前髪で顔を隠した女の先輩だった。
声は小さい、だが妙に耳に残る。
生気が薄いというか、死人みたいな雰囲気をしている。
「私は歓迎する」
カチ、カチ、と音が鳴る。
見ると、
「ただ、一度手合わせしたいものだ。……彼とな」
視線が俺へ向けられる。鋭い。完全に戦闘狂の目だ。
「うんうん。みんな楽しそうだね」
そんな空気を気にした様子もなく、波留先輩だけが楽しそうに笑っていた。
「幹隆君たちは、まだ私たちのことをあんまり知らないみたいだから、とりあえず自己紹介しよっか」
促され、俺たちは空いている席へ腰を下ろした。
サクラは「おお~……」と声を漏らしながら興味津々で室内を見回している。
壁際の大型モニターや立体投影されたダンジョンマップを見て、完全に探検気分だ。
マリィは静かに俺の隣へ座る。
無表情ではあるが、こういう初対面の場は少し緊張しているのか、服の裾を小さく摘まんでいた。
そしてカヌだけは、椅子に座ろうとせず俺の後ろへ立ったままだ。
完全に護衛騎士である。
「……カヌ、座っていいんだぞ」
「いえ。王の後ろに控えるのが私の役目ですので」
ぴしりと言い切る。
この場にいる全員が「本当に王様扱いなんだな……」みたいな目をしていた。
「それじゃあ、言い出しっぺの私からするね」
波留先輩は椅子へ腰掛けたまま、にこりと笑う。
「名前はもう知ってると思うけど、
そして、その笑みを深めた。
「あと私は、『
――享楽。その単語を聞いた瞬間。
波留先輩の纏う空気が、妙に腑に落ちた気がした。
この人はたぶん、“楽しい”を最優先で生きている。
自分が面白いと思えば、迷わず飛び込むタイプだ。
「んで、この俱楽部なんだけど――」
波留先輩は他の幹部たちを見渡す。
「
さらっと恐ろしいことを言いやがった。
それは望んで得られる力ではない。世界法則から逸脱した者だけが持つ、“異常”そのものだ。
常識では測れない力を得る代わりに、保有者は必ず
だからイリーガルクラス保有者は、“規格外になった”わけではない。
最初から、世界に馴染めない何かを抱えて生まれている。
「次は僕だね~」
黒髪のボーイッシュな先輩が、椅子をくるりと回転させる。
「名前は
ニシシ、と子供みたいな笑みを浮かべる奈津先輩。
だが、その笑顔はどこか危うかった。
「……ん」
小さな声。長い前髪で顔を隠した女の先輩が、ゆっくりこちらを見る。
「私は
ぼそぼそとした喋り方。感情の起伏が薄い。
だが逆に、その静けさが不気味だった。
「あなたを一目見た時から、こんな予感はしていた」
前髪の奥。僅かに覗いた瞳がこちらを見つめる。
「……これは運命かもしれない」
オカルト染みたことを言い出した。
というか、この人。前見えてるのか?
そんなことを考えていると、カチ、カチ、と音が鳴る。
刀の鍔を指で鳴らしながら、楓夕先輩が口を開いた。
「最後は私だな」
長い黒髪、切れ長の瞳、凛とした顔立ち。
和風美人という言葉がよく似合う。
だが、その奥にある気配は刃そのものだった。
「君とは一度会ったことはあると思うが、改めて名は
彼女は真っ直ぐ俺を見る。
「『
――瞬間。空気が、ぴり、と震えた気がした。
この人は危険だ。しかも戦闘狂寄りの危険人物。
「君がどんな力を持っているのか、楽しみだ」
その目は、強者と出会った獣の目だった。
……そういえば、同じイリーガル系統に、『
名称が同じということは、何かしら関係があるのだろうか。
「おいおい、最後ってなんだよ」
不機嫌そうな低い声が飛ぶ。
「俺まだ話してねぇぞ」
机に脚を乗せたままだった大柄な男の先輩が、眉をひそめていた。
「あ」
楓夕先輩が小さく声を漏らす。
「すまん、忘れていた」
謝罪。だが声に感情が一ミリもこもっていない。
完全に適当だった。
「テメェ絶対反省してねぇだろ……」
獅騎先輩が呆れたように頭を掻く。
その瞬間だけ。さっきまで張り詰めていた部屋の空気が、少しだけ緩んだ。
「ちっ……。俺は
一息置き、こちらを睨む。
「……言っとくが、俺はまだお前のこと認めてねぇからな」
ふと、肩を叩かれる。
隣にいたサクラがこちらに顔を近づけてきた。
「マスター。みんな、めちゃくちゃ強そうなんだよ」
小声で囁いてくる。
だが、その瞳はどこか楽しそうに輝いていた。
強敵を前にした時の反応だ。
「……ああ。間違いなくこの学園でも上位だろうな」
俺も小さく返す。規格外のクラスがまさか4人もいるとは思わなかった。
聞いてる感じだとこの俱楽部は二年生主体の俱楽部なんだろう。
二年生でAランクまで俱楽部を押し上げたのは、かなりの実力があるとみていいだろう。
「うんうん。みんな、自己紹介ありがとう」
波留先輩が満足そうに頷く。
「どうかな、幹隆君。私の俱楽部、みんな強そうっしょ?」
胸を張る波留先輩。
その笑顔には絶対的な自信があった。
「私的にはね、『
その二つの名前を聞いて、俺は内心で少し驚く。
どちらも原作で名前が出ていた最上位クラスの戦闘俱楽部だ。
特に『
そこへ並べる時点で、この『
「そうですね。少なくとも……イリーガルホルダーが四人もいるなんて知りませんでした」
俺が素直に答えると、波留先輩は嬉しそうに笑った。
「俱楽部メンバーは他にもいるんだけど、メイン幹部はここにいる五人だね。それでさ、今度は幹隆君たちのことも聞かせてよ。私たちが知ってるのって、レベルと職業ぐらいなんだよね。亜季ちゃんのスキルで」
その言葉を聞き、俺はちらりと亜季先輩を見る。
長い前髪に隠れて表情は読めない。
だが、髪の隙間から覗く瞳だけは、不気味なほどこちらを観察していた。
――やはり普通じゃない。
以前は『
だが、今日聞いた話では、彼女はイリーガルホルダー。
つまり、通常職業と規格外職業を同時に持つ――『
原作でも極めて希少だった存在だ。
……まあ、現時点で『
だが、問題はそこじゃない。
一番隠さなければならないのは、俺が異世界転生者だということ。
スキルの一部を明かすくらいなら問題ない。
どのみちレイド攻略で隠し通すのは不可能だ。
なら、ある程度は開示した方がいい。
「……では、改めて、一年の幹隆です」
俺は一度呼吸を整える。
「職業は『
室内の視線が集中する。
「そして――俺のパーティーメンバー全員が、アンノウンクラス保持者です」
一瞬、部屋の空気が静まり返った。
「……わぉ」
最初に反応したのは波留先輩だった。
「やっぱり幹隆君、全然普通じゃないじゃん」
楽しそうに笑っている。
「でも前、一人でダンジョン潜ってるって言ってたよね? いつの間にこんな可愛い子たち集めたの?」
……来たか。俺は事前に考えていた設定を口にする。
「彼女たちは、この学園の生徒ではありません。俺がスキルで召喚しました。まあ、それが職業能力の一つですね」
本来、『
だが、『ヒロイン召喚』を正確に説明すると色々と危険すぎる。
だからここは誤魔化す。
「……は?」
獅騎先輩が眉をひそめた。
「人間を召喚? そんな職業聞いたことねぇぞ」
そりゃそうだ。俺だって原作知識込みでも聞いたことない。
「どんなぶっ壊れクラスしてんだ、お前……」
獅騎先輩が呆れたように言う。
……いや、まだこんなの序の口なんですよ。
「とりあえず、自己紹介してくれ」
俺がそう促すと、真っ先にサクラが元気よく手を挙げた。
「はいなんだよ!」
嫌な予感がする。
「私の名前はサクラなんだよ!マスターの相棒にして最強の
ドヤ顔だった。俺は思わず頭を抱える。
来る前に「自己紹介は任せるんだよ!」とか自信満々に言ってた結果がこれである。
情報量が多すぎる。
案の定、先輩たちの視線が怪訝なものに変わっていた。
「……私はマリィ」
続いてマリィが静かに口を開く。
「……幹隆とは、いつも融合して一緒にいる」
やめて、言い方。絶対誤解されるから。
実際、波留先輩がニヤニヤし始めてるから。
そして最後、カヌが一歩前に出た。
優雅にスカートの端を摘み、綺麗に礼をする。
「……では最後は私ですね。名前はクリス・カヌ。覚えていただかなくても問題ありません」
お、今回はまともか?そう思った次の瞬間。
「……幹隆様の奴隷です」
……終わった。
三人の自己紹介が終わった瞬間、部屋の空気が、完全に停止した。
「いや違うんです。違わないんですけど、違うんです」
自分でも何を言ってるのか分からない。
三人の自己紹介が終わった瞬間、俺は猛烈な頭痛を覚えていた。
……ばれるとか以前に、まず説明が追いつかない。
「あはははははっ!」
最初に笑い出したのは波留先輩だった。
「幹隆君のパーティー、面白い子ばっかりだねぇ。うん、私気に入った!」
腹を抱えて笑っている。完全にツボに入ったらしい。
「みんなはどうかな?」
波留先輩が周囲へ視線を向ける。
「確かに、波留ちゃんの言う通りだね」
奈津先輩がニシシと笑いながら頬杖をつく。
「僕も加入には賛成かな。……というか普通に気になること多すぎるし、聞きたいこと山ほどあるんだけど」
完全に好奇心全開だった。
「……私は、波留が決めたなら構わない。好きにすればいい」
亜季先輩がぼそりと呟く。
「最初から私は歓迎している。彼には興味があるからな」
楓夕先輩は相変わらず真っ直ぐこちらを見ていた。
その目は、“獲物”を見る剣士の目だ。
そして――
「あぁ?」
低い声が響く。
「こんな得体の知れねぇ奴らを、いきなり中に入れる気か?」
獅騎先輩だった。腕を組み、露骨に不満そうな顔をしている。
「せめて、“使えるかどうか”確認してからだろうが」
……なんかもう、完全に加入前提で話が進んでないか?
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ俺、加入するなんて一言も言ってませんよ」
すると――
「なんだてめぇ」
獅騎先輩がギロリと睨んできた。
「俺たちの俱楽部に文句あるってのか?」
いや、さっきまで反対してたの、そっちですよね?
俺が内心でツッコんでいると、波留先輩が苦笑した。
「う~ん。確かに、まだ正式な返事はもらってなかったねぇ」
そう言いながらも、まったく焦っていない。むしろ楽しんでいる。
「でもさ、ここまで話ちゃって、“やっぱやめます”は流石に無しじゃない?」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
常識から逸脱した怪物たちの視線が、一斉にこちらへ向く。
重圧。ただ視線を向けられているだけなのに、空気が重い。
普通の生徒なら、それだけで萎縮して動けなくなるレベルだった。
……だが、ここで引くわけにもいかない。
俺は一度息を吐いてから口を開く。
「いえ、断るつもりはありません」
全員の視線が集まる。
「ただ、いくつか条件があります」
「条件?」
波留先輩が面白そうに目を細めた。
「まず一つ目。彼女たち三人には、他のメンバーから手を出さないでください」
俺は、サクラたちを一瞥する。
「彼女たちは俺の女です」
一瞬。空気が止まった。
奈津先輩が「おぉ~」と声を漏らし。
波留先輩はニヤニヤし始め。
獅騎先輩は「マジかよ……」みたいな顔をしていた。
「……もっとも」
俺は続ける。
「もし手を出した場合は、そっちもただでは済まないと思いますが」
静かに告げる。すると、奈津先輩が口元を吊り上げた。
「へぇ~?」
その目が愉快そうに細まる。
「僕たち相手に、そんな啖呵切っちゃうんだ?」
空気がピリつく。だが、その直後。
「はいはい、なっちゃん落ち着いて~」
波留先輩が間に割って入った。
「うん、その条件は大丈夫だよ。事情も特殊っぽいしねぇ。こっちの男メンバーにはちゃんと言っとく」
そう言いながら、ちらりと獅騎先輩を見る。
「うちは女の方が強いから、ちゃんと従ってくれると思うよ?」
「……チッ」
獅騎先輩が露骨に舌打ちした。いや、この人絶対問題児側だろ。
「わかりました。では、二つ目です」
俺は続ける。
「俺たちは、あまり目立ちたくありません。俱楽部の活動や依頼には協力します。ですが、こちらの情報については秘密を守ってほしい」
俺の言葉に、波留先輩はすぐ頷いた。
「うん、それも問題ないよ。彼女たちが学園生じゃない以上、表に出しづらいのは分かるしね」
そして、少しだけ真面目な顔になる。
「でも――」
波留先輩が、まっすぐこちらを見る。
「幹隆君の実力次第では、対抗戦とかに出てもらう可能性はある。それは大丈夫?」
対抗戦。学園内でも特に注目されるイベントだ。
目立つな、間違いなく。
だが――
「はい。俺だけなら問題ありません」
そう答えると、波留先輩は満足そうに笑った。
「よし。じゃあ、交渉成立だね」
その笑みは、まるで新しい玩具を見つけた子供みたいだった。
そして俺は正式に『