※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

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 波留先輩と協力することを決めた翌日。

 俺たち四人は、『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』の俱楽部棟へ向かっていた。

 

 休日の学園は平日より静かだった。

 それでも、ダンジョンへ向かう学生たちの姿はちらほら見える。

 武器を背負った生徒、仲間と談笑するグループ。

 死と隣り合わせの学園とは思えないほど、どこか青春じみた空気が流れていた。

 

 そんな中を歩きながら、カヌが不安そうに口を開く。

 

「……幹隆様。本当によろしかったのですか? 俱楽部入部の件」

 

 彼女の紫水晶みたいな瞳には、僅かな後悔が滲んでいた。

 おそらく、自分の力不足のせいで、俺に余計な選択をさせたと思っているのだろう。

 俺は小さく息を吐く。

 

 「この学園に五年間いる以上、どこかで俱楽部には入る必要があったんだ」

 

 豊葦原学園において、“無所属”は弱者の証明に近い。

 情報、人脈、装備、レイド攻略、その全てが俱楽部単位で回っている。

 なので、学園では、ほとんどの生徒が俱楽部に所属する。

 ソロで強くなれるほど、この学園は甘くないのだ。

 

 「それに――」

 

 俺は前方に見える巨大な俱楽部棟を眺めながら続ける。

 

 「これから俺たちは、“その判断が正しかったのか”を確認しに行くんだろ?」

 

 するとカヌは、ぎゅっと胸元を押さえながら俯いた。

 

 「……申し訳ありません」

 

 消え入りそうな声だった。

 

 「……私が不甲斐ないばかりに。王へ、このような判断をさせてしまうとは……」

 

 その声音には、本気の自責が混じっていた。

 カヌはいつもそうだ。自分より先に、俺のことを考える。

 全部、自分の責任だと思い込む。

 だから俺は、苦笑しながら首を横に振った。

 

 「大丈夫だよ」

 「ですが――」

 「それに、どっちかというと俺の問題だ」

 

 俺は自嘲気味に笑う。

 

 「俺がもっと強ければ、誰かに頼る必要なんてなかったかもしれない」

 

 極級(アルティメットランク)レイドへ挑むのに、“絶対勝てる”と言い切れるほど、今の俺は万能じゃない。

 だから協力を求めた。それが事実だった。

 すると隣から、呆れたような声が飛んでくる。

 

 「マスターは、物事を深く考えすぎなんだよ」

 

 サクラだった。

 彼女は両手を頭の後ろで組みながら、けらけら笑っている。

 

 「こういうのは勢いが大事なんだよ!」

 「勢いで極級レイド行くやつがあるか」

 「ここにいるんだよ!」

 

 どや顔だった。

 ……いや、間違ってはいないんだけど。

 その隣では、マリィが静かにこちらを見ていた。

 

 「……幹隆」

 「ん?」

 「私たちは、幹隆が秘密を守ろうとしてくれてるの知ってる」

 

 金色の髪を揺らしながら、マリィはゆっくり言葉を紡ぐ。

 その声は穏やかだった。責めるでもなく、怒るでもなく。

 ただ、優しく。

 

 「でもね――」

 

 マリィは小さく微笑む。

 

 「もう少し、私たちのことを信用してほしい」

 

 その言葉に、一瞬、胸の奥が熱くなる。

 ……ああ、俺はずっと、“守る側”でいようとしていたのかもしれない。

 けれど本当は、彼女たちもまた、俺を支えようとしてくれていたんだ。

 

 「……そうだな」

 

 自然と笑みが漏れる。

 

 「ありがとう、マリィ」

 

 するとマリィは少しだけ照れたように目を逸らした。

 前を歩くサクラは鼻歌交じり。

 カヌはまだ少し不安そうだったが、それでも俺のすぐ隣を歩いている。

 そして俺たちは、そのまま巨大な俱楽部棟へ足を踏み入れた。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 豊葦原学園では、俱楽部のランクによって与えられる待遇が大きく変わる。

 下位俱楽部は、教室を少し広くした程度のプレハブしか与えられない。

 共有施設を使うことも多く、設備面でも決して恵まれているとは言えなかった。

 だが――S、Aランククラスになると話は別だ。

 学園側から独立した専用施設が与えられる。

 ミーティングルーム、仮眠室、娯楽室、ロッカールーム。

 専用トレーニングルーム、医療設備、シャワールーム。

 さらに上位俱楽部になると、簡易ダンジョンシミュレーターまで存在するらしい。

 要するに、“小規模な軍事拠点”だ。

 レイド攻略を前提とする以上、学園側も戦力育成には本気なのだろう。

 そして、『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』の俱楽部棟も例外ではなかった。

 

 「……でかいな」

 

 思わず声が漏れる。

 目の前にそびえていたのは、もはや“部室”と呼ぶには無理がある建築物だった。

 外観は近未来的なオフィスビルに近い。

 黒と灰色を基調にした重厚なデザイン。

 目視で確認できるだけでも七階建て、横幅もかなり広い。

 下手な企業ビルより遥かに豪華だった。

 この学園でAランクへ到達できるのは、ほんの一握り。

 単純な実力だけではなく、レイド実績、生存率、貢献度、その全てが求められる。

 つまりここにいる連中は、“選ばれた側”だ。

 もっとも――俺の隣にいる三人も、十分化け物なんだけどな。

 そんなことを考えていると、自動ドアが開き。

 中から、見覚えのある茶髪の先輩が手を振りながら出てきた。

 

 「お、来た来た! 幹隆君たち!」

 

 波留(はる)先輩だった。

 彼女は満面の笑みを浮かべながら、こちらへ駆け寄ってくる。

 

 「ようこそ、『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』へ!」

 

 両手を広げながら歓迎してくる姿は、まるでテーマパークにでも案内するみたいに軽い。

 だが、その背後にあるのは学園でも指折りの危険俱楽部だ。

 俺は軽く苦笑しながら後に続いた。

 俺たちは波留先輩の案内で、幹部メンバーが集まるというミーティングルームへ向かう。

 途中ですれ違った生徒たちが、波留先輩を見るなり軽く頭を下げていた。

 やはり、この人はこの俱楽部の中でも絶対的な立場にいるらしい。

 

 「ここが、ミーティングルームね。今日は幹部メンバーが集まる定例会の日だから、丁度よかったよ」

 

 そう言って波留先輩は扉を開ける。

 瞬間、空気が変わった――視線。

 部屋の中にいた四人の視線が、一斉にこちらへ突き刺さる。

 部屋自体は広く、長机と高級そうな椅子、壁際にはモニターがあった。

 奥にはダンジョン地図らしき立体投影装置まで置かれている。

 だが、そんな設備よりも先に意識を持っていかれたのは、“人”だった。

 見渡した感じ、女の先輩が三人、男の先輩が一人。

 その中には、以前会ったことのある楓夕(ふゆ)先輩の姿もあった。

 彼女は椅子に深く腰掛けながら、こちらを静かに見つめている。

 その目は、まるで獲物の値踏みをする剣士のようだった。

 

 ……こうして見ると、とんでもない待遇だ。

 普通、一年に対して幹部全員を集めたりはしない。

 つまり、波留先輩は、本気で俺たちを引き入れるつもりなのだろう。

 

 「おお~、きたきた。その子たちが、波留(はる)が言ってた子たちだよね?」

 

 最初に声を上げたのは、扉近くに座っていた黒髪のボーイッシュな先輩だった。

 短く整えられた黒髪、細身、中性的な顔立ち、だが、目だけが異様に爛々としている。 

 

 「へぇ~……確かに僕たちと同じ匂いがする」

 

 その言葉に、俺はわずかに眉を動かした。

 同じ匂い。つまり、“普通ではない”という意味だろう。

 

 「あん?」

 

 低い声が部屋に響く。

 

 「その一年共が、うちに入るだと? いつからここは託児所になったんだ」

 

 机に脚を乗せ、腕を組んでいた大柄な男の先輩が俺たちを睨みつけていた。

 筋肉の鎧みたいな身体、鋭い目、猛獣じみた威圧感、視線だけで空気が重くなる。

 

 「波留。俺はまだ認めてねぇぞ」

 「獅騎(しき)君、昨日話してた。波留ちゃんが新しい仲間を入れたいって。……聞いてなかったの。……はぁ」

 

 気怠そうに呟いたのは、長い前髪で顔を隠した女の先輩だった。

 声は小さい、だが妙に耳に残る。

 生気が薄いというか、死人みたいな雰囲気をしている。

 

 「私は歓迎する」

 

 カチ、カチ、と音が鳴る。

 見ると、楓夕(ふゆ)先輩が刀の鍔を指で鳴らしていた。

 

 「ただ、一度手合わせしたいものだ。……彼とな」

 

 視線が俺へ向けられる。鋭い。完全に戦闘狂の目だ。

 

 「うんうん。みんな楽しそうだね」

 

 そんな空気を気にした様子もなく、波留先輩だけが楽しそうに笑っていた。

 

 「幹隆君たちは、まだ私たちのことをあんまり知らないみたいだから、とりあえず自己紹介しよっか」

 

 促され、俺たちは空いている席へ腰を下ろした。

 サクラは「おお~……」と声を漏らしながら興味津々で室内を見回している。

 壁際の大型モニターや立体投影されたダンジョンマップを見て、完全に探検気分だ。

 マリィは静かに俺の隣へ座る。

 無表情ではあるが、こういう初対面の場は少し緊張しているのか、服の裾を小さく摘まんでいた。

 そしてカヌだけは、椅子に座ろうとせず俺の後ろへ立ったままだ。

 完全に護衛騎士である。

 

 「……カヌ、座っていいんだぞ」

 「いえ。王の後ろに控えるのが私の役目ですので」

 

 ぴしりと言い切る。

 この場にいる全員が「本当に王様扱いなんだな……」みたいな目をしていた。

 

 「それじゃあ、言い出しっぺの私からするね」

 

 波留先輩は椅子へ腰掛けたまま、にこりと笑う。

 

 「名前はもう知ってると思うけど、波留(はる)。この『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』の部長をやってるんだぁ」

 

 そして、その笑みを深めた。

 

 「あと私は、『四大感情因子(クアドラ・エモーション)』系――『享楽(カプリス)』の保有者(ホルダー)だよ」

 

 ――享楽。その単語を聞いた瞬間。

 波留先輩の纏う空気が、妙に腑に落ちた気がした。

 この人はたぶん、“楽しい”を最優先で生きている。

 自分が面白いと思えば、迷わず飛び込むタイプだ。

 

 「んで、この俱楽部なんだけど――」

 

 波留先輩は他の幹部たちを見渡す。

 

 「獅騎(しき)君を除いた幹部全員が、イリーガルクラス持ちなんだよね」

 

 さらっと恐ろしいことを言いやがった。規格外(イリーガル)クラス。

 それは望んで得られる力ではない。世界法則から逸脱した者だけが持つ、“異常”そのものだ。

 常識では測れない力を得る代わりに、保有者は必ず宿業(カルマ)を背負う。

 だからイリーガルクラス保有者は、“規格外になった”わけではない。

 最初から、世界に馴染めない何かを抱えて生まれている。

 

 「次は僕だね~」

 

 黒髪のボーイッシュな先輩が、椅子をくるりと回転させる。

 

 「名前は奈津(なつ)。僕も同じく『四大感情因子(クアドラ・エモーション)』系――『歓喜(ユーフォリア)』の保有者だよ。よろしくね」

 

 ニシシ、と子供みたいな笑みを浮かべる奈津先輩。

 だが、その笑顔はどこか危うかった。

 

 「……ん」

 

 小さな声。長い前髪で顔を隠した女の先輩が、ゆっくりこちらを見る。

 

 「私は亜季(あき)。……『四大感情因子(クアドラ・エモーション)』系――『哀哭(ラメント)』の保有者」

 

 ぼそぼそとした喋り方。感情の起伏が薄い。

 だが逆に、その静けさが不気味だった。

 

 「あなたを一目見た時から、こんな予感はしていた」

 

 前髪の奥。僅かに覗いた瞳がこちらを見つめる。

 

 「……これは運命かもしれない」

 

 オカルト染みたことを言い出した。

 というか、この人。前見えてるのか?

 そんなことを考えていると、カチ、カチ、と音が鳴る。

 刀の鍔を指で鳴らしながら、楓夕先輩が口を開いた。

 

 「最後は私だな」

 

 長い黒髪、切れ長の瞳、凛とした顔立ち。

 和風美人という言葉がよく似合う。

 だが、その奥にある気配は刃そのものだった。

 

 「君とは一度会ったことはあると思うが、改めて名は楓夕(ふゆ)

 

 彼女は真っ直ぐ俺を見る。

 

 「『四大感情因子(クアドラ・エモーション)』系――『憤怒(ラース)』の保有者だ」

 

 ――瞬間。空気が、ぴり、と震えた気がした。

 この人は危険だ。しかも戦闘狂寄りの危険人物。

 

 「君がどんな力を持っているのか、楽しみだ」

 

 その目は、強者と出会った獣の目だった。

 ……そういえば、同じイリーガル系統に、『七つの大罪(セブンスシン)』系にも『憤怒(ラース)』が存在したはずだ。

 名称が同じということは、何かしら関係があるのだろうか。

 

 「おいおい、最後ってなんだよ」

 

 不機嫌そうな低い声が飛ぶ。

 

 「俺まだ話してねぇぞ」

 

 机に脚を乗せたままだった大柄な男の先輩が、眉をひそめていた。

 

 「あ」

 

 楓夕先輩が小さく声を漏らす。

 

 「すまん、忘れていた」

 

 謝罪。だが声に感情が一ミリもこもっていない。

 完全に適当だった。

 

 「テメェ絶対反省してねぇだろ……」

 

 獅騎先輩が呆れたように頭を掻く。

 その瞬間だけ。さっきまで張り詰めていた部屋の空気が、少しだけ緩んだ。

 

 「ちっ……。俺は獅騎(しき)。二年だ。職業(クラス)は、『天戦覇王(オーバーロード)』。戦士系の第四段階のレア職だ」

 

 一息置き、こちらを睨む。

 

 「……言っとくが、俺はまだお前のこと認めてねぇからな」

 

 ふと、肩を叩かれる。

 隣にいたサクラがこちらに顔を近づけてきた。

 

 「マスター。みんな、めちゃくちゃ強そうなんだよ」

 

 小声で囁いてくる。

 だが、その瞳はどこか楽しそうに輝いていた。

 強敵を前にした時の反応だ。

 

 「……ああ。間違いなくこの学園でも上位だろうな」

 

 俺も小さく返す。規格外のクラスがまさか4人もいるとは思わなかった。

 聞いてる感じだとこの俱楽部は二年生主体の俱楽部なんだろう。

 二年生でAランクまで俱楽部を押し上げたのは、かなりの実力があるとみていいだろう。

 

 「うんうん。みんな、自己紹介ありがとう」

 

 波留先輩が満足そうに頷く。

 

 「どうかな、幹隆君。私の俱楽部、みんな強そうっしょ?」

 

 胸を張る波留先輩。

 その笑顔には絶対的な自信があった。

 

 「私的にはね、『天上天下(ワールドマイン)』や『暴龍鶏王(ヴォルケイオウ)』にも引けを取らないぐらい強い俱楽部だと思ってるんだ」

 

 その二つの名前を聞いて、俺は内心で少し驚く。

 どちらも原作で名前が出ていた最上位クラスの戦闘俱楽部だ。

 特に『天上天下(ワールドマイン)』は、攻略最前線に立ち続ける超名門。

 そこへ並べる時点で、この『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』がどれほど異常な集団か分かる。

 

 「そうですね。少なくとも……イリーガルホルダーが四人もいるなんて知りませんでした」

 

 俺が素直に答えると、波留先輩は嬉しそうに笑った。

 

 「俱楽部メンバーは他にもいるんだけど、メイン幹部はここにいる五人だね。それでさ、今度は幹隆君たちのことも聞かせてよ。私たちが知ってるのって、レベルと職業ぐらいなんだよね。亜季ちゃんのスキルで」

 

 その言葉を聞き、俺はちらりと亜季先輩を見る。

 長い前髪に隠れて表情は読めない。

 だが、髪の隙間から覗く瞳だけは、不気味なほどこちらを観察していた。

 ――やはり普通じゃない。

 以前は『鑑定人(アプレイザー)』だと言っていた。

 だが、今日聞いた話では、彼女はイリーガルホルダー。

 つまり、通常職業と規格外職業を同時に持つ――『二重保有者(ダブルホルダー)』。

 原作でも極めて希少だった存在だ。

 ……まあ、現時点で『召喚せし者(マホウツカイ)』については、ある程度バレているだろう。

 だが、問題はそこじゃない。

 一番隠さなければならないのは、俺が異世界転生者だということ。

 スキルの一部を明かすくらいなら問題ない。

 どのみちレイド攻略で隠し通すのは不可能だ。

 なら、ある程度は開示した方がいい。

 

 「……では、改めて、一年の幹隆です」

 

 俺は一度呼吸を整える。

 

 「職業は『召喚せし者(マホウツカイ)』。おそらくアンノウンクラスに分類されると思います」

 

 室内の視線が集中する。

 

 「そして――俺のパーティーメンバー全員が、アンノウンクラス保持者です」

 

 一瞬、部屋の空気が静まり返った。

 

 「……わぉ」

 

 最初に反応したのは波留先輩だった。

 

 「やっぱり幹隆君、全然普通じゃないじゃん」

 

 楽しそうに笑っている。

 

 「でも前、一人でダンジョン潜ってるって言ってたよね? いつの間にこんな可愛い子たち集めたの?」

 

 ……来たか。俺は事前に考えていた設定を口にする。

 

 「彼女たちは、この学園の生徒ではありません。俺がスキルで召喚しました。まあ、それが職業能力の一つですね」

 

 本来、『召喚せし者(マホウツカイ)』にそんな能力は存在しない。

 だが、『ヒロイン召喚』を正確に説明すると色々と危険すぎる。

 だからここは誤魔化す。

 

 「……は?」

 

 獅騎先輩が眉をひそめた。

 

 「人間を召喚? そんな職業聞いたことねぇぞ」

 

 そりゃそうだ。俺だって原作知識込みでも聞いたことない。

 

 「どんなぶっ壊れクラスしてんだ、お前……」

 

 獅騎先輩が呆れたように言う。

 ……いや、まだこんなの序の口なんですよ。

 

 「とりあえず、自己紹介してくれ」

 

 俺がそう促すと、真っ先にサクラが元気よく手を挙げた。

 

 「はいなんだよ!」

 

 嫌な予感がする。

 

 「私の名前はサクラなんだよ!マスターの相棒にして最強の戦略破壊魔術兵器(マホウ)!しかも完全自立思考型(スタンドアロン)の“人型兵器”なんだよ!」

 

 ドヤ顔だった。俺は思わず頭を抱える。

 来る前に「自己紹介は任せるんだよ!」とか自信満々に言ってた結果がこれである。

 情報量が多すぎる。

 案の定、先輩たちの視線が怪訝なものに変わっていた。

 

 「……私はマリィ」

 

 続いてマリィが静かに口を開く。

 

 「……幹隆とは、いつも融合して一緒にいる」

 

 やめて、言い方。絶対誤解されるから。

 実際、波留先輩がニヤニヤし始めてるから。

 そして最後、カヌが一歩前に出た。

 優雅にスカートの端を摘み、綺麗に礼をする。

 

 「……では最後は私ですね。名前はクリス・カヌ。覚えていただかなくても問題ありません」

 

 お、今回はまともか?そう思った次の瞬間。

 

 「……幹隆様の奴隷です」

 

 ……終わった。

 三人の自己紹介が終わった瞬間、部屋の空気が、完全に停止した。

 波留(はる)先輩が目を丸くし、奈津(なつ)先輩が吹き出し。

 獅騎(しき)先輩が「は?」みたいな顔をして。

 楓夕(ふゆ)先輩だけが興味深そうにこちらを見ていた。

 

 「いや違うんです。違わないんですけど、違うんです」

 

 自分でも何を言ってるのか分からない。

 三人の自己紹介が終わった瞬間、俺は猛烈な頭痛を覚えていた。

 ……ばれるとか以前に、まず説明が追いつかない。

 

 「あはははははっ!」

 

 最初に笑い出したのは波留先輩だった。

 

 「幹隆君のパーティー、面白い子ばっかりだねぇ。うん、私気に入った!」

 

 腹を抱えて笑っている。完全にツボに入ったらしい。

 

 「みんなはどうかな?」

 

 波留先輩が周囲へ視線を向ける。

 

 「確かに、波留ちゃんの言う通りだね」

 

 奈津先輩がニシシと笑いながら頬杖をつく。

 

 「僕も加入には賛成かな。……というか普通に気になること多すぎるし、聞きたいこと山ほどあるんだけど」

 

 完全に好奇心全開だった。

 

 「……私は、波留が決めたなら構わない。好きにすればいい」

 

 亜季先輩がぼそりと呟く。

 

 「最初から私は歓迎している。彼には興味があるからな」

 

 楓夕先輩は相変わらず真っ直ぐこちらを見ていた。

 その目は、“獲物”を見る剣士の目だ。

 そして――

 

 「あぁ?」

 

 低い声が響く。

 

 「こんな得体の知れねぇ奴らを、いきなり中に入れる気か?」

 

 獅騎先輩だった。腕を組み、露骨に不満そうな顔をしている。

 

 「せめて、“使えるかどうか”確認してからだろうが」

 

 ……なんかもう、完全に加入前提で話が進んでないか?

 

 「ちょ、ちょっと待ってください。まだ俺、加入するなんて一言も言ってませんよ」

 

 すると――

 

 「なんだてめぇ」

 

 獅騎先輩がギロリと睨んできた。

 

 「俺たちの俱楽部に文句あるってのか?」

 

 いや、さっきまで反対してたの、そっちですよね?

 俺が内心でツッコんでいると、波留先輩が苦笑した。

 

 「う~ん。確かに、まだ正式な返事はもらってなかったねぇ」

 

 そう言いながらも、まったく焦っていない。むしろ楽しんでいる。

 

 「でもさ、ここまで話ちゃって、“やっぱやめます”は流石に無しじゃない?」

 

 その瞬間、部屋の空気が変わった。

 常識から逸脱した怪物たちの視線が、一斉にこちらへ向く。

 重圧。ただ視線を向けられているだけなのに、空気が重い。

 普通の生徒なら、それだけで萎縮して動けなくなるレベルだった。

 ……だが、ここで引くわけにもいかない。

 俺は一度息を吐いてから口を開く。

 

 「いえ、断るつもりはありません」

 

 全員の視線が集まる。

 

 「ただ、いくつか条件があります」

 「条件?」

 

 波留先輩が面白そうに目を細めた。

 

 「まず一つ目。彼女たち三人には、他のメンバーから手を出さないでください」

 

 俺は、サクラたちを一瞥する。

 

 「彼女たちは俺の女です」

 

 一瞬。空気が止まった。

 

 奈津先輩が「おぉ~」と声を漏らし。

 波留先輩はニヤニヤし始め。

 獅騎先輩は「マジかよ……」みたいな顔をしていた。

 

 「……もっとも」

 

 俺は続ける。

 

 「もし手を出した場合は、そっちもただでは済まないと思いますが」

 

 静かに告げる。すると、奈津先輩が口元を吊り上げた。

 

 「へぇ~?」

 

 その目が愉快そうに細まる。

 

 「僕たち相手に、そんな啖呵切っちゃうんだ?」

 

 空気がピリつく。だが、その直後。

 

 「はいはい、なっちゃん落ち着いて~」

 

 波留先輩が間に割って入った。

 

 「うん、その条件は大丈夫だよ。事情も特殊っぽいしねぇ。こっちの男メンバーにはちゃんと言っとく」

 

 そう言いながら、ちらりと獅騎先輩を見る。

 

 「うちは女の方が強いから、ちゃんと従ってくれると思うよ?」

 「……チッ」

 

 獅騎先輩が露骨に舌打ちした。いや、この人絶対問題児側だろ。

 

 「わかりました。では、二つ目です」

 

 俺は続ける。

 

 「俺たちは、あまり目立ちたくありません。俱楽部の活動や依頼には協力します。ですが、こちらの情報については秘密を守ってほしい」

 

 俺の言葉に、波留先輩はすぐ頷いた。

 

 「うん、それも問題ないよ。彼女たちが学園生じゃない以上、表に出しづらいのは分かるしね」

 

 そして、少しだけ真面目な顔になる。

 

 「でも――」

 

 波留先輩が、まっすぐこちらを見る。

 

 「幹隆君の実力次第では、対抗戦とかに出てもらう可能性はある。それは大丈夫?」

 

 対抗戦。学園内でも特に注目されるイベントだ。

 目立つな、間違いなく。

 だが――

 

 「はい。俺だけなら問題ありません」

 

 そう答えると、波留先輩は満足そうに笑った。

 

 「よし。じゃあ、交渉成立だね」

 

 その笑みは、まるで新しい玩具を見つけた子供みたいだった。

 そして俺は正式に『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』に加入することを決めた。

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