学園の喧騒が引き際を迎えた時刻、俺は、Aランク倶楽部『
先日、学園に俱楽部への入部届を提出したため、俺は、名実ともにこの倶楽部の一員となった。
これにより、学園内での最低限の知名度と、Aランク倶楽部メンバーだけに与えられる様々な特権を手に入れたことになる。
まあ、世界の理不尽を自身のチートで上書きしようとしている今の俺にとって、今のところ必要とはしていないが……
ちなみに、サクラやマリィ、カヌといった異世界のヒロインは学園の生徒ではないため、対外的には俺の『召喚獣』という枠組みにしてある。
「いよいよ明日だね、幹隆君。もう楽しみすぎて、夜も眠れそうにないよ……っ」
会議室へ向かう廊下、波留先輩が至極当然のような顔をして俺の片腕にその豊満な双丘を押しつけ、ぴったりと絡みついてきた。
隙あらば流れ込んでくる甘い牝の香りと、ブレザー越しでも伝わる柔らかい肉圧に鼻腔がくすぐられる。
あの合同ダイブの夜、ベッドの上で激しく貪り合ってからというもの、彼女のスキンシップの頻度と濃度はバグったように跳ね上がっていた。
そういえば、先輩たち全員、絶頂の最中にうわ言のように「旦那様」だの「主様」だのと甘い声を漏らしていた気がするが……気のせいだと信じたい。
まだ隷属は、していないはずだ、おそらく。
現在、俺たちは明日ダイブする『
重厚な扉を開けた先、広大な会議室には、俺のパーティー4人、幹部メンバーの5人、そして、後方支援を担当する
――総勢29人。
もっとも、当日のレイドには赤点を取った他の一般生徒もいるため、戦場に立つ総数はこれだけではない。
だが、この異常な難易度の異界を攻略し、核を穿つ実質的な主力は、間違いなくこの部屋にいるメンツだった。
ただし、29人全員が前線で刃を交える戦闘職というわけではない。
それにしても、改めて見渡すと壮観だ。『
総員25人(俺を含めて26人)のうち、俺を抜いて、男はたったの5人しか存在しなかった。
しかも、男でまともな戦闘職に就いているのは、あの破壊的な爆乳美女をパートナーに持つ
そして、なぜか全員が、オタク気質な気がする。
普段の学園生活を、ボッチで過ごしていることを伝えたら同志扱いされた。
逆に女子の先輩たちは、波留先輩も含めてギャルみたいに派手な人が多い。
普段、静かなのは、
つまりこの倶楽部は、学園の基本構造である「男が女を隷属させて強いる男尊女卑」とは真逆の、完全に「女尊男卑」のピラミッドで構成されている。
ちなみに、この倶楽部内での純粋な強さの序列は、一位が
――もちろん、俺という存在が混ざった時点で、実質的な最強の座は俺のものになっているのだが。
だからと言って、今さら部長の座を奪い取るつもりは毛頭ない。
理由は単純、そんな肩書を背負うのは面倒だし、何より学園の上層部に無駄に目を付けられたくないからだ。
この学園の倶楽部は、往々にして「一番強い奴が部長をやる」という脳筋ルールが、適用されることが多い。
そのため、ほとんどの倶楽部は強力なリーダー一人が引っ張るワンマンチームになりがちだった。
だが、『
実力が
クラン全体の総合値で言えば、すでにSランク相当の領域に達していると断言できた。
連休明けの数日間、毎日のようにこの倶楽部棟に顔を出し、模擬戦と称して不満分子を物理的に圧殺し続けた甲斐はあった。
部屋に満ちる視線に、かつてのような侮蔑や
あるのは、圧倒的な強者に対する純粋な畏怖と、確固たる信頼の眼差しだ。
――あと、それに加えて、ところどころでやたらと熱っぽい色目や視線を感じる。
「よし。それじゃあ、明日のレイド攻略についての作戦の再確認と、当日のダイブ方法について説明したいと思います」
俺は右腕に波留先輩の柔らかい感触を絡ませたまま、会議室の最前列にあるホワイトボードの前へと歩み出た。
一度でもその圧倒的な実力の片鱗を見せてしまえば、この世界の住人は驚くほど素直に言葉に耳を傾けてくれる。
世界のルールが力による支配であるならば、それを利用するまでだ。
「ちょっと、そこ。幹隆君の横顔に見惚れてないで、ちゃんと作戦を聞きなさいよ?」
俺の腕を抱きしめる波留先輩の力が、ギチ、と少し強くなった。
可愛い顔で仲間を鋭く牽制するその姿は、まるで大切な獲物を奪われまいとする雌豹のようだ。
(はは……、まあ、嫌われるよりは、百倍マシか)
「わからせ」のつもりで叩き伏せたはずの俱楽部メンバーの女子たちが、なぜか頬を赤らめて俺の立ち居振る舞いを熱心に凝視しているのだ。
この『女尊男卑』の倶楽部において、女たちを力でねじ伏せる男という存在が、どれほど異常で、そしてどれほど彼女たちの本能を刺激する魅力的な雄として映ったか。
その結果がこれだった。暴力で解決した代償が、まさかここまでのハーレム地位の急上昇として跳ね返ってくるとは、嬉しい誤算というか、男として少々刺激が強すぎる。
ちなみに念のために言っておくが、今のところ夜の営みで関係を持ったのは、波留先輩たちの三人だけであり、他のメンバーにはまだ手を付けていない。
……手を付けていないのだが、この熱烈な視線を浴びていると、それも時間の問題な気がしてくる。
周囲の熱視線を心地よく背中に受けながら、俺は手元のペンをホワイトボードへと走らせた。
「まず、攻略する上での大前提として、皆さんは絶対に死なないでください。今回の作戦で学園側の正規ルート――『羅城門』の第五門を通過するのは、俺一人だけになります。サクラたちと同様、俺の異空間を経由してレイドに参加する皆さんは、学園のシステムから逸脱するため、万が一の際、『死に戻り』の蘇生システムが正常に機能しない可能性があります」
その冷徹な宣告に、会議室の空気がピリリと張り詰めた。
『羅城門』の第五門『極界門』――
通常の第二~第四門と違い、レイド中で死んでしまっても記憶を保持したまま生き返ることができる。
生き返る場所は異界の中でランダムリスポーンする。
レイドを攻略するか、あらかじめ設定した時間経過によって外に戻ることが可能となる。
「う~ん。幹隆君の言うことはわかったけどさー、流石に今回のレイドで『絶対に死ぬな』って言われても、自信ないんだけど~」
会議室の最前列に座る、金髪に派手なメイクを施したギャル風の先輩が、爪をいじりながら不安げに問いかけてきた。
前線のアタッカーを務める先輩だが、攻略不可認定の『
「はい。ですから、危なくなったら即座に俺に伝えてください。そのための通信手段を今から皆さんに渡します。今から全員にパーティー申請を行いますので、頭の中で承諾のプロセスの許可を出してください」
「ねぇ幹隆君、それってどういうこと――?」
隣にいた
『パーティー編成』を使用する。おそらくこの場にいる全員に申請を問題なく飛ばせたはずだ。
「……えっ、なんか、頭の中に直接メッセージが来た……!?」
「……なにこれ、頭の中にシステム画面が浮かび上がってるんだけど!」
「うそぉ、こんなことできるの」
「あぁん……これが幹隆様のお力……脳の奥がじんわり熱い……これで幹隆様と深く繋がることができるのね……っ」
「……これはまさしく、拙者が小説で読んだチートスキルでござる! 主殿はなろう系主人公そのものでござるな!」
会議室にいた先輩たちが、次々に驚愕と軽い興奮の声をあげながら、脳内で承諾がされていく。
視界の右隅で、ログが目まぐるしく更新されていく。
(よし。無事にこの場の全員が俺の『パーティーメンバー』に組み込まれたな)
ステータス画面を確認すると、元の4人に加えて、新たに25人のメンバーがずらりと追加され、パーティー編成が完了していた。
今は作戦説明の最中だ。個々のステータスや職業の詳細確認は後回しにしよう。
「ありがとうございます。これでパーティー編成は完了です。では、次にこの大人数で瞬時に情報を伝達する方法ですが、これも俺のスキルである《念話》を使用します」
俺はシステムをさらに弄り、パーティーメンバー全員に対して《念話》スキルの使用権限を一時的に付与・共有する。
白板を叩きながら、その脳内インターフェースの使い方を一通り説明していく。
まず、話したい相手の顔や名前を頭に浮かべるだけで、その対象に向けてピンポイントで念話を飛ばすことができる。
また、複数人に送りたい場合は、その対象にまとめて通信することもできる。
個々でオン・オフ可能なので、聞かれたくない会話もオフにすることで遮断することができる。
ということを一通り説明する。
説明を終え、俺は実際に声帯を震わせるのをやめ、思考の共有だけで全俱楽部メンバーに向けて発信した。
《――皆さん、聞こえますか? 今、皆さんの脳内に直接語り掛けています。とりあえず、この部屋にいる全員を対象にしたオープンチャンネルを開放したので、皆さんも口を動かさずに思考だけで返信してみてください》
静まり返った会議室。だが、俺の脳内には爆発的な勢いで彼女たちの会話が流れ込んできた。
《え、すごい! 本当に口に出さなくても言葉が頭の中に伝わってくる……っ!》
《本当だ、これすごーい! 隠密行動中の連携が完璧になるじゃん!》
《幹隆様と脳が直結してるぅ……はぁはぁ、もう我慢できない、このまま念話で愛を囁き合って、今夜あたり夜這いしちゃおうかしら……》
《拙者、この地獄のような学園に来てから、本物のチートというものを初めて拝見したでござる! もう完全に『幹隆無双』のターンでござるな!》
相変わらず一人だけ発情しているヤバい先輩と、ブツブツと前世のオタク知識を垂れ流している痛い先輩がいるが、それらは容赦なくミュートに指定して無視する。
「はい。これでレイド参加中、皆さんがどこにいても、リアルタイムで密な連絡を取り合えるようになりました。戦闘中、万が一にも危機に陥った場合は、プライドを捨てて即座に俺に連絡してください。その瞬間、俺が皆さんを戦場から強制的に『呼び戻す』スキルがありますので、それを使って安全な異空間へと一瞬で回収します」
「呼び戻すスキル……?」
隣の波留先輩が、不思議そうに首を捻ってこちらの顔を覗き込んできた。
「そうですね。言葉で説明するより、一度目の前で見せた方が早いでしょう。――カヌ、一度会議室の外に出て、ドアを閉めて待機してくれ」
「わかりました、幹隆様」
カヌは静かに座席を立ち、流麗な動作で会議室の重厚な扉を開け、廊下へと出ていった。
パタン、と完全にドアが閉まり、彼女の気配が遮断される。
「――『
刹那、何もない会議室の中央に、淡い光の粒子が桜吹雪のように舞い踊った。
空間がぐにゃりと歪んだかと思った次の瞬間には、そこには何事もなかったかのように、端正な直立不動の姿勢のままのカヌが「復元」されていた。
廊下のドアは閉まったままだ。
「な――ッ!?」
その光景を目撃した倶楽部メンバー全員が、まるで幽霊でも見たかのように啞然とした表情で固まった。
この『
そう、つまり俺が想定しているのは、《念話》によるSOSをトリガーにした、この『復元する世界』による人員回収システムだ。
よほどのイレギュラーがない限り、これで誰も死なずにレイドを攻略できるだろう。
「驚きすぎて、忘れていたんだけど……、スキルって地上では、使えないはずじゃないの」
波留先輩が、ごくりと喉を鳴らしながら、戦慄の混ざった眼差しで俺を見つめてきた。
「まあこの際だから話しますが、地上でスキルが使えなくなるのは、魂魄を失った人だけですね。一度でも死に戻りすると使えなくなります。俺の場合は、ダンジョンで一度も死んでないので地上でも問題なくスキルを使うことができます」
波留先輩の疑問に俺が淡々と答えると、後方に座っていた幹部の一人、奈津先輩が苦い表情で言葉を付け加えた。
「それは、ボクも聞いたことがあるよ。特級科の生徒は普通に外でスキル使える人もいるって聞いたことがある」
奈津先輩が、俺の意見に付け加えていく。
「まあそうですね。言わば俺たち普通科の生徒は、学園にとって贄でしかないんでしょうね」
俺がその冷酷な真実を突きつけた瞬間、会議室の空気がドス黒く澱み、一変した。
ここにいるのは、Aランク倶楽部『大殺戮陣営』の精鋭たち。
学園内でもトップクラスの実力とプライドを持つ、荒くれ者の女たちだ。
自分たちがこれまで必死に戦い、這い上がってきた栄光の舞台が、実はただの「屠殺場」であり、自分たちがダンジョンの贄として扱われていたという事実。
それが彼女たちの胸中に、底知れない激しい怒りと、学園の上層部に対する猛烈な嫌悪感を呼び起こしていた。
普通の生徒であれば、「実力がないから仕方ない」と絶望し、受け入れるしかないのかもしれない。
だが、ここにいるメンバーは違う。
抑圧された男尊女卑の環境を跳ね除け、戦うことでしか己を証明してこなかった彼女たちだ。
その瞳に宿ったのは、従順な家畜のそれではなく、檻を食い破らんとする猛獣の凶暴な光だった。
「――面白いじゃない」
波留先輩の唇が、ゾッとするほど妖艶な、そして残虐な笑みの形へと歪んだ。
部屋を埋め尽くす女たちの熱視線が、今や純粋な色恋を超えて、学園という理不尽な巨悪を打ち砕く「新たな王」を仰ぐような、狂信的な崇拝の輝きへと変わっていくのを、俺は静かに肌で感じていた。
その後も作戦会議は、続き、終わったのは夜中だった、
――――
――補習当日。
俺は大型のダンジョンダイブ用タクティカルリュックを背負い、補習の集合場所に指定された体育館へと向かった。
もちろん、このリュックはただの「見せかけ」の偽装に過ぎず、中には大したものは入っていない。
俺の固有異空間には、昨日のうちに買いだめしておいた大量の食糧品、医療キット、そして各種消耗品が文字通り山積みにされている。
もし何かの手違いで完全に孤立したとしても、あの25人の倶楽部メンバー全員を養いながら半年は余裕で過ごせるレベルの物資量だ。
準備に抜かりはない。
テスト休み期間ということもあって、いつもの喧騒が嘘のように通学路は閑散としており、どこか不気味な静けさを漂わせていた。
重い鉄扉を押し開けて体育館に足を踏み入れると、そこにはすでに三百人程度の生徒が集められていた。
全員の顔に、言葉にできない焦燥と「死」への恐怖がべっとりと張り付いている。
入口付近で全体の監督をしていた翠先生と目が合い、俺は小さく会釈をしてから群衆の奥へと入っていった。
見回すと、やはり原作の記述通り、元『匠工房《アデプトワーカーズ》』の先輩たちの姿もあった。
まあ、今回挑むレイドが違うため助けることはできないが、そこは原作主人公がどうにかしてくれるだろう。
やがて、体育館の壇上に冷酷な表情を浮かべた教師の一人が立ち、スクリーンに今回の「補習」という名の超過酷レイドクエストを提示し始めた。
提示されたレイドクエストは三つ。
『
『テュイルリー
『
(まあ、ここまでは原作通りだな)
クエスト名が読み上げられた瞬間、周囲の先輩たちや同学年の一年生たちから、ひゅっと息を呑む音と、絶望に満ちた嗚咽が漏れ聞こえた。
これから向かうのが、生半可な地獄よりも過酷で凄惨な、文字通りの生贄なのだ。無理もない。
そこからは淡々と機械的に教師の指示が下され、生徒たちはゾロゾロと羅城門の地下へと続く巨大な階段を降りていく。
地上と異界の間で発生する『時間圧差』的に『
「幹隆じゃあねぇか。お前も補習送りになったのか?」
聞き覚えのある軽薄な声に振り返ると、そこには『
相変わらずこれといった特徴のない地味な黒髪の青年なのだが――なぜかその装備は、これから補習レイドに挑むとは思えないほど不自然に軽装だった。
それどころか、彼の両腕には、明らかに戦闘職ではない露出度の高い女子生徒が二人、蕩けたような顔でべったりと左右にくっついている。
これから最低でも一か月間、陰惨なダンジョンに監禁され、極限の生存競争を強いられるという現実を、こいつは本当に理解しているのだろうか?
「ああ、まあな。うっかり実習で赤点取っちまってさ」
「あはは、マジかよ! もしかして、どっかの女の子の尻ばっかり追いかけ回して、肝心のダンジョン攻略をサボってたからじゃねぇの~?」
浩一は、俺の肩を小突くようにして調子の良い煽り文句を口にする。
「まあ、そんな感じだ。いや、本当に参ったよ」
「シシシ、まあ俺も似たようなもんだけどよ。てか幹隆も『
「ああ、そうだ。お前もか?」
「なら俺と同じだな。好都合じゃん、もし中でピンチになったらさ、俺が助けてやるから協力しようぜ?」
「ああ。そいつは心強いな、わかったよ」
俺は適当に話を合わせ、愛想笑いを浮かべて頷いた。
そのまま俺たちは、羅城門の深部に鎮座する第五門――通称『極界門』の前に整列する。
それにしても、浩一のあの異常なまでの余裕ぶりは何なのだろうか。
ふと横目で盗み見てみると、こいつは周囲の生徒たちが恐怖でガタガタと歯を鳴らしている真っ只中で、両隣の女子生徒の腰を引き寄せ、あからさまに尻を揉みながらニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
死地へ赴く緊張感が完全に欠落しており、この絶望的な空間の中で、彼らの存在だけがひどく異質に浮き上がっていた。
(……まあいい。今は自分の目的に集中しよう)
そんな思考を巡らせているうちに、列が急速に進み、ついに俺の番が回ってきた。
漆黒の渦を巻く『極界門』の境界線を踏み越えた瞬間、世界がぐにゃりと反転し、強烈な空間の揺らぎと共に、奈落の底への転移が始まった。
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――穿界迷宮『YGGDRASILL』、特異分界『餓者髑髏城』――
――様式『付喪』、※時空圧差『壱:漆』――
――※Option Intercept 『
――※Model 『
――※Confine 『72時間/504時間』――
※※※ERROR!!!!※※※
※※※ERROR!!!!※※※
※※※ERROR!!!!※※※
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、特異分界『餓者髑髏城』――
――様式『融合』、※時空圧差『壱:∞』――
※※※Emergency!!!!※※※
――※Option Intercept 『
※※※Emergency!!!!※※※
――※Model 『
※※※Emergency!!!!※※※
――※Confine 『72時間/∞時間』――
※※※Good luck!!!!!※※※
眼下を埋め尽くすのは、墨を流し込んだような黒雲の海。
その遥か上――世界の頂に近い空域だけが、黄金色の陽光に照らされていた。
肌を刺す空気は薄く、呼吸するたび肺が軋む。
凍てつく暴風が外套を激しくはためかせる。
それでも、地上を見下ろす景色だけは異様なほど鮮明だった。
――高度五〇〇〇メートル。
旅客機すら雲海の下を飛ぶ領域。
人間が生身で存在することなど、本来あり得ない死の空。
幹隆は今、その超高高度へ単身でダイブしていた。