※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

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餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』――異界上空5000メートル。

 

 

 ――凄まじい浮遊感と、鼓膜を鋭く突き刺す爆音が視界のフラッシュバックと共に押し寄せてきた。

 俺は今、パラシュートなしの決死のスカイダイビング中である。

 転移が完了した瞬間、俺の全身を襲ったのは、内臓がせり上がるような激しい重力の喪失。

 そして剥き出しの肌を刃物で切り裂くような、猛烈な極低温の突風だった。

 

 「――っ、これは……!」

 

 思わず目を細め、風圧で潰されそうになる視界を無理やりこじ開けて周囲の景色を収める。

 眼下に広がっていたのは、どこまでも果てなくうねり、蠢く禍々しい漆黒の雲海。

 そして見上げる頭上には、およそ地上で見るものとはかけ離れた、不気味なほど赤黒く、世界を呪うようにギラギラと燃え盛る大陽が冷徹に輝いていた。

 遮るものの何もない、圧倒的な天空の世界。

 

 俺は、即座に神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)の『境界の記(ヘルメス)』を展開し、現在の位置を確認する。

 

 【現在地:極級異界『餓者髑髏城』外殻上空】

 【高度:約5,000メートル――自由落下中】

 

 驚いたことに、学園の『極界門』が弾き出した俺の初期転移地点は、安全な地上ではなく、文字通りの「上空5キロメートルからの垂直ダイブ」だったのだ。

 (クソ、なんでこんな上空に転移したんだよ。叶馬も今頃、『石榴山(ざくろざん)』の空中に転移したんだろうか……)

 

 落ちながら思考を急速に加速させる。

 俺と叶馬の共通点で、転移の座標決定に致命的なバグ、あるいはイレギュラーな干渉を与えそうな要素は一つしか思い当たらない。

 ――両者ともに、世界を内包するレベルの『異空間スキル』を所持していることだ。

 前回のダンジョンダイブにおける人数制限のクリアや、これまでのダイブ経験から「今回も特に問題ないだろう」と高を括っていたが、まさかの転移システムのエラーによって、こんなしっぺ返しを喰らうとは誤算だった。

 流石に聖遺物の恩恵や度重なるレベルアップの影響で、俺の肉体強度は常人の域を遥かに超えている。

 とはいえ、この速度で地面に叩きつけられれば、流石に無傷では済まないだろう。

 

 『境界の記《ヘルメス》』のリアルタイム予測タイマーが視界の隅で赤く点滅する。

 地面激突まで、残り時間はあと五十秒といったところだ。

 重力に引かれ、体感速度が跳ね上がっていく。

 仕方ない。早速だが使うか。

 連休明けの数日間。

 あの地獄のような特訓で覚えた新しいスキルを――

 

 「――――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――――ッ!!」

 

 己の内側に眠る『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』を呼び覚ますため、大気を震わせるほどの言霊を絶唱する。

 『召喚せし者《マホウツカイ》』として一定の領域、つまり世界の理の向こう側に至った術者は、自然と本能によってこの強大なトリガーを発現させることができるのだ。

 脳内の魔力回路が焼き切れんばかりに直結し、限界を超えて練り上げられた『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』が、俺の身体を中心に渦を巻いて爆発する。

 

 「――――『復元する世界(ダ・カーポ) 蘇りし記憶(カーテンコール)』――――ッ!!!」

 

 『fortissimoEXS』の主人公が覚醒時に、使用した奇跡の魔法をここで復元する。

 魔滾(まぎ)る魔力を純粋な『魔術(ルーン)』へと変換し、俺の魂の記憶に刻まれている「過去に目撃した他者の能力」を一時的に再現する。

 

 イメージするのは、あの『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』の倶楽部の頂点に立つ、最強の先輩の力――。

 

 「――《愉快幻想世界(ワンダーランド)》――!!」

 

 俺はそのまま、波留先輩が持つ空間を支配する規格外(イリーガル)スキルを、その場で完璧に再現してみせた。

 刹那、俺の身体を支配していた『異界の重力』が強制的に書き換わり、落下速度が瞬時にゼロへと相殺される。

 Gの負荷を無視して、俺の身体は完全に「空を飛ぶ」という自由を獲得した。

 

 空中で鳥のように自在に身体を制御できるようになり、俺は暴風を足蹴にしながら、静かに、そして確実な足取りで地上へと降下を開始する。

 

 空中からの視界が開け、異界の全貌が徐々に明らかになっていく。

 どうやらこの『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の内部は、主に広大な森林と草原が複雑に入り組んだ、陰鬱なネイチャーステージらしい。

 しかし、眼下に広がるその光景は異様だった。

 生い茂る木々は瑞々しい緑などではなく、まるで死人の血を吸い上げたかのように、どす黒く濁った紫色や焦げ茶色に変色している。

 

 そして、ひと際目立つところに『安土城』――今回の核となる巨大な城が建っていた。

 空から見ているとよりその巨大さは目に入る。

 前世で大阪城や姫路城を見たことはあるが、この城はそれに比べて十倍以上でかい気がする。

 『境界の記(ヘルメス)』で確認したところ高さは全高五百メートルにも及んでいた。

 普通の『安土城』な訳がないな。

 それはまるで、現在進行形で周囲の時空と領域を侵食しながら、今なお肥大化を続けている生物のような、底知れない不気味な錯覚を抱かせる”魔城”だった。

 

 だが、このままただ大人しく地上へと降りていくというのも、いささか能がないし味気ない。

 何より、あのクソ学園のシステムエラーのせいで上空5千メートルから生身で放り出されたのだ。

 このまま黙って着地してやるほど、俺は人間が出来ていない。

 だから俺は、今からあの『安土城』を、この高度から直接、超長距離爆撃することに決めた。

 

 思えば、ずっと昔から思っていたことだった。

 前世の子供の頃、ニチアサの特撮ヒーローたちを見ては、いつも純粋な疑問と微かな苛立ちを抱えていたのだ。

 なぜ彼らは、あんなに強力な一撃必殺の技をいつも最後の最後まで温存するのだろう。

 地球上での活動時間が極端に短いはずの光の戦士は、なぜ最初から怪獣を即死させられる光線を撃ちにいかないのだろう、と。

 

 今となっては、それが大人の事情――テレビの尺やドラマの構成、玩具の販促といったメタ的な都合によるものだと理解はできる。

 だが、当時子供だった俺の胸には、いつも言葉にできないむず痒さが残っていた。

 一撃で敵を滅ぼせる手段があるなら、開幕と同時に最初から使えよ。

 目の前に明確な敵がいるなら、文字通り全力で殺しに行けよ。

 出し惜しみをして被害を拡大させるなよ、と。

 

 だからこそ、俺は今、眼前に(そび)え立っている傲慢な魔城に向かって、最初から持てるすべての火力を叩きつける全力の先制遠距離攻撃を敢行する。

 ここで力をセーブして、わざわざ城の門を叩いてギミックを解き、ボスを順番に倒していくなんて、そんな「お約束」に付き合ってやる義理はない。

 強い能力を持っておきながら、よく分からん言い訳や美学を並べて力を出し惜しみする奴は、戦いに対しても、何より目の前の相手に対しても敬意を払っていないとさえ思える。

 

 (よし――やるか)

 

 大層な理屈を並べはしたが、本質を言えば、今からやるのはただの「八つ当たり」だ。

 理不尽な超高高度ダイブを強いてくれた、この異界と学園に対する、極めて個人的で贅沢な意趣返しに過ぎない。

 けれど、己の五感を支配するあまりの全能感に、俺の心はかつてないほど激しく高揚していた。

 高度は現在、約500メートル地点。障害物は皆無。

 射線は完全に通っている。

 距離としては十分すぎるほど十分だ。

 これなら、俺の最大火力を何一つ減衰させることなく、あの天守閣のド真ん中へと叩き込める。

 

 《マリィ、サクラ。力を貸してくれ》

 《うん……! いつでもいけるよ、幹隆》 

 《わかったなんだよ、マスター》

 

 脳内のオープンチャンネルを通じて、俺の異空間に佇む彼女たちと瞬時に精神をリンクさせる。

 二人の強力な魂の波動が、俺の魔術回路へと怒涛の勢いで流れ込んできた。

 

 「……”空間固定”」

 

 俺は、空中の何もない空白の座標に、異空間の概念を利用した黒い渦の「足場」を生成した。

 ガツン、と大気を踏みしめ、虚空の足場の上に鋭く立つ。

 そして、己の魂の深淵に融解している、あの血塗られた呪われた聖遺物を呼び覚ます。

 

 「――『形成《イェツラー》』――」

 

 俺がその禁忌の言霊を紡いだ刹那、この極級異界のドス黒い大気が激しく震えた。

 

 「「――時よ止まれ――おまえは美しい」」

 

 俺の右腕と完全に同化するようにして、虚空から引き抜かれたのは漆黒の巨大な魔刀。

 その形状は禍々しく狂おしいほどに洗練されており、周囲の光さえも吸い込むようにして冷酷にギラギラと輝いている。

 俺は腰を深く落とし、遥か眼下に鎮座する巨大な安土城の天守閣に向けて、その黒刀の切っ先をまっすぐに構えた。

 

 全身の全魔力を右腕の一点へと強硬に集約していく。

 『エイヴィヒカイト』の魔術と『召喚せし者(マホウツカイ)』の魔術(ルーン)が魂の炉床(ろしょう)で複雑に折り重なり、激しく溶け合っていく。

 漆黒だった刀身が、臨界点を超えたエネルギーによって、次第に禍々しい青黒い光を放ち始め、周囲の空間がその熱量に耐えかねてパキパキと音を立てて割れ始めた。

 今から行うのは、単なる遠距離攻撃ではない。

 一撃で拠点を消滅させる超長距離飽和戦略爆撃だ。

 出し惜しみは一切しない。

 今ある俺の魔力のすべてを、限界を無視してこの聖遺物へと注ぎ込む。

 

 もしこれで城ごとギミックもボスも消し飛ばすことができれば、この後に続く危険なレイドに、倶楽部の先輩たちやサクラたちをわざわざ巻き込んでリスクを背負わせる必要すらなくなるのだ。

 (いける……いや、これで終わらせる……!)

 

 俺は自身の聖遺物である黒刀を、いわば超高出力の「魔術兵器の砲身(カタパルト)」として代用する。

 そして、先ほど発動した『復元する世界(ダ・カーポ) 蘇りし記憶(カーテンコール)』で俺の魂の記憶に刻まれているサクラのオリジナル『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』を、完璧な出力でこの現世に再現・融和させた。

 

 「――『桜刑・断罪の流星雨《マルグリット・レーヴァテイン》』――――ッ!!!」

 

 俺が咆哮すると同時に、構えた黒刀の切っ先から、世界を塗りつぶさんばかりの圧倒的な光が解き放たれた。

 それはマリィの呪いとサクラの魔術が奇跡の融合を果たした、美しくも悍ましい、無数の「桜色の断罪の光弾(レーヴァテイン)」。

 一発一発が強力な超電磁砲(レールガン)並みの質量と破壊力を秘めた光の弾丸が、数千、数万という圧倒的な物量で天空を埋め尽くし、轟音と共に安土城に向かって一斉に射出される。

 

 空を裂き、大気を焼き焦がしながら幾条もの尾を引いて降り注ぐその光景は、まさに世界を滅ぼすために引き寄せられた、無慈悲な流星群そのものだった。

 極大の閃光が世界を真っ白に染め上げ、断罪の流星雨は、遥か向こうに聳え立つ全高五百メートルの巨大な魔城を、その基部ごと完全に飲み込んでいった。

 

 ――ドカンッ!!! ドババババババババババババッ、ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 5キロメートルの距離すら一瞬で吹き飛ばし、空間が震動するほどの衝撃波と、鼓膜を破壊せんばかりの轟音がここまで響き渡る。

 我ながら凄まじい熱量と破壊の奔流だ。

 凄絶な爆発の光が収まると、城のあったあたり一面は、巻き上がった分厚い噴煙と地獄のような爆音に包まれていた。

 もし、不運にもこの爆撃エリアの近くにスポーンしてしまった補習組の生徒たちがいたなら、本当に申し訳ない。

 巻き込まれたら塵一つ残らず即死することは免れないだろう。

 それほどの、一撃必殺を超えた「拠点殲滅」の絶技だった。

 

 が、しかし――。

 爆煙がゆっくりと晴れていく中、俺は自身の目を疑った。

 あの超巨大な魔城は――信じられないことに、文字通り「無傷」でそこに健在していたのだ。

 傷一つ、煤一つ付いていない。

 安土城は依然として、圧倒的な支配者の威容をもってそこに禍々しく佇んでいる。

 俺の最大火力の弾幕を確かにその身に受けたはずだった。

 しかし、城の輪郭をなぞるようにして、どす黒い赤紫色の光を放つ立体的な「幾何学模様の障壁」が展開されており、万の流星雨はそのバリアにすべて、完璧に阻まれていた。

 (まじかよ……。こっちはエイヴィヒカイトと魔術を融合させ、全力で放った『レーヴァテイン』だぞ? 傷一つつけられず、バリア一枚に全て無効化されたっていうのか……!)

 

 異界の攻略ルートを無視した傲慢な一撃が完全に防がれ、俺の背中に冷たい汗が伝う。

 その時だった。

 

 「――異邦人よ。戦の礼儀がなってないな。とんだ暴れ馬、いや、躾のなっていない野良犬のようだ」

 

 遥か遠く、安土城の天守閣の最上層から、不気味な光が爆発的に弾けた。

 次の瞬間――信じがたいことに、俺が展開している『空間固定』の高度と同じ天空を、重力を完全に無視して突進してくる「影」があった。

 

 それは、禍々しい漆黒の具足を纏い、眼窩にドス黒い業火を宿した髑髏の顔を持つ鎧武者。

 跨っているのは、肉がなく剥き出しの骨だけで構成された、不気味な(いなな)きをあげる巨大な骨の軍馬。

 凄まじい風圧の壁を切り裂きながら、文字通り光速にも思えるスピードでこちらへと肉薄してくる。

 その骨の手には、禍々しい怨念の輝きを放つ、己の身長をも超えるほどに巨大な大剣が握られていた。

 

 「儂は、柴田勝家(しばたかついえ)。我が殿――第六天魔王の一の忠臣であり、織田が誇る最強の矛なり。――名乗れよ、不遜なる異邦人」

 

 ごう、と空間を圧殺するような風圧と共に、骨の軍馬を止め、大剣を上段に構える髑髏武者。

 言葉の端々から漏れ出るのは、これまでに遭遇したどんな中ボスやエリアボスとも一線を画す。

 圧倒的な存在感を放つ「死」のプレッシャー。

 ……強い。全力の波留先輩ですら、まともに正面からぶつかれば片手で容易く捻り潰されるのではないかと錯覚するほどの、本物の怪物だけが持つ凄みがそこにあった。

 (まずいな……完全に早計だったか。いきなりレイド攻略の序盤で、こんなラスボスの最高幹部クラスが直々に引きずり出されてくるなんて……っ!) 

 

 だが、既に覚悟はできている。

 このレイドに転移した時から、いや、あの『神託豚(オラクル・ボア)』からお告げを聞かされたその時からな。

 もしこの理不尽な魔城を攻略することで、俺をこの世界に転移させた「何者か」の意図、そのすべての真相を引きずり出せるなら、神だろうが、怪物だろうが相手をしてやる。

 

 「幹隆。――影山幹隆だ。さっきの攻撃はまあ、ただの挨拶代わりだよ。あんな無防備にデカデカとそびえ立ってるんだから、どうぞ自由に攻撃してくださいって言ってるようなもんだろ?」

 

 強がりを交え、あえて不敵な笑みを浮かべて挑発を返す。

 すると、髑髏の眼窩(がんか)に揺らめく業火が、愉悦に歪んだように激しく爆ぜた。

 

 「ワハハハハ! 良い、実に良いぞ! 面白い奴め、異邦人――いや、幹隆。その不遜な首、この柴田権六勝家(しばたごんろくかついえ)が直接この手で葬ってやろう!」

 

 勝家が咆哮とともに、どす黒いオーラを放つ大剣を再び構え直す。

 俺もまた、右腕に宿る禍々しい漆黒の黒刀――処刑台のギロチンの刃を鋭く構え、迎撃の体勢を取った。

 魔術(ルーン)で《愉快幻想世界(ワンダーランド)》の領域を完全展開している。

 重力の理から解き放たれたこの空間のなかであれば、三次元の制約を無視して空中で縦横無尽に立ち回れるはずだ。

 上空500メートル。両者の間に、一瞬の静寂と、爆発寸前の狂気的な緊張が張り詰める。

 

 (――来るッ!!)

 

 刹那、巨大な骨の軍馬が虚空を激しく蹴り上げ、音速の壁をぶち抜く機動力で突進してきた。

 あまりの突進力に空間そのものが悲鳴を上げている。

 間髪入れず、勝家はその怪力をもって大剣を上段から俺の脳頭へと振り下ろした。

 吹きすさぶのは、触れるものすべてを消滅させる圧倒的な破壊の力の奔流。

 その絶大の風圧と強者の威圧感(プレッシャー)の前に、怯えと恐怖で指一本動かすことすらできずに消し炭にされるだろう。

 (だが、はっきりと見えているぞ。その攻撃――!)

 

 俺は寸前で重力方向を反転させ、最小限の挙動でその一撃を横へと回避。

 紙一重で大剣の軌道から外れると同時に、カウンターの死角から、勝家の首筋を狙ってギロチンの黒刃を一閃させた。

 

 ――ガキンッ!!!

 

 「なっ……!?」

 

 手応えは最悪だった。

 まるで別の概念そのものを叩いたかのように、俺の必殺の一撃は、勝家の肉体に届く手前で虚空に弾かれたのだ。

 ダメージは一切通っていない。

 斬撃を放った瞬間、彼の周囲に幾何学模様の障壁。

 ――あの城を護っていたものと同じ、絶対的な「無敵のバリア」が瞬時に展開されていた。

 

 「無駄よ。儂の攻撃は、放たれた時点で『すべて既に命中している』。そして――」

 

 勝家は、俺に首筋を晒した体勢のまま、髑髏の顎をガチガチと鳴らして冷酷に告げた。

 

 「我が大剣が『当たった』という因果の事実は、世界がひっくり返ろうとも消えることはないのだ」

 「――なにッ、ガハッ……! うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 その言葉の直後、唐突に、俺の肉体に世界の質量そのものを叩きつけられたかのような絶大の衝撃が爆発した。

 確かに避けたはずだった。大剣は俺の横の空間を通り過ぎていったはずだった。

 だというのに、俺の胴体には、まるで真正面から大剣で真っ二つに叩き斬られたかのような深々とした太刀傷が刻まれていた。

 聖遺物の力と魂の質量で肉体の強化を施している俺の肉体が、まるで紙切れのように易々と裂かれ、傷口から鮮血が派手に噴き出す。

 

 「ぐ、あ……因果の……操作……ッ!?」

 

 あまりの激痛に脳が焼き切れそうになる。

 攻撃を回避したという事実そのものを、奴の能力が「命中した」という結果に強制的に上書きしたのだ。

 全身を襲う凄まじい衝撃波と痛撃の前に、俺は空中の姿勢制御を完全に喪失。

 《愉快幻想世界(ワンダーランド)》の術式が乱れ、俺の身体はなす術もなく、血の尾を引きながら遥か眼下の紫の樹海へと一直線に叩き落とされていった――。

 

 

 ……………………。

 

 

 …………。

 

 

 

 ====

 

  

 

 「なかなかの強者だったな。殿から賜ったこの『魔人の力』による”無敵結界”がなければ、危なかったのは儂のほうだったやもしれん」

 

 柴田権六勝家(しばたごんろくかついえ)は、骨軍馬の漆黒の手綱をぐっと引き絞り、眼下に広がる紫の樹海を見下ろした。

 墜落していくあの若者の肉体からは、並の人間数百人分にも匹敵する、濃密で極上の魂が血とともに飛び散っていた。

 あの高度から、因果を歪められた必殺の一撃を受けて叩き落とされたのだ。

 いかに規格外の異邦人とて、もはや生きてはいるまい。

 

 「にしても、今回の異邦人の『贄』どものおかげで、殿の領土はさらに拡大するな。これも異界統一、そして悲願たる『地上進出』のための大きな一歩よ」

 

 今後さらに広がり続けるであろう我が主の侵食領域。

 その未来を確信し、勝家の胸中に心地よい高揚感が湧き上がる。

 これならば、殿にも最上の戦果を報告できるというもの。

 「ガハハハハ!」と、肉の削げ落ちた顎をガチガチと鳴らし、豪快な邪笑を天空に響かせながら、勝家は骨の軍馬を翻して黒天守の頂へと帰還の途についた。

 

 この『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』において、領域を拡大・維持するためには、異邦人の贄――すなわち彼らの持つ純度の高い『魂魄(こんぱく)エネルギー』が不可欠だった。

 地上が定期的に「補習」と称して送り込んでくる生徒たちは、彼らにとって家畜であり、領土を肥やすための肥料に他ならない。

 そして、先ほど刃を交えた幹隆と名乗った男。

 あの男が内包していた魂魄の質量は、過去のどれとも比べ物にならないほどに膨大で、底が知れなかった。

 あれだけの極上な魂をこの大地に吸わせれば、我が領域はさらに狂い咲き、地上という名の『真の世界』へ攻め入る日も、そう遠くはないはずだ。

 

 全高五百メートルに達する黒天守の最上層へと着地すると、そこには勝家と同じく、どす黒い怨念を身に纏った骸骨の武者たちが整然と列をなしていた。

 

 「勝家殿、お戻りですか。――信長様がお呼びです」

 

 冷徹で静謐な声が、薄暗い回廊に響く。

 そこに佇んでいたのは、勝家と同じく『織田四天王』が一角、明智光秀(あけちみつひで)であった。

 先ほど、あの男が放った万の流星雨からこの広大な魔城を完全に無傷で護りきった幾何学模様の絶対防壁。

 あれを展開した張本人こそ、この男である。

 殿から授かった『魔人の力』を己の肉体ではなく、この「安土城そのものの概念」へと付与し、城壁の耐久度を絶対無敵の領域へと引き上げる。

 まさに織田が誇る、至高の盾であった。

 

 「うむ、ご苦労。明智殿」

 

 勝家は短く応じると、明智とともに天守の最奥へと歩を進めた。

 一歩進むごとに、空気が目に見えて重くなっていく。

 空間そのものが、その部屋の主にひれ伏すように歪んでいた。

 最奥に位置する、血塗られた禍々しい襖を開く。

 そこには、既に名だたる織田の重臣たちが、息を潜めて闇の中に控えていた。

 

 「――権六(ごんろく)。前へ」

 

 闇の奥、玉座に鎮座する絶対の存在――織田信長様からの直々の御声。

 その一言だけで、勝家の魂魄の芯がビリビリと震える。

 「――はっ!」と、勝家は具足を軋ませて玉座の前へと進み出ると、これ以上ない敬意を込めて、深く片膝を突いた。

 

 「して、首尾は如何ほどか」

 「は。何の問題もなく進んでおります。先ほど、城に無礼な奇襲を仕掛けてきた異邦人の首魁を、この勝家が直々に叩き落としてまいりました。今回送り込まれてきた贄はどれも上質。我が領土はさらに拡大し、地上への進出も最早、目前にございます」

 「ほう……。そこまで良い『贄』が送られてくるのは、果たして何年ぶりのことだろうな」

 

 玉座の影から、カカカッ、と、世界そのものを嘲笑うかのような豪快で不気味な笑い声が響き渡った。

 揺らめく業火の光に照らされた信長の瞳は、地上という新たなる天下布武の舞台を見据えて爛々と輝いている。

 

 「よかろう。では皆の者――各自、領域に迷い込んだ異邦人を一人残らず捕らえ、我が領域の糧とするのだ。織田の力を、地上に知らしめる時が来た!」

 「「「「「ははっ!!」」」」」

 

 居並ぶ最高幹部たちの狂気に満ちた咆哮が、黒天守を激しく揺らした。

 柴田勝家は、再び大剣の柄に骨の手をかけながら、心の中でほくそ笑む。

 地上の地が自ら送り込んできた哀れな家畜どもを、今度は自分たちが喰らい尽くし、逆に地上を支配してやるのだ、と。

 ――だが、この時の勝家はまだ知る由もなかった。

 自分が叩き落としたあの「影山幹隆」という男が、織田の理不尽をも遥かに凌駕する、天敵であるという事実を。

 

 

 

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