※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

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 目の前にいる美女は、『ランスシリーズ』の中でも人気が高いとされている。

 その名は――――ホーネット。

 

 魔王ガイが人間の女に産ませた、魔王と人間のハーフであり、魔物界のプリンセス。

 魔王の後継者として育てられたが、適性がなかったため後継者にはなることができなかった。

 その後、魔王ガイは、異次元から連れてきた来水美樹(くるす みき)という少女を後継者に選んだ。

 しかし、その後もホーネットは父に寄り添うべく魔人筆頭の地位に就いた。

 

 俺がここで敵対を恐れている理由は、ホーネットの思想そのものである。

 ホーネットが掲げてる思想は、「魔王・魔人による調和ある世界」であり、「魔人こそが人を統治するもの」という選民思想や管理主義に近い理念で「人間は下等な存在」という考えだ。

 これは、魔王ガイの「魔王、魔人は人間の上に立つもの」という教育によるものと彼女自身の「尊敬する父は絶対」というファザコンからきたものである。

 

 彼女の服装姿を見た感じ、『鬼畜王版』ではなく『ランス10』の方のホーネットのようだ。 

 では、問題となるのは、いつの時代のホーネットが来たか、だ。

 これによって、『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の攻略難易度は、大幅に変わるだろう。

 『ランスシリーズ』は、ランス01から始まり最後のナンバリング作品がランス10となっている。また、外伝作品の位置付で「鬼畜王ランス」がある。

 

 俺は振り絞るように返答する。

 

 「まず、俺が誰かだよな。俺の名前は、影山幹隆。そして、あなたを呼んだ召喚者でもある」

 「……影山、幹隆……召喚者……ですか」

 「そして、ここがどこかという質問だが、ここは俺が作り出した異空間で今いるのは俺の自室だ」

 「……異空間……」

 

 ホーネットは周囲を一瞥する。だが、驚きよりも警戒の方が強い。

 さすがは魔人筆頭といったところか。

 

 「そうですか……では、」

 「ちょっと待ってくれ、あなたの質問は後で全部答えるから、先に俺から聞きたいことがあるんだ」

 「なんでしょうか?」

 「今の年号を聞きたい、今は何年だ?」

 

 すると、さっきまでこちらを鋭く見ていた眼が急に柔らかくなる。

 

 「……おかしなことを聞きますね。すでに魔王がいなくなり人間達は、好きなように年号を制定しているはずです。それを私に聞いても答えることができません」

 「…………………まじかよ」

 

 内心の動揺が、そのまま乾いた呟きとなって口から漏れ出た。

 ホーネットの言葉が意味するのは、その膨大な歴史の文字通り「終着点」である『ランス10』の本編終了後ということだ。

 それはつまり、数千年以上もの間、人類を恐怖と絶望のどん底に叩き落とし続けてきた「世界を統べる絶対のシステム」としての魔王が消滅し、世界が全く新しい形へと変革を遂げた後の時代を意味している。

 俺が年号を聞いた理由は、ランスの世界において、暦が、そのまま世界の支配者たる魔王の「名」そのものになるからだ。

 例えば、魔王ガイが支配していた時代の場合は、”GI○○年”みたいな感じだ。

 それが「人間たちが好きなように年号を制定している」ということは、世界を縛っていたシステムの崩壊と、絶対強者の不在を意味していた。

 

 (ふむ、『ランスの世界』では魔王がいないとなると、今の状況、辻褄は合うのか……)

 

 今から立てる仮説は、あくまでランスの世界からの延長上の話だ。

 まず、あの『柴田勝家』が無敵結界を所持していた理由は、何らかの方法であちらの世界からこちらへ魔王の因子が渡ってきたからだろう。

 その魔王の因子を異界のモンスターが利用し、後天的に魔人の力を手に入れたと推測できる。

 

 魔王の因子は、本来ならばランスの世界の神である『ルドラサウム』が作り出した神――三超神プランナーが創造神を喜ばせるために作ったとされている。

 そして、もしすでに新たな魔王がこの地で誕生しているのであれば、この世界の年号も変わっているはずだ。

 しかし、この世界の年号は普通に西暦の暦であり、日本であるこの国の年号も特に変わったものはなかった。

 

 ここで一つ、大きな矛盾が生じる。

 魔人の力をもつモンスターはいるが、魔王がいない? そんなことがあるのか、と。

 そもそも、このレイドが少しおかしい気がする。

 もし、この世界に魔王が存在しているのだとすれば、この異界に留まる理由がわからない。

 ランスの世界の魔王は、もっと理不尽で、圧倒的で、滅茶苦茶だったイメージだ。

 こんな辺鄙な異界に隠れてなどおらず、さっさと地上に『顕現(アドヴェント)』して世界を血に染めていてもおかしくないはずだ。

 それほど、魔王とは理不尽で絶大な力を持っている。

 

 (ふむ、考えれば考えるほど、謎だな……)

 

 結局のところ、その謎の核心も、あの『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の最深部――安土城に行けばわかるかもしれないな。

 

 「――影山幹隆、と言いましたね。確かに、私はあなたの言う『召喚』とやらに応じ、この地に顕現したようです。」

 

 彼女の黄金の双眸が、じっと俺を射抜くように見つめてくる。

 その瞳の奥には、選民思想や人間への明確な侮蔑といった攻撃性は見当たらない。

 ランス史の荒波を生き抜き、世界の変革をその身で受け入れた後だからこその、達観したような深い静けさと、元・魔人筆頭としての気品がそこにはあった。

 

 しかし、それでも俺の胃の辺りはキリキリと音を立てて痛む。

 無敵結界を消し去る解決策が手に入らなかった落胆と、一筋縄ではいかない大物ヒロインを前にしたプレッシャーが、じわじわと圧をかけてくるのだ。

 

 「それでは――」

 

 ホーネットが静かに言葉を紡ぎ出そうとした、その時だった。

 

 ――ドンッ!

 静寂に包まれていた自室の扉が、勢いよく蹴破らんばかりに開け放たれた。

 

 「マスター!こんなところにいたんだよ!」

 「幹隆、起きたらいなかったから探したよ」

 「こちらにいらっしゃたんですね、幹隆様」

 

 開いた扉から、ぞろぞろと俺の最愛のヒロインズ――サクラ、マリィ、カヌが部屋へと雪崩れ込んでくる。

 突然の乱入に、部屋の空気が一気ににぎやかな、いつもの色へと塗り替えられた。

 

 「うん?マスターまた新しい子を呼んだの?呼ぶときは、私も一緒の時だって言ってはずなんだよ」

 「勝手に呼んだことはすまないが、そんな約束はしたことがないぞ」

 

 いつの間にかサクラの脳内で捏造されていた謎の規約に、間髪入れずツッコんでおく。

 すると、マリィがその理知的な瞳を細め、ベッドの傍らに佇む翠髪(すいはつ)の美女へと視線を向けた。

 

 「ねぇ、幹隆。それでこの子は誰なの? ――ホーネットに似てるけど」

 

 流石はマリィさん。伊達にエロゲーをやっていない。

 一目でその容姿の正体に勘づいたようだ。

 

 「私の名前を知っているのですね。……幹隆、この方達は誰なんでしょう」

 

 驚きに僅かばかり眉をひそめるホーネットに対し、俺は小さく息を吐き、頭を掻いた。

 

 「あ、うん。丁度いいからとりあえず全部説明するわ」

 「わかりました」

 

 俺は全員を座らせ、ホーネットにこの世界の過酷な真実を一つずつ紐解いていった。

 

 そして、まず、俺はサクラ達の名前を教え、それぞれがゲームの世界からきた存在だということ。

 つまり、ホーネットと同じく、俺の固有スキル『ヒロイン召喚』によって呼び出された仲間であることを告げた。

 

 ホーネット自身も、自分自身が元いた世界において「ゲームの創作物の中のキャラクターの一人」であったという衝撃的な事実に驚きを隠せない様子だった。

 しかし、俺がさらに「俺自身も前世の記憶を持ってこの地に生まれ変わった転生者であること」を明かすと、静かに納得するように耳を傾けた。

 

 そして、俺たちがいるこの世界もまた、ある種の創作や小説の中の世界であり、俺たちは今、間違いなくここで血を流しながら生きているということ。

 この世界がどういう世界観なのかも説明した。

 ダンジョンが存在し、性倫理が終わってる学園があり、弱肉強食のモンスターや多数の異界が日常と隣り合わせにあること。 

 今は、ダンジョンの攻略中で異界の中にいるということ。

 

 そんな『セックスアンドバイオレンス』の混沌とした世界観について説明したが、ホーネットはあまり戸惑っている様子はなかった。

 まあ、元いたランスの世界も相当にバイオレンスで無法な世界だ。

 これくらいの理不尽で彼女の心が揺らぐはずもなかった。

 

 「そして、目的として、俺はこの世界に俺を転生させた神について調べている。強くなるのも生き残るための目的だが、最終的な目的は、その神の真意を探ることだ」

 

 俺の言葉に、ホーネットはふむ、と美しい顎に手を当てて思考を巡らせる。

 

 「神ですか……私のいた世界では、神と言えば『創造神ルドラサウム』でしたが、此処の世界は違うのですか?」

 「そこは正直わからない。ただ、少なくとも俺が転生するときに出会った神は、ルドラサウムではなかった」

 

 俺は隣に座る金髪の少女に視線をやる。

 

 「それに神と言えば、そこにいるマリィも神だからな。けど、今俺たちが攻略しているこの異界には、確かに『プランナー』が作ったはずの魔王の因子があると思うんだ。だから、『創造神ルドラサウム』がこの世界に関わっていないとは断言できない」

 「魔王の因子……」

 「だから、俺はこの異界にある魔王の因子がなぜ存在しているのか、その原因を調べて、このレイドを攻略したいと思っている」

 

 俺の真っ直ぐな言葉と、嘘偽りのない眼差しを受け止め、ホーネットはしばらくの間、静かに目を閉じていた。

 やがて、彼女はゆっくりと目を開けると、その黄金の双眸に、気高くも確固たる強い光を宿した。

 

 「幹隆。あなたの意思は分かりました。私も父上の意思を継ぎ、魔王が消滅したあとも魔物界の統治を行っていました。本来であれば、元魔人筆頭として現魔王に尽くすのが普通だと思うのですが……」

 

 彼女はそこで言葉を一度切り、フッと慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

 「今の私の考えとしては、あなたに協力したいと思います。私自身、なぜこの見知らぬ世界に、消滅したはずの『魔王の因子』が存在しているのか――非常に興味がありますので」

 

 元・魔人筆頭、ホーネット。

 最強の元魔人が、ここに俺の仲間として正式に加わった。

 これ以上ない最高の知略と心強い味方を得て、俺たちの『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』攻略は、新たなる局面へと動き出すのだった。

 

 

 

 ====

 

 

 

 ――――幹隆がホーネットを呼び出した同時刻。

 

 

 頭上を覆い尽くしているのは、生き物のように禍々しく蠢く漆黒の雲海。

 かつて青空が広がっていたはずの空間は、今や異界の瘴気に塗りつぶされ、地上の草原は、踏みつけるたびに嫌な音を立てる毒々しい魔草に変貌していた。

 

 ここは『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の内部に点在する、数少ないセーフティエリア。

 モンスターの侵入を阻む結界に守られたその拠点で、薄汚れた即席の巨大なドーム状のテントの中で、二人の上級生男子が気の抜けた声を掛け合っていた。

 

 「なぁ、さっき安土城の方の空に放たれていた、あのイカれた爆撃見たかよ? マジでやばかったな」

 「ああ。俺も何度かレイドに潜っているが、あんな次元の違う光弾は初めて見たぜ」

 

 男たちは、持ち込んだ携帯食料を齧りながら、他人事のようにそんな話を切り出していた。

 当然、彼らのような底辺の補習組が、この同じレイド内に幹隆や、学園でも一握りのエリートたちが集うAランクのトップ倶楽部『大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)』がエントリーしていることなど、知る由もなかった。

 

 「なぁ、今回のレイドって上級(ハイランク)だけどさ、候補にあった補習クエストの中でも比較的マシな部類のはずだよな? 基本、出てくるモンスターは鈍重なスケルトンばっかだし、あの安土城に近づきさえしなければ死にやしねえだろ」

 「ああ、俺もそう聞いてる。スケルトンは数だけは無駄に多いが、このセーフティゾーンの中までは入ってこねえ仕組みだからな。適当にノルマの時間を潰しながら、女でも捕まえていつも通り過ごしてりゃいいんだよ」

 

 そう言って下卑た笑いを浮かべる二人の足元には、すっかり怯えきった様子の一年生の女子生徒二人が、膝を突き、必死の形相で男たちの欲望を満たすために奉仕させられていた。

 生き残るため、あるいはこの地獄のような異界で男の庇護を得るために、彼女たちは自身の尊厳を対価として差し出すしかなかったのだ。

 

 女子生徒にとって異界の生活はより過酷だ。

 こうして、男子生徒に捕まるだけならまだマシな方である。

 もし、誰にも見つからなかった場合、この過酷なレイドでただモンスターに殺され続けるだけの贄になってしまう方がよっぽど辛いだろう。

 通常のダンジョンダイブと違い、レイドダイブは一度死んでもまた別の場所にスポーンし、その際、記憶は保持したままである。

 そう、死の恐怖と激痛の記憶がずっと頭にこびりついたまま、また一人でこの暗黒のダンジョンを彷徨うことになるのだ。

 精神を破壊するような無限の輪廻から逃れるため、このようなセーフティエリアに自力で辿り着く力のない女子生徒にとって、男の隷属下に下ることは生存のための歪んだ最適解だった。

 

 「それにしても、さっきの爆撃は結局何だったんだろうな」

 「あー、それなら俺、少し耳寄りな情報を知ってるぜ。たまたま爆発の瞬間に上空を見ていた奴から聞いたんだけどよ……なんか、エリアの最奥にいるボス級のモンスター同士が、縄張り争いか何かで殴り合って起こった爆撃らしいぜ」

 

 男に髪を掴まれながらも、一年生の女子生徒は涙目で必死に口を動かし、心地のいい刺激を男たちに与え続けていた。

 

 「へぇ、モンスター同士の潰し合いか。そんなのもあるんだな、レイドって。知らなかったぜ。……で、それを見たっていう奴は今どこにいるんだよ」

 「ああ? なんか、あそこのキャンプの端っこで、毛布にくるまってガタガタ震えてる奴がいるだろ? あいつだよ。俺が気になって『なんでそんなに震えてんだよ』って聞きに行ったら、今の答えが返ってきたんだ」

 

 男は顎で、キャンプの影を指し示した。

 そこには、武器を手放し、精神を病んだように虚空を見つめて震え続けている生徒の姿があった。

 

 「おいおい、モンスターの喧嘩を見ただけで、そんな震えが止まらなくなるほどヤバいタマだったんかよ。笑えるな、ビビりすぎだろ」

 「それな。俺も最初に聞いたとき、あまりのヘタレっぷりに腹抱えて笑ったわ。ただの化け物の内ゲバだっつーの。……あー、クソ、そろそろいきそうだわ。おい、しっかり奥まで咥えろよ」

 「俺も限界だ。お前も、こぼさずちゃんと飲み込めよ?」

 

 強い力で頭を押し付けられ、一年生の女子生徒たちは喉の奥を突かれる苦しさに涙目を浮かべ、えづきそうになりながらも、男たちの不興を買わぬよう必死に締め付けていく。

 

 ここにいるのは、学園の容赦ない選別から漏れた補習組の生徒たち。

 そして、その大半はすでにまともな攻略を諦め、過酷な現実から目を背けて刹那的な快楽に耽る「エンジョイ組」へと成り下がっていた敗者。

 命がけの戦いから逃避した結果が、この安全地帯での歪な光景だった。

 

 「――ッ、あぁ!」

 「出る、奥に出すぞ――!」

 

 荒い呼吸とともに、白濁した濃厚な液体が勢いよく吐き出され、女子生徒たちの顔や喉の奥をドロリと白く染めていく。

 

 「ふむ、信長様の命令で異界の人間を捕まえに来たが、些か期待外れだ。勝家殿は上質な魂魄が揃っていると言っていたのだが…………」

 

 ぬっとテントの影から現れたのは、悍ましい『猿』の異形だった。

 顔面は毛深い猿そのものだが、その体躯は不自然なほど巨大で、ドス黒い、呪詛のような不気味なオーラを放つ重厚な甲冑を纏っている。

 一目で、その辺を徘徊している量産型の骨とは格が違う、固有のネームドモンスターであることが理解できた。

 そしてその毛むくじゃらの手には、陽光を一切反射しない、禍々しく黒く長い太刀が握られている。

 

 「あ、なんで……なんで、ここにモンスターがいるんだよ!?」

 「まじかよ!? おい、これやべぇぞ!!」

 

 男たちが慌てて腰を浮かせ、周囲を見渡した瞬間、セーフティエリアの至る所から、鼓膜を破らんばかりの絶叫と悲鳴が巻き起こっていることに気がついた。

 安全なはずのキャンプは、いつの間にか無数の髑髏の軍勢によって完全に包囲され、蹂躙されていた。

 逃げ惑う生徒たちは、あるものは錆びた大刀で手や足を無慈悲に切断され、あるものは強靭な骨の腕力によって、曲がってはいけない方向へと四肢をへし折られて転がっている。

 しかし奇妙なことに、骨どもは致命傷を避け、生徒たちを確実に「生け捕り」にしていた。

 

 「おい、そこの異界の愚民どもよ。他の拠点の場所を吐け。ここは既に我が主、信長様の領域であるぞ」

 

 猿の異形の全身から、物理的な圧力を伴った、吐き気を催すほどの濃密な瘴気が噴き出す。

 圧倒的な強者のオーラを放ちながら冷酷に尋問する異形だったが、肝心の男どもはあまりの恐怖に言葉を失い、全身から滝のような脂汗を噴き出してガタガタと歯の根を鳴らすことしかできなかった。

 

 「……あぁ、あぁぁぁぁ……!」

 「むりだ、もうおしまいだ……なんで、なんでここはセーフティーエリアなはずなのにっ……!」

 

 一人の男は腰が抜けてその場に激しく失禁し、もう一人の男は狂ったように絶叫すると、足元の一年生女子を蹴り飛ばしてなりふり構わず走り出した。

 膝を突いたままの女子生徒たちも、何が起きているのか理解できず、ただ目前に迫った絶対的な『死』の恐怖に縛られて指一本動かせない。

 すでに彼女たちも失禁しており、自らの汗と涙、そして男たちの白濁液で全身をぐしょぐしょに汚しながら、ただガタガタと震えていた。

 

 「うるさいぞ。ゴミ虫が」

 

 ガキィ、と重々しい鎧の音が鳴る。

 次の瞬間、その場にへたり込んで失禁し、ただ泣き叫んでいた男の首が、一閃のもとに宙を舞った。

 あまりの神速の抜刀に、男は自分が死んだことすら気づいていないかのように、首のない断頭口から鮮血の噴水を激しく撒き散らして泥の中に倒れ伏す。

 

 「――む、しもうたわい。情報を聞き出す前に、手が滑って殺してしまった。まあ、よいか。他にも代わりはいくらでも転がっておるからのう」

 

 猿の異形は、太刀に付着した血を煩わしそうに振り払い、不気味に目を細めて残された女子生徒たちを見下ろした。

 セーフティエリアという安息の地は、一瞬にして、逃げ場のない血生臭い屠殺場へと変貌を遂げていた。

 

 「異国の娘よ、恐怖とともに我が名を刻め。儂は織田信長様の家臣にして、お前たちの支配者。名は――『豊臣秀吉(とよとみひでよし)』じゃ。脳裏に刻め、小娘ども」

 

 暗黒の覇王の牙が、ダンジョンの既存のルールは適応されず、安全地帯すらも飲み込み、牙を剥き始めていた。

 

 

 

 ====

 

 

 

 ――――秀吉がセーフティエリアの拠点を襲撃したのと、まさに同時刻。

 

 

 静まり返った紫の樹海が、どこまでも不気味に広がっていた。

 空を覆い隠すほどに生い茂った巨木の枝葉は不自然な濃紫色に染まり、僅かに差し込む木漏れ日さえも妖しく色づいている。

 風は一切なく、葉擦れの音ひとつ聞こえない。

 まるで世界そのものが息を潜め、これから起こる惨劇を待っているかのような、狂気的な沈黙が森全体を支配していた。

 

 生気のない、死に絶えた森の奥深くを、二人の圧倒的な気配を纏った魔人が平然と歩を進めていた。

 後ろには無数のスケルトン兵が武器を片手に進軍していた。

 

 「勝家殿が叩き伏せたという、あの異界の武人はこのあたりですか?」

 

 声音こそ穏やかだが、酷薄な笑みを絶やさない糸目の男がそう問いかける。

 一見すれば風流な人間の武士のようにも見えるが、その衣服からは通常の倍――計四本の異形の腕が生え出ていた。

 そして、それぞれの無骨な掌には、魔力に満ちた禍々しい火縄銃が流れるような動作で握られている。

 

 「うむ、儂がこの眼でしかと確認したときは、確かにここら辺の藪に墜ちたと思うたんじゃが……。おっと、そういえば儂、今は髑髏の身ゆえ眼などなかったんじゃったな! はっはっは!」

 

 豪快に骨の顎を鳴らして笑うのは、かつて影山幹隆の前に立ち塞がり、その圧倒的な暴力で彼を蹂躙した『柴田勝家(しばたかついえ)』である。

 肉体を失い、禍々しい漆黒の具足を纏ったその姿。

 眼窩の奥には、すべてを焼き尽くさんとドス黒い業火がゆらゆらと不気味に宿っていた。

 

 「はっはっは、ではありませんよ。信長様からは『異界の者はできる限り生け捕りにせよ』と直々に厳命されていたというのに、なぜ仕留めた確証も得ぬまま、のうのうと一人で帰ってきてしまうのですか」

 「すまん、すまん。忘れておったわ。案ずるな丹羽(にわ)殿、あの手応えじゃ。この辺りを探せば、今頃は見窄らしい死体が無様に転がっておるはずじゃて」

 「……はぁ。それじゃあ死体を、さっさと回収して本陣に戻りますよ」

 「わかっておるわい、丹羽(にわ)殿。そう急かすな」

 

 軽口を叩き合いながら探索を続けていた二人だったが、やがて森の空気が一変した。

 経験豊富な武人としての直感が、周囲の空間に漂う奇妙な違和感を捉える。

 

 「なあ、丹羽殿……あれは何じゃ? あそこの巨木の影、不自然に色が濃くなっているようじゃが」

 「おや、確かに……光を吸い込むような不気味な歪みですね。調べてみましょう」

 

 二人の魔人が、その蠢く黒い渦へと歩み寄る。

 間近で観察してみると、それはただの影ではなく、空間そのものが捻じ曲がり、どこか別の空間へと繋がっている(ゲート)のような力の奔流を放っていた。

 そして、その渦の手前にある茂みには、引きずられたような生々しい血痕がべっとりと付着していた。

 

 「ふむ、どうやらここが当たりっぽいのう。丹羽(にわ)殿。あの小僧、奇怪な術を使っとった。おおかた、この穴の中に逃げ込んで傷を癒しておるに違いないわ」

 「ええ、私も同意見です。抜け目のない蛇のようですが、詰めが甘い。……すでに我が手下のスケルトン共には、本陣へ『獲物を追い詰めた』と連絡を入れるよう命じました。ですから、このまま躊躇なく中に突入しても問題ありませんよ」

 「ガハハ! 流石は丹羽殿、相変わらず仕事が早い。そして、この猪武者(いのししむしゃ)な儂の性質を本当によく理解しておる!」

 「まあ、このような魔人の姿に成り果ててからも、貴方とは長い付き合いですからね。大体の愚行は予測がつきますよ」

 「はっはっは! 言うてくれるわ。では、異界のネズミ狩りを始めるとしようか!」

 

 幹隆たちが安息の地として身を隠した異空間。

 そのすぐ眼前まで、抗いようのない二つの大いなる脅威が肉薄していた。

 

 一人は、一撃で幹隆の身体を叩き切った、容赦なき剛腕の髑髏魔人――織田四天王の『柴田勝家(しばたかついえ)』。

 そしてもう一人は、四本の腕に不気味な魔銃を構える、戦力未知数の冷徹なる智将――同じく織田四天王の『丹羽長秀(にわながひで)』。

 

 異空間の絶対的な安全性は崩れ去り、絶望の足音がすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

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