※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

39 / 48
38

 

 ――――異空間で二体の魔人を倒した数時間後。

 

 俺は異界『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の深部に広がる、薄暗い密林の中に立っていた。

 なぜ、安全な異空間内ではなく危険な異界の最前線にいるのか。

 

 理由は一つ。

 

 ――遂に、この異界の核心部である『安土城』の完全攻略作戦が、本格的に幕を開けたからだ。

 

 相変わらず、淀んだ空を見上げると重苦しい黒雲が一面を禍々しく覆い尽くしており、雲の隙間からは狂ったように明滅する太陽が、血のような光を地上へ投げかけている。

 周囲を囲む密林の樹木は、まるで呪われた生き物のように不気味な軋み音を立てて蠢いていた。

 

 作戦開始に先立ち、この異界の広域探索から帰還したカヌの報告は、極めて深刻なものだった。

 補習組の生徒たちのセーフティーエリアとして、機能させていたキャンプ場は、何かしらの強力なモンスターによって跡形もなく完全に破壊し尽くされていたという。

 そこには、補習組の生徒は存在しておらず、ただ「全員が強引に何者かによって連れ去られた」という、引きずられたような生々しい痕跡だけが残されていた。

 おそらく、この領域の『織田信長』が、生贄かあるいは別の目的のために、『安土城』の奥へと連行したのだろう。

 

 原作の仕様やダンジョン『極界門』のルールに従えば、補習期間である三日間が経過すれば、生徒たちの端末は強制的に強制ログアウトになるため、連れ去られたとしてもシステム上は問題ないはずだ。……多分。

 だが、それはあくまで“システムが正常に機能していれば”の話だ。

 万が一、ダンジョンの深層やこうした未知の異界において、不測のバグによって帰還できずに取り残されるようなことがあったとしても、それは全て「自己責任」の四文字で片付けられる。

 学園側は一切の関知をしない。

 

 所詮、この豊葦原学園に集められた普通組の生徒は、いついなくなっても誰も困らない「使い捨ての若者たち」なのだ。

 学園の上層部からすれば、数人が行方不明になったところで、大した問題ではないのだろう。

 そして、ダンジョンの闇に呑まれ、様々な要因で地上に帰還できなくなった者たちは、学園の登録簿から静かに名前を消され、生存の可能性を無視した『失踪者(ロストマン)』と呼ばれる。

 事実上の「死亡扱い」として処理されるのが、この世界の冷酷な現実だった。

 

 だが、俺のスタンスは明確だ。

 俺は常に、自分を信じてついてきてくれる「倶楽部メンバーの安全第一」を掲げている。

 もし、俺の大切な仲間たちが『失踪者(ロストマン)』になりかけるような絶望的な危機に陥ったなら、全力でその手を掴み、助け出すつもりだ。

 

 「よし、幹隆君。ボクの方はいつでも動けるよ。準備完了だ」

 

 完全武装を整え、引き締まった腰元に一対の『双短剣(ダガー)』をクロスさせるように差した奈津(なつ)先輩が、不敵な笑みを浮かべてこちらに合図を送ってきた。

 奈津先輩は、既に規格外職(イリーガルクラス)星宴神楽(アストラル・カーニバル)』の固有スキルである《天上歓喜劇場(ユートピア・カーニバル)》を発動させていた。

 その効果範囲内にいる者は、「気配遮断」と「認識阻害」の恩恵を受ける。

 この規格外の隠蔽能力があれば、道中に配置されている鬱陶しい雑兵の群れに気づかれることなく、安全かつ最速で安土城の内部へと潜入できるはずだ。

 

 「……わ、私の方も準備完了……しましたぁ……。」

 

 黒髪をポニテールで縛り、守ってあげたくなるようなロリ爆乳美少女の紬結(つゆ)先輩がオドオドした様子で答える。

 彼女の方もすでに、文官系(オフィサー)職業(クラス)神域観測官(ディバイン・アナリスト)』のスキルで召喚された自身の契約獣『白雷銀狼(はくらいぎんろう)』の太い背の上にちょこんと乗っていた。

 体長3メートルを優に超えるその巨大な銀狼は、こうして間近で見ると凄まじい威圧感だ。

 紬結先輩いわく、名前は「らい君」とのことだ。

 この巨躯でありながら、背に人を乗せた状態でも「時速300キロ」以上で走れる機動力があるらしい。

 速さは新幹線並みだ。

 今回の作戦における彼女の役割は、『神域観測官(ディバイン・アナリスト)』での安土城までの最も安全で効率的な「最適ルートのナビゲート」だ。

 

 「幹隆様、いつでもいけます」

 

 俺の隣に並んで立つのは、ムー帝国最強の奴隷戦士カヌだ。

 彼女には、安土城までの道中における近接護衛、および奈津先輩のスキルを抜けてくるような敵の排除をしてもらう予定だ。

 純粋な瞬発力や素の反射速度のパラメーターだけで言えば、俱楽部メンバーの中でも間違いなくトップを独走している。

 

 「よし、それじゃあ行きましょうか……敵の本陣、安土城に向けて」

 「うん、いこう……幹隆」

 

 最後に俺とマリィのコンビだ。

 すでに聖遺物と融合をしており脳内でマリィが力強く声が響き渡った。

 

 今回、安土城へ突入するために編成したこのメンバーは、純粋な「隠蔽性と超機動力」だけを集めて尖らせた、超高速電撃戦用の特化パーティだ。

 

 この作戦を異空間で説明した際、サクラ辺りが「なんで私がお留守番なんだよ! 私も一緒に行くんだよ!」と頬を膨らませて大いに駄々をこねていたが、今回は隠密とスピードが最優先の隠密作戦であると、時間をかけてなんとか説得し、異空間内に残ってもらった経緯がある。

 

 基本方針はシンプルだ。

 道中の敵の目は、すべて奈津先輩の認識阻害スキルで無視して突き進む。

 万が一、その隠蔽を察知してくるようなモンスターと接敵した場合は、俺とカヌで対処する感じだ。

 紬結(つゆ)先輩には、道案内、ナビゲートをしてもらい最短距離で向かう。

 

 俺の神奥百科全書(ナラヤナ・シリーズ)の《境界の記(ヘルメス)》による空間演算と、紬結先輩のナビゲートを同期させることによって、モンスターとのエンカウント率もかなり下がるだろう。

 

 「みんな、全速力で安土城を目指すぞ。遅れるなよ!」

 

 俺の鋭い号令が密林の淀んだ空気を一撃で切り裂いた。

 直後、紬結先輩が()る『白雷銀狼(らい君)』の、大気を震わせる咆哮と同時に放たれた狂暴な衝撃波。

 それに追随するように、俺たち三人は、爆発的な推進力をもって一瞬にして加速の彼方へと消え去った。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 今俺たちは、およそ時速300キロのペースで森を駆け抜けていた。

 視界の左右を狂ったように後ろへと流れ去る、歪な巨木たちの影。

 道中、大量のスケルトン兵が、カタカタと骨の鳴る音を立てて行く手を阻もうと這い出てきたが、そんな有象無象の雑兵どもは一切構わず無視だ。

 

 奈津先輩の《天上歓喜劇場(ユートピア・カーニバル)》による完璧な認識阻害に狂わされた骨どもは、俺たちが真横を通り過ぎた風圧だけで、哀れにバラバラに砕け散り、虚空へと吹き飛んでいく。

 

 「――ねぇ、幹隆君。走りながらで悪いんだけどさ、やっぱり今回のレイドって、どう考えてもおかしいよね。普通、セーフティーエリアまでモンスターが直接襲撃してくるなんて、あり得ないはずなんだよね」

 

 俺のすぐ左隣、並走していた奈津先輩が、鋭い視線を前方に向けたまま話しかけてきた。

 

 確かに、この『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の現状は、通常の異界と比べて、完全に狂っている。

 原作の知識に照らし合わせても、現時点の主人公である叶馬たちのパーティが総力を挙げて挑んだところで、この理不尽な物量とギミックの前には、攻略など到底不可能だと思う。

 

 「ええ、確かにおかしいですね。事前に調べていた通り、このレイドの難易度は、本来の『上級(ハイランク)』から『極級(アルティメットランク)』にまで引き上げられていると見て間違いありません」

 

 「やっぱり、ボクの勘も外れてなかったか……。でもね、Aランク倶楽部の共同任務で、他の『極級(アルティメットランク)』レイドには何度か挑んだことがあるけど、ここまでの理不尽さは感じなかった」

 

 「他の『極級(アルティメットランク)』レイドは、このレベルではないんですか?」

 

 「うん。もちろん、他のレイドだってボスの火力は桁違いだし、一歩間違えれば即死するようなギミックばかりだよ? でもね、それはあくまで“ダンジョンのルール”に則った範囲での話なんだ。今回みたいに、安全なはずのセーフティーエリアを直接襲撃してきたり、『無敵結界』みたいな、ダンジョンのルールを無視した別概念のバリアを持っているモンスターなんて、ボクは一度だって見たことがないよ」

 

 奈津先輩の言葉に、俺は内面で深く舌を巻いた。

 やはり、Aランク倶楽部幹部から見ても、現在のこの異界の難易度は「ダンジョンのシステムエラー」を疑うレベルで異常なのだ。

 俺が関わったことで、世界の因果が歪み、『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の内部難易度が、引きあがってる可能性すらある。

 それこそ、俺のために用意された”神の試練”みたいな感じだ。

 

 「――お話のところ、すみません。もうすぐこの不気味な森を抜けます……。その先、視界が開けて草原エリアへと到達します」

 

 先ほどまでのオドオドとした気配はどこへやら、前方を鋭く見据えた紬結(つゆ)先輩が、正確なナビゲーション報告を叩き込んできた。

 

 現在、俺たちは凄まじいGを全身に受けながら、時速300キロ以上の猛烈なペースで森の獣道を駆け抜けている。

 巨大な『らい君』の背にガッシリと跨っている紬結先輩や、ムー帝国最強奴隷のカヌに関しては何の心配もしていなかった。

 奈津先輩がこの移動速度についてこれるか、内心では少しだけ心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 当の本人は、額に汗一つすら浮かべることなく、まるで涼しい顔で、美しいランニングフォームのまま俺の速度に完全同調して並走している。

 後から聞いた話だが、彼女は、倶楽部の幹部メンバーの中でも、純粋な「持久力」と「速度」に関しては圧倒的に一番の自信があるらしい。

 

 (……異空間で、俺とベッドの上でめちゃくちゃにセックスしてた時は、あんなに激しく呼吸を荒くして乱れまくっていたのに、実戦の持久力は別物なんだな。女性の身体ってのは、本当に奥が深いというか、底が知れないな……)

 

 などと、緊迫した戦場において、ほんの少しだけ脳内で不埒な現実逃避をかます余裕が、今の俺にはあった。

 

 ――そして、次の瞬間。

 

 鬱蒼としていた黒い木々が両側へと激しく吹き飛び、一気に視界が弾けるように開けた。

 

 「「「「っ……!」」」」

 

 思わず、全員の呼吸が同時に止まった。

 

 視界の先、草原の小高い山の頂に、禍々しくも圧倒的な絶望感を放ちながら聳え立つ、巨大な『魔城』がそこに鎮座していた。

 

 全高五百メートルを優に超える、神話級の巨城。――――安土城。

 光を一切反射しない漆黒の城壁は、天を衝くようにして幾重にも積み上がり、城の至る所から突き出た無数の尖塔は、まるで空を噛み殺そうとする巨大な獣の牙のように、鋭く空に向かって伸びている。

 ただその正面に立つだけで、人間という存在の矮小さが豆粒ほどに思えてくる、圧倒的なまでの威容と質量。

 まるで城そのものが意思を持ち、近づくすべての侵入者を冷酷に見下ろし、威嚇しているかのようだった。

 

 ――まさに、RPGの終盤に登場する、世界を滅ぼす『魔王城』そのものの光景がそこにあった。

 

 「これは……確かに、噂以上の凄まじさだね……」

 

 隣を並走する奈津先輩の綺麗な瞳が、驚愕に僅かに見開かれる。

 だが、俺たちの足は止まらない。

 その圧倒的な光景を網膜に焼き付けながらも、一歩たりとも速度を緩めることなく、一直線にその城へと肉薄していく。

 

 安土城は、小高い山の地形を丸ごと利用して鎮座しており、その山の高低差も合わさって、地上から見上げる姿はより一層高く、巨大に感じられる。 

 だが、山を登り詰める道中、驚くべきことに城門への侵入自体は容易かった。

 

 前世の歴史上の知識でも、織田信長が築いた安土城は、純粋な軍事拠点としての防衛機能よりも、己の絶対的な権力を誇示するための「政治的機能」や「美観」を最優先して作られたと言われている。

 そのため、城内へと続く大手道の幅自体は非常に広く、見通しが良い。

 この超機動力パーティにとっては、むしろ駆け抜けやすい最高のロードだった。

 

 しかし、城の本体へと近づくにつれ、周囲に配置されているスケルトン兵の『数』も『質』も『魔力密度』も、先ほどの森の中で遭遇したものとは比べ物にならないほどに跳ね上がっていく。

 

 視界の先、城の巨大な正門を埋め尽くすようにして、数万を超える規模の、漆黒の鎧に身を包んだスケルトン重装歩兵の軍勢が、完璧な防衛の軍陣を組んで待ち構えていた。

 

 「幹隆様、もうすぐ正面に到達します! 門のすぐそこまでやってきました!」

 「よし、速度を落とすな、このまま一気に突入するぞ! カヌ、門の前に展開している門番の群れを蹴り散らせ!」

 「――承知しました、幹隆様。我が王の命のままに」

 

 すぐ傍らを並走していたカヌの瞳が、冷徹な戦士のそれへと切り替わる。

 彼女は瞬時に肉体のギアをさらに一段階引き上げ、俺たちの遥か前方へと爆発的なステップで躍り出た。

 その細くしなやかな脚に闘気が、物理的な暴風となって渦巻く。

 

 ――――ドカァァァァァン!!!!

 

 次の瞬間、鼓膜を完全に破壊せんばかりの、凄まじい質量兵器の激突音が響き渡った。

 城を防衛していた数百のスケルトン重装兵の肉体ごと、安土城の正面に黒々と構えていた、鉄製っぽい大門が、カヌのたった一振りの『蹴り』の一撃によって、内側へと盛大に爆ぜるようにして吹き飛んだのだ。

 数トンの重量はあるであろう強固な城門が、まるで紙切れのようにひしゃげて回転しながら、城の内部へと派手に転がっていく。

 

 (……いや、自分で頼んでおいて何だけど、あいつの蹴りの威力、マジでヤバすぎるだろ。……どうなってんだよ)

 

 俺は内心で、その圧倒的な破壊力に若干戦慄を覚えていた。

 

 「……ちょっと、幹隆君の召喚獣、さすがに凄すぎない……?あんな巨大な門蹴り飛ばしちゃってるよ」

 

 奈津(なつ)先輩が、引きつった笑みを浮かべながら、少し引き気味の視線でその光景を見つめていた。

 その隣で、紬結(つゆ)先輩も「ひぇぇ……」と小さく悲鳴を上げて震えている。

 

 「そうですね……まあ、俺の自慢の召喚獣(ヒロイン)ですから」

 

 俺は自慢げにそう答えて、開かれた魔城の闇へと真っ直ぐに飛び込んだ。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 巨大な門を潜り抜けたその先には、外観からは想像もつかないほどに圧倒的な、そして異様で広大な城内空間が広がっていた。

 

 外観こそおぞましい瘴気を纏った魔城そのものだったが、一歩内部へと足を踏み入れれば、そこは意外にも息を呑むほど整然とした構造を保っている。

 人間の軍隊が十列で同時に行軍できるほどに幅広い、磨き抜かれた石畳の大路が真っ直ぐ奥へと伸び、その両脇には軍事要塞としての機能美を誇示するように、巨大な兵舎や武具倉庫、かつては練兵に使われていたであろう広大な訓練場と思われる黒造りの建造物が整然と並んでいた。

 

 視線をさらに上方へと向ければ、天を仰ぐような幾重もの漆黒の石垣が、緻密な計算のもとに階段状に積み上がっており、その最上部には、文字通り天を衝く巨大な天守閣が絶対的な支配者として鎮座している。

 

 まさに歴史に名高い、織田信長の築いた『安土城』の縄張りをそのままダンジョンの歪んだ美学で再現したかのような構造だ。

 

 ただし、決定的に現実の建造物と違うのは、積み上げられた巨大な石材がどれもドス黒い黒紫色に変色し、そのひび割れた隙間から、ドクン、ドクンと脈動する不気味な魔力の燐光が、まるで血のように漏れ出していることだった。

 この城そのものが、巨大な生命体として生きているかのような、生理的な嫌悪感が空間を満たしている。

 

 城内の奥深くからは、大気を震わせる不気味な呻き声や、何かが蠢く重苦しい物音が遠鳴りのように聞こえてくる。

 しかし奇妙なことに、門の前にあれだけ隙間なくひしめき合っていたスケルトンたちの姿は、この大路には一体も見当たらなかった。

 にもかかわらず――城内の空間そのものに無数の「目」が埋め込まれているかのような、粘着質で悍ましい視線が、絶え間なく俺たちの肌へとねっとりとまとわりついてくる。

 この圧倒的な違和感と精神的プレッシャーは、並の学生ならそれだけで発狂しかねないものだ。

 

 俺たちは周囲を警戒しつつ、大路の脇に佇む、一際頑強に作られた食糧か武器の備蓄倉庫と思わしき重厚な蔵の扉を、音を立てずに開いて中へと滑り込んだ。

 武器の山や緊急用の食糧でも残されていないかと少しだけ期待したのだが、棚はどれも不自然なほどに空っぽだった。

 どうやらこの異界が見せかけとして配置した、空虚な空間に過ぎないらしい。

 

 「奈津先輩。とりあえず、ここを前線攻略の『仮の拠点』として設定しても、問題なさそうですかね?」

 「うん、ボクもここをベースにするのがベストだと思うよ。周囲にトラップや隠れた伏兵の気配はなかったしね。ここなら防衛もしやすそうだ」

 

 並走の疲れを微塵も見せない奈津先輩から、確かな同意の言葉を得る。

 

 「それじゃあ、紬結(つゆ)ちゃん。さっそく、ここに座標の設定をお願いね。それと、もしもの時のために、防衛用の召喚獣よろしくね」

 「は、はいっ……! わかりました、奈津ちゃん!」

 

 紬結先輩が『神域観測官(ディバイン・アナリスト)』としての本領を発揮し、自身の端末を操作して蔵の空間構造へ特殊な魔力の楔を打ち込んでいく。

 彼女の職業スキルによって、この倉庫に一時的な観測のセーブポイントが施される。

 こうして座標をあらかじめ固定して共有化しておくことで、予め登録しておいた俱楽部メンバーは、この巨大な魔城の内部で迷子にならず攻略に専念できるということだ。

 

 そして座標設定を終えた紬結(つゆ)先輩は、自身のカードホルダーから、淡く五色の光を放つ一枚のモンスターカードをそっと取り出した。

 蔵の外へと一歩出た彼女が、胸元でそのカードを構える。

 

 「――来て、ロック君!!」

 

 彼女の凛とした声に応じるように、掲げられたカードが爆発的な輝きを放ち、周囲の瘴気を一気に吹き散らすほどの莫大な魔力の奔流が虚空に渦巻いた。

 光のゲートから現れたのは、その可愛らしい愛称からは到底想像もつかないほどに、圧倒的な体躯と質量を持った超大型の怪物の姿だった。

 地響きを立ててこの魔城の敷地へと顕現したのは、俺たちが第十階層で手に入れた、あの『岩石恐竜(ロックダイナソー)』そのものであった。

 

 現状、俺たちのパーティーではモンスターを使役・召喚できるものがいないため、このまま倉庫に眠らせておいては完全に宝の持ち腐れになってしまう。

 そのため、少し前の合間に、この『岩石恐竜(ロックダイナソー)』との相性が良かった紬結(つゆ)先輩にそのまま譲り渡したという形を取っていた。

 

 譲る際、彼女は「えっ、あ、あの、こんな凄まじい価値のレアモンスターカード、私なんかが貰っちゃって本当にいいんですか……!?」と、顔を真っ赤にして恐縮しきりで遠慮していたのだが、俺は「先輩が持っていてくれるのが、一番俱楽部のためになりますから」と優しく微笑み、半ば強引にその手へと押し付けたのだ。

 

 (これで俺への好感度も、爆上がりしているに違いない……!)

 

 俺は内心で邪悪にほくそ笑んでいた。

 

 あれだけの爆乳を持ちながら、どこか庇護欲をそそる幸薄そうなロリ美少女だ。

 いつか、あの圧倒的な質量を誇る胸を、この両手で思いきり揉みしだく日はそう遠くないかもしれない。

 

 もっとも、俺が紬結先輩に対して抱いているこの感情は、サクラ達に向ける恋愛や親愛のような感情ではない。

 前世で言うところの、画面の向こうの超人気AV女優や、トップアイドルを間近で鑑賞し、奇跡的に触れ合えていることに対する、純粋な「男としての憧れ」に近い、極めて健全な(?)男の欲求だった。

 

 「――ガルゥゥゥゥオオオオオオオッッッ!!!!」

 

 突如として放たれた、大気をビリビリと激しく震わせる大咆哮。

 全長は優に二十メートルを超え、全身が鋼鉄以上の硬度を誇る漆黒の岩石の装甲で覆われた、四足歩行型の超大型古代竜種。

 特にその頭部は、城門すら一撃で粉砕できそうなほど異常な発達を遂げており、全身から立ち上る野生の生命力は凄まじい。

 

 この和風の魔城の景観には明らかに場違いなレベルの超巨大恐竜だが、その防衛力と突破力は本物だ。

 ここへ城内の有象無象のスケルトン兵が群れを成して襲いかかってきたところで、この   「ロック君」の圧倒的な質量による踏み付けと、すべてを噛み砕く顎の前には、文字通り塵一つ残さず蹂躙され、太刀打ちすることなど到底不可能なはずだ。

  

 「よし……拠点の防衛はこれで問題なさそうですね。それじゃあ、他の先輩方や俺の残りメンバーを呼ぶことにします。――”異空間生成”」

 

 俺は右腕に宿る処刑刃をギラリと冷たく輝かせながら、左手を虚空にむけてスキルを発動したのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。