※この作品はR-18です。

エロゲーハックアンドスラッシュ   作:げしゅたるうぃんぷす

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 ――――前線攻略・安土城城内・蔵の中。

 

 

 安土城攻略作戦の第一フェーズは、機動力を重視した超高速移動により、目立った損害も出さずに城内へ潜入するという形で完璧な成功を収めた。

 

 だが、ここからが本番だ。

 これより俺たちは、安土城の核となるアイテムを回収する「アイテム回収班」と天守閣の敵を引き付けておく「陽動班」の二手に別れ、この広大な魔城を同時並行で攻略していくことになる。

 

 俺は当初、原作知識と自身の能力を考慮し、異界のボスである『織田信長』を直接叩き潰すべく陽動班(ボス討伐)への参加を志願したのだが、総指揮を執る波留先輩によってアイテム回収班へと回されることになった。

 波留先輩、曰く、俺の機動力と索敵能力でちゃちゃっと核を回収したいとのこと。

 確かに俺の《境界の記(ヘルメス)》は、すでにこの魔城の構造をスキャンし、核が隠されている正確な座標を導き出しているので、手早く回収することができるだろう。

 

 核の場所は、天守閣の最上階にあるのではなく、その真逆――城の遥か真下に広がる『広大な地下階層』の奥底だった。

 現在、禍々しい魔人の魔力反応はすべて「上方(天守閣)」から放たれており、俺が《境界の記(ヘルメス)》で地下を捜索した限りでは、そこには目立った強者の反応は感知できなかった。

 

 まあ、今回の異界レイドは、ダンジョンのルールがそのままボスになる『王権(ダイアデム)』様式ではなく、強力なアイテムが世界の理を歪めて引き起こしている『付喪(レガリア)』様式だ。

 討伐よりも核の回収を早めに終わらせた方がいいだろう。

 

 ただ、攻略するきっかけとなった神託豚(オラクル・ボア)のお告げでは、「第六天の魔王を討伐せよ」と明確に提示されていたため、核を回収した後は、どのみち戦うことになりそうだが……。

 ひとまずは、上層の魔人どもの相手は、俺がいない以上、ホーネットに任せるしかない。

 

 現在、俺たちが魔人の『無敵結界』に対抗できる確実な手段は二つ。

 一つは、俺の固有スキルである「異空間内部」に対象を引きずり込み、世界のルールを上書きして結界を強制解除した上で討伐すること。

 もう一つは、同じ魔人の格を持つ「ホーネットによる直接攻撃」で無敵結界を相殺すること。

 

 同じ魔人同士の戦いとなれば、お互いの無敵結界を削りあいの長期戦となる。

 だが、魔人筆頭の地位についてるホーネットが有象無象の魔人に遅れを取るとは到底思えない。

 俺も地下で核となるアイテムを速攻で回収し終えたら、すぐに天守閣へと駆けつけて加勢するつもりだ。

 

 「幹隆、ここに来てからはっきりと分かりました。……やはり、この城の地下には“魔王”が存在します。それも、禍々しい気配が地下の深い階層から。私では、万が一にも魔王の相手はできません。ですので、私はこのまま上にいる魔人どもの相手を引き受けたいと思います」

 

 いつになく真剣な顔をしてこちらに語りかけてくるホーネット。

 

 (……待て、どういうことだ?俺の《境界の記(ヘルメス)》では地下の階層に核となるアイテムはあるが、魔王の気配なんて捉えてないぞ……?)

 

 もしかしたら、俺が気づいてないだけで、本当に下に魔王がいるのだろうか。

 できれば、ホーネットを地下へ連れていきたいところだが、俺と彼女が同じ場所に固まって行動してしまうのはダメだな。

 魔人への対抗手段を持っているのは俺とホーネットだけだしな。

 どのみち、ここは二手に分かれてバラバラに行動するしかない。

 

 「わかった、それで頼む。ホーネット、上は頼んだぞ。俺も地下の核を回収したら、すぐに天守閣へ合流する」

 「私は、どうしたらいい?マスター」

 「サクラはホーネットと一緒に陽動班に加わって、魔人の対処をサポートしてくれ。もし戦況が危なくなったら、念話で連絡を入れるんだ。絶対に無茶だけはするなよ」

 「よーっし! ようやく、私の本当の力を見せる時が来たんだよ! 魔人なんて、私がボッコボコにしてやるんだよ!」

 

 シュッシュッと鋭い風切り音を鳴らしながら、意気揚々とエアーボクシングを始めるサクラ。

 緊張感の欠片もないが、その底抜けの明るさは頼もしい。

 

 「カヌは引き続き俺と一緒に地下へ来てくれ」

 「――わかりました、幹隆様」

 

 音もなく静然と立ち、美しい立ち振る舞いで俺の真横に並び立つカヌ。

 

 とりあえず、俺の身内パーティのチーム分けはのチーム分けは以下の通りに決定した。

 

 

 【陽動班】:ホーネット & サクラ

 【アイテム回収班】:俺 & マリィ & カヌ

 

 

 「お〜い、幹隆君! こっちの方も、全体のチーム編成がバッチリ決まったよ〜!」

 

 蔵の奥から、波留先輩がひらひらと楽しそうに手を振ってこちらに歩み寄ってきた。

 これから命懸けの魔城攻略が始まるというのに、遠足にでも行くかのような相変わらずの余裕っぷりだ。

 

 「どうなりましたか?波留先輩」

 「うん、まずここの仮拠点の防衛には、亜季(あき)ちゃんと獅騎(しき)君をWリーダーにして、残りの紬結(つゆ)ちゃんを含む非戦闘員・後方支援メンバーを全員配置するよ。ロック君もいるし、防衛はガチガチだね」

 「なるほど。では、正面の陽動メンバーは誰が行くのでしょうか」

 「陽動はね、楓夕(ふゆ)ちんをリーダーにした計14人の精鋭が当たるよ。みんな『派手に暴れてストレス発散したい!』って、なぜか陽動の方に志願する子が多かったんだよねー」

 

 ……この世界のギャル(大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)の女子)、マジで怖すぎる。血気盛んというか、戦いに対するハードルが低すぎて戦闘狂の集まりにしか見えない。

 

 「了解です。俺のパーティからは、先ほど話した通りホーネットとサクラがその陽動に加わります。前線の火力としては申し分ないはずです」

 「おお!それはめちゃくちゃ心強いね!――そして、本命の地下のアイテム回収班は、私となっちゃん。そして……」

 

 波留先輩がそこでいたずらっぽく一呼吸置く。

 すると、彼女の後ろから、個性の塊のような二人の先輩がすーーっと音もなく影から這い出てきた。

 

 「みきたかっち、よろしくねー!あーしは蓮奈(れんな)だよ!一緒にがんばろーー!」

  

 以前、全体の作戦会議の時に、俺に対して質問を飛ばしてきたメイクが派手な金髪ギャル先輩だ。

 両耳にはジャラジャラと無数の軟骨ピアスが輝いている。

 これまで事あるごとにちょくちょく会話は交わしていたが、いつの間にか呼び方が「幹隆君」から「みきたかっち」という、フランクなギャル特有のあだ名にシフトしていた。

 距離の詰め方が天性のそれである。

 服装はこれまた戦闘用とは思えないほど胸元が大きく開いているが、お胸のサイズ自体はかなり控えめなシンデレラバスト。

 だが、その代わりにチラチラと視界に飛び込んでくる、健康そうな白い美肌が、妙に生々しくて最高にエロい。

 

 「――ああ、ようやく、この時が来ました。この日を、私はずっと、片時も忘れずに待ちわびていたのです……。幹隆様のお力になれる日を、ずっと夢にまで見ていました。わたくし、沙耶香(さやか)と申します。どうぞ、末永く宜しくお願い致します」

 

 そしてもう一人――すでに瞳の奥にハイライトが消え失せ、若干アブナイ方向へと精神的トリップを決めている、黒髪ロングストレートの先輩がいた。

 艶やかな長い黒髪は、手入れが行き届いた状態で腰の位置まで美しく伸びている。

 先ほどの蓮奈先輩とは完全に対照的で、胸元は古風な袴のような着物テイストの防具で厳重に隠されている。

 だが、衣服の上からでもはっきりと主張するその膨らみは、あの豊満な楓夕(ふゆ)先輩に勝るとも劣らないほどのサイズを誇っていた。

 その細い手には、自身の背丈を超えるほどの光沢を放つ大薙刀(おおなぎなた)が、静かに握られている。

 

 (……おいおい、アイテム回収班のメンバー、いろんな意味でキャラが濃いな……)

 

 聞くところによると、蓮奈(れんな)先輩は『盗賊(シーフ)』系の隠密・斥候職で、沙耶香(さやか)先輩は『戦士(ファイター)』系の前衛職らしい。

 二人とも最前線で鳴らした生粋の戦闘職だ。能力的にはこれ以上ないほど頼もしい。

 

 「お二人とも、今回はよろしくお願いします」

 

 内心、二人の強烈なテンションに若干ついていけてはいないが、爽やかに挨拶を返しておく。

 

 「うんうん! みきたかっちよろしくねー! いやさ、みきたかっちは学園の他の男子どもと違って、立ち振る舞いがマジで紳士だからお姉さん大好きなんだよね。あーし、最初から目つけてたんだよねー!」

 「――ああ、幹隆様にこうして直々にお言葉をかけていただけただけで、わたくし、もうお傍にいるだけで天にも昇る心地です……。この命、すべてあなたに捧げましょう。あなたの盾となり、行く手を阻む敵を鏖殺(おうさつ)する矛となりましょう……!」

 

 蓮奈(れんな)先輩の距離感ゼロのいきなりの好意に男としてドキッとさせられ、それと同時に、沙耶香(さやか)先輩の重すぎるヤンデレ全開の発言に思わず一歩引いてしまった。

 というか、確信した。時々、俺の脳内に直接わけのわからない怪電波のような独り言を呟いて念話してきたのこの人(沙耶香先輩)だろ。

 

 「……いえ。幹隆様の盾であり、敵を穿つ剣であるのは、この私の役目です。あなたに幹隆様を護ってもらう必要など、これっぽっちもありません」

 

 すると、いつもは誰に対しても無関心で滅多に感情を表に出さないカヌが、珍しく沙耶香先輩に向かって明確な敵対心を露わにしながら反論した。

 おいカヌ、頼むからもうこれ以上、彼女を無駄に刺激しないでくれ。

 

 「ふふっ、カヌさん……でしたっけ。幹隆様が使役されている召喚獣の。ああ、なんて羨ましいんでしょう……。わたくしもカヌさんのように、幹隆様の『所有物』にしていただけるなら、どれほど幸せか……!」

 「それは不可能です。幹隆様の奴隷は私であり、王の身辺に仕える役目を担っているのです。たかが、この世界の人間ごときには、荷が重いかと」

 

 う〜ん、この二人、火花を散らして言い争いを始めちゃったよ。

 しかも、片や「純愛(狂気)」、片や「奴隷の忠誠心(ムー帝国基準)」だから、話が微妙に噛み合っていない気がする。

 安土城に挑む前に、この即席パーティのチームワークが崩壊しないか、本気で心配になってきたぞ。

 

 「もう、そんな意地悪を言わないでください、カヌさん。すでに幹隆様とわたくしは、脳の深い領域で繋がっているのですから、これこそが正しく運命であり、『愛』ですわ。ですよね、幹隆様?」

 「いえ、それはただの念話スキルであり、今の発言は、幹隆様への不敬極まる――」

 「ちょっとちょっと、二人ともそこまでにしなよー!ストップストップ!ほら、肝心の幹隆君が盛大に困った顔をしてるじゃん?」

 

 一触即発の空気が流れた瞬間、波留先輩がパンパンと手を叩きながらカヌの言葉を遮り、絶妙なタイミングで二人の仲裁に入ってくれた。

 いや、まあ人間誰しも相性というものがあるしな。

 カヌにも、沙耶香先輩のようなタイプだけは生理的に苦手だった、ということだろう。

 新しい一面が見られて新鮮ではあるが。

 

 「波留先輩、ありがとうございます、助かりました。――カヌ、お前もそこまでにしとけ。お前にしては珍しく、ずいぶんと熱くなって感情的になっていたな」

 「……っ! 申し訳ありません、幹隆様。王の前であるというのに、少々熱が入り過ぎてしまいました。不徳の致すところです」

 

 俺に窘められ、カヌはハッと我に返ったように深く頭を下げた。

 

 「いや、謝る必要はない。責めてるわけじゃないんだ。普段は周囲の誰にもあまり関心を示さないお前が、自分の役割や意見をこれだけはっきりと口に出してくれた。お前の新しい一面を知ることができて、俺はむしろ嬉しいよ」

 「……幹隆様」

 

 カヌがゆっくりと顔を上げ、神秘的なアメジスト色の瞳でじっとこちらを見つめてくる。

 その吸い込まれそうなほどに深く、純粋な美しさに、一瞬だけ息が詰まるような感覚に陥った。

 

 「それで、波留ちゃん。アイテム回収班は、ここにいるメンバーで確定ってことでいいよね?」

 「うん、そうだね。幹隆君と融合してるマリィちゃんを含めると、合計で7人の少数精鋭パーティだね!」

 

 奈津先輩の確認に波留先輩が力強く頷き、これで俱楽部各メンバーの振り分けが決まったことになる。

 

 作戦の役割分担は、大きく3つのグループに分かれている。

 

 まず【拠点防衛組】は、亜季先輩と獅騎先輩を筆頭にした合計7人のチームだ。

 非戦闘員が中心だが、さっき召喚した巨大恐竜「ロック君」などの強力なモンスターたちを配置しているため、守備力はガチガチだ。

 もし前線で大怪我をした先輩が出ても、『復元する世界(ダ・カーポ)』を使って、すぐにこの安全な拠点へとワープさせて治療を受けさせる連携体制をとっている。

 

 次に、一番激しい戦いになると予想される【陽動班】だ。

 こちらは戦いが大好きな楓夕(ふゆ)先輩がリーダーを務め、俺のパーティからは最強の魔人ホーネットと、やる気満々のサクラが参加する。

 倶楽部の実力派女子たちを合わせた合計16人の大部隊で、天守閣へ向かってド派手に大暴れし、敵の視線を釘付けにする役割だ。

 

 最後に、俺が参加する【アイテム回収班】だ。

 ここは波留先輩がリーダーで、気配を消せる奈津先輩、斥候役の蓮奈先輩、薙刀使いの沙耶香先輩の4人が揃っている。

 ここに俺、カヌ、そして融合しているマリィを加えた合計7人のメンバーで、敵に見つからないよう静かに地下へ潜入し、魔城の心臓部(核となるアイテム)をサクッと盗み出す計画だ。

 

 「よしっ! それじゃあみんな、突入準備はいいかなーー!?」

 

 波留先輩が、倉庫の片隅にあった木製の簡易的な台の上にぴょんと飛び乗り、周囲に集まった倶楽部メンバー全員をぐるりと見渡して声を張り上げた。

 

 「「「「「「――おーーーーーーッっ!!!!」」」」」」

 

 地響きのような凄まじい声量と共に、全女子メンバーが一斉に拳を天へと突き上げ、気合の活を入れる。

 その息の合った一体感は、まるで前世の部活の大会前日のミーティングのようだ。

 

 俺が前世の妄想の中で思い描いていた「甘酸っぱい理想の青春」とは、ベクトルがあまりにもかけ離れすぎているけれど。

 ――命を懸けて異界の魔城を攻略する今この瞬間こそが、戦う彼女たちにとっての、かけがえのない本物の『青春』なのかもしれないな。

 

 そして俺たち、大殺戮陣営(ジェノサイド・レギオン)は本丸へと乗り込んだ。

 

 「――作戦開始! 陽動班、派手にぶちかましなさい!」

 「ああっ! 地下の回収班が動きやすいように、天守閣をひっくり返してやるさ!」

 

 楓夕(ふゆ)先輩の豪快な笑い声を合図に、陽動班の面々が次々と蔵を飛び出し、大路の奥へと爆発的な魔力を巻き上げて疾走していく。

 

 「よし、俺たちも行くぞ。影に潜んで、一気に地下の最深部まで駆け抜ける!」

 

 俺の言葉に、波留(はる)先輩、奈津(なつ)先輩、そして曲者揃いの先輩たちが不敵な笑みで頷いた。

 俺たちは奈津先輩の規格外(イリーガル)スキルの範囲内に入り、まるで陽炎のように存在を消しながら、安土城の奈落へと続く暗黒の階段へ向かって、音もなく突入した。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 ————安土城城内・本丸・地下階層

 

 

 

 ド派手に大暴れしに向かった陽動班の爆音を背に聞きながら、俺たちアイテム回収班は、本丸の奥に隠されていた地下階層へと続く階段を静かに降りていた。

 

 階段の手前には、侵入者を阻むように何体かの大柄なスケルトン兵が門番として立ち塞がっていたが、何のことはない。

 カヌの無音の連撃と俺の漆黒の処刑刃によって、悲鳴を上げさせる隙すら与えず、一瞬でただの骨の山へと変えて片付けた。

 

 それにしても、この階段はあまりにも長すぎる。

 ひたすら足元を警戒しながら下り続けているが、感覚としてはすでにマンションの10階分、いやそれ以上の深さまで潜っている気がする。

 不快な湿気を帯びた石壁は、黒く変色してぬめり気を帯びており、天井の低い隙間からは、濁った雫が一定の間隔で冷たく滴り落ちていた。

 

 ――ぽちゃん。

 

 ――ぽちゃん。

 

 静寂に包まれた暗闇の中、俺たちの足音以外には、その水滴が床に弾ける音だけが不気味に響き渡る。

 階段をさらに下るにつれて、周囲の空気は重苦しくなり、肺に入り込む息すらも怨念で淀んでいるように感じられた。

 

 やがて階段が終わり、一本の長い地下通路へと差し掛かった時、その異常な光景に俺は目を細めた。

 

 通路の壁面一面に、隙間なく「無数の人影」が彫り込まれていたのだ。

 天を仰いで泣き叫ぶ者、許しを請うように祈る者、絶望に顔を歪めて自らの頭を掻きむしる者――。

 どれも彫刻にしては精巧すぎた。

 皮膚の質感や、剥き出しになった眼球の恐怖の表情までが、今にも動き出しそうなほど生々しく、禍々しい。

 

 (悪趣味な、演出だな……)

 

 気のせいだと思いたかった。

 だが、通路を奥へと進むたびに、その生々しい人間の彫像の数は、まるで俺たちを包囲するようにして確実に増えていた。

 

 「ねぇなんだか、ここってば想像以上に不気味だねー」

 「ちょ、あーしマジでホラー系無理なんですけどー!みきたかっち、怖くなったら抱きついてもいい?」

 「ボ、ボクは、これくらい平気だよ……?全然問題ないよ(ガタガタ)」

 「――ああ、暗闇の中でより一層際立つ、幹隆様の美しい横顔……。こんな間近でずっと見つめられるなんて、眼福ですわ……!」

 

 緊迫した地下潜入のはずが、後ろの先輩たちは相変わらずなかなかに騒がしい。

 一人だけ明らか違うベクトルの狂気を放っている人が、混ざっている気がするが、ツッコんだら負けなので全力で無視だ。

 

 波留(はる)先輩はスリルを楽しむようにクスクスと笑い、金髪ギャルの蓮奈(れんな)先輩は怖がるフリをしながら俺の腕にちょこちょこと触れてきて、強がっている奈津(なつ)先輩は持っているダガーの手が小刻みに震えていて今にも泣きそうだ。

 

 「波留先輩、付喪(レガリア)レイドって奥に行けば行くほどモンスターがいないんでしょうか?さっきから全くモンスターの気配を感じませんが……」

 

 地下階層に潜る前に一度起きた戦闘以外、今まで何も起こっていなかった。

 通路にあるのは、ただの人骨の山だった。

 それも、新しいものではなく、見た目だけでいうと何年もここに放置されてそうな気配がする。

 通路は薄暗く、壁面の人影だけがじーっとこちらを凝視しているように感じた。

 

 「いや、普通は逆だけどね。奥に進めば進むほどモンスターの数も質も上がってくるはずなんだよ」

 「では、もしかしたら何か理由があるのかもしれませんね」

 「理由ってなーに? みきたかっち」

 

 蓮奈(れんな)先輩が首を傾げてこちらを見る。

 

 「例えばですが、スケルトン達が入れない結界や、もしくは奥により強力なモンスターがいるのかもしれません」

 「ふ~ん、でも、ラッキーじゃん。スケルトンがいない間にお宝取っちゃおう!」

 「そうですね、どのみち奥に行けばわかりますね」

 

 深部へ続く回廊は異様に広かった。

 天井は高く、左右の壁は闇に溶けて見えない。

 

 やがて通路の先に巨大な扉が見えた。

 ——黒鉄っぽい重厚な扉。

 その表面には無数の傷跡が刻まれており、数百、数千の骸骨が扉に埋まっていた。

 

 「おそらく、この扉の先に核となるアイテムがあるかと……」

 「罠とかもなさそうだよー」

 

 蓮奈(れんな)先輩が扉を見渡し警戒する。

 

 「よし、それじゃあ、行こうか!」

 

 波留先輩の合図とともに俺は扉をゆっくり開いた。

 

 ——ゴゴゴゴゴ

 

 重厚な扉が開いていく。

 扉の向こうは巨大な空間だった。

 天井は見渡す限りの闇で覆われており、壁面は赤黒く染まっている。

 

 直後、押し寄せてきた周囲の瘴気が、より一層濃くなる。

 重苦しい扉を開けるまでは全然耐えられたが、今は息を飲むのもやっとだ。

 周囲にいた先輩達も、みんなその場で重圧に耐えかね、苦しそうに蹲っている。

 

 カヌでさえ片膝をつき、呼吸を荒くしている。

 今辛うじて動けるのは俺とカヌ、そして波留先輩ぐらいだろう。

 奈津先輩は規格外スキルを常時発動していたせいで、より濃い疲労が顔に見える。

 他二人の先輩は、呼吸すら苦しそうだ。

 

 「あれは……」

 

 空間の中央部にドクン、ドクンと不気味に脈動する太い柱――その中央に埋め込まれた、悍ましい『心臓』を俺は見つけた。

 恐らくあれが、この『餓者髑髏城(がしゃどくろじょう)』の心臓部であり、この異界を生み出している核だろう。

 あの不気味な赤い心臓から、肉眼で見えるほどの濃密な瘴気が大量に放たれており、その表面からはどくどくと赤黒い血が絶え間なく流れ落ちていた。

 

 「……みんな、そこで待っていてくれ。俺が回収する」

 

 俺はゆっくりと扉の中に入り、その心臓に向かって歩みを進めていく。

 

 ——ドクン。——ドクン。——ドクン。

 

 一歩近づくにつれ、なぜか俺自身の心臓の鼓動もシンクロするように早くなっていく。

 脳が、本能が警鐘を鳴らしているというのに、まるで悪魔に魅入られたかのように、その赤い肉塊からどうしても目が離せない。

 

 ついに、赤い心臓が埋め込まれた柱の前に立つ。

 周囲の瘴気はもはや物理的な質量となって俺を押し潰そうとしており、肺が焼けるように苦しい。

 顔からは滝のような汗が流れ落ち、呼吸は激しく荒くなる。

 だが、その赤い心臓からは、決して目を逸らすことができなかった。

 

 俺は吸い寄せられるようにそーっと右手を伸ばし、その心臓に触れた。

 

 ――瞬間。

 

 世界が反転したような錯覚。

 どくどくと流れていた赤黒い血が、生き物のように俺の腕へと一気に絡みつき、心臓そのものが爆発的な輝きを放って眩い『赤い粒子』へと崩壊した。

 

 「……うっ?!」

 

 回避も、防御も間に合わない。

 その無数の赤い粒子は、俺の目、鼻、口、耳――ありとあらゆる「穴」から、意志を持った濁流となって一斉に体内へと侵入してきた。

 

 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っっっ!!!!」

 

 内側から肉体を焼き尽くされるような、凄まじい激痛。

 痛い。苦しい。悍ましいナニカが血管を駆け巡り、内臓を貪り喰うような拒絶反応。

 嫌だ。痛い。痛い、痛い、痛い――ッ!!

 ナニカが俺を侵食する。

 まるで今までとは違う別のナニカに変わっていくような、圧倒的な変質。

 これまでに経験したことのない、魂を直接ねじ切られるような耐え難い苦しみと暴虐的な痛みに、全身の神経が悲鳴を上げた。

  

 「幹隆、しっかりして!! 意識を保って、飲み込まれちゃダメええええ!!」

 

 脳内に、マリィの今までに聞いたこともないような悲痛な叫び声が響き渡る。

 頭が割れるように痛い。肺が酸素を拒絶して苦しい。

 全身の骨格が、筋肉が、細胞の一つ一つがメリメリと音を立てて軋み、崩壊していく感覚の中、俺の意識は急速に暗黒の深淵へと引きずり込まれていった。

 

 

 ……………………。

 

 

 …………。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 「……うううっ」

 

 気が付くと、俺は真っ黒な、何もない宇宙のような空間にぽつんと一人でいた。

 上下左右の概念すら曖昧で、足元には何も床がないのに、まるで虚空に浮いているかのような奇妙な感覚だ。

 

 さっきまで俺と融合していたはずのマリィの気配すら見当たらない。

 彼女は一体どこへ行ってしまったのだろうか。

 

 空間は静寂に支配されており、生き物の気配も音も何一つ聞こえない。

 

 不思議なことにさっきまでの悍ましい息苦しさは消え失せており、肉体を裂くような激痛も嘘のように引いていた。

 それどころか、俺の体内に入り込んできた「ナニカ」が、まるで最初からそうであったかのように、俺の魂とピタリと一つに融け合って交わっているかのような感覚を覚える。

 不快な気分は全くしなかった。むしろ、今の状態の方が心地いいとさえ感じていた。

 

 「ここはどこなのだろう……」

 

 あたりを見渡しても何も見つからない。ただ無限に続く、濃密な闇。

 だが、奇妙な感覚はそれだけではなかった。

 なぜなら、一寸先も見えないほどの真っ暗な空間のはずなのに、俺の瞳には、この闇そのものがまるで白昼のように「明るく」見通せていたからだ。

 

 ——瞬間。

 

 俺の眼前で、虚空がパチパチと音を立てて爆発的に輝き始めた。

 その極彩色の光は徐々に強さを増し、全方位の闇を塗り潰すようにしてどんどん広がっていく。

 思わず眩しさに顔をしかめ、右腕で顔を覆った。

 

 「う、眩しい……! 今度は一体何が起きるんだ……!?」

 

 まばゆい光、そして神聖ですらある輝きがあたりの闇を綺麗に溶かしていく。

 

 そして、————光の奔流が収まった時、そこに“それ”はいた。

 

 発光が終わると、そこには巨大な異形の羽を背中に生やした、奇妙な姿の生物だった。

 一見すると、それは『(クジラ)』だった。

 いや、鯨の形に似せて作られた、次元の違う「何か」だ。

 

 そこらの小山と見間違うほどに丸々と膨れ上がった超巨躯。

 陶器のように滑らかで丸みを帯びた、純白の分厚い外殻。

 そして、その規格外の巨体にはあまりにも不釣り合いなほど小さく、無機質な、橙色の眼球。

 その無数の複眼のような瞳が闇の中で爛々と妖しく輝き、じっと、値踏みするようにこちらを見つめていた。

 そこには生気もなく、憐れみも怒りもない。ただ絶対的な虚無だけがあった。

 

 『やあ、気が付いたかい? 一般異世界人。ボクの名前はルドラサウム。君も知っていると思うけど――創造神だよ』

 

 白い鯨の異形は、まるですぐ隣で無邪気な少年が囁いているかのような、どこか軽薄で透明感のある声を空間全体に響かせた。

 俺はその言葉に驚きを隠せなかった。

 

 (……っ!? ル、ルドラサウムだと……っ!? なぜ、ランス世界の創造神が、この異界なんかに存在しているんだ……!?)

 

 俺の脳内は、かつてないほどに思考が回転するのであった。

 

 

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