「あ、起きた。おはよう、幹隆。身体は大丈夫? 痛いところはない?」
目を覚ますと、目の前には黄昏の女神――マリィが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「うぅ……マリィ、か。すまん、気を失っていたみたいだ」
どうやら、先ほどの宇宙のような空間――『
後頭部に、マリィの柔らかい太ももの温もりと弾力を感じる。
どうやら、今まさにマリィに膝枕をされている状態のようだ。
「目が覚めましたか、幹隆様……っ! お身体の方は何ともないのでしょうか。遠目からしか見ることが出来なかったのですが、気を失う寸前、あの黒い瘴気と赤い血液が幹隆様の身体の中に入っていくのを見ました。もし、また何かあれば……私は、……」
寝かせられている俺のすぐ隣で正座し、しっとりと美しい瞳から、カヌが涙を流していた。
彼女は感極まったように、そのまま俺の胸元に抱き着いてきた。
カヌのしなやかで柔らかい肢体が俺にまとわりつく。
「すまん。また、心配をかけてしまったな」
俺は仰向けの体勢のまま、カヌの頭を優しく撫でた。
この異界にダイブしてから、一体何回彼女たちを不安にさせれば気が済むのだろうか。
もう自分でも何回謝ったか分からない。情けない主で本当に申し訳ない気持ちになる。
「もう大丈夫なの、幹隆君? ごめんね、私たちがいながら何も出来なくて……」
「ボクも本当に心配したんだよー。君がいつもこんな無茶をしてると思うと、気が気じゃないよ」
「みきたかっち、マジ無茶しすぎ! でも一人でアレを回収するとかマジやばすぎ、マジ凄すぎっしょ!」
「ああ、幹隆様、お目覚めになられたのですね。わたくしが、お傍に付いていながら何も出来ないなんて……何たる不覚っ!」
どうやら、俺の身体を蝕んでいた黒い瘴気――その
「心配をお掛けしました。体調の方はもう何ともありません。むしろ今は、すごぶる絶好調ですよ」
「そう、ならよかったよ」
先輩たちの表情に、ようやく安堵の笑みが浮かぶ。
俺はマリィの心地よい膝枕から名残惜しくも頭を上げ、その場に立ち上がった。
マリィから小さく「あっ」と残念そうな声が聞こえた気がしたが、今は休んでいる暇はない。
「俺は、ここでどれくらいの時間、気を失っていましたか?」
「うーん、どうだろ、……私たちも正確な時間は分からないんだよね。」
「そうなんですね。それなら一刻も早く、陽動班と合流したいですね」
「うん、そうだね。あ、それとね、さっきからなぜか念話の通信が使えないみたいなんだけど……」
「ああ、念話に関しては、俺が意識を失っていたことが原因だと思います。今なら問題なく繋がるはずです」
「わかった! それじゃあ、今から陽動班と連絡を取ってみるね」
おそらく、天守閣にいる
その隙に、俺は自分の内側に意識を向けた。
「――“ステータス”」
小さく呟き、自分の状態がどう変化したのかを確かめるべく、ステータス画面を目の前に展開する。
=====≪STATUS≫=====
名:影山幹隆
レベル77
職業:
技能:魔王Lv2
スキル:ヒロイン召喚 レベル4
ステータス レベル5
異空間生成 レベル5
エイヴィヒカイト 形成
(
スキルポイント:40
パーティ: (リーダー)幹隆 / (メンバー)29人
クエスト:【難易度(高)発生中!!】
=================
ルドラサウムの言う通り、「プレゼント」の効果は、しっかりと俺のステータス画面に反映されていた。
職業の欄に『魔王』が追加され、新しく『技能』という項目が増えている。
やはり、あの白い巨大な鯨――ルドラサウムの干渉を受け、魔王の力を手に入れたからであろう。
俺は指先で、職業欄の『魔王』の文字をタップして詳細を開く。
世界に破壊と混乱をもたらす最凶の存在。
・高い戦闘力と魔力を持つ。
・無敵結界を有しており、不老不死である。
・自ら血を分け与えて魔人を作る事が出来る。(残り12体/最大24体)
・魔人とモンスター(自身が生み出した存在に限る)に対して絶対の命令権を持つ。
————以下の能力は管理者によって削除されました————
【削除】・魔王でいられる期間は千年である。
【削除】・魔王となった者は、極めて強い破壊衝動を持つ。
………………よし。デメリットは、やはり綺麗さっぱり消えているな。
ルドラサウムの言っていた通り、精神を侵す魔王特有の破壊衝動は削除されている。
もしこれがあったら、今頃、取り返しがつかないことになっていただろう。
そして、さり気なく「魔王の任期は千年間」という制約も消えている。
ということは……俺はこれから、永遠に不老不死のまま生き続けるということか。
……うーん、それはそれで、少し困るな。
ただでさえ寿命が、千年に伸びるだけでも果てしないと感じるのに、終わりがないとなると、いつか孤独に苛まれるのではないか、と考えてしまう。
(いや、待てよ。……よくよく考えたら、うちのヒロインたちも寿命の概念を限界突破してる奴ばかりじゃないか?)
サクラは、魔力をエネルギーとした人型兵器だから、マスターである俺が生きている限り死ぬことはない。
マリィは、そもそも女神なので寿命という概念そのものがない。
カヌは、
ホーネットも言わずもがな、魔人なので不老だ。
冷静に整理してみれば、彼女たち全員が寿命で死ぬことはないのだ。
それなら、……まあいいのか?
彼女たちが傍にいてくれる限り、俺が一人きりになることはないんだから。
まあ、彼女たちはあくまで不老というだけで不死ではないから、戦いの中で命を落としてしまえば、それでお終いなのは変わりないのだが。
何としても、彼女たちを守り抜かなければ。
そして、魔人を作る能力。
ランスの世界における魔王の代名詞とも言える、血の契約だ。
表示を見る限り、現時点で俺は新しく12体の魔人を創り出せるらしい。
俺は確認のため、以前に俺の異空間を襲撃してきて返り討ちにした、余っていた魔人の『
すると、手のひらの上で赤く輝いていた結晶が、すーーっと霧のように俺の肌へと溶け込んで消えていく。
ステータスの項目を確認すると、作成できる数が12体→13体へと戻っていた。
どうやら、問題なく
これで、俺の身体の外に出ている
そのうちの1個は、ホーネットが所持しているので、実質10個の魔血魂がどこかへ行方不明になっている計算か。
『織田信長』やその他幹部を始末して魔血魂の回収しないとな——。
そう考えていた、その時だった。
「幹隆君っ……! た、大変だよ……! ホーネットさんが……意識不明の重体らしいの……っ!」
念話の通信を繋げていた波留先輩が、血の気の引いた青ざめた顔でこちらに振り返った。
(なっ……!? ホ、ホーネットが、意識不明の重体……!?)
一瞬、耳を疑った。
作中でも圧倒的な戦闘力を誇るホーネットが?
「落ち着いてください、波留先輩。一体、天守閣で何があったんですか!?」
「く、詳しくは私もよく分からないの……っ!ただ、
「……は? サクラも、楓夕先輩も、負傷……?」
あり得ない。一体どれほど手強い敵と接敵したというのだ。
あの賢明なホーネットが、実力を見誤って無謀な特攻をするはずがない。
波留先輩の報告に俺も動揺を隠せなかった。サクラや楓夕先輩まで……。
――誰だか知らないが、俺の大切な女たちを傷つけた『不届き者』に対する、強い怒りが沸いてきた。
誰だ、誰がそんな目に合わせたんだ。絶対に許さんぞ。
——ドクン——ドクン——
心臓の鼓動が高鳴り、溢れんばかりの魔力と瘴気が身体中を駆け巡る。
「――ゆ、許さないぞぉ……!!」
俺の感情の昂りに呼応するように、新しく手に入れた魔王の力が暴走を始める。
身体中から、ドロリとしたあまりにも濃密で禍々しい魔力と黒い瘴気が、爆炎のように周囲へ溢れ出た。
「……ひっ!?」
「くっ……あ、あぁ……ッ」
その桁外れの濃い瘴気に当てられ、近くにいた先輩達が、呼吸を詰まらせてその場に苦しそうに蹲ってしまう。
「幹隆、力が漏れてる……!落ち着いて、心を抑えて!じゃないと、みんな苦しそうだよ!」
マリィの悲痛な叫び声に、ハッと我に返る。
俺は奥歯を噛み締め、必死に深呼吸をして精神をコントロールし、吹き荒れていた黒い瘴気を一気に自身の内側へと引っ込めた。
魔王の力を手に入れたばかりで、まだ上手く感情と力の制御ができないらしい。
破壊衝動が無くなったとはいえ、感情が高ぶってしまうと、魔王特有の人に害のある瘴気が漏れ出てしまうみたいだ。
次からは気を付けないとな……。
「す、すいません皆さん……取り乱して、怖がらせてしまったみたいで……」
「う、ううん……大丈夫だよ。けど、その力についても、また後で詳しく教えて欲しいな……」
「はい。この事態が落ち着いたら、すべてゆっくり話します」
お詫びは後だ。とにかく、今すぐ前線にいるみんなを回収しなければならない!
幸いなことに、
「分かりました。先輩たちも、とりあえず俺の近くに集まってください。一度、
「わかった……! 早く、お願い、幹隆君……!」
俺は、『
————
――――前線攻略・安土城城内・蔵の中。
眩しい光と共に、一瞬で視界が開ける。
どうやら、防衛拠点にしていた蔵の中に戻ったようだ。
「ここは……?」
「え、戻ってきた?」
「……あ、みんながいるよ」
『
見渡すと、陽動班の中には、深く傷を負っているサクラ、楓夕先輩、そして身体の一部が酷く焼け焦げているホーネットの姿があった。
他の陽動班の先輩たちは悲痛な面持ちで、息も絶え絶えな三人を囲んでいる。
俺はすぐさま、三人が寝かされている場所へと駆け寄った。
「あっ、マスター……ごめん、負けちゃったんだよ……」
「すまない、幹隆君、私のせいでホーネットさんが……っ」
「だ、大丈夫だ、喋らなくていい。今すぐ助けてやる。」
三人の傷だらけな姿を見て居た堪れなくなる。
すぐさま回復の呪文を唱えた。
「――『復元する世界《ダ・カーポ》』――ッ!」
過剰とも言える、ありったけの魔力を三人に一気に注ぎ込む。
マホウが発動した瞬間、みるみるうちに三人の傷は癒され、肉体が元通りに復元されていく。
しかし、『
意識のあるサクラと
「すまない、幹隆君。助かった……」
「ありがとうなんだよ、マスター」
二人とも表情を暗く落としたまま、ゆっくりと身体を起こす。
「もう、身体は大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ。それに、例え無理をしてるとしても私には説明の義務がある。どうしてこうなったのか……そして、そこで何が起きたのかをね」
いつにも増して真剣で、どこか悲壮感すら漂う表情だ。
俺以外の俱楽部メンバー全員が、水を打ったように静まり返り、
「分かりました。何があったのか、教えてください」
「ああ、分かった。では、まず、念話の通信が途切れたところから話すとしよう。まず、念話が切れた時点で私たちはすでに天守閣――安土城の頂上にいたのだ。そこでどうするかの判断になった時、とりあえず最上階の中の様子を私、サクラちゃん、ホーネットさんの3人で偵察することにした」
安土城のの天守閣と言ったら、突入前の
もしかして、ホーネットたちは『織田信長』率いる魔人軍団に敗北したのだろうか。
でも、あの魔人筆頭のホーネットが、同格の魔人相手にここまで一方的に重傷を負わされるものだろうか。
「そして、中に入ると……すでに『織田信長』が率いる魔人はすでに事切れていた。それどころか、ボスの織田信長すらも、何者かに無残に殺されている最中だったんだ」
「え?嘘ぉ……」
「まじかよ……」
「信長が死んでるなら、なんでそんな怪我を負ったんだ?」
(『織田信長』とその配下たちがすでに死んでいた? 奴らには「無敵結界」があるはずだぞ。一体どうやって殺したんだ。まさか……俺と同じ転生者か? やったのは、浩一なのか?)
俺は
――――――≪レイドクエスト≫――――――
Quest Complete!Congratulations!
・『
《30ポイント獲得!》
・『織田信長』の討伐……10ポイント《CLEAR!》
・『豊臣秀吉』の討伐……5ポイント《CLEAR!》
・『織田四天王』の討伐×4……各5ポイント《CLEAR!》
《二体撃破!10ポイント獲得!》
・『スケルトン』の討伐×100……10ポイント《CLEAR!》
《10ポイント獲得!》
―――――――――――――――――――――
(なっ…………!クエストが全てクリアされているだと……!?)
突きつけられたシステム画面に息が止まる。
つまりこれが意味するのは、
補習組の実力ではクエストのクリアは、そもそもできないはずだ。
よって、俺以外の『転生者』が、クエストをクリアしてしまったということになる。
やっぱり、これをやったのは浩一なのか……?
俺は、同じルームメイトである浩一が、すでに自分と同じ転生者であることには、薄々気付いていた。
だが――。
「そして、それらのモンスターを一方的に討伐していた人物は、全身を白銀の鎧で覆っていた。その者は、私たちを見るなり『スキルポイントのために死ね』と言い放ち、狂ったように襲い掛かってきたのだ」
スキルポイント、か。
その単語が出た時点で、白銀の鎧を着た何者かが転生者であることは確定だ。
俺と同じように、システムからレイドクエストを課されていたのだろうか。
もしそうであれば、俺とは違うクエスト内容なのだろう。
そうでなければ、わざわざ学園の生徒を襲う意味が分からない。
「まず、私たちはそこで交戦するのではなく、即座に撤退することを選んだ。相手は未知の敵であり、何より正気とは思えなかったからな」
まあ、当然の判断だと思う。
いくらこちらにサクラやホーネットがいるとはいえ、情報が全くない敵に対しては、一度引いて俺たちとの合流を待つべき状況だな。
「しかし、相手の不意の攻撃に、運悪く私とサクラちゃんが被弾してしまった。まともに逃走できる状況ではなくなり……それに、扉の後ろには疲弊していた陽動班のメンバーも控えていた。だから、誰かがその場に残って足止めをするしかなかったのだ」
「それで、ホーネットがその足止め役をかって出たと?」
「ああ、そうだ。すまない、幹隆君。私の力不足が、彼女をあそこまでの窮地に追い込む結果になってしまった……」
「いえ、俺は別に
悔しそうに拳を握り締め、俯く楓夕先輩に、俺は努めて穏やかな声を投げかける。
「それで、その後はどうなったの?」
「ああ、二人は激しく交戦した。始めは、ホーネットさんの方が圧倒的に有利なように感じたんだ。それほど、彼女の魔法は敵を圧倒していた。……だけど、途中からホーネットさんの攻撃が、不自然なほど全くといっていいほど当たらなくなったんだ。まるで、その場の
ホーネットの攻撃が当たらなくなった? そんなことがあり得るのか?
基本設定として、『ランス』の世界の魔法攻撃は必中攻撃のはずだ。
相手の回避に関係なく必ず追尾し命中する仕様だったはず。
それが掠りもしなくなるなんて、明らかにおかしい。
「そして、徐々にホーネットさんは防戦一方に押し込まれ始め……敵の背中にあった巨大な砲門からの容赦ない砲撃により、さっきの致命傷を負わされたのだ」
「でも、待ってください。ホーネットは『魔人』です。通常の手段では、あの無敵結界を破ることはできないはずですが……」
そう、一番の謎はそこだ。
どうやってあの「無敵結界」を破り、ホーネットにダメージを与えたのか。
俺のように『異空間生成』のスキルを持ち、空間の内部に引き入れれば、ダメージは通るだろう。
しかし、聞いている話では、戦闘は安土城の天守閣――つまり異空間の外、異界のフィールドで行われていたということだ。
「私だって始めはそう思っていた。しかし、奴が何度か不可解な予備動作を仕掛けた後、またその場のルールが書き換わったかのように……奴の太刀は、無敵結界を貫通してホーネットさんに届いていた。そして、今の状態になるまで一方的に蹂躙されたんだ」
そんな、馬鹿な……。そんな不条理な能力あるなんて……。
「なるほどね……。よくそこで無事に助かったね。幹隆君の空間転移がもう少し遅れていたら、本当に死んでいたかもしれなかったね」
「いや、転移自体は、それよりもう少し後の話だ。私はサクラちゃんと協力して、なんとか倒れたホーネットさんを回収したのだが……すでに敵の照準は、動けない私たちの方を向いていた。ここでもう終わりだ、と目を瞑ったよ。その時――突然、天守閣の壁を突き破って、外から『何か』が猛スピードで飛んできたんだ」
「あまりの激突の衝撃で、私は少し意識を失ってしまった。だが、次に目を開けた時……一人の男子生徒が、その白銀の鎧の放った一撃を、真正面から受け止めていたんだ。そこから、さらに遅れて飛び込んできた二人の女子生徒が、私たち三人を抱えて謁見の間から扉の近くまで運んでくれた。そして暫くたった後、足元が光り輝き、今この場に戻ったことになる」
俺の発動した『
先輩たちが完全に詰んでいたあの状況を、誰か別の人間が介入して助けてくれたというのか?
謎の三人組。う~ん、分からん。
レイドに潜る前に話しかけてきた浩一たちのパーティも三人だったけど、まさかあいつが助けてくれたのか?
でも、もしそうなら、あの信長を殺してホーネットを破った「白銀の鎧」はいったい誰なんだって話になるよな。
少なくとも、浩一と白銀の鎧はどちらも転生者だろうが、同一人物ではないのだろうか……?
「すみません、楓夕先輩。その、窮地を助けてくれた男子生徒って、どんな風貌でしたか?」
「はっきりと姿を見た訳ではないんだ。ただ、これといった特徴のない、黒髪の少年だったな」
「なるほど……そうなんですね」
黒髪の特徴のない男子生徒、か。どこにでもいそうとはいえ、案外いないんだよな。
一応、浩一の容姿には、当てはまるのか。
「あ、でも、私たちを抱えて運んでくれた二人の女子生徒たちは、やたらと服装が派手で、露出が多かったな。とてもじゃないが、これからダンジョンに潜るような格好には見えなかった」
「彼女たちの名前とかは、聞いていたりしないんですか……?」
「すまない。あまりの混乱状態で、名前までは聞きそびれてしまった」
「あ、マスター! 名前なら私、わかるんだよ! 『
隣で治療を終えたサクラが、思い出したようにこちらを振り返った。
「本当かサクラ!それでなんて名前だったんだ?」
「確か、白銀の鎧を止めてくれた男の子が『
「そうか……! ありがとうサクラ、助かった!」
その名前を聞いた瞬間、俺はどこか心の底からホッと安堵を覚えていた。
もし、間違って浩一を襲っていたら、大変なことになっていた。
仲間を救い出してくれた恩人に対して、仇を返すような真似だけは絶対に避けたかったからな。
けど、浩一たちは今、大丈夫なのだろうか。
相手はあのホーネットの魔法を完全に無効化し、無敵結界すら貫通して致命傷を与えてくる敵だ。
今、この瞬間も、死闘を繰り広げているのだろうか。
何にせよ、浩一たちのおかげで最悪の結末は免れた。
どちらにせよ、あいつが介入して時間を稼いでくれなければ、俺は最悪、ホーネット、サクラ、楓夕先輩の三人を永遠に失うところだったのだ。
——ゴゴゴゴゴ……!!
突如として、足元から世界そのものが軋むような激しい地鳴りが響き渡り、地面が大きく揺れ動いた。
おそらく、この『
「全員、これ以上ここにいたら消滅に巻き込まれる!すぐに俺の異空間へ避難してくれ!」
俺の声に、
すぐさま全メンバーを巧みに率いて、俺が開いた異空間のゲートの中へと次々に飛び込んでいく。
「幹隆様、ホーネットさんのことはお任せください。責任をもって、安全な場所まで運ばせていただきます」
「ああ、頼んだぞ、カヌ」
意識のないホーネットを抱きかかえたカヌが、気丈な笑みを浮かべてゲートの向こうへと消えていくのを見届け、俺は異空間のゲートを閉じた。
——ゴゴゴゴゴ……! ——ゴゴゴゴゴ……!!
地響きはさらに激しさを増し、周囲の頑強な蔵や建造物が、まるで砂の城のようにボロボロと崩れ、虚空へと消滅していく。
視界が真っ白な光に包まれ、世界が完全に弾け飛んだ。
そして、次の瞬間——。
視界が切り替わると、俺たちは異界の入り口である『極界門』の前に戻ってきていた。
あたりを見渡すと、俺だけでなく、何が起きたのか分からずパニックになっている大量の補習組の生徒たちも強制排出されて戻ってきている。
誰も彼もが、訳も分からないといった様子で周囲をキョロキョロと見回していた。
俺は雑踏の中に視線を走らせ、あの「白銀の鎧」や「浩一」の姿を探した。
しかし、どれだけ目を凝らしても、それらしき人影はどこにも見当たらなかった。
(せめて、浩一には直接会って、何があったのか話を聞きたかったんだが……この混乱じゃ仕方ないか……)
俺は諦めて『
結果として、三日間あるはずだった地獄の補習期間のレイドダイブは、俺たちと謎の転生者によって初日でクリアという形で幕を閉じた。
====
しかし、俺が安土城を後にしたその裏で、学園の歴史を揺るがす前代未聞の大事件が勃発していた。
それは、実力不足の生徒が集められたはずの補習組が参加していた、本来なら「攻略不可」として学園から厳重に隔離認定されていたはずの3つの最高難度の異界――
『
『テュイルリー
『
これら全てが、三日間の間に跡形もなく完全消滅したという驚天動地のニュースだった。
――だが、影山幹隆は、この時点でその異常な事実をまだ何も知らなかった。
学園を揺るがすその大事件を、彼が真に知ることになるのは、全ての補習期間が終了した三日目の終わりのことだった。
====