――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』
――第参階層、『既知外』領域
時は、ダンジョンダイブの最中にまで遡る。
玄室を埋め尽くしていたゴブリンの群れ――その数十体は、すでに物言わぬ肉塊へと変わり果て、沈寂に支配されていた。
ねっとりとした肉片と鉄錆びた血の匂いが、ダンジョンの瘴気と混ざり合い、濃厚な死の霧となって視界を濁らせていく。
その凄惨な殺戮の中心で――俺は、まだ“それ”を右腕に構えたまま静止していた。
右腕の肘から先を覆う、光をも呑み込む漆黒の断刀。
それは生き物のように脈打つわけでも、禍々しいオーラを放つわけでもない。
ただ、そこに存在するだけで周囲の空間の色彩を奪い去るような、絶対的な虚無の質感。
意識の焦点をその刃へと向けると、僅かに“魂のつながり”を感じる。
覗き込めば、どこまでも、奈落の果てまで魂が滑落していきそうな――底なしの深淵。
「マスター! 今の何!? すっごく格好よくて、すごかったんだよ!」
バタバタと石床を蹴って駆け寄ってきたサクラが、瞳を輝かせながら興奮した様子でまくし立てる。
「それに腕から生えているかっこいい刃……もしかして、マリィちゃんなの?」
ぐいっと物理的な距離を詰め、ブレザーに包まれた豊かな胸を俺の腕に擦り付けんばかりの勢いで覗き込んでくる。
「ああ。この黒い刃は、聖遺物として具現化したマリィそのものだ。今は彼女が俺に魂を委ね、力を貸してくれている」
口では冷静に応じながらも、俺は自身の右腕を見つめ直す。まだ完全に“俺の肉体”として馴染んでいるとは言い難い。
重さも、間合いも、前世がただの社畜だった俺にとっては、未知の領域だ。
だが――それなのに、違和感はない。むしろ、最初からこうあるべきだったと魂が
初戦闘で、ここまで戦えるとは想定外だ。
「聖遺物? それって、私みたいな『
「正確には違うな」
少しだけ考えてから、サクラにも伝わる言葉を選び出す。
「魂同士を深く結びつけたり、契約によって力を引き出したりする部分は似ている。だが、聖遺物によって発動するこの力は、魔力を必要としないんだ。この力は『エイヴィヒカイト』という未知の魔術体系によって、マリィの存在そのものと俺の渇望が融合した姿なんだよ」
「ええーっ、何それずるいんだよ! 私だってマスターと融合して、マスターの専用かっこいい武器になりたいんだよぉ!」
サクラがあからさまに嫉妬の炎を燃やし、両頬をぷくーっと膨らませる。
「……いや、それは無理だろ」
俺はサクラの無茶な言い分を軽くあしらいながら、思考の端で、改めてマリィの変貌したステータスを視界の隅に展開した。
=====≪STATUS≫=====
名:マルグリッド・ブルイユ
レベル10
職業:
スキル:聖遺物
斬首の呪い
パーティ:(リーダー)幹隆 レベル23、サクラ レベル23、マリィ レベル10
=================
驚くべきことに、先ほどのゴブリンの一掃だけで、彼女のレベルは一気に10まで跳ね上がっていた。
マリィのステータスはサクラと同様、スキルに『レベル』という概念が存在しなかった。
『Dies irae』の世界における戦闘体系とは、人間の剥き出しの強い感情――世界そのものを塗り替えんとする『渇望』によって構築される。
その渇望は大きく二つに分類され、一方が世界を巻き込む『覇道』、そしてもう一方が、このマリィの持つ『求道』である。
求道とは、どこまでも己の内側へと引き籠もり、純化していく渇望。
「――でありたい」「――のままでいたい」という、自己完結した願いを指す。
求道が内側とすると、覇道はその逆で「世の中が~であってほしい」「~したい」といったものが主である。
マリィの“求道神”という職業表記は、おそらく生前、誰にも触れられなかった彼女の「誰かに触れたい」「温もりを知りたい」という、あまりにも切実で無垢な願いから来ているのだろう。
俺は次に、スキル欄の詳細に目を通す。
・聖遺物
マリィが聖遺物そのものへと昇華し、幹隆と融合する。
その武装形態は所有者の肉体と一体化する『人器融合型』。
素体となるのは、かつて数多の命を刈り取った
対象がどのような生物であろうとも、所有者の魂の格が上回っている、あるいは同等であれば、防御の概念を無視して致命ダメージを与える。
・斬首の呪い
マリィという存在の根源に刻まれた、触れた者の首を例外なく刎ね飛ばす因果の呪い。
本人の意思とは関係なく発動する。
ただし、宿主である『影山幹隆』にのみこの呪いは通用しない。
また、契約により、現在は幹隆の意思によってこの呪いの発動を制御・無効化することが可能。
まずはこの腕、ギロチンの能力。
実戦で振るってみて分かったが、致命ダメージという概念的な即死効果だけでなく、俺自身の身体能力が数十倍にまで跳ね上がっている。
この世界のいかなる高レア武器を以てしても、計り知れないほどの力を秘めている。
そして『斬首の呪い』。現在は俺の制御下で完全に無効化してあるため、サクラや他の人間がマリィに触れても、唐突に首が宙を舞うような大惨事にはならない。
『……幹隆、前から敵が来ます』
脳内に直接響くマリィの凛とした声に、俺は思考を現実に引き戻した。
「ああ、見えている」
薄暗い通路の奥から玄室へと足を踏み入れてきたのは、たった一体のゴブリンだった。
だが、それは先ほどまでゴミのように屠ってきたゴブリンとは、根本から異なっていた。
先ほどのゴブリンたちが、見せた怯えや恐怖といった表情ではない。
その濁った瞳には、純粋な殺意と、明確な敵意だけがぎらぎらと滾っている。
その体躯の全高は約2メートル。人間を遥かに見下ろす巨体は、血と錆に塗れたプレートアーマーで身を包んでいた。
手には、自身の身長ほどの大きな大剣が握られている。
――『
『
だが、学園の管理が及ばないこの『既知外』領域においては、その濃密すぎる瘴気のゆえに、エリアボスでもない一般個体が同族を殺し合い、その
管理されていないからこそ生まれるモンスターの『
「ギャオオオオ! ギギィ、ギギギッッ!!」
ゴブリンロードは、大剣の先端をこちらに突き出し、鼓膜を裂くような咆哮を上げた。
ここに転がっている死体の群れの、長だったのだろう。
ゴブリンという矮小な種族は、基本的に単独行動をしない。
常に群れを作り、個の弱さを暴力的な数で補うように行動するモンスターだ。
それが種族としての習性なのか、それとも『既知外』領域の瘴気による影響なのかは分からない。
俺が持っているドロップ品に仲間の匂いでも残っていたのか。
あるいは、単純に縄張りを荒らされたことへの報復か。
ゴブリンロードは剥き出しの殺意を隠そうともせず、地響きを立ててこちらを睨みつけていた。
だが――マリィと融合している今の俺にとって、その巨体は何の脅威にも映らない。
俺は静かに、右腕の黒い刃を正眼に構えた。
「グキィ! ギギギィ! ギャオオオッッ!」
怒りによって理性を消失させた化け物が、大剣を振りかざして突進してくる。
その突撃の圧だけで、玄室の空気が爆ぜた。
俺が一歩、踏み出そうとした――その刹那。
「——
隣に佇んでいたサクラが、魔術を叫ぶ。
彼女の小さな手掌に、恐るべき密度の光の粒子が瞬時に収束し、次の瞬間――必殺の聖剣の力が前方へと解放された。
世界が白夜に染まる。
眩いばかりの、文字通りすべてを塵滅させる閃光が、巨大な玄室の全空間を埋め尽くした。
「…………」
光が収まった次の瞬間、突進してきていたはずのゴブリンロードの巨体は、光の暴力に文字通り一瞬で呑み込まれ、細胞の一つすら残さず跡形もなく消滅していた。
俺は、右腕にギロチンを構えたポーズのまま、ゆっくりと隣に視線を向けた。
サクラは両手を後ろに組み、「えへへ、やってやったんだよ!」とでも言いたげな、ドヤ顔気味の笑顔で立っている。
俺はそんな彼女を、据わったジト目で睨みつけた。
「おい、サクラ。なんで俺が戦う前に勝手に倒した」
「……だって、マスターが、私とマスターは融合できないって冷たく言うから……だから、その、ちょっとだけ八つ当たりしちゃったんだよ」
ぷいっと顔を逸らしながら、サクラが両頬をこれでもかと膨らませる。
……いや、八つ当たりで、階層ボス級の『
ついさっきまでそこに存在していたはずのゴブリンロードは、跡形もなく消滅していた。
残されているのは、石床に無残に焼き付いた黒い焦げ跡と、空気中に漂う不自然なほどの熱気だけ。
あれだけの巨体が、一瞬で蒸発したのだ。
「お前なぁ……」
額を押さえながらため息を吐く。
「もとはといえばマスターが悪いんだよ!」
「なんで俺が加害者になってるんだよ」
「だって、新入りのマリィちゃんとはあんなにピタッと密着して融合してるのに、私は仲間外れなんだもん。ずるいんだよ……」
じとっとした、湿度の高い恨めしそうな瞳で睨まれる。
「……ふふ、すごいですね」
その時、俺の右腕を覆っていた漆黒の刃が、光の粒子となってハラハラとほどけていった。
俺の腕を覆っていた漆黒が静かに消え、その場にマリィの姿が現れた。
俺との融合を解除したマリィは、淡い金髪を揺らし、ぼんやりとした無垢な表情でこちらを見上げながら鈴を転がすように口を開いた。
「マリィちゃん、わかってるんだよ!」
「はい。分かります。サクラは、とても――幹隆のことが、好きなんですね」
「――なっ、に、何をっ!?」
サクラの動きが、まるで見えない金縛りにあったかのようにぴたりと停止した。
次の瞬間、彼女の顔面が、それこそ自身の髪色よりも鮮やかな桜色に染まっていく。
「ち、違うんだよ!?私はその、マスターの『
「でも、他の誰よりも、自分が一番がいいんですよね?」
「うっ……!」
マリィの、悪意の全くない純粋無垢な直球の言葉に、サクラが言葉を詰まらせる。
その普段の威勢の良さはどこへやら、恋愛感情に関しては驚くほど初心な様子が妙に可笑しくて、俺は思わず吹き出しそうになった。
「……幹隆?」
マリィが、不思議そうに翡翠の双眸をこちらに向ける。
「なんだ?」
「サクラ、すごく照れてます。かわいいです」
本人にバッチリ聞こえる距離と声量で、淡々と事実を告げるマリィ。
天然のドSかお前は。
「ま、マリィちゃんもう言っちゃダメなんだよぉ!」
「事実です」
「ううぅぅ……マスターのバカ……!」
耳まで真っ赤にして、その場に体育座りでうずくまってしまうサクラ。
普段は騒がしいのに、こういうところは妙に初心なんだよな。
瘴気に満ちた『既知外』領域。一歩間違えれば一般生徒が悲惨な死を遂げる危険地帯。
本来なら、生徒が命を落としてもおかしくない危険地帯。
本来なら息が詰まるほどの緊張感に支配されるべきダンジョンだが――こうして二人と並んでいると、不思議と死への恐怖など微塵も感じなかった。
むしろ今は——。
「……さて、この階層、もう少し先まで行ってみるか」
「うん! 次こそは私が先に全部倒して、マスターに褒めてもらうんだよ!」
「……はい。私は、どこまでも幹隆についていきます」
二人の愛らしい声を背中に受けながら、俺はさらに瘴気の濃い通路へと足を踏み入れた。
あれから、本日のダンジョンダイブの制限時間終了間際に至るまで、俺たちは目についたゴブリンの群れを片っ端から蹂躙し、狩り続けた。
百体を超えたあたりから、もう正確な討伐数など数えるのをやめた。
途中、『
黒いギロチンの刃が空間を一閃するたび、音もなく化け物の首が宙を舞う。
“形成”の位階によって、強化された身体能力と、マリィの聖遺物。
その二つが、合わさった今の俺にとって、この第三階層のゴブリン程度では相手にならない。
途中からは、前世のRPGでよくやった“序盤の草むらで、ボタンを連打して延々と経験値稼ぎの作業をするループ”のような、酷く無機質な感覚にすら陥っていた。
もはや、この第三階層において、俺たちの敵になり得るのは『
(まあ、低級のアグレッサー程度なら、こっちにはチート娘が二人もいるから、負ける気はしないがな……)
『
多くのアグレッサーは、通常のモンスターや一般生徒が持つ【SPバー】とは別系統の力、すなわち【GPバー】をその身に宿している。
SPバーは、スキルや魔術を発動する際に消費され、敵の攻撃を受ければ減少する、いわば有限の生命力だ。
一般生徒たちは、そのSPを使って能力を行使している。
だが、GPバーは違う。GPバーは“神格”に近い上位エネルギー。
並の攻撃では干渉すらできず、一般の生徒では、どれだけ攻撃を叩き込んでもアグレッサーのGPバーを削ることができない。
つまり
俺たちは、ダンジョンダイブ終了間際に、第四層に続くゲートを見つけていた。
なお、ゲートを守護していたはずのエリアボス・ゴブリンキングは、サクラの『
「マスター、どうする?このままゲートを潜って、先に進んじゃう?」
「いや、今日はここまでにしよう。ダンジョンダイブできる時間が間もなく終わる」
学園地下の『羅城門』の開閉時間は、正午から午後五時まで。
午後五時を回った瞬間、迷宮内の生存者は強制的に返送される。
これ以上深追いして、リスクを負うのはあほらしい。
それに――。
「……ん、幹隆。なんだか、身体が、すごく熱いです……」
隣で、マリィが、どこか熱に浮かされたような、ぽつりとした掠れ声で呟いた。
見れば、彼女の現実離れした白い肌はうっすらと艶やかな赤みに染まり、翡翠の瞳もどこか潤んで、俺を熱っぽく見上げている。
呼吸も僅かに荒い。
今日のダイブで急激にレベルを上げた影響だろう。
この世界では、レベルアップの恩恵としてステータスが上昇する副作用として、性欲が上昇するのだ。
とりわけ低レベルから一気に上昇した際の初期衝動は、常人なら理性が消し飛ぶほどの熱量となるのだ。
「悪い、マリィ。部屋に戻るまで、あと少しだけ我慢してくれ」
「……はい。幹隆がそう言うなら、がんばります……」
健気に、けれど潤んだ瞳のままきゅっと唇を噛んで素直に頷くマリィ。
サクラの方はすでにこの世界に染まって慣れてきている、「マリィちゃん大丈夫なんだよ」と、どこかお姉さんぶった様子で彼女の華奢な背中を優しくさすっていた。
「二人とも、一旦、俺の異空間の部屋で休んでいてくれ」
そう告げて、俺は”異空間生成”を発動する。
黒い渦が空間を歪めるように現れ、二人はその中へ消えていった。
それを確認した直後――ぐにゃり、と視界が歪む。
次の瞬間、強烈な浮遊感と共に、俺の肉体は学園地下の『羅城門』の前へと強制転移させられていた。
門の周囲の巨大な広場には、同じように本日のダンジョンダイブを終えて帰還した沢山の生徒たちがいた。
閉門時間ギリギリまで潜っていたということは、今回のダイブで“死に戻り”しなかった連中だろう。
俺は周囲の視線を避けるように、その場を後にした。
目指すは、自身の割り当てられた学生寮――『
静まり返った自室のドアを開けると、幸いにも同居人である浩一の姿はなかった。
まだ外で他の連中と油を売っているか、あるいは別の場所でレベリングに励んでいるのだろう。都合がいい。
俺はそのまま“異空間生成”を発動する。
目の前の空間に、静かに、けれど確実に広がっていく黒い歪みの渦。
迷うことなく、その深淵の中へと足を踏み入れた。
――――
畳敷きの異空間へ足を踏み入れた瞬間、待ち構えていたサクラが、真っ先に弾丸のような勢いでこちらへ駆け寄ってきた。
「マスター! おかえりなんだよ!」
勢いよく正面から抱きついてくるサクラ。
その衝撃と共に、ブレザー越しでもはっきりと分かる圧倒的な柔らかさと、少女特有のほんのり甘い、脳を痺れさせるような匂いが鼻腔を突き抜ける。
今日一日、あれだけダンジョンを駆け回っていたはずなのに、不思議と嫌な汗の匂いはしない。
「……おい、近いって、サクラ」
口では困ったように苦言を呈しながらも、無理に引き剥がす気にはなれなかった。
「えへへ、離さないんだよ」
満足そうに、猫のように俺の胸元へ頬を擦り寄せてくるサクラ。
だが、その微笑ましい光景のすぐ横で――マリィが、じっと、静かな熱を帯びた視線でこちらを見つめていた。
翡翠の双眸は完全に潤み、白い頬は隠しきれない情熱で真っ赤に染まっている。
その細い指先は、今にも俺の肉体を求めて震えているようだった。
「……幹隆、わたし、身体の奥が、壊れそうなくらい熱いです」
限界を迎えた、掠れた声で名前を呼ばれる。
俺は小さく息を吐き出し、サクラを優しく宥めてから、マリィの前にゆっくりと腰を下ろした。
「レベルを一気に上げすぎた反動だと思う」
そう言って、彼女の滑らかな額へとそっと手を触れる。
その瞬間、びくり、とマリィの華奢な肩が大きく震えた。
「……あっ、」
まるで、他者に『触れられる』というその行為そのものに、肉体が激しい拒絶とそれ以上の快感を感じているかのように。
いや、実際その通りなのだ。生前、その忌まわしい呪いのせいで、誰一人としてその肌に触れることすら許されなかった、孤独の果てに死んだ少女。
だからこそ――俺だけが触れられるという事実が、彼女にとって特別になっている。
「……やっぱり、ずるいんだよ」
横から、サクラがむっとした嫉妬の表情を向けてくる。
「マスター、新しい子が来たからって、マリィちゃんばっかり触って、見つめ合って……」
頬をこれでもかと膨らませながら、サクラは今度は俺の反対側の腕へと抱きついてきた。
両側から押し付けられる、対照的でありながらどちらも極上の柔らかさ持っている。
前世ではただのエロゲオタクだった俺の理性は、この時点で崩壊しかけていた。
「お、おい、二人とも……」
困惑し、顔を赤くする俺の様子を見て、サクラは「ふふっ」と形勢逆転を喜ぶように悪戯っぽく笑う。
だが、そのサクラの笑顔とは対照的に、マリィは静かな熱を帯びた視線で、こちらを真っ直ぐに見つめ続けていた。
「……幹隆」
そっと、白く細い指先が、俺の服の袖を強く掴む。
「もっと、触れてほしいです」
掴んだ手を決して離そうとしないマリィ。熱を帯びた翡翠の瞳。浅い呼吸の合間から漏れる吐息。
そんなマリィの尋常ならざる様子を見ていたサクラは、小さく溜息をつき、複雑そうに頬を膨らませた。
「……むぅ、仕方ないんだよ」
不満そうな声を漏らしながらも、サクラは少しだけ照れくさそうに視線を逸らす。
「サクラ?」
「……今回は、特別にマリィちゃんを先にしてあげるんだよ」
拗ねたように言いながら、サクラは自ら布団の方へとぽすっと倒れ込んだ。
「だって、マリィちゃん……今すごく苦しそうだし、可哀想なんだもん。……だから、今回は譲ってあげる」
ちらり、と布団の中から上目遣いでこちらを見るサクラ。
桜色の瞳が、じっと幹隆を見つめ、声音を少しだけ低く潜める。
「――でも。マスターの『一番』は、私だからね? それだけは、絶対に忘れちゃダメなんだよ?」
念押しするように、独占欲を隠そうともせず告げる。
その声音は冗談めいているようで、心の底からの本気だった。
マリィはそんなサクラの様子をじっと静かに見つめ、それから、小さく、けれど心からの感謝を込めて口を開いた。
「……サクラ、とても、優しいお姉さんですね」
「べ、別に優しくなんかあーーーっ! ないんだよ! 勘違いしないでほしいんだよ!」
サクラは顔を耳まで真っ赤にしながら、布団の中に潜り込んでそっぽを向いてしまう。
けれど、その感情に連動してぴょこぴょこと揺れる髪の毛を見れば、照れているのは一目瞭然だった。
俺自身も服を脱ぎ、マリィの着ているドレスを脱がせる。
衣服が滑り落ちるたび、薄暗い部屋の中に、現実のいかなる芸術をも凌駕する、白く透き通るようなマリィの肢体があらわになっていく。
お互いが生まれたままの姿になった瞬間、俺の股間の逸物は、既に天を向きいつでも戦える戦闘状態になっていた。
畳の上に敷いた布団へと横たわると、俺の股間の上に、マリィの淡い金髪がサラサラと流れ、揺れた。
「……こういうことをするのは、初めてだから、もし痛かったり、おかしなところがあったら、教えてね、幹隆」
そう囁くや否や、マリィは俺のペニスを愛おしそうに両手で包み込み、そのまま割れ目から覗く可憐な赤い舌で、亀頭の先端をせっせと舐め始めた。
足元に流れ落ちる彼女の透き通った金髪に、俺はそっと手を触れる。
一本一本が光を織り上げたかのようにシルクのように滑らかで、彼女という存在の神々しさを改めて象徴しているように感じられた。
「んっ……んむ……ちゅ、……れろ、んちゅ……幹隆、ここ、気持ちいいですか?」
「ああ……最高に、気持ちいいよ、マリィ……っ」
とても初めてとは思えない技術で俺の肉棒を刺激してくる。
彼女は奉仕を続けながら、豊満で真っ白な二つの乳房で俺の逸物を挟み込み、熱心に、丁寧に奉仕する。
「んちゅ……ん、……あっ、何か、先っちょから、甘くて熱いお汁が出てきた……れろぉ、……んちゅ」
マリィはそれが何なのか不思議そうに小首を傾げながらも、亀頭の先端から溢れ出た先走り汁を、一滴も逃さぬよう綺麗に舌で舐めとっていく。
「これ……なんだか、すごく美味しいです、……んちゅ……んっ」
「まじかよ、それ、美味しいのか!?」
「はい、……ちゅ、れろ……幹隆の匂いがして、とっても美味しいよ、これ」
そう言って艶っぽく微笑んだ直後、マリィは俺のペニスを、その小さな口の喉の奥深いところまで、一気に深く咥えこんだ。
「んんんっ……じゅるっ……ちゅ、じゅる、んふぅ、く――」
激しい口淫の刺激と共に、マリィの大きく豊かな乳房が目の前で揺れ、その先端にある可愛らしいピンク色の乳首が、ツンと立ち上がっているのが見えた。
俺はその立派な二つの双山を両手で鷲掴みにし、その柔らかさを堪能するように何度も揉みしだいていく。
……もみゅ……もみゅ……。
(くそ、マリィの口の締め付けが凄すぎる……出そうだ!)
その俺の身体の強張りを本能で察知したのか、マリィの口内奉仕の責めは、より一層激しく、深く、容赦のないものへと加速していく。
うぐっ、マリィ、出す、中に、口の中に出すぞ、イクっ……!!」
俺はマリィの瑞々しい口内へと、限界まで溜まった大量の白濁液を、勢いよく解き放った。
―――びゅるるるるるるっ!!
「~~~~~~~~ッ!?!?」
人生で初めて体験する、口内をドクドクと叩く熱い精液の質量に、マリィは翡翠の目を白黒させて驚いていた。
しかし、彼女はそれを吐き出すどころか――。
「んっ……ゴクッ、ゴクッ、ごっくん……っ。はぁ、幹隆の精液、やっぱり、すごく美味しいです……♡」
口元から一筋の白い糸を引かせながら、蕩けた表情でこちらを見上げてくるマリィ。
その姿は、まるで黄昏の女神のように美しく、そして恐ろしいほどに艶やかだった。
そのあまりの淫らな美しさに、俺の理性は消し飛び、本能のままにマリィの身体を押し倒し、その上に覆いかぶさった。
「マリィ、……今度は、中に入れるぞ」
「はい……うん。もっと、もっと幹隆に触れたい。だから、わたしを……全部、幹隆のものにしてください」
俺は片手で自身の肉棒を導き、もう片方の手で、マリィのまだ未成熟で、けれど愛液で濡れそぼった秘所を優しく広げながら、腰をゆっくりと下ろした。
ズブズブと、熱い肉壁を押し広げ、処女の狭い膣内を俺のサイズで埋め込んでいく。
そして、根元の限界まで沈めきった瞬間、ペニスの先端が、彼女の最も神聖な領域である子宮口の入り口へとドスンと衝突した。
俺とマリィは、ついに魂だけでなく、肉体の最も深い最奥のところで一つに繋がったのだ。
「ああ……んっ、んくっ、ああああん……っ! これが……誰かと、触れ合うということ……なんですね、んっ!」
マリィは自身の白く透き通ったお腹を両手で愛おしそうに撫で、体内で蠢く俺の存在を確かめていた。
俺は彼女の狭い締め付けに翻弄されながらも、少しずつ腰を引き、規則的なピストン運動を始めていく。
「あんっ――ん、……すごく、お腹の中で、固くて熱いのが動いてる♡、……幹隆を、わたしの中で、いっぱいに感じる……っあん!」
「……マリィ、お前のナカ、すごく温かくて、ギチギチに締め付けてきて……最高に気持ちいいよ」
「幹隆、もっと、もっと強く抱きしめて、……んっあ……力いっぱい、わたしを抱きしめて……♡」
今まで誰とも触れ合えず、温もりすら拒絶されてきた反動からなのか。
俺はマリィのそのあまりにも切実な要望に応えるため、彼女の細い身体を全力の力で抱きしめ、肉体を密着させた。
(クソ可愛い過ぎる。……この瞬間だけは、毎回何もかもどうでもよくなる)
俺は自身の熱り立つ肉棒を、さらに彼女の最奥へと、子宮を壊さんばかりの勢いで深く沈み込ませていく。
「んっ……ああっ♡ 幹隆、もっと、わたしに生きてる温もりを教えて……んっ、……ああんっ♡」
今までよりも激しく、マリィの膣内を激しく掻き分けていく。
マリィと、ずっとこうして繋がっていたい。ずっと、この腕の中で抱きしめておきたい。
そう思わせるほどの、魔性とも言える魅力が彼女にはあった。
「ああん♡……っ、……あああん、……すごい、すごいよ、幹隆……っ」
すでにマリィは、生まれて初めて知る強烈な快楽の波に呑まれ、小さな絶頂を何度も何度も迎えていた。
彼女の子宮はキュンキュンと愛おしく疼き、俺のペニスを逃がすまいと小刻みな痙攣を繰り返している。
俺の亀頭とマリィの子宮口は、体内で何度も何度も熱烈なキスを交わしていた。
。俺のペニスは、彼女の強烈な締め付けによってパンパンに膨れ上がり、二度目の発射の準備を整えていた。
「マリィ、……そろそろ、限界だ。中に出すぞ」
「出して、……ああんっ、……幹隆の熱いの、いっぱいたくさん、わたしの中に溢れさせて……んんっああんっ♡」
「うぐっ、マリィ。うぐっ、お前を絶対に離さない!……イクっ……!!」
―――びゅるるるるるるるるっ!!!
俺がこの世界で生き抜くという決意、そして彼女への剥き出しの愛着と共に、莫大な量の熱い精液が、彼女の子宮の最奥へと容赦なく注ぎ込まれていく。
射精の衝撃に連動して、マリィの肉ヒダの収縮が狂ったように強くなり、俺の肉棒は引きちぎれんばかりの力で締め付けられていた。
それは、射精が終わった後も、あなたのすべてをここに閉じ込めて逃がさないと必死に懇願しているかのようだった。
「ああああんっ、……すごい、熱いのがたくさん入ってくる♡、……イクっ、また、イクゥゥゥ♡♡……!」
俺の腰にしがみつき、必死に抱きしめながら、マリィは絶頂の凄まじい余韻に身を震わせていた。
初めて知る未知の快感と温もりに、ただただ圧倒されているようでもあった。
「はぁはぁ……幹隆の、あたたかい”想い”が、”感情”が、わたしの中に……いっぱいに流れ込んできた。とっても心地よくて、幸せなの……」
そう答えるマリィの翡翠の瞳には、最初に出会った頃のような虚無ではなく、確かに一人の人間としての、鮮烈な『感情』が宿っていた。
氷のように静かだった翡翠の双眸。その奥底に、消えることのない微かな愛の熱が、ぽっと灯っている。
(原作では、聖遺物を一度破壊され、“藤井連”の魂と混じり合うことで徐々に感情を取り戻したはずだ。なのに、この世界では……)
視線を向けると、マリィは生気を取り戻した表情で、不思議そうに小首を傾げた。
以前の彼女なら、そんな人間らしい仕草すら見せなかっただろう。
(これも……“隷属”の影響なのか?)
確信できるほどの根拠はまだない。だが、少なくとも今の彼女には、確かに“人間としての生”があった。
微かな戸惑い、恥じらい、そして温もりを知った者だけが浮かべる、柔らかな、表情。
「マスター!……次は私の番なんだよ!」
哲学的な考察に耽る暇もなく、布団の中で限界を迎えていたサクラが、勢いよく飛びついてくる。
柔らかな、そしてマリィの熱とはまた違う、情念を帯びたサクラの肉体がぶつかり、そのまま俺は畳の上へと押し倒される。
「わ、分かったから、ちょっと落ち着けってサクラ……っ」
頬を真っ赤に染めながら、サクラは甘えるように俺の胸へと激しく擦り寄ってくる。
俺の精液と愛を求めて理性が蕩けきった、メスの瞳だった。
「……ふふッ、幹隆。わたしも、まだまだ、幹隆とセックスしたいです」
マリィもまた、先ほどまでの無機質さが嘘のように、穏やかで艶やかな笑みを浮かべながら、俺の反対側へと身体を寄せてくる。
始めに出会った頃の無機質さは薄れ、今はどこまでも穏やかで、愛に満ちていた。
俺とサクラの微笑ましいやり取りを眺める彼女の表情は、まるで恋人たちを見守る普通の少女のようで――そのあまりの変貌ぶりが、逆に妙な現実感を失わせる。
(このままずっと、俺が彼女を抱き、交わり続ければ……マリィは、人らしい感情を取り戻すことができるのか?)
そんな疑問が脳裏をよぎる。
だが、その答えを深く思索するより先に、サクラが待ちきれないと言わんばかりに、俺の唇へと自身の唇を強引に重ねてきた。
さらに背後から、マリィの白く細い腕が、そっと俺の身体を優しく、絡みついてくる。
狭い異空間の中、甘い熱だけが際限なく広がっていく。
その後俺は、サクラとマリィに何度も、何度も求められるまま、時間の概念さえ忘れて互いの肉体を貪り合った。
疲労も理性も溶け落ち、気づけば畳の上には、乱れた衣服が散らばっていた。
――そして。
俺の両腕の中には、すやすやと、とても穏やかな寝息を立てて眠る、二人の美しい女神がいた。
サクラは満足そうに俺の胸へと顔を寄せ、マリィは静かな寝顔のまま、その指先だけをしっかりとこちらの服の裾へと掴ませている。
まるでずっと離れたくないとでも言うように。
「……こんな、可愛い顔をして眠るんだな」
小さく、愛おしさを込めて呟く。
眠るマリィの表情には、もうあの呪われた断頭台の無機質な人形の面影はなく――ただ、最愛の男の腕の中で安心しきった、一人の幸福な少女の姿が、確かにそこにあった。
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