ちょっとBL警報です!
「だから、何度も言ったろ? 気に入らないから佑をおれが殺したんだよ。で、転がってた死体を焼いたりとかしたんだが? 何かまずかったか?」
「佑から取り返した、僕の一部を返してくれないのはなぜですか?」
じっと水輝を見つめたまま、優一郎はそう問い掛けた。昨日から水輝の傍で何かが瞬いているのが見える。が、その瞬きは不安定に揺れていて、水輝がどこに隠し持っているのかよく判らない。
「は? それこそ何の話だよ」
笑いながら言って水輝がテーブルに手を伸ばす。皿に乗っていたビスケットを一枚取り上げ、水輝はそれを青藍の手に握らせた。すると青藍がぱっと明るい顔をしてビスケットにかじりつく。
「佑に襲撃されて、奪われたのは覚えています。もしかして、僕がそれを取り戻すことが水輝さんにとって都合が悪いのですか?」
水輝の反応を伺いながら優一郎は静かな声音で告げた。水輝がため息を吐いて苦笑を浮かべ、優一郎を見る。
「だからおれは知らないっての。おまえこそ何でそんなに拘るんだよ」
「それは……」
優一郎は羞恥に思わず顔を歪めた。変なやつ、と水輝が笑う。青藍にねだられて水輝はまた皿の中からビスケットを取り上げた。渡された青藍が嬉しそうにビスケットにかじりつく。
「っと、何か飲むか? 青藍に飲ませるからついでにいれるぞ」
ソファに青藍を下ろして水輝が立ち上がる。
「アイスコーヒーを……」
「了解」
そう言って水輝がキッチンに向かう。その姿を目で追いながら優一郎は考えを巡らせた。交わった時に気持ちよかった理由が知りたいとか、それともされたいと思った理由が知りたいとか、まさかそんなことを口に出来るはずもない。かといってこの調子では水輝にははぐらかされ続けるだろう。
難しい顔で優一郎が考えている間に水輝は三人分の飲み物を持って戻ってきた。優一郎の前には細いグラスが置かれ、向かいの席の前に水輝がマグカップを二つ置く。ソファに腰掛けて水輝は青藍を膝に抱き上げ、マグカップを取り上げて青藍の口に付けた。
「まあ、気にすることねえんじゃねえの? 今は気になってもすぐに忘れるって」
青藍に温めたミルクを飲ませながら水輝が頷く。優一郎は眉を寄せて睨むように水輝を見た。
「でも、でも僕は確かにっ!」
水輝さんが一番だって、言ったんです……あの時……。優一郎は弱々しい声でそう続けた。すると水輝が乾いた声で笑う。
「気のせいだって。なあ、考えてもみろよ。男同士でしかもどっちも結婚してて、子供までいてなあ。互いの連れ合いじゃない奴を一番なんて、変だろ」
そう言って水輝はマグカップを置き、もう一つのカップを手に取った。紅茶を啜りながら水輝が片腕に青藍を抱き直す。
「その連れ合いを討たれたんですよね? 水輝さんは」
優一郎は上目遣いに水輝を見ながらグラスを取り上げた。すると水輝がぴくりと眉を上げて優一郎を黙って見つめる。しばしの間をおいてから水輝は低い声で言った。
「ああ。何となく気に入らなかったから」
だからもういいだろ、その話は。嫌そうに顔を歪めて水輝はそう続けた。優一郎は考えを巡らせながらアイスコーヒーに口をつけた。ストローで吸ったアイスコーヒーの味は優一郎の好みの味にぴったり調整されていた。何度か瞬きをしてまじまじとグラスを見つめてから、優一郎は水輝を見やった。そっぽを向いた水輝は仏頂面で紅茶を啜っている。
「やっぱり、納得できません」
「あー、もう! うぜえな! なにが気にいらねえんだよ!」
怒りに目を吊り上げた水輝が声を荒らげる。その途端にそれまで機嫌良く遊んでいた青藍が泣きそうに顔を歪める。それに気付いた水輝が慌てて青藍をあやす。ごめん、怒ったわけじゃないって。何度か水輝が謝ると、青藍は納得したような顔をしてまたソファの上で遊び始めた。
「僕と、佑は、水輝さんを争って、斬り合いをするような状況になってたはずです」
こみ上げてきた頭痛を堪えて優一郎はその時のことを思い出した。想いが欠けているために詳しいことを思い出すと頭痛がするのだ。こめかみを押さえて軽く呻いた優一郎を水輝が怪訝そうに見る。
「おい……大丈夫か?」
「水輝さんは僕を選んだ、だから佑を殺した、違いますか?」
優一郎が頭痛を堪えながら問うと、水輝がぴたりと押し黙った。じっと優一郎を見つめてしばし口を噤んでから、水輝が諦めたようなため息を吐く。
「何でわざわざ思い出すかな……。放っといて理子と普通に結婚生活してりゃいいものを」
そうぼやいてから水輝ががっくりとうなだれる。しばしその姿勢で静止してから、水輝はのろのろと身を起こした。膝の上によじ登ろうとしていた青藍をソファに下ろしてから、水輝がシャツの襟元を探る。水輝の首にぶら下がっていたネックレスにはいつの間にか透明な宝石がついていた。
「それは……」
まじまじとその石を見つめてから優一郎は水輝を見た。
「水輝さん、それを、返していただけますか?」
「ああ」
ふて腐れた顔をして水輝が宝石を手に包む。淡く光った宝石は水輝の手の中で透明な塊になった。差し伸べた優一郎の手に水輝が塊を乗せる。
「あっ……」
透明な塊は優一郎の手の上ですうっと溶けた。それと同時に優一郎の胸には温かい感覚が蘇った。水輝は仏頂面をしてそっぽを向いている。
「水輝さん……」
「なんだよ」
不機嫌な顔をして水輝がぶっきらぼうに言う。優一郎はにっこりと微笑んで水輝を見つめた。
「愛しています」
「うっ」
そっぽを向いたまま、水輝が呻いて硬直する。じりじりと水輝の頬は赤くなっていった。その様が何だかおかしくて優一郎は思わず笑った。憮然とした顔をして水輝が忌々しそうに舌打ちをする。優一郎は立ち上がって水輝に駆け寄り、抱きついて唇を寄せた。息を飲んだ水輝の唇を塞ぐと、水輝の手からマグカップが滑って床に転がり落ちる。
「あっちー!」
紅茶を腿にぶちまけた水輝が悲鳴を上げる。するとそれまで機嫌良く遊んでいた青藍が不思議そうな顔をして首を傾げる。
「あちー?」
「うわっ、まじで火傷した!」
慌ただしく立ち上がった水輝がバスルームに駆け込む。その後ろ姿を見送って、優一郎は青藍と顔を見合わせて笑い声を上げた。
熱い紅茶は大変だと思うんだ……。