ヤバい状態で駆け抜けるので……。
あ、機械が苦手な方は避けてください。
ごめんな、とすまなさそうな顔をして水輝が給油してくれた。桂は考えを巡らせながらぼんやりと天井を見上げて自慰を続けていた。
「だめ、どう考えても、納得行かない。祝福なんてできない」
眉間に皺を寄せて桂は呟いた。考えても考えても佑が消えてしまったことに納得が出来ない。
『妖精という存在はそういうものなのです。二号』
抑揚のない一号の声が股間から聞こえてくる。桂は難しい顔をして股間を睨みつけた。あの時に花びらになって消えてしまった佑のことが頭からどうしても離れない。佑は結局、自分勝手でわがままな水輝に振り回されてしまっただけなのではないだろうか。二人の間にどんな事情があったかは判らないが、桂にはどうしてもそう思えてならなかった。
『佑も相当、自分勝手で我が侭でしたから。どっちもどっちだと思いますが』
淡々と一号が言うのを聞いて桂は怒りに目を吊り上げた。
「そんな事無い! 佑は……佑は……」
桂は声を震わせて消沈した面持ちになった。佑と巡り会ってからそれほど時間は経っていない。なのに佑と過ごした時間はくっきりと桂の記憶に焼き付いていた。佑と過ごした時間はそれまで生きてきたどんな時間より楽しく、そしてとても大切なものに思えた。
『佑も、最初に森を出た時から覚悟はしていたはずです。妖精が恋をするというのはそれほどの決断なのです』
抑揚のない一号の声が語る。桂はぼんやりとした目で天井を見上げた。
昨日、ここに連れられてから水輝は色んな写真を桂に見せてくれた。佑の写ったそれらを水輝は欲しいならやる、とぶっきらぼうに言った。写真の中で佑はとても嬉しそうな顔をしていた。そして佑の写ったどの写真にも必ず水輝が一緒に写っていた。
佑にはもしかしたら水輝が全てだったのかも知れない。写真を見た桂は酷く悲しい気分になった。
『とりあえず。我々も身の振り方を考えなければなりません。二号どうしますか?』
股間から響いた一号の声に桂は我に返った。
「……まだ、考えられない!」
佑……、どうすればいいの! 桂は目をかたく閉じて心の中で佑に呼びかけた。
『とりあえず、早く決めないとスクラップか記憶消去の道が待っています』
そう告げた一号の声にどことなく笑うような気配が含まれていた気がして桂は思わず眉を寄せた。訝りながら自分の股間をまじまじと見つめる。作り物の女性器を桂の指がしきりに擦っている。
「スクラップはともかく、記憶消去はいや! それだけは駄目!」
わたしまで佑の事を忘れてしまったら……。そう続けてから桂はふと、あることを思い出して首を傾げた。
そう言えばあの時、膣内に潜り込んだ妖精は一体どこに行ってしまったのだろう。『塔』のゲートフロアに着いた後も、そして佑のために扉を開けた時も、佑が消えてしまった後もあの妖精は機体の中から出た様子はない。
「あの……一号? 小さくて羽の生えた妖精居たでしょう? 彼女はどこ?」
桂は何となく小さな声で股間に向かって問い掛けた。それまで強制的に動いていた桂の自慰の手がぴたりと止まり、ゴム製の小陰唇がぱくぱくと開いたり閉じたりを繰り返す。
『まだ中に居ますよ。ここなら飲み水もありますし』
だが妖精はドームの外の住人だ。ここは生きるのには厳しいのではないだろうか。そんなことを思いながら桂は訝りに眉を寄せた。そう言えばついうっかり聞き流してしまったが、さっきの一号の声は気のせいではなく思いっきり笑っていたような気がする。
「また、下水から帰すのは悪いし、とりあえず、妖精を外に放しに行きたい」
そう言いながら身を起こした桂の腹の中でエンジンがうなりを上げて回転する。
「え? な、何?」
驚きに息を飲んで桂は慌てて自分の腹を見下ろした。どるんどるんとエンジンが吹かされると同時に桂の尻から排気ガスが凄い勢いで漏れる。
「やだ! 恥ずかしい……。もうやだっ!」
佑……助けて。消え入りそうな声で桂は呟いた。その途端、何故か股間から笑い声が響く。それを聞いた桂ははっと目を見張って慌てて自分の股間を見ようとした。だがその前に桂の身体が勝手に動き、ベッドから飛び降りて壁に向かって走り出す。悲鳴を上げる間もなく、桂のこぶしは寝室の壁をけたたましい音を立てて破った。砕けた壁から桂が一直線に外に向かって駆け出す。
「逃げられたか……」
背中のずっと向こうで優一郎の声がする。桂は全速力で駆けながら慌てて背後を振り返ろうとした。そんな桂の股間から満足そうな笑い声が響く。
「一号! 逃げるなら逃げるって言って!」
訳が判らず桂は目に涙を浮かべて股間に向かって喚いた。凄まじい勢いで駆け抜ける桂を、通りすがった人が驚いた顔をして見る。だがそんな彼らも桂の目には瞬く間に通り過ぎて見えた。
「どこに向かってるのよ! 一号、答えてっ!」
素っ裸で通りを駆け抜けながら桂は顔を引きつらせた。何かよく判らないが、段々と人通りが多い場所に移動している気がする。そんなことを桂が思っている間に、勝手に身体が動き、道行く人々を桂が軽々と飛び越える。桂は悲鳴を上げて全速力で駆けながらふと気付いた。
これはひょっとしてめちゃめちゃ恥ずかしい!? 桂が漸く気が付いた時、股間から豪快な笑い声が響いた。
「誰? 一号じゃない!?」
桂は息を飲んで股間を見下ろした。そんなことをしている合間にも桂は華麗にジャンプをして人々の頭の上を飛び越していく。通りすがりに桂を見かけた運の悪い人々が唖然として白い空を見上げる。桂は尻から排気ガスを噴きながら、ガソリンが燃焼した際に出る水蒸気が冷えて水になったものを、人々の頭の上に雨のように撒き散らした。
実際に見たら凄い光景だと思う……w