一応、百合警報!
あるひ、おひめさまは、おうじさまにこいをしました。
絵本の中で一際目をひき、今でも魅了するその文章を佑はじっと見下ろした。ぺたんと地面に座った桂がふんふんと頷きながら熱心に絵本を読んでいる。
「どう?」
『貴重な文献です。これこそ私が探し求めていたものです。素晴らしい』
佑の問い掛けに一号が抑揚のない声で答える。佑は頷いて桂の肩から絵本の上に飛び降りた。
絵本に出てくる妖精の姫は、ある日、王子に恋をする。姫は王子に請われるままに妖精の森を出て人となる。しばらくは王子と姫は幸せに暮らした。ところが王子の心が移り変わる。王子はある国の皇女に恋をしてしまうのだ。
妖精の姫は王子との恋に破れ、やがて虚無の花嫁となる。だがその寸前に、国を棄てて出奔した、かつての姫の護衛役を務めていた騎士に救われる。要約すると絵本の内容はそんな感じだ。
絵本を読み終えた桂が感心したように頷く。
「つまり、佑を救うことは可能なのですね!」
絵本を胸に抱いた桂が力を込めてそう言ってこぶしを握りしめる。
「不可能では無いってことね。難しいとは思うけど……」
佑は羽ばたきをして桂の肩にちょこんと座った。翠が何故、この場に姿を現したのか判る気がする。翠が絵本と桂の機体を維持する道具を揃えてくれたのは、後は自分で何とかしてみせろということなのだろう。
「わたしは桂ならできると信じたい。だけど……」
桂はかきあつめてもこの身体に満たないぶんくらいしかなかったのよね……。佑はため息を吐いてそう続けた。桂を想う気持ちが今の佑を動かしている。が、動かせるのは清香のごく小さな身体だけで、それ以上は無理だった。佑は眉を寄せてがりがりと頭をかいた。
正確に言うと桂派はさらに半分で、面白おかしく生きたい派とかとにかくなんでもいいから生きたい派とか総集合していることは黙っておこう。佑は横を向いてそう考えを巡らせた。
すっくと立ち上がった桂が握り固めたこぶしを空に突き上げる。それから桂は荷車を引いて歩き出した。だが翠が用意してくれた道具の中には桂の服はなかった。ので、桂はやっぱり裸のままだ。
「桂、その……、恥ずかしく無かった?」
桂が素っ裸で街を駆け抜けた時のことを思い出しながら、佑はそっと横を向いて訊ねた。ちらりと振り返って桂の尻を見やる。桂の肛門からは今も排気ガスが吐き出されている。
「桂のおしりの穴って四角いのよね……」
しみじみと頷きながら佑は言った。油断すると笑いがこみ上げるので出来るだけ桂が華麗にジャンプした辺りのことは考えないようにする。
「ここ、右ね。それから、時間ぎりぎりになると思うから」
森に入ったところで佑はそう言って右を指した。どるどるどる、とエンジンの音を腹から響かせながら桂が頷く。色々と佑が指摘したからなのか、桂の顔は真っ赤になっている。が、桂は文句一つ言わず、荷車を引いて右の方に向かって進み始めた。
「省エネモードでも、結構パワー出るのね」
『五馬力は出ます。トランスポータに比べれば低いですが、それでも馬五頭分ですから』
佑の問い掛けに一号が淡々と答える。なるほど、と頷いて佑は桂の顔をちらりと伺った。桂は真剣な顔をして進んでいる。
「桂……」
「佑、なんですか?」
そう言って桂が肩に乗った佑を見る。どるどるどる、という桂のエンジン音に驚いたのか、時折、葉擦れの音を立てて生き物が逃げていく。
「もし、わたしに拒絶されても、桂は生きてね」
って凄く我がままな事、言っているかもしれないけど……。そう佑が続けると桂はぎゅっと手を握って力強く頷いた。
「大丈夫。私は佑を必ず連れ戻します」
そう言った桂の身体が唐突にその場から消える。ひぃぃぃぃぃ、という声を上げて桂が落とし穴に落下する。だが桂は穴の中で四肢を横に勢いよく伸ばし、縦穴の壁に手足を突っ張ってよじ登り始めた。
「まずい、パワーが……」
「桂!」
佑は穴の中を飛び降りて桂の左の乳首を身体全体を使って押し込んだ。すると桂の腹から大きなエンジン音が立ち、それまでとは打って変わった勢いで桂がざくざくと穴を昇り始める。
細い縦穴だったからか、荷車は地面の上にきっちり残っていた。地面に這い上がった桂が怖々と深い縦穴を覗き込む。
『レーダーを駆動したほうがいいですね』
一号がそう言った直後、桂の股間でモーターが回る音がした。やがて桂のクリトリスがゆっくりと伸びる。細い金属の棒の先には赤い球がついている。股間から小さなクリトリスを伸ばした桂が真っ赤になる。どうやらこれがアンテナの役目をするらしい。それを見た佑はぷっ、と吹き出し、ばんばんと地面を叩いて腹を抱えて笑った。
「恥ずかしいのに……」
真っ赤になって桂が立ち上がり、荷車をまた引いて歩き始める。佑はふわりと飛んで桂の肩に座った。桂は耳まで真っ赤になっている。
「この身体って桂が自分で設計したのよね?」
桂の股間からぴょこんと飛び出したクリトリスアンテナを見下ろして佑は訊ねた。
「はい。それが何か?」
耳まで赤くなったままで桂がぶっきらぼうに言う。佑は腕組みをしてうんうんと頷いた。
「桂って、本当に面白い発想するわよね」
きっと桂といると退屈せずに済むに違いない。そんなことを思いながら佑は何度も頷いた。
「私は私で、変えることはできませんから。佑は、こんな私は嫌いですか?」
急に不安そうな顔をして桂がおずおずと訊ねる。それを聞いた佑はにっこりと笑ってみせた。
「ううん。わたしは面白可愛い桂が大好きってずっと言ってるでしょう?」
桂の顔立ちは本当に愛らしく、特に恥ずかしがるところなどは見ていると胸がきゅんと切なくなるような感じもする。そんな可愛い桂が股間からクリトリスアンテナをはやしたりするから面白いのだ。そんなことを考えながら佑は一人で何度も頷いた。
桂は面白い仕様なのですが。
本人が設計したので仕方ありませんね!w