が、BL風味なので気を付けてください。
その日の仕事を終え、優一郎は水輝の家に向かった。桂の居所はまだはっきりとしない。考え事をしながら歩いていた優一郎は、唐突に声を掛けられてびくりと身を竦めた。
「早いじゃん」
嬉しそうに笑って水輝が優一郎の持っていた鞄をひょいと取り上げる。道で出くわした水輝は青藍を肩車していた。どうやら散歩か何かをしていたらしい。
「ええ、今日はゆっくりしたかったので」
にっこりと笑った優一郎に向かって青藍が手を伸ばす。
「まーま、おかえりー」
あどけない笑みを浮かべて青藍がだっこをせがむ。おいおい、と苦笑する水輝の肩の上から青藍を抱き上げる。優一郎が腕に抱えると青藍は嬉しそうな声を上げた。よしよしと頭を撫でると青藍が優一郎の胸に顔を擦りつける。
「じゃ、帰るか」
行くぞー、と声を掛けて水輝が家の方に向かって歩き出す。夕飯は、と優一郎が問うと水輝が胸を張ってみせた。どうやら今日は水輝が作ったらしい。
「あんま上手くないけどな。一応、味見もしたから大丈夫だと思うが」
「いただきます」
心から喜んで優一郎は満面に笑みを浮かべた。すると水輝がうっ、と低い声で呻いて口許を手で覆う。ぷるぷると震える水輝を優一郎は不思議そうな顔をして見た。
「破壊力すげえな、おまえの全開の笑みって。他の男に見せんなよ、こら」
そう言って水輝がこつん、と優一郎の頭を軽く叩く。そんな話をしながら優一郎は水輝と青藍と一緒に家に向かった。
玄関を開けるといい香りがする。これはシチューに違いない、と笑みを浮かべて優一郎は慌ただしく家の中に入った。案の定、コンロの上に大きな鍋がかかっている。
「レトルトのルー使ったからな。期待すんなよ、あんまり」
ほら、座れ。そう言われて優一郎は青藍と並んでダイニングテーブルについた。テーブルの上には食器がきちんと用意されている。青藍が何かの歌を歌いながらスプーンでプラスチックのコップをこつこつと叩く。優一郎はいそいそと立ち上がり、食事の準備を手伝った。
「あ、こら! 座ってろって言ったのに」
用意されていたパンを温め始めた優一郎に水輝が笑いながら言う。
「せっかくですから」
「じゃあ、冷蔵庫のサラダ出して。あとはー」
鍋をおたまでかき混ぜながら水輝が言うことに頷き、優一郎はテーブルに料理を並べていった。青藍が目を輝かせて籠に入れておいたパンに手を伸ばす。
「あー、先に食わせてやってくれ」
テーブルを振り返った水輝がそう言って顎をしゃくる。優一郎は籠の中からパンを一つ取り上げ、青藍の皿にのせた。
準備が済み、水輝が食卓についたところで、いただきます、と挨拶をする。するとパンを先にかじっていた青藍が手を合わせて挨拶する。おまえの場合はいただいてますだろ、と水輝が青藍に苦笑する。
「いただきます」
そう挨拶をして優一郎は水輝の作った料理を食べ始めた。水輝がスプーンを握って優一郎の顔色を伺う。
「美味いか?」
「はい」
優一郎がにっこりと笑うと水輝が大きな息を吐いて微かな笑みを浮かべる。
「よかった。おまえの作る飯が美味いから、口に合わなかったらやべーなあと思ってて」
そんなことを言いながら水輝が料理に手をつける。三人で話をしながら食事を済ませ、デザートを食べてお茶を飲んだ後、優一郎は青藍と一緒に風呂に入った。元気に暴れる青藍の身体をつかまえて強引に洗う。
青藍は風呂から上がった後、ベッドですぐに眠りに就いてしまった。寝室にはいつの間にか青藍のためのベッドが入れてあった。きっと水輝がどこかで買ってきたのだろう。優一郎は青藍の寝顔をしばし見つめてからリビングに戻った。
「おつかれさん」
食器を片付けていた水輝がキッチンから声を掛けてくる。優一郎は何となく気になってキッチンに入った。洗い物を済ませた水輝が冷蔵庫から何かを取り出す。
「じゃーん。プリンだ!」
懐かしいだろう、と笑って水輝が容器に入ったプリンを二つ、テーブルに乗せる。優一郎はそれを見て思わずくすりと笑った。水輝に促されて優一郎はリビングに戻った。ソファに腰掛けた優一郎の手に水輝がプリンとスプーンを乗せる。
「学校の食堂でこれ食うのが好きでさ。すげえ安いやつな」
自動販売機で買って食ってたなあ、と笑いながら水輝がプリンを美味そうに食べ始める。優一郎は微笑みを浮かべてプリンの蓋を開けた。
「それでは、いただきます」
笑顔で言って優一郎はプリンをすくって口に運んだ。機嫌良くプリンを食べながら水輝が言う。
「昨日、あっちで暮らしてた頃のこと思い出してな。何となく食いたくなって買ってみた。でも……」
そこまで言って水輝がふと口を噤む。優一郎は不思議に思って水輝を見つめた。しばし黙ってから水輝が苦笑する。
「あんまり覚えてないんだよな。人の顔とか凄くおぼろげで」
「そういうものでしょう? 記憶は薄れていくのが普通です」
微笑みを浮かべて答えてから、優一郎はプリンを口に運んだ。そうだよなあ、と水輝が呟く。
「昨日、奈月に会ったろ? ちょっと拍子抜けした。あんなに大事だと思ってたのになあ……。抱いた時の感触とかまで思い出せるんだが、感情がついてこないっていうか」
そう言ってから水輝がなに言ってんだろな、と苦笑する。どうやら水輝の頭の中で言いたいことが上手くまとまらなかったらしい。優一郎は食べ終えて空いたプリンの容器をテーブルに置いた。
「思い出と現実とは、どうしてもずれが生じるものですからね」
「んー、そういうもんなんだろうなあ。こないだまで佑が寝てたベッドなのに、今のおれってベッドの隣に優一郎がいないか探してるもんな」
水輝が笑い混じりに言ってプリンの乗ったスプーンを口に突っ込む。それを聞いた優一郎は、自分が水輝の想いを失っていた時のことを思い出した。まさか。いや、そんなはずは。心の底で呟いた優一郎は、視線を感じて目をあげた。
「悪い。もしかして女の話とかしない方がいいか?」
どうやら黙ってしまった優一郎のことを心配しているらしい。水輝が眉を寄せて優一郎をじっと見つめる。
「いいえ。でも、僕が一番なんでしょう?」
「ああ」
水輝が優しい笑みを浮かべて頷く。その直後、水輝は低く呻いて優一郎から目を逸らした。
「一応、おれでも恥ずかしいんだからな。何度も訊くなよ」
小声でぼそぼそと言う水輝の頬が赤くなる。優一郎はにっこりと笑って言った。
「僕も、水輝さんのことを、誰よりも愛しています」
「あー……」
低い声で呻いた水輝が唐突に残っていたプリンをかき込む。何事かと目を見張った優一郎の頭を捕まえ、水輝は優一郎の口の中にプリンを流し込んだ。優一郎は口移しで入れられたプリンを飲み込んでから苦笑した。水輝はいつの間にか真っ赤になっている。
「あー、もう! おれ、風呂入ってくる! ベッドで待ってろ! いいな!」
びしりと優一郎を指差してから水輝が大股でリビングを出て行く。そんな水輝を見送ってから優一郎は静かに立ち上がった。
二人とも今は幸せそうな感じです!
今は!w