※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


湖と創造者

 給油を終え、荷車にポリタンクを戻してから桂は小舟の傍に戻った。虹色の妖精たちは心配そうに佑の身体の周りを飛んでいる。夜が明けて周囲はすっかり明るくなっている。あの陽が天頂にかかった時が勝負なのだ。桂はぐっ、とこぶしを握りかためて周囲を伺った。

 

 湖面はまるで鏡のように静かだ。なのに不思議と湖にはなにも映りこんでいない。周辺を囲む木々は風に吹かれて葉や枝を揺らすのに、湖面はさざ波一つ立たないのだ。

 

 桂の腹のエンジンがどるどるどると音を立てる。クリトリスアンテナが伸びて股間からにょっきりと顔を出す。桂は慌てて自分の身体を見下ろした。乳首が勃ち、先端がじりじりと伸びながら色鮮やかな光を点滅させる。

 

『一見、まともに見えますが、このあたりの時空異常レベルは常識の範囲を超えていますね。佑、今は探索中ですので、機体に触れないでください』

 

 こっそりと乳首に触れようとしていた佑が一号の忠告を受け、渋々といった顔で少し離れる。桂は不思議に思って周囲を見回した。一号の言う通り、辺りは確かにごく普通の景色に見える。

 

『本当にこの湖の底は虚無へと通じているのかもしれませんね』

 

 一号の言うのを聞いて桂は湖に目を戻した。湖の水は透き通っていて綺麗だ。なのに風を受けてもさざ波一つ立たず、静かなままだ。周囲の木々や空の色を映すこともなく、鏡のように静まり返っている。

 

「何もない場所に繋がってるって、わたしたち妖精の間では言い伝えられているみたいね」

 

 虹色の小さな妖精に混ざってふわふわと飛んでいた佑がそう言う。小舟の周辺を飛んでいた妖精が佑の言ったことに頷きながら鈴の音を立てる。佑は彼らの方を向いて小さな鈴の音の声で返事をした。

 

『佑を沈めてみれば、そのあたり、解明できるかもしれませんね』

 

 一号が抑揚のない声で言う。桂はそれを聞いて股間を睨みつけた。思わず殴りたい衝動に駆られるが、自分の身体で痛いのは自分なのでやめておく。

 

「そうね。無理だったらきちんと測定して、役立ててね」

 

 佑までがにっこりと笑ってそんなことを言う。桂はこぶしを握り固めてぶるぶると手を震わせた。

 

「桂、もうすぐ、わたしは身体に戻るわ。せっかく来てもらって悪いけど、引き止めに成功する可能性はほとんどゼロに近いと思う」

 

 静かな声音で言って佑がふわりと桂の目の前に飛んでくる。その瞬間、桂の長く伸びた乳首の先端で光がもの凄い速さで瞬いた。桂はぎょっとして自分の胸元を見下ろした。

 

『そろそろ、始まったみたいですね』

 

 一号の声に驚いて桂は慌てて小舟を見た。

 

 不意に湖の表面に小さな波が立つ。湖面が震え、佑の身体を乗せた船のすぐ傍の水の上に何かが現れる。それは七色の光の帯の先端だった。

 

「それじゃあ、行くね。桂、また会えることを祈ってる」

 

 そう言って佑が桂にキスをした後、佑から虹色の光が飛び出した。一瞬で佑の姿が変わる。見覚えのない妖精がその場に現れ、りんりんと鈴の音を立てた。これがきっと佑の言った清香なのだろう。

 

 七色の光の帯が少しずつ空に向かって伸びていく。妖精たちが一斉に鈴の音を立てる。桂は緊張に身を固め、その様を見守った。

 

『桂。気をつけてください。何か来ます。緊急事態です』

 

 一号が抑揚のない声で言う。桂ははっとして慌てて小舟を庇った。湖面から現れた七色の光の帯が緩やかに空へと伸びていく。

 

「センサーを駆動してくれて、助かったよ」

 

 不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。桂は息を飲んで声のした方を見た。にっこりと笑った優一郎が湖の傍に現れている。

 

「まだ、集まりきっては居ないようだね」

 

 そう言ってから優一郎が湖から伸びた虹に目をやる。桂は小舟に覆い被さり、優一郎を睨みつけた。

 

「佑に完全に手懐けられてしまったみたいだね」

 

 ため息を吐きながら優一郎が言う。桂は歯を食いしばって優一郎を睨みつけた。最初は優一郎に憧れていた。『塔』で初めて見た優一郎はとても理知的で、すぐに心惹かれた。だが今はもう違う。

 

「何をしに来たの! 佑に危害を加えるつもりなら、あっ」

 

 一瞬で迫った優一郎の抜き打ちを桂の身体は自動的に避けた。地面を蹴った優一郎が凄まじい速さで桂の懐に飛び込んでくる。だが桂がそれを自覚する前に、桂の身体は優一郎の揮った刀を避けた。

 

「なかなか、やるね。さすがに大量殺人犯は違う」

 

 そう言って優一郎が嗤う。それを聞いた桂はぎくりと首を竦めた。青い刀を握り直した優一郎が鋭い息を吐いて間を詰めてくる。桂の身体は自動的に切っ先を避け、優一郎から飛び離れて間を取った。

 

「君がドームの天井をぶちやぶったせいで、どれだけの被害が出たか、知っているかい?」

 

 まあ、佑の指示通りに動いただけで、君の責任では無いのかも知れないけれど。そう続けて優一郎が意味ありげな笑みを浮かべる。桂は目を見張って優一郎を凝視した。

 

 そう言えばゲートのたくさんあるあのフロアで、外に続く扉が壊れただけでそのフロアにいた人々は死んでしまった。ドームの中の人間にはここの空気が毒になる。そのことを思い出して桂は愕然とした。

 

「破壊処分、されても文句は言えないってこと。わかるよね?」

 

 淡々と優一郎が言う。桂は呼吸を整えて優一郎を睨みつけた。

 

「私は処分されるわけにはいかない!」

 

 そう叫んで桂は一気に優一郎との間を詰めた。放った手刀が優一郎の脇を掠める。飛び離れたところで優一郎は驚いたように白衣の破れたところと桂とを見比べた。どうやら余裕で避けたつもりだったらしい。だが桂の手刀は優一郎の脇を掠め、服に裂き傷を作っていた。

 

「創造者に手を上げるなんてとんだ失敗作だね。遊びはここまで」

 

 優一郎がそう言った直後、桂の身体はぴたりと動きを止めた。そのまま傾いで仰向けに倒れ込む。

 

『念動力によって拘束されたようです』

 

 抑揚のない一号の声が股間から響く。桂は必死で起きあがろうとした。だがどんなに力を込めようとしても身体が動かせない。そんなことをしている間に優一郎がゆっくりと桂に近付いてくる。

 

「ごめんね。失敗作にしてしまったのは僕の責任だ」

 

 そう言いながら優一郎が倒れた桂の顔に足を乗せる。だめ、佑を助けなきゃいけないのに、私は、まだ死ねないのに。優一郎の靴底を見ながら桂は必死で動こうとした。だが桂の思いとは裏腹に身体はどうやっても動かせない。

 

「それじゃあ、さよなら」

 

 優一郎が足に力をこめる。桂は頭部フレームが砕ける音を聞きながら意識を闇に落とした。

 

***

 

 

 端末で自分のいる位置を確かめながら、水輝は森の上空に浮いて写真を撮っていた。

 

「うわ、ひでえな……。この辺り、めちゃくちゃじゃねえか」

 

 カメラに森の様子を写しながら水輝はしかめ面をした。写真には写らないだろうが、この森にはあちこちに時空の歪みがある。難しい顔をして水輝は宙であぐらをかいた。

 

 視界の隅に何かが映る。水輝は何となくそちらを向いて眉を寄せた。森の中から何故か虹が伸びている。

 

「雨も降ってないのに?」

 

 そう呟いて水輝は空を見上げた。雲一つない快晴だ。そのことを見て取ってから水輝は虹に目を戻した。離れたところに微かに見える虹はゆっくりと空に向かって伸びている。水輝はしばし思案してから頷いた。時空の歪みの地図は作る必要があるが、別に時間はおしていない。それにあの虹の伸びている辺りは妙な力場があるようだ。

 

「確かめてみっか」

 

 水輝は高速で空を飛び、一気に虹に近付いた。そこで見覚えのある気配が意識の端に引っかかる。空中でぴたりと止まり、水輝は訝りの目で森を見下ろした。虹の根元には遠く、湖があるのが見える。その傍に何故か優一郎の気配があるのだ。

 

「なにしてんだ? んなとこで」

 

 そう呟いて水輝は何となく虹に手を伸ばした。触れた瞬間、虹が一気に伸びて空に掛かる。水輝は驚いて自分の手と傍の虹とを見比べた。

 

「感触があるし。なんだ、これ?」

 

 そう言いながら水輝はぺたぺたと虹に触れた。まるで滑り台のような形で虹は伸びている。その虹の上を何かが滑って湖の方へと流れていく。どうやらこの虹は特殊な力で作られているらしい。水輝が触れたことでよりはっきりと形が出来たのだろう。

 

「まあよく判らんが……。行ってみっか」

 

 水輝はそう呟いて湖の端に向かって飛び始めた。




桂がー!
このシーンはエロシーンではないのですが、メカ的にはそういう意味も含まれていたりします。

水輝のシーンが短かったので後ろにつけました。
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