※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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ちょっとBL警報です!


何だかおかしい気がする

 優一郎は憮然とした面持ちをして脇腹に手を当てた。

 

「人形の分際で」

 

 ぼそりと呟いて優一郎は頭部を踏み抜いた桂を見下ろした。優一郎の脇腹にはごく薄い傷が出来ていた。その傷を治療してから、優一郎ははっとして振り返った。

 

 佑は!? 復活する前になんとかしないと。そう思った優一郎は湖から伸びた虹を見て息を飲んだ。いつの間にか虹が空に橋となって架かり、その上を虹色の煌めきが滑って小舟に落ちている。優一郎は慌てて小舟に駆け寄った。

 

「まだ、力が戻りきっていないのか」

 

 優一郎は小舟に佑がまだ横たわっているのを見てほっと息を吐いた。滑り落ちた虹色の煌めきが佑の乗る小舟に注がれている。その小舟に横たわる佑が着ている純白のウェディングドレスを見て優一郎は言いようのない苛立ちを覚えた。

 

「どういう策略だったのか、なんとなく想像がつくけど、詰めが甘かったね」

 

 そう言って優一郎は嗤った。小舟の周囲には虹色の小さな妖精が無数に飛んでいる。小さな鈴の音が響いているところをみると、それが彼らの話し言葉のようだ。

 

「なにしてんだ? 優一郎」

 

 不意に水輝の声が聞こえてきて優一郎はぎくりと肩を竦めた。ふわりと優一郎の傍に水輝が舞い降りてくる。

 

「み、水輝さん! どうしてここに?」

「え? ああ、仕事だ、仕事。この森の調査依頼が来てて」

 

 そこまで言ってから水輝が怪訝そうに優一郎の傍の小舟を見る。

 

「調査依頼?」

 

 優一郎は訝りを覚えてそう問い返した。すると水輝が優一郎に目を戻して頷く。

 

「ああ。上空写真と時空の歪みの地図を作る簡単な仕事だ。って、優一郎は何でこんなところにいるんだよ」

 

 説明をしてから水輝がしかめ面をする。

 

「大量殺人犯と化したMタイプの一号試験機を処分しようと思いまして」

「は? 大量殺人?」

 

 優一郎が説明すると今度は水輝が訝りの表情をする。優一郎は頭部の損壊した桂を指差してみせた。少し離れたところに横たわる桂を見た水輝が難しい顔をする。

 

「一昨日のドーム破壊事件の犯人はあれです。握りつぶしましたが、裸で街をトランスポータよりも高速に走るなどの奇行も目撃されています」

 

 騒ぎの報告を受けた時のことを思い出して優一郎は苦い顔をした。すると水輝が眉を寄せて呆れたような顔で桂を見る。

 

「それは相当目立っただろ。なるほど、ドームを壊したのはあいつか……。奈月がめちゃくちゃな魔法使ったから、死んだ奴も生き返ったけどな」

 

 頭をかきながら水輝が言う。

 

「説得を試みましたが、反撃をしてきましたので、破壊しました。油断していたとはいえ、手刀で傷を受けてしまいましたよ」

 

 そう言って優一郎が苦笑すると、水輝が急に剣呑な目をして桂を睨む。それから水輝は優一郎の傍に屈み込んだ。破れた服を確かめるように水輝が優一郎の脇腹に触れる。

 

「もう治したのか? 大丈夫か?」

 

 心配そうな顔をして水輝が言う。

 

「大丈夫だと、思うんですけど……。あっ……」

 

 水輝の指が脇腹に触れる。優一郎は微かに声を漏らしてその場にぺたりと座り込んだ。ふむ、と呟いた水輝が悪戯っぽい笑みを浮かべて優一郎の脇腹に顔を伏せる。破れた服の隙間から脇腹を舐められて優一郎は思わず身体を震わせた。

 

「んっ、水輝さん!」

 

 頭がくらりとするような快感を覚えて優一郎は水輝の頭に震える手を乗せた。しばらく脇腹を舐めてから水輝が顔を上げる。その顔は何故か訝りに満ちていた。

 

「あれ……? 変だな……」

 

 水輝が低い声で呟く。

 

「どうしたんですか?」

 

 心配になって優一郎はそう問い掛けた。すると水輝が困ったような顔をしていきなり優一郎の唇を塞ぐ。目を見張った優一郎の身体を抱き、水輝が唇を開いて舌を伸ばす。されるがままに優一郎は口に滑り込んできた水輝の舌に自分の舌を絡めた。しばし深く口づけしてから、水輝がふと優一郎を放す。

 

「あれ……? なんでだ……?」

 

 水輝が額に手を当てて呆然とした表情で呟く。

 

「水輝さん! 大丈夫ですか?」

 

 優一郎は慌てて水輝にそう問い掛けた。水輝が唇を引き結んでまじまじと優一郎を見る。優一郎だよな、と呟いてから水輝は難しい顔をしてその場に座り込んだ。

 

「水輝さん。いったい、何が?」

「いや……その……あんまり気持ちよく……なかったから」

 

 難しい顔をしたままで水輝がぼそぼそと呟く。それを聞いた優一郎は驚きに目を見張った。きっと水輝が言っているのはさっきのキスだろう。だが優一郎は水輝と触れてこれまでと同じように心地の良さを感じることが出来たのだ。

 

「まさか……」

 

 優一郎は険しい顔をして佑の乗る小舟を見た。空に架かった虹がゆっくりと消えていく。

 

「水輝さん。想いの力の減少とか、そういう感じではありませんか?」

「想いの力? そう言えば色々と思い出せなくなってて」

 

 水輝がそう言ってから説明し始める。三群にいた頃に関わっていた人々のことや、佑のことがよく思い出せないらしい。出来事ははっきりと判るのに、思い出そうとした人物などが記憶の中でやけにぼやけているのだという。

 

「記憶としてどういう事が起こったのかは覚えているのに、その人物に対してどういう感情を抱いていたのか思い出せない。そんな感じではないですか?」

「ああ、そんな感じかな」

 

 優一郎の問い掛けに水輝が頷いてみせる。優一郎はしばし水輝を見つめてから、佑の乗る小舟を見やった。




次のエピソードと続いているのですが長いので切りました。
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