「水輝は力についてどう思ってる? これまで私が会ったハイブリッドの中には、力を拠り所にしてアイデンティティを築いていた者も居たと思うの。水輝にとって力はどんなもの?」
「どんなものもなにも、おれを構成してるのはある意味では力そのものだからなー。改めて訊かれても答えに困るが」
そこまで言ってから水輝は腕組みをして天井を仰いだ。うーん、と考えを巡らせてからちらりと桂を伺う。
「おれそのもの。って答えが一番近いか?」
「やっぱり、水輝は違う、のね。他の誰かが言ったら不遜な答えだと思うけど、水輝が言っているのは事実だわ」
そう言ってから桂は少し目を細めた。
「オーラの眩しさから違うもの。博士や、博士の奥さんもだけど」
自嘲気味な笑みを浮かべた桂を少しの間見つめ、水輝はふっと視線を逸らした。
「特殊な空間でな。あらゆる力をかける実験をしててな」
水輝は少し俯いてぽつぽつと言葉を継いだ。それまで自嘲気味な笑みを浮かべていた桂が興味深そうな顔をして頷く。その様子をちらりと見やってから、水輝はため息混じりに言った。
「たまたまその時に、空間の中心に光みたいなものが出来た。その光に少しずつ力を纏わせたら、今度は光が形になった。それがおれだ」
今はもう、その記録も闇の彼方へと葬り去られている。だがハイブリッドの出来た経緯を知る者は数は少ないが存在する。
「その頃からあおかったの?」
「さあな。ただ、三群に放り込まれた時にはこの色だったと思うぜ。その前にさんざっぱら実験が繰り返された訳だが」
「光の塊と純粋な力を混ぜ合わせたからハイブリッドなの?」
それを聞いて水輝はうーん、と首を捻った。
「力が光になった訳だから、混ぜた訳じゃねえな。形が出来たところで色んな属性ってのを混ぜて……あー、この辺りの話は面倒だからあんまり覚えてねえんだよ」
水輝はしかめ面をして頭をかいた。さりげなく手を桂の肩に乗せて軽く押す。興味津々の顔で身を乗り出していた桂が慌てたように水輝から離れる。
「水輝、どうしたの?」
「キスしたくなるからあんまり近付くな」
少し頬を染めた桂にぶっきらぼうに言い放ってから、水輝はええと、と口の中で呟いた。
「とにかくだ。出来たおれは色んな実験のついでに輪姦されたりとかまあ色々あったわけだ。当時の『塔』は女日照りでなー」
懐かしく思い出しながら水輝はうんうん、と頷いた。
「男娼として造られたというのが世間一般に流布している俗説ね」
「ああ。まあ、気持ち良かったんじゃねえか? 今でも入れたら速攻でいっちまうのは変わってないらしいがな」
のんびりと言って水輝はソファに寄りかかった。
「私の知り合いの女性の中に、変な意味で、水輝に憧れている人たちがいるわ。似顔絵でいやらしい物語を描いたり……」
それを聞いた水輝は思わず笑い声を上げた。どこの世界、いつの時代にもそう言った趣味の女性はいるのだろうか。口許を押さえ、声を殺して笑う水輝を桂が訝りの目で見る。
「水輝。できるだけ、客観的に考えたのだけど、私達のほうがおかしいと思うの。アカデミーで教えている事は嘘だらけだし」
「いやあ、アカデミーは必要だろ。『塔』を維持するための人材を育成する場所だからなー」
笑いを堪えて水輝は何とか言葉を継いだ。
「そうね。歯車を造る工場。比喩的な意味で機械のような者を造る場所。だから私は本当の意味で機械になってみたの」
「まあ、あんたの人生だ。どう生きようがあんたの自由だろ」
誰も止めないし、好きにすりゃいいさ。そう続けてから水輝はジーンズのポケットから端末を引っ張り出した。そろそろいい時間だろう。このくらいなら出ても疑われることはなさそうだ。
「もう、行くの?」
怯えたような表情で桂が言う。水輝は端末をポケットにしまい込んでから苦笑した。
「優一郎には抱いたとかてきとうに言っておけばいいんだろ? 処女膜ついてて困るならあんたが自分で何とかすればいいが、優一郎は特にその辺りは気にしないと思うがな」
「博士は設計図のパターンをいくつか示してくれただけよ。この身体は自分で造ったし、維持も自分でしているわ。処女膜は必要ないと思ったから私には存在しないわ」
淡々とした口調で桂が言うのを聞いて水輝はふうん、と口の中で呟いた。どうやら優一郎は本当に桂をそういう目では見ていないらしい。
「じゃあ何で怯えるんだよ。別におれは優一郎になにかばらしたりはしないぞ?」
不思議に思って水輝はそう問い掛けた。
「機械化人には業というか、特性があるの……」
「まさか性的刺激がないと維持できないとか面白いこと言うなよ?」
水輝は嫌な予感を覚えて小声で訊ねた。すると案の定、桂が泣きそうな顔をする。
「どうして知っているの? って読んだのね。その通りよ。最近は仮睡眠の間中自ら慰めても足らなくて……。限界なの……」
「読んだ訳じゃねえ。前に似たような話を……あー、もう! 判ったからそんな顔するな!」
泣きそうな顔で見つめられて水輝は降参した。ちょっと待ってろ、と言い置いてからポケットを探る。手のひらに納まるサイズの通信機を取り出し、耳にセットしてから水輝はえへん、と咳払いをした。コールするとすぐに相手が出る。
「あ、佑。悪い、今から女と寝るが許せ」
相手が出るなり、水輝は平坦な声で言った。すると通信機の向こうでため息を吐く音がする。
『わざわざ言ってくるって事は、切羽詰まってるのね。優一郎が悪いんだろうから二、三発殴っておくわ』
「殴るな。それに切羽詰まってるのはおれが勝手にやってることだ。浮気になるから事前に断ってんだよ」
水輝はしかめ面をして頭をかきながらそう言った。
『ちょっと、まさか、けっこうクラってきたってこと?』
「そう。相手が女にしか見えねえんだよ」
憮然として言いながら水輝はちらりと横を見た。桂がはらはらとした顔で水輝を見守っている。心配するな、という意味を込めて軽く桂の肩を叩き、水輝は言葉を継いだ。
「おれが愛してるのは佑だから許せ」
腕組みをして水輝はきっぱりと言い切った。
『了解。きっちり、責任持っていかせてあげなさいよ! それじゃあ、わたしは不貞寝してるから!』
そこで唐突に通信が切れる。水輝はため息を吐いて耳から通信機を外した。これは相当怒っている。帰ったらきっと言い訳だけでは済まないだろう。そんなことを思いながら水輝は通信機をポケットにしまいこんだ。
「水輝。奥さんの事愛しているなら、駄目。そろそろ、大丈夫だと思うから、行って……」
「だから、寝るっつってんだろ」
不機嫌な顔で言って水輝は桂の腕を取って引き寄せた。戸惑う顔をした桂の唇を強引に塞ぐ。驚いたように息を飲んだ桂を片腕に抱き寄せ、もう片方の手で桂の頭を支える。柔らかな髪の間に指を滑らせ、水輝は桂の唇を舌でこじ開けた。
移動する前のとこにいたヒューマノイドと機械化人が同じ特性を持ってたので、水輝がまたかー! と心の中で叫んでいますw