「いつ再会するかもわかりません。用心に越したことは無いと考えたのでは?」
「滅びた連中もか? あり得んだろ、それは」
難しい顔をして言ってから、水輝がふと佑を見る。まじまじと佑を見てから水輝はため息を吐いた。
「それに……こいつに対する感情が消えてるのはどう説明する?」
そう言ってから水輝が佑を指差してみせる。佑は泣きながら水輝を見た。
「自分への想いだけ戻っていたら疑われると考えたのでしょう。機会を見て戻せばいいわけですし」
優一郎が腕組みをしてうんうんと頷く。水輝がまじまじと佑を見てからぼそりと言う。
「戻せるのか?」
「水輝さんも……わたしのこと、疑うの?」
「いや。疑うもなにもなあ……。どっちの言うこと信用すべきか判らんってのが正直なところだな」
水輝が渋い顔をして言ってため息を吐く。
「水輝さんは、優一郎のことを愛しているのよね?」
「それが……よく判んねえんだよ。そうだと思うんだけど、そうじゃないみたいな……」
佑が訊ねると水輝は意外にもしかめ面をしてそう答えた。それを聞いた佑は仰天して水輝と優一郎を見比べた。
「水輝さんっ! 僕のことが好きだって、これまでとは比べものにならないくらいに感じたって、仰ったじゃないですか!」
切羽詰まった顔をして優一郎が声を張り上げる。水輝は困惑した顔をして頭をかいた。
「あ、ああ。そう……なんだよな。うん、そう思うんだが、何かがついてこないっていうか」
苦しげに顔を歪めて水輝が呻く。
「やっぱり、術にかかっているんですね。佑、返してください。これ以上しらばっくれるなら……」
そう言って優一郎が嗤う。佑は驚いて優一郎と水輝を見比べた。そんなことをした覚えがまるでないのだ。だが確かに水輝の反応が妙なことは判る。
「わたし、そんなことしてない! 水輝さん、信じてっ!」
佑は胸に手を当てて懸命に訴えた。水輝が苦しげに顔を歪めて優一郎と佑を見比べる。
「あのな。とにかく揉めるな。おれの前でやりあったら旅に出るって言ったよな? 何なら今から虚ろに飛び込むぞ?」
そう言って水輝がひょいと湖を指差す。
「わかりました」
「わたし、わたしは何も……」
優一郎が頷いた後、佑は消え入りそうな声で答えて堪えきれずに泣き出した。すると水輝が呆れたように佑を見てからため息を吐く。
「おい、優一郎。面倒だからこいつの記憶読ませてもらえよ。それで本当か嘘か判るだろ? 佑も嫌じゃなかったらそうしたらどうだ? もし誤解なら解けるだろうし」
それにおれはいいかげん仕事に戻りたいんだがな。もの凄く嫌そうな顔をして水輝が言う。佑は顔を上げて優一郎を見た。
「いやっ! 優一郎には見られたくないっ」
「やっぱり……」
そう言って優一郎が嗤う。水輝がやれやれとため息を吐いてから自分を指差してみせる。
「じゃあおれならどうだ? 記憶っつっても大したこと読むわけじゃねえし、嫌じゃなかったら請け負うが?」
「水輝さんならっ、ぜんぜんオッケーっていうか、あのっ!」
佑は真っ赤になっていそいそと水輝の傍に寄った。すると優一郎がうろんな目をして佑を見る。
「水輝さん、気をつけてください。この機会に術を使ってくるかもしれません」
「目の前でやられたら、さすがに優一郎にも見えるだろ? その時は止めればいい」
そう言うが早いか、水輝が佑の肩を抱いて額を合わせる。てっきり口づけをしてもらえると思った佑は目を細めて思わずちっ、と舌打ちをした。水輝が目を閉じてじっと黙り込む。
「どう、ですか?」
優一郎が小声で問うと、水輝が顔を上げて佑から手を放した。
「どうやらこいつの言うことに間違いはねえらしいな。特に何かした形跡はない……にしても、おまえの頭の中にはおれしかないのか」
呆れた顔をして水輝が言う。佑は地面に腰を下ろしてしょんぼりと肩を落とした。
「だって、わたしは……」
不意に背後でかさかさと草の触れる音がする。佑は訝りを覚えて振り返った。同時に水輝が振り返って唖然とした顔になる。
『おとりこみ中のところ申し訳ありません』
仰向けの身体から生えた手足があり得ない角度で曲がり、地面についている。前足らしい手の生えた間から触覚のようなものを生やしているそれを佑は呆然と見た。
「あー……そういえばこいつのことも頭の中にちょびっとだけあったな……」
水輝が低い声で呟く。
「一号! あなた、無事だったのね!?」
そう言いながらも佑は必死で笑いの衝動を堪えていた。どう見ても昆虫のような格好をした桂の乳首がぴこぴこと浮いたり沈んだりしている。
『二号も無事だと思いますよ。後で頭部の残骸を探ってみるといいでしょう。二号のユニットは爆弾の直撃にも耐える構造になっていますから』
一号の抑揚のない声を聞いて佑は慌てて桂が倒れていたところを見た。首から切断された壊れた頭部がそこに転がっている。一号がかさかさと草を分けて壊れた頭部に寄る。佑はその後をついていった。
『これですこれ。あとで解りやすいように二号と書いておきましょう』
そう言って一号が壊れた頭部の中の小さなカプセルを指し示す。何となく付いてきていたらしい優一郎が、認めない……。こんな物体Xがヒューマノイドだなんて、断じて認めない。とぶつぶつ呟く。
「それで? なんでおまえは話に割って入ったんだ?」
のんびりと言いながら水輝が遅れて寄ってくる。
『そろそろ日が沈みます。伝説の通りなら、恐ろしい事になるはずです』
それを聞いて佑ははっとした。顔から血の気が引く。水輝が怪訝そうな顔をして一号を見下ろす。
「なんだよ。伝説って。言ってみな」
『どうして、恋に破れた妖精が、消滅させられないといけないか、ご存知ですか?』
「さあな。おれもそんなに記憶は残ってねえんだ」
きっぱりと言って水輝が首を振る。
一号に優一郎もドン引きしてますw
自分の設計では絶対にありえない形だからなあ……w