『あくまで、これは妖精の間に伝わっている予言で、これまで実際に発生した例はありません。これまで、森を出た妖精は十数人居ましたが、皆、最終的には恋を成就させてきたからです』
一人、ぎりぎりで消滅の危機から逃れた者が居て、物語の題材になったらしいですが。一号が抑揚のない声で言葉を継ぐ。
『恋に破れた妖精は、夜の時を迎え、星をも一撃で壊す、破壊神と化さん。これが予言の内容です。恐ろしいでしょう?』
ああ、恐ろしい恐ろしい。一号が少しも恐ろしそうじゃない口調で言う。佑は能面のような表情をして俯いた。
「……要するになにか。星を割るような存在になると」
抑揚のない声で水輝が言う。
「破壊の限りを尽くす悪魔のような存在になると、そう予言されているわ。水輝さん、いえ、もうこうなったら優一郎でもいいわ。日が落ちるまでにわたしを討って」
佑は真剣な面持ちで言った。すると水輝がうろんな目で佑を見る。優一郎が身を屈め、身体を震わせながら地面をばんばんと叩いている。
「破壊の限りを尽くす悪魔のような」
水輝が感情のない声で言ってから佑を指差す。
「なってんじゃねえか! もう! ばっちりと! ああ、こいつは一撃で星を割るよ! 作戦内容ぶっちぎって星を割るさ! 破壊の限りを尽くして世界を崩壊させたさ!」
佑をびしりと指差して水輝が喚く。
「それはっ! だって! わたしがやらなきゃ水輝さんがやってたでしょう?」
だったら、一緒よ! 佑は目を吊り上げてそう喚いた。そこではたと気付く。それまで佑を遠巻きにしていた妖精が鈴の音を立てて腹を抱えて笑っているのだ。
「よく考えたら、妖精族にそんな力、あるはずねえしなあ……」
ぐったりと肩を落として水輝が呻く。
「佑、これがドームを割ったのは、あなたの指示ですか?」
腹を抱えて頭を起こした優一郎が何かを堪えるような顔をして一号を指差す。
「ちがうわっ! 桂にはまったく責任は無いわ! あの時わたしが桂を操縦してたものっ!」
佑は力強くそう言って頷いた。水輝が深々とため息を吐き、ぽんぽんと佑の肩を叩く。
「めちゃめちゃ破壊神だから。それ」
「……?」
佑は怪訝に思って眉を寄せた。どうやら全力で笑いを堪えたらしい優一郎がよろりと立ち上がる。
「胸に手を当てて、自分のこれまでの所業を振り返ってみたらどうですか?」
笑い混じりに言ってから、優一郎が口許を押さえて横を向き、身体を小刻みに震わせる。
「あー、まあ伝説に間違いはなかったと」
水輝が頭をかきながら疲れたように言う。
「って、そんな事言ってる間に陽が沈んじゃったじゃないっ!」
佑は日が沈んでしまった空を見てから、かたく目を閉じて祈るように胸の前で手を組み合わせた。
「わたし、破壊神なんかになりたくなかったのに……」
「やべー。おれ、まだ仕事終わってねえのに」
やれやれと言いながら水輝がゆらりと歩き出す。佑ははっとして慌てて目を開けた。変だ。日が沈んだのにどこかが変わったとか何かが違うという感覚が全くない。
『やはり、例の仮説のほうが正しかったのですね。二号に全力で否定されたので、伝えるのを控えておいたのですが……』
一号が抑揚のない声で言う。佑は訝りに眉を寄せて声を張り上げた。
「一号! 例の仮説って何よ!」
『予言は既に成就し、佑はとうの昔に破壊神と化しているという仮説です』
まるで感情のない声で一号が言う。佑はぴしりと顔を強ばらせた。その傍で優一郎が腹を抱えて声を殺して笑っている。
「おい! そこの無自覚破壊神と昆虫! ドームに戻るのか!?」
少し離れたところまで歩いていた水輝が声を張り上げる。
「戻っても、いいの? わたし、だって、破壊神なんでしょう?」
そう言って佑は何となく周囲を見回した。宙に浮いた妖精たちが鈴の音を立てて笑いまくっている。今にも笑い死にしそうな彼らを見回して佑は目を吊り上げた。
「あなたたちまでっ!」
「いや、ドームの中に戻るか戻らないか訊いただけだろ? 戻るならくれぐれも扉は壊すな」
それだけ言ってから水輝がまた歩き出す。それまで佑の傍で笑っていた優一郎がはっとしたような顔をして慌ただしく水輝に駆け寄っていく。
「佑。あなたが大量殺人を企てたテロリストの主犯であることがはっきりしました。戻ってきたら逮捕しますのでそのつもりで」
振り返った優一郎がきっぱりと言う。佑はそれを聞いて眉を寄せた。優一郎は水輝の傍に駆け寄り、さりげなく水輝の腕に腕を絡めている。
「だって、桂の修理が……」
「この場で処分しないだけでも、有り難いと思って欲しいですね」
佑の弱々しい声に優一郎がかたい声で言い返す。その直後、何故か水輝がぴたりと足を止めて振り返って急に戻ってきた。
「忘れてた」
そう言ってから水輝は優一郎をそっと退けてから手の中に翠宝珠を引き寄せた。壊れた桂の頭部に宝珠を持たない方の手をぴたりと当てる。
「こいつを維持する道具なりなんなりは、翠に用立ててもらえ。この森はあそこに通じてる」
低い声でぼそぼそと言う水輝の手の下でゆっくりと桂の頭部が修復されていく。どうやら水輝はその部分だけ時間を巻き戻しているらしい。
「水輝さん。ありがとう……」
「別に」
そう言ってから水輝は元通りになった桂の頭部をつかみ、佑に差し出した。佑は震える手で桂の頭を受け取った。
「あの……」
佑はすがるような目で水輝を見た。水輝がそんな佑を見つめ返して怪訝そうに眉を寄せる。
「なんだよ」
「なんでもないわ。さようなら、お元気で」
佑はにっこりと笑って言った。しばしじっと佑を見つめてから水輝がため息を吐く。
「死にたがりを止める薬はねえし、後のことは知らんぞ」
仏頂面で言ってから水輝が踵を返して歩き出す。優一郎がぎらりと佑を睨んでから水輝の後を追う。佑は遠ざかっていく二人の背を黙って見送った。
ああ、おそろしいおそろしい(一号
佑に自覚がないので仕方ないですね!w