作戦部に戻ったらいきなり怒られた。頭に来たので調査結果を叩きつけ、水輝は憮然とした顔で作戦室を出た。
「んだよ、ちょっと時間が掛かったからってあんなに怒るか?」
仏頂面をして水輝は早足で廊下を進んだ。何だか妙な一日だった気がする。水輝は苛々しながら棟の入り口であるゲートに向かった。ふと、目をやるとゲートの前で優一郎が待ち構えているのが見えた。
「あ? どうした。おまえの方は仕事はないのか?」
すっかり遅くなって通常勤務時間はとっくに過ぎている。何となく気まずいものを感じつつも水輝はそう訊ねた。
「水輝さん。想い消失の原因は、本当に佑では無かったんですね?」
「ああ。そうだが? って、そろそろ青藍迎えに行かなきゃならないんだが」
渋い顔をして水輝はそう言った。一応、託児所には遅れると連絡はしたが、あまり長く預けておくのは悪いだろう。管理室の中の時計をちらりと見てから水輝は優一郎に目を戻した。
「あっ、申し訳ありません。僕も仕事に戻ります」
それでは。そう言って優一郎が先にゲートを越えていく。何だかなあ、と呟いて水輝はゲートを抜けて、急ぎ足で『塔』を出た。
青藍を迎えに行ったところで水輝はぎょっとして目を見張った。戸惑ったような顔をした女性が青藍の手を引いてやってくる。
「あの……今朝……こんな風になって」
女性が困惑した顔をして青藍を目で示す。いつの間にか青藍は五歳児程度の大きさにまで成長していた。
「あ、ええと……。どうもお世話様でした」
水輝は青藍が急に成長した理由が判らず、戸惑いつつも女性に頭を下げた。
「パパ!」
嬉しそうに言って青藍が水輝に飛びつく。おいおいと呟いて水輝は青藍を腕に抱え上げた。
「あれ? 今日はママはいないの?」
「あ、ああ。ええと……仕事で」
急にはきはきと喋るようになった青藍に戸惑いながら、水輝はそう答えた。ふうん、と青藍が呟く。水輝は考えを巡らせながら家に向かって歩き出した。
「パパ、道が違うよ」
「あ、あれ? あ、そうか。こっちか」
考え事をしていた水輝は青藍に指摘されて慌てて身体の向きを変えた。
何故か妙な感じがする。水輝は青藍を抱えたまま立ち止まった。夜の住宅街は静まり返っている。
「とりあえず、優一郎に報せた方がいいかな」
「パパ、こっちむいて」
慌ただしく通信機を探ろうとしていた水輝は青藍に呼ばれて顔を上げた。その途端に唇を塞がれる。驚きに目を見張った水輝にキスをした青藍がえへへへ、と嬉しそうに笑う。
「おっまえ、ませすぎ」
「だってー。ちゅってしたかったんだもん」
そう言って青藍がべったりと水輝に抱きつく。やれやれと苦笑して水輝はポケットに突っ込んでいた手を出した。青藍を抱え直してまた歩き出す。
家に着いた水輝の腕から青藍が身軽に飛び降りる。元気だなあと苦笑して水輝はキッチンに向かった。先にキッチンにいた青藍が冷蔵庫を開ける。
「パパ、ごはんは?」
「げ。しまった。なにも考えてなかった」
水輝はしかめ面をして頭を抱えた。もう、と呟いた青藍が不満いっぱいの顔をして冷蔵庫の扉を閉める。
それにしてもやけに大きくなったなあ。水輝はぼんやりと考えながら青藍を見た。キッチンのあちこちをごそごそと探し回った青藍がぱっと明るい顔をする。
「ママ、今日は帰ってくる?」
「あ? あー……どうかな」
「ねえねえ、ママにごはんー。作ってもらおうよう」
無邪気に言いながら青藍が水輝の足を引っ張る。水輝は困惑に顔を歪めてこめかみを押さえた。何故か判らないがやけに身体がだるい。
「あー、じゃあ、おまえが連絡してくれ。おれ、ちょっとシャワー浴びてくる」
そう言って水輝はジーンズのポケットから通信機を出し、青藍の手の中に落とした。もう、と不満そうに言った青藍が通信機を耳に掛ける。水輝はそんな青藍を見やってからふらりとバスルームに向かった。
何故か勝手に成長しています。