小さな光が瞬いているのが見える。桂は何度か瞬きをしてぼんやりと暗い夜空を見上げた。
「これで本当に直ってるの?」
間近に佑の声を聞いて桂は弾かれたように身を起こした。
「佑! 生き返ったんですか?」
傍には純白のドレスを着た佑が居た。その手には工具が握られている。どうやら天国ではないらしい。そう考えた桂の目からどっと涙が溢れた。
「よかった、佑……。私、もう駄目かと……」
桂は佑の胸に飛び込んでこみ上げてくるものに任せて泣きじゃくった。
「わたしの勘違いで、空回りだったみたい。ごめんなさい。心配掛けて」
優しい声音で言って佑が桂の頭を撫でる。桂はしっかりと佑に抱きついて首を横に振った。佑が生きているなら何でもいいのだ。優一郎に頭部を踏み抜かれた時のことを思い出して桂は身震いした。
「佑! あの悪魔はっ!」
がばっと顔を上げて桂はそう訊ねた。
「悪魔?」
不思議そうな顔をして問う佑に桂は事の経緯を説明した。話を聞いているうちにどんどん佑の顔が険しくなる。
「桂。ありがとう。あなたが時間を稼いでくれなかったら、きっとわたし、殺されてたわね」
そう言って佑が頷く。桂は何となく自分の身体に目をやってはっと気付いた。
胴体が後ろ前になってるんですけど……。桂は自分の背中が前にあることに気が付いて思わず引きつった。
「どうしたの?」
不思議そうに言って佑がまじまじと桂を見る。そこで急に佑は大声で笑い始めた。腹を抱えて爆笑した佑がばんばんと地面を叩く。
「ごめんなさい。わたし、間違えちゃったみたい」
笑いを堪えながら佑が桂の首筋に手を添える。かちりと音がした直後、桂の視界は180度回転した。その後、またかちりと音がする。首の向きを戻して貰った桂は改めて佑に向き直った。
『いえ、もともと頭部はどちらの向きに取りつけても大丈夫なように設計されていますから、間違えたわけではありません』
淡々と一号が解説する。だが胴体が後ろ前というのは恥ずかしいだろう。そう考えてから桂ははっと気付いた。そう設計したのは自分だ。
「便利だと思ったのに……」
恥ずかしさに赤くなりながら桂は小声で呟いた。レーダー展開時は前方探査はレーダーに任せ、後方を電子アイで確認するという仕様のつもりだったのだ。だが実際にやってみるとめちゃくちゃ恥ずかしいことが今のでよく判った。
「確かに、状況によっては便利かもしれないわね」
真面目な顔をして感心したように佑が頷く。それを聞いた桂はひくりと頬を引きつらせた。確かに便利かも知れない。が、クリトリスアンテナを伸ばし、乳首を伸ばし、後ろに顔のある状態で全力で走る自分を想像すると、恥ずかしさしか感じない。
「桂ってやっぱり面白可愛くていいわ」
そう言って佑がにっこりと笑う。だがその笑いにはどことなく影があった。桂は訝りを覚え、恥ずかしいという気持ちはとりあえず無視して佑を心配顔で見つめた。
「どうしたの? 桂?」
不思議そうに佑が問う。桂は戸惑いの表情で佑の顔を覗き込んだ。
「佑、水輝とは?」
そう訊いてから、桂はしまったと心の中で呟いた。みるみるうちに佑の顔が歪み、目に涙が浮かぶ。
「ごめんなさい。わたし……」
弱々しい声で言って佑が桂に抱きついて胸に顔を埋める。
「ゆ、佑っ……」
桂は真っ赤になって慌ただしく周囲を見回した。それから佑の身体にそっと腕を回す。佑は桂の胸で泣きじゃくり始めた。慰める言葉もなく、桂は震える佑を静かに抱きしめて頭を撫でた。柔らかな佑の髪に触れた桂は、髪のさらさらとした感触に驚いた。
「はっきり、きっぱり振られたのに、わたし、まだ、水輝さんが好き。水輝さんのことばかり考えて……」
泣きじゃくりながら佑が弱々しい声で言う。それを聞いた桂の胸に切ないものがこみ上げる。泣きじゃくる佑が可哀想に思え、慰めたいと思うのに、心のどこかが言う。
かわいい……。
そう思ってから桂ははっとして慌てて首を振った。
「それのどこがいけないのですか?」
桂がそう訊ねると佑はのろのろと顔を上げた。
「私は、水輝を好いている佑が好きです。一番で無くても、別にかまいません」
そう。あの時、思ったのだ。奥さんと子供さんがいる佑の二号になると。佑と共に過ごした時のことを思い出し、桂は力強く頷いた。それが例え、心の彼女と子供になったところで変わりはない。
「桂……。ありがとっ!」
涙声で言って佑が今度は逆に桂を抱きしめる。ふわふわとした佑の乳房の間に頭を抱かれ、桂は目を白黒させた。
「あの、佑! そのっ! 胸が」
桂は真っ赤になって慌てて訴えた。
『興奮レベルが既定値を越えています。二号、佑を押し倒したりしないように』
淡々とした一号の声が桂の股間から響く。桂はぎくりと身を竦めて慌てて何度も頷いた。が、頭を動かした拍子に頬にぷるんぷるんと佑の乳房が触れる。
「そうよ! 駄目っ! わたしの貞操は水輝さんのものなんだからっ!」
力をこめて言って佑がぱっと手を放す。桂は真っ赤になってその場にへたり込んだ。強烈な感触が残る頬を両手に包んで桂は目を潤ませた。佑が膨れ面をして桂を睨む。桂は頬を両手で包んで佑を見つめながら身体をくねらせた。
佑のこういうところがたまらなく好きだ。突き放されたにもかかわらず、桂はうっとりとした顔で佑を見つめた。
いやもう、桂はヤバい。色々ヤバいw
優一郎でなくてもおかしいというのは判ります。
しかも本人が便利だと思って設計してるのがもうw