「ごめんなさい。わたし、そういう学問には疎くて」
今回の件も、佑は妖精たちに様々な知識を教えてもらったのだ。
『世の中には得手不得手というものがありますからね』
桂の股間から伸びたクリトリスアンテナが上下に軽く振れる。うんうん、と言いたそうに振れたそれを見て、佑は目を細めた。
もしかしてばかにされてるのでは。そんな考えが脳裏を過ぎる。
『そのキーワードとは、翠です。あの老人に会った時、私がどれだけ驚いたかわかりますか?』
ちっとも驚いていない抑揚のない口調で一号が言う。佑はじっとクリトリスの先端の赤い球を見つめた。そういえば水輝が言っていたような気がする。
この森はあそこに通じてる。
当たり前の顔で水輝は翠の名を出してそう言った。それはつまり、この森が翠の元に繋がっているということだ。
『動くなら早いほうがいいでしょう。伝承では、目覚めた破壊神はこの星から自然を全て奪い取ったとあります。時空のゆがみへむかって、ドーム以外の全ての部分を取り込み、切り離すのです。あなたならできるはずです』
淡々とした口調で一号が言う。あのドームが、ドームの外の世界を浄化しているということは理解出来る。だが、一号の言うようなことが本当に出来るだろうか。
『伝承が確かなら、この世界は既に浄化が完了しているはずです。森にとってあれは、もう不要どころか害にしかなりません』
一号が抑揚のない声で言う。佑はじっと赤い球を見つめた。
「水輝さんは、放っておけってこと?」
確かに一号が言うことが本当なら、この森は早くこの世界から切り離した方がいいだろう。が、そうなるとあのドームにいる水輝とは恐らくこれっきりになってしまう。
『水輝は自分で自分を護るだけの力を持っています。もし、佑が水輝にとって真に必要な存在ならば、また、再び巡り会うはずです。本当に水輝を愛しているなら信頼してもいいのではないですか?』
抑揚のない一号の声を聞いて佑は手をぐっとこぶしの形に握った。
「そうだとしても、きちんと移送できる自信がないわ。わたしは破壊神なのでしょう? もし、壊してしまったら……」
「ほっほっほ」
唐突に間近でのんびりとした笑い声がする。佑はぎくりと身を竦めて声のした方を見た。いつの間にか洞の中に翠が立っている。
「翠!」
『翠殿、先日はご挨拶もできず失礼しました』
慌てた佑の呼びかけの後、一号が淡々とした声で言う。翠が佑と桂の股間とを見比べてまた笑う。
「いやいや。おかげで森が護られたでの。礼を言う」
のんびりとした口調で言って翠がまたほっほっほ、と笑う。
『翠殿、私の推論は間違っていますか? 私はここに来るまでに時空の歪みの状態をずっと計測していました。その結果、歪みと呼ぶにはあまりにも整然としすぎていることに気付いたのです』
抑揚のない一号の語ることに翠がふむふむと頷く。佑は困惑の面持ちで翠と桂の股間で揺れるクリトリスアンテナとを見比べた。
『まるで、この世界から自然を撤退させるために、わざと配置したかのような。どんな粗忽者でも、力さえあれば、実行できるように配置されているのではないですか?』
粗忽者。力さえあれば。一号の語る中のその辺りの言葉に佑はぴくぴくと頬を引きつらせた。
「そうじゃのう……。ばればれじゃったかのう」
長いあごひげを撫でながら翠が遠い目をして言う。
『ええ。普通の洞察力があれば、なんらかの意図を持って配された事がすぐにわかるでしょう』
もしかして一号も翠も、洞察力がないと自分をばかにしているのだろうか。そんなことをちらりと思ったが、佑はそれは言わずにおいた。
「まあ、そんなわけでの。とある世界でちと破壊神が必要になっての。おまえさんの力を借りたいんじゃがのう」
あごひげを撫でながら翠がちらりと佑を見る。
「わかったわ。それでどうすればいいの? どんな粗忽者でも失敗しようがないなら、わたしでも大丈夫でしょうし」
やけくそになって佑はそう言った。だが皮肉ったつもりの自分のせりふに自分の胸が何故か痛む。
『佑、そのように自分を卑下するものではありませんよ』
「そうじゃのう。破壊も立派な役目じゃしのう」
一号と翠が代わる代わるに言う。それを聞いた佑は肩を怒らせた。
「じゃあ、適当に始めるわよ! 失敗しても文句言わないでね!」
やけくそになって佑は力をありったけ無作為に展開した。その直後、翠がとん、と洞の床を杖で突く。その途端に佑の展開した力はあっけなく佑の器に戻った。
「せっかちはいかんのう。夜が明けるまで待てんかの?」
「やっぱり、適当にやっちゃダメなんじゃない!」
そう言って佑は勝ち誇ったように胸を張った。すると翠が眉を寄せてあごひげを撫でる。
「誰も適当とは言っとらんと思うがのう……。人の話は最後まで聞かんといかんとわしは思うのじゃが」
のう? と翠が桂の股間でふるふると動いているクリトリスアンテナに目をやる。
『佑の気の短さを忘れていました。今後は気をつけたいと思います。翠殿、お手数をおかけして申し訳ありません』
「いやいや。わしも慣れておるでの。これしきのことはなんとも。ほっほっほ」
あごひげを撫でながら翠がのんびりと笑う。
『苦労しておられるようですね。あの女性は大人しそうに見えましたが、やはり、じゃじゃ馬なのですか?』
「ちとのう……。魔法の速さがのう……。いや、あの無茶なところがわしは気に入っておるのだが、なんとものう……」
のんびりと言いながら翠が遠い目をしてあごひげを撫でる。やはりじゃじゃ馬。一号の言ったことに佑はぴしりと顔を強ばらせた。それはつまり要するに、佑がじゃじゃ馬と言いたいのだろう。
「とにかくっ! 夜が明けたら起こして! わたしはもう寝るから!」
そう喚いて佑は妖精のサイズに身体を変じ、みんなが眠っている板の上にふわふわと飛んだ。ここは不貞寝に限る。そう決めて板に横たわった佑を余所に、それから一号と翠はしばらくじゃじゃ馬談義に花を咲かせていた。
翠は今のところ老人型(?)です。
翠と一号の言い草に佑はふてくされましたw