『別に佑の事を指して言ったわけではありません。一般論です。それとも、何か心当たりでもあるのですか?』
奥さんじゃなかった。彼女だ。自分の考えを心の中で言い直していた桂は、一号の言うのを聞いて眉を寄せた。もしかして佑は勘違いをしていたということだろうか。だが一号の物言いはちょっとどうかと思う、と普段から思っていた桂は勘違いされても仕方ないのではないかと心の中で結論を出した。
「あの……えっと、以前会った桂さんとは別の方なのですか? イチゴウさんとお呼びすればよろしいのですか?」
首を傾げて奈月が言う。するとそれまで黙っていた翠がほっほっほ、と笑った。
「お嬢ちゃんの方も気付いとるようだがのう」
「あ? 何だ。二人でワンセットってことか?」
笑っていた青年が怪訝そうな顔をして桂を見る。
『以前、二号が失礼しました。私一号も、以前ご挨拶した二号もこの身体を構成する部品です』
抑揚のない声で一号が言う。何かが違う気がする。そう思いながら桂はまじまじと自分の股間を見た。
「桂が気付いてる? ……!」
佑が驚いたように息を飲んで桂の顔を凝視する。桂は何となく居心地の悪いものを感じつつも、赤い顔をして愛想笑いを浮かべてみせた。
「だめっ! 見ちゃだめっ! 桂! いくわよ!」
叫んだ佑が桂の身体を担いで元の部屋に駆け込む。桂がものを言う前に佑が一号に命じ、桂の身体は自動的に着替えをし始めた。ワンピースを着た桂は改めて佑に手を引かれてさっきの部屋に入った。
「はーい、では自己紹介。俺はラスティ・ローズって言う。で」
爆笑していた青年がそう言ってから隣の青年を見やって肘でつつく。
「常磐だ」
ラスティの隣に座った青年がそう言ってから隣に座る奈月を見やる。奈月がぺこりと頭を下げ、翠がにこにこと人好きのする笑みを浮かべて首を傾げてみせる。
「でもってここは龍宝珠界っていう世界でな。……って、あとはなに説明する?」
ラスティがそう言ってから佑に目をやる。
「そうね。桂、落ち着いて聞くのよ。わたしたち、別の世界に亡命したからっ!」
桂の手を握って佑が声高に言う。それを聞いた桂はしばし考えを巡らせてにっこりと笑って頷いた。よくは判らないが、佑と自分は元居たあの世界から離れたということだろう。
「それで、リュウホウジュ界というところに来たわけですね。皆さん改めて。瑞原桂です。よろしくお願いします」
「ああ。おまえらには時を遡って貰って、ちょこちょこっと破壊の限りを尽くしてもらう。なに、さわっと撫でる程度に破壊してくれりゃいいんだ」
腕組みをしてラスティが笑いながら言う。それを聞いた桂は訝りを覚えて首を傾げた。
「時を? 遡る? そんなことが可能なんですか?」
「ああ」
当たり前の顔をしてラスティが頷く。すると何故か常磐がラスティの頭をべしっと叩いた。
「別に教える必要は無かっただろう?」
「叩くことねえだろ!」
常磐に喚いてからラスティがごほんと咳払いをする。
「あー、とにかくだ。こんくらいの子供が対抗すると思うが、殺さない程度にまあ頑張れ」
そう言いながらラスティがテーブルの高さくらいのところまで手を掲げてひらひらとさせる。
「手加減って、一番難しいのよね」
渋い顔をして佑が言う。するとラスティが笑った。
「なーに、少々じゃ死なないから。あ、星は割るなよ。くれぐれも」
そう言ってからラスティが佑と桂に座るように促す。桂は佑と顔を見合わせてからテーブルについた。
見れば見るほど美形揃いだ。テーブルについた面々を見回して桂は感嘆のため息を吐いた。
「しかし、佑。貴様は変わった物体を使い魔にしているのだな」
常磐が感情のない声で言う。物体。しかも貴様呼ばわり。桂は出された茶を啜りながらぴくりと眉を上げた。
「使い魔ってわけでも。いや、まあ、一号は確かにそんな感じかも……」
「あれだろ? 要するに自分の頭代わり。一号とかってのの方が佑より賢そうじゃん」
笑いながら言ったラスティを桂はぎらりと睨みつけた。
『将たるものはどっしり構えているものです。そして将には、軍師が必要でしょう? 破壊将軍佑に仕える、破壊軍師。なかなか燃えるシチュエーションですね』
感動の欠片もない声で一号が言う。
「と、とにかく、そういうわけよ!」
そう言って佑が胸を張る。桂はそんな佑を見つめて考えを巡らせた。
時々思う。一号は実は声に抑揚がないだけで、実際にははっきりと性格があるのではないだろうか。桂はうろんな目でスカートに包まれた自分の股間を見下ろした。
「あ、そか。伝承では確か破壊神じゃなくて破壊将軍ってことだからな。うん、一号の言うことは正しいぞ」
うんうん、と頷いてラスティが茶を啜る。さっきからどうもこのラスティの喋り方が気になる。口の利き方といい、仕草といい、ラスティは妙に水輝に似ている気がするのだ。
『なるほど。貴重な情報ありがとうございます。ラスティ』
「んーにゃ。仕事依頼したのはこっちだからなー。幾らスパルタ教育の一環だからって、自分の旦那を鍛えるのに変な奴あてがう気になれなくてさー」
軽い口調で言ってラスティがあははは、と笑う。桂は腕組みをして首を傾げた。さっぱり意味が判らない。しばし考えを巡らせてから、桂ははっと目を見張った。
「旦那さん……。まさかっ! 佑! この人と再婚したのですか!?」
いつの間に! 桂は胸の前に手を組み合わせて叫ぶようにして言った。するとラスティと佑がうろんな目で桂を見る。
ちょこちょこっととか、さわっととかで破壊できる佑。
それを普通に注文するラスティ。
どっちもどっちです。