「なんで俺が女と結婚しなきゃならねんだよ」
「桂、わたしは水輝さん一筋だってずっと言ってるでしょう!」
「げ。おまえまだあのろくでなしに惚れてんのか」
ラスティが嫌そうに顔を歪めて佑をまじまじと見る。
「ろくでなしなんかじゃないわっ!」
佑が目を吊り上げて叫ぶ。桂はラスティの意見にこっそり激しく同意した。そっかー? と間延びした声で言ってラスティが難しい顔をする。
「まあ……強いは強いけどなー。真面目に龍神最強クラスだし」
「最強は佑ですっ!」
桂はテーブルを叩いてきっぱりと言い切った。ラスティが眉を寄せて桂を見つめ、次いで佑を見る。
「じゃじゃ馬度は間違いなく一番だろうなあ……奈月さんを除けば」
ラスティがそう言って意味ありげな笑いを浮かべて奈月をちらりと見る。すると常磐が横目でラスティを見た。話題に出された奈月は不思議そうな顔をするだけで何も言わない。
「人の事が言えるのか? さっきの思考能力の話でも思ったのだが。かなり、いろんな物を棚に上げていないか?」
「う」
指摘を受けたラスティが呻いて押し黙る。
「あの、まさかとは思うんですけど、ラスティって女性、ですか?」
桂はじっとラスティを見つめて言った。するとラスティが渋い顔をしてそうだよ、と低い声で答える。
「そうですか」
ほっとして桂は胸に手をあてた。するとラスティが機嫌の悪そうな顔をして桂を睨む。
「なんだよ、そのあからさまなほっとしたって態度は」
「ラスティって水輝に似てるから」
女性ならでも佑の奥さんにはなれな……あれ? 桂は考えを巡らせて首を傾げた。
「当たり前だろ。俺はあいつのだからな」
ラスティが憮然として言った瞬間、常磐がばしんとラスティの後頭部を叩く。
「桂っ! それはいくらあなたの発言でも許せないわ! この男女と水輝さんのどこが似てるのよ!」
「いてえだろ!? それとおまえもひでえだろ!?」
常磐と桂に怒鳴りつけてからラスティがふん、とそっぽを向く。
「水輝さんのものって、どういう意味よ!」
「仕方ねえだろ!? 宝珠は持ち主を選べねえんだから!」
佑が怒りの顔で叫ぶとラスティがそれに負けない声で喚き返す。
「だから誤解を招く発言をするな。はっきり言うが、そこの破壊将軍よりもお前のほうが三倍くらいは頭が悪いぞ」
常磐が淡々とした声で言う。するとラスティがぴしりと顔を強ばらせ、さんばい、と呟いた。
「あの、ラスティの旦那さんって常磐ですか?」
二人のやり取りを眺めていた桂は思ったままに訊ねた。すると不機嫌な顔をしたままラスティが頷く。常磐も否定しないところを見ると、彼らは夫婦らしい。
「長い人生を生きてきたが、初対面で、ラスティの性別を言い当て、私の妻だと見破ったのは貴様が初めてだ」
なかなかやるな。流石に破壊軍師だけの事はある。そう言って常磐が重々しく頷く。それを聞いて桂は首を傾げた。ラスティと常磐の纏う光はよく似ている。どちらも翠色の光を纏っている。それを見てから桂はちらりと残る二人に目をやった。
奈月と翠は不思議と静かな光を纏っている。奈月の方は淡く銀色に近い金色というのだろうか。そんな感じの光を纏っている。翠はその名のごとく、濃い翠の光を纏っている。
「翠、翠、金、翠」
「おっ。なかなかいい目してるじゃないか」
桂が何気なく呟くとラスティがぱっと嬉しそうな顔をして言う。
「ふむ。魔法士の素質があるかもしれぬな。破壊軍師には」
「あー、それいいかもな。奈月さんも覚え早かったし、意外といけるかも知れないぞ」
常磐が言うことにラスティが笑って頷く。
「破壊軍師は魔法を使ってきたような記憶がある。それほど急ぐわけでもないからな。蒼藍と一緒に修行させればいいだろう」
「魔法学とか入れるのも楽そうだし……。あ、陣もいけるかも知れないぞ。正確に書くとか得意だろ、あんた」
常磐とラスティがよく判らない話で盛り上がっている。桂は首を傾げて腕組みをした。
『ぜひとも、学習したいです。魔法、魔法……ああ、魔法……』
抑揚のない口調で一号が言う。どうやら感動しているらしい。……ような気がする。桂は一号の言ったことからそう予想した。
「覚悟しろよー? 魔法学は下地の知識だけでも山のような本読まされるからな。まず言語からだなあ。タイラードの城から失敬してくるか」
そう言った瞬間、ラスティの姿がその場からかき消える。桂は目を見張って慌てて周囲を見回した。だがラスティは影も形もなくなっている。
『魔法に関する山のような本。ああああ、素晴らしい。素晴らしすぎる』
やっぱり感情のない声で一号が言う。どうやら相当、感動している……らしい。桂は首を捻りながら考えを巡らせた。
「ソーランって何?」
隣に座っていた佑が不思議そうな顔をして言う。すると常磐がテーブルに字を書いてみせた。蒼藍。テーブルに書かれたその字を読み取ってから桂は顔を上げた。
「翠の弟だ」
それを聞いた桂は慌てて翠を見た。翠は奈月と二人でのんびりと茶を飲んでいる。翠を見つめて桂は思った。こんな老人の弟ということは、さぞ年を取っているのだろう。魔法というのはよくは判らないが、そんな年で修行するなんて大変なのではないだろうか。
「蒼藍は、どこにいるのですか?」
桂は訊ねた。もしも一緒に学ぶということなら、挨拶くらいはした方がいいのかも知れない。さっきのような格好を先に見せられる前に! 桂はちょっと焦り気味に考えた。
「剣の修行のために昨日滝壺へ叩き込んできた。そろそろ戻るころだと思うが」
それを聞いた桂は思わず引きつった。桂が恐る恐る部屋の入り口に目を向けた瞬間、視界を大量の本が埋め尽くした。
「っと、お待たせ。お、これ途中で引っかけてきた」
ラスティが大量の本と共に部屋に現れる。そのラスティの右手には子供がぶら下がっていた。年の頃は十二歳くらいだろうか。
「……あなたが、蒼藍?」
佑が驚いたように目を見張って子供を見る。子供は両腕に大きな剣を抱えたまま、ぺこりとお辞儀をしてみせた。
「はい、蒼藍と申します。はじめまして、こんにちは」
元気に挨拶した蒼藍がにっこりと笑って顔を上げる。冴えた美しい蒼い光が見える。桂はまじまじと蒼藍の纏う光を見てから、改めて蒼藍の顔を眺めた。
水輝に似ている。そして何故か優一郎にも似ている気がする。桂はうろんな目で蒼藍を見た。そして何より。
なんで子供なのだろう。翠の弟というのは聞き間違いだったのだろうか。桂は額を押さえてぐるぐると考えた。考えに耽る桂の身体が勝手に動き、部屋に山と積まれた本の方へじりじりと移動しはじめる。
『こ、こ、こ、これが、全部、魔法の資料なのですかっ』
「あー、言語のも入ってるが……それ、基本だけだぞ? それが終わったらまた持ってくる」
ラスティが頷きながら言う。桂はそこではっと我に返った。いつの間にか桂の身体は勝手に床に屈み、かさこそと本に向かって進んでいた。
『す、素晴らしい! 佑! 私の部屋へ、本を移動させてください』
一号が言った直後、桂の身体はブリッジの体勢で勝手にかさこそと隣の部屋に移動しはじめた。一号に操られるままに動きながら、桂はしみじみと思った。
性格、あるし。桂のそんな思いに気付いているのかいないのか、一号が器用に足で部屋のドアを開ける。桂は隣の部屋に移りながらそっとため息を吐いた。
一号には意志がある気がする……w
魔法ときいて活き活きしています。