優一郎は水輝と共に『塔』に向かった。正面玄関を抜けて作戦部のある総管理局に向かう。
「は? わざわざついてくんのか?」
水輝が不思議そうに優一郎を見てから総管理局のゲートをくぐる。優一郎は青藍を抱えて当たり前の顔でゲートをくぐった。
「青藍に、見せておいてあげたいですからね」
「そっか。そうだな。もうじき離れるんだもんな」
水輝がそう言って頷き、青藍の頭を軽く撫でる。青藍は無邪気に笑って水輝の手を小さな手でつかんだ。優一郎はさりげなく水輝の手を青藍の頭から退けた。
「それでは急ぎましょう」
声を掛けると水輝はそうだな、と頷いた。二人は足早に廊下を抜け、作戦部の部屋に入った。水輝に続いて部屋に入った優一郎を、作戦部のメンバーが不思議そうな目で見る。
「おお、丁度良かった。あ、吉良博士もご一緒でしたか。おはようございます」
部屋の一番奥に居た男がそう言って優一郎に向かって会釈してみせる。優一郎は机の前に立った水輝の横に並び、男に微笑みかけた。
「おはようございます」
優一郎は男にそう挨拶を返した。この男が作戦部を仕切る部長だ。
「んで? ちょうど良かったってなにがだよ」
「ああ、そうだ。池田、おまえ手が空いてるな? 先日の騒動の犯人がドーム外に逃亡したらしい」
男が説明しながら水輝に一枚の紙を差し出す。水輝が仏頂面でそれを取る。優一郎は横から紙面を覗き込んで内心で笑みを浮かべた。
「討伐、か」
「ああ。こうなった以上、経歴がどうだの、所属がなんだのと言っとられん。どうする? 受けるか?」
男が伺うような顔をしてじっと水輝を見る。恐らく男は水輝と犯人との関わりを考えて訊ねているのだろう。何しろ犯人と断定されているのはあの佑だ。
「いいぜ。犯人がこいつならその辺のハイブリッドじゃかなわねえだろ?」
さらりと答えてから水輝が依頼書を畳んでジャケットの内側にしまいこむ。男が重々しく頷く。
「チームはどうする。組むか?」
「邪魔になるからいらねえ」
男の質問に水輝がそう答えて優一郎を見る。優一郎は水輝に微かな笑みを向けた。
「水輝さん、手強いと思いますが頑張ってください」
「ああ。何かあったら連絡する」
そう答えてから水輝が優一郎の頭をぽんと撫でて自分の席に向かっていく。優一郎はそれを見てから踵を返し、作戦部の部屋を後にした。
本部のある棟に移動して事務局に向かう。優一郎はあらかじめ連絡を入れておいた里親に青藍を託した。彼らをゲートまで見送ってから研究室に着いた時にはもう、通常勤務開始時間を過ぎていた。
「おはようございます」
研究室に入ると中に詰めていた研究員たちが一斉に挨拶する。優一郎は彼らに微笑みを浮かべて挨拶を返してから、澄の席に近付いた。傍に寄ったところで澄が慌てたように立ち上がって深々と頭を下げる。
「おっ、おはようございます」
弱々しい小声で澄が挨拶をする。澄は研究員たちに実験などをされている以外の時間はこうして通常勤務しているのだ。
「多村さん。中枢部をチェックさせてもらっていいかな?」
「はっ、はい、どうぞ……」
「あ、吉良博士。お忙しいところ申し訳ないのですが、応接室にお客様がお見えになられているんですが……」
弱々しい声で澄が返事をした直後、部屋の奥から祥子が申し訳なさそうに言う。優一郎は実験台に向かって歩き出そうとしていた足を止め、祥子を見た。
「どちらの方?」
「情報局の里中さんと仰る方です」
それを聞いた優一郎はちらりと澄を見てから祥子に目を戻した。澄は切なそうな顔をしてもじもじしている。恐らく祥子は澄がそうなるのを判っていて、あのタイミングで声を掛けてきたのだ。
「ありがとう」
礼を言って優一郎は澄を完全に無視して応接室に向かった。背後で澄がああ、と切なそうな息を吐いて身を捩る。だが優一郎はそんな澄を振り返ることもなく、足早に応接室に向かった。
部屋に入ると待ち構えていた蘭が立ち上がって頭を下げた。
「お忙しいところすみません。調査結果のご報告に伺いました」
型通りに蘭が挨拶をする。
「お疲れさまです」
にっこりと笑って優一郎は蘭に座るように促した。すると蘭が会釈をしてソファに腰を下ろす。
「電信では機密漏洩の危険がありますので、これを」
そう言って蘭が脇に置いていた封筒を差し出す。優一郎は早速、封を開けて中に入っていた数枚の紙を引っ張り出した。
紙面には実鈴の詳しい経歴が記されていた。もう一枚の方には澄の兄、久弥の経歴が記されている。
「これは……なるほど……」
ざっと二人の経歴を読んで優一郎は呟いた。実鈴は幼い頃から周囲に性的な苛めを受けていたらしい。それに対して久弥は妹の澄に性的悪戯をしていたようだ。久弥は十代の頃に親元を離れ、ある学校に通い、とあるコネクションを利用して『塔』に就職することとなった。それからとんとん拍子に出世し、上司の紹介を受けて結婚に至っている。対する実鈴はごくありふれた学校に通い、優秀な成績を修めて『塔』に推薦されて就職したようだ。
記された経歴だけを見ると、互いの接点はどこにもないように、一見思える。
「どうやら多村氏は白草氏を脅迫していたようです。それ以外にも多村氏には色々な噂がありますね。精子、卵子を闇ルートで売りさばいているようです」
淡々とした口調で蘭が説明する。
「おもしろいね」
うんうん、と頷いて優一郎はもう一度、実鈴の経歴を見た。
「白草さんのほうは……!」
「男性ですね、彼は。所属課の局員たちもそのことは知っていました。多村氏は白草氏を何らかを用いて脅迫し、精子を裏で流していたようです」
眉を寄せて蘭が言う。優一郎はちらりと紙面から目を上げて蘭を伺った。あくまでも蘭は調査員の顔をしている。
「ありがとうございました。あなたが調査されたのですか?」
「はい。課長がよろしくお伝え下さいと言っていました。それと、白草氏ですが」
そこまで言ってから蘭がやけに渋い顔をする。
「彼の居る医療局医療特殊技術部三課の改装工事認可願いが提出されていますね」
上で揉めているようですが。蘭が渋い顔をしたままでそう付け足す。
長いので切りました。ちょっと変なところで切れていると思います。
ヒューマノイドを作り続けることになったので、優一郎がはっちゃけてますw