BL警報です!
準備を整えてドームの外に出たところで水輝は硬直した。
辺りにはなにもなくなっていた。見えていたはずの森や草の生えた地面が刮げ取られたように、ドームの周囲には乾いた砂地が広がっていた。ぬるい風に吹かれながら水輝はしばしその光景を眺めた。
「翠か」
ぼそりと呟いて水輝はじっと前方を見つめた。ごく僅かにだが気配が残っている。だがその前にまず、この外の状態を何とかしなければならない。このままだとドームの中にも影響が出る。水輝はジーンズのポケットに手を突っ込んでゆらりと歩き出した。
水輝は通信機を取り出して耳に掛けた。ほんの数秒ほどで相手が出る。
「優一郎か? おれだ。外が全部持って行かれた」
相手が出たのを確認してから水輝は低い声で言った。
『……。いったいどういう事ですか?』
「清浄化は終わってたからな。引き上げたんだろうが……。ひでえな。なにも残ってねえぞ」
渋い顔で言って水輝は周囲を見回した。空は青く、雲一つない。
『今、そちらに行きます! 非常事態宣言の発令を手配しますので、五分ほど、お待ちください』
そう答えた優一郎の声が弾んでいる。どうやら走り出したらしい。恐らく非常事態宣言を発令したのだろう。水輝はのんびりと砂地の上を歩きながら空を仰いだ。
なめた真似しやがって。水輝は目を細めてぼそりと呟いた。
「とりあえず雨でも降らせておくか。水がなけりゃ、なにも回らねえだろう」
そう言ってから水輝は指を鳴らして雲を呼んだ。なにもなかった空に見る間に分厚い雲が広がりはじめる。
「水輝さん、おまたせしました」
傍に優一郎が現れる。水輝はちらりとそちらを見てから雲を動かした。水輝の力に応じた雲からやがて雨が降り始める。
「な? ひでえもんだろ。なーんもねえし」
「湖も、全てですか?」
「ああ。持って行かれたな。海、作るか?」
この世界には海がない変わりに森林地帯には多くの湖が点在していた。そしてドームの外では細々と人が暮らしていた。彼らも根こそぎ連れて行かれたようだ。
「お願いします。水輝さんが居てよかった」
そうでなかったら水分を調達できなくなるところだった。ほっとしたように優一郎が呟く。水輝は乾いた地面に雨が染み込むのをじっと見つめてから、優一郎に背を向けてしゃがみ込んだ。
「ほら。おぶされよ」
「えっと、あの」
頬を染めて優一郎が視線を彷徨わせる。水輝は苦笑して首を傾げてみせた。
「なーにエロいこと考えてんだよ。飛ぶんだよ。つかまってねえと煽られて落ちるぜ」
そう言ってから水輝は優一郎の手を引っ張って強引に背負った。
「行くぞ」
そう声を掛けてから水輝は力を解放した。青く鮮やかな光が水輝の身体から一気に辺りに広がる。次の瞬間、水輝の身体はかき消え、巨大な青い龍神が現れた。背に優一郎を乗せた龍神が天に一気に飛び上がる。懸命に鱗につかまった優一郎がぶんぶんと首を横に振る。
おい。ドームの強度は?
水輝は空を飛びながら意識で優一郎に話しかけた。
カタログスペックではこれだけですが、正直、その半分程度だと思った方が。
優一郎の声が意識に届く。それと同時に何かをこぶしで殴りつけたイメージが届く。どうやらさほど強度はないらしい。水輝は心の底で頷いてから、空中で身を捻った。直にぶつけると壊れる危険性がある。ドームから離れた上空で巨大な龍体が蛇のようにうねる。水輝は天高く舞い上がり、勢いをつけて降下しながら吼えた。大きく開いた龍神の口から大量の水が地面に向かって叩きつけられる。龍神の吐いた水は地面を抉り、あっという間に海に転じた。水に刮げられた地面が波の果てに積まれて山になる。
木はどーすっかなー。
何度も水を吐きながら水輝はのんびりと意識を優一郎に送った。
僕がなんとかしましょう。
そう答えた優一郎の思惟がちらりと見える。もしかして僕も龍体とれるのかな。そんな思惟を読み取った水輝は鱗を鳴らして笑った。
いけると思うぜ。なんならセックスもしてみっか?
龍体の交わりは人型のそれと違って豪快で、かつ激しい。そのことを思いながら水輝は再び口を開けて大きく吼え、地面を大量の水でえぐり取った。
いいですね。
そう答えた優一郎が女性の姿になってから力を解放する。天にくねる巨大な青の龍神の傍に美しい銀色の鱗を持つ、銀龍神が現れる。水輝はその様を見て思わず口笛を吹きたくなった。
うわ、早く終わらせよう。すげえしてえ。
笑い混じりの意識を隣にうねる優一郎に送りつけてから、水輝は勢いをつけて降下し、水を吐いて地面を抉った。上空から叩きつけられた水が地面を抉り、大きな湖と化す。
専門ではないですけど、と優一郎が意識を集中させ、銀色の大きな龍体を天にくねらせる。独特の吼える声が轟いた瞬間、盛り上がった地面には少しずつ緑が生え始めた。空気が揺れて地面に出来た海や湖の上を波が走る。
続けざまに銀龍神が吼えると、水の中に小さな生命が生まれた。水輝は巨大なかぎ爪のついた前足に翠色の宝珠を握り、空気や地面を揺らす声で吼えた。すると水の中に生まれた小さな命が瞬く間に成長し、進化しはじめる。次々に水の中に命が生まれ、やがて魚が現れる。渇き切っていた地面を美しい木々が覆い、大量の水で削れた大地に川が出来る。
二人は龍体になれるというか、いつもは人型をとっています。
都合がいいのでw