機械なので苦手な人は逃げてください。
澄はうっとりとした顔をして集計作業を続けていた。機械化人の身体になってから、性的な疼きが途切れない。焦らされる独特の快感に顔を緩め、澄は画面を見つめた。
この世界に生きる女性の多くが機械化人化出来ることが判明した。彼らに送った打診の電信の返事が研究室には続々と送られてきているのだ。澄はその電信を地区ごとに分ける作業にあたっていた。
昼過ぎから姿を消していた優一郎が応接室から出てくる。
「応募率は何パーセントくらい?」
応接室に消えた時とは異なり、優一郎はいまは男性の姿をしている。問い掛けられた祥子がはい、と答えて端末画面を覗き込む。
「今のところは30パーセント程度です。ですが、まだ公知直後ですので、これからもっと増えると思うんですが」
生真面目な顔をして祥子が言う。やり取りする二人を見つめて澄は思わず熱い息を吐いた。この身体になって初めて知ったことだが、祥子はサディスティックな趣味を持っていた。壊れるまで澄をいたぶるのもしょっちゅうで、その度に澄は言いようのない快感を覚えていた。
「自動脳改造システムの納入はいつになるかな?」
「非常時ですからねえ……。明後日までには納入されると思います。みんな切羽詰まっているでしょうから」
そう言って祥子がにっこりと笑ってみせる。澄はうっとりと二人を見つめてから画面に目を戻した。不思議なことに届いた返信は地区別に振り分けると分布が偏っている。やはり一番解答が多いのは『塔』に所属する者だ。彼らは事態が切迫していることを一般人よりよく知っている。
「ピラミッド型の組織を作るにあたって、幹部候補をピックアップしておいて。祥子さん。あなたに機械化人のリーダーをやってもらう」
「了解しました。地区別に幹部を置く形で宜しいですか? それとも業務別にしますか?」
祥子がそう言ってから席を立ち、いつものように研究室の隅に向かう。優一郎がその間に自分の席に着き、端末を立ち上げる。
「今は一般人や学生だとしても、改造後はプログラムを入力することでなんらかの業務を果たしてもらうから、業務別で」
澄は作業を続けながら二人のやり取りに意識を向けていた。祥子が慣れた手つきでコーヒーを淹れ始める。
「判りました。適性のある者をリスト化して、後ほどお送りします。それから、医療局から問い合わせが殺到しています」
どうやら医療局は全面的に優一郎の支援をするということで意見が一致しているようだ。その説明をしながら祥子がカップにコーヒーを注ぎ分けて席に戻る。差し出されたコーヒーカップを受け取り、優一郎が画面に目をやる。祥子が席に着いて端末を操作する。恐らく問い合わせの電信を優一郎に送っているのだろう。
じりじりとした快感がこみ上げる。この騒ぎできっと自分のような機械化人は増えるに違いない。何しろごく普通の生身の者は生きられない環境に、じきになるのだ。
「医療局のメンバーは優秀だからね。優先的に高性能なボディを割り当ててあげて」
「はい。判りました」
そう返答して祥子が頷く。それからしばらく端末を操作してから、優一郎は祥子に目配せをして研究室を出て行った。もちろん優一郎は澄には目もくれない。そのことが澄にはとてつもない快感になった。
続々と送られてくる電信を振り分ける作業を続けながら、澄はうっとりとした顔をして考えを巡らせた。そうしている間に今度は業者が続々と研究室に入ってくる。彼らは運んできた荷物を解き、研究室の一角で機械を組み立てていった。あれは脳摘出などの手術を外部に依頼しなくても可能にするための機材だ。
「あら。韮山課長」
業者の差し出した書類にサインをしていた祥子がそう言って首を傾げる。澄はとろんとした目で研究室の入り口を見た。派手なシャツを着て白いズボンを穿いた韮山が陽気に手を上げる。
「はーい。ここは何時来ても可愛い子揃ってるねえ」
「まあ。お褒めにあずかって光栄です」
にっこりと笑って祥子が業者にペンを戻す。数人の業者の男たちは挨拶をして研究室を出て行った。入れ替わりに韮山が研究室に入ってくる。
「じきに吉良博士もお戻りになられると思いますが、お待ちになります?」
「ああ。優一郎くんには会わない方がいいかなあとか。別れが寂しくなっちゃうもんね」
そう言って韮山が腕組みをしてうんうんと頷く。ちらりと韮山が視線を流して澄を見る。目があったところで澄は慌てて会釈をした。韮山があの時にああ言ってくれたから自分は機械化人になることが出来たのだ。感謝の意味をこめて会釈をした澄に韮山がうんうんと頷く。
「あら。韮山課長は疎開組ですか?」
不思議そうな顔をして祥子が言う。この世界の住人の身の振り方は限られている。その多くが恐らくこの世界を離れ、別世界に疎開をすることになるだろう。
「いや、まあ、そういうことで」
腕組みをした韮山が一人納得したように頷く。澄は不思議に思って首を傾げた。そう言えば韮山は誰も連れていない。思わず愛華や蘭の姿を探した澄は訝りに眉を寄せた。
「情報局の方もかなり動揺されているようですねぇ……。電信で今回の騒動の責任はと問われる方も多くて」
こちらに言われても困るんですけど。祥子が陰鬱な顔をして疲れたようなため息を吐く。すると韮山は明るく笑って祥子の肩をぽんぽんと叩いた。
「まあ、やる気のある奴は残るし。情報局の次の部長はランちゃんだから、かなり風通しも良くなるんじゃないかなあ」
「まあ……。そうなんですか」
祥子が納得したように頷いてみせる。澄はしばし考えを巡らせてから画面に目を戻した。電信がまた増えている。淡々と作業をしつつ、澄はちらちらと二人に目をやった。
「それで、ちょっと預り物をしてほしいんだけどさあ」
そう言いながら韮山がズボンを探って一枚の封筒を取り出す。祥子がはあ、と言いながらそれを受け取る。
「こちらを吉良博士にお渡しすれば宜しいんですか?」
「中見ちゃだめだよぉ。呪われるよぉ」
おどろおどろしい声を作って言ってから韮山が明るく笑う。はあ、と曖昧な返事をして祥子がまじまじと封筒を見る。それから祥子は封筒を優一郎の机に乗せた。
明るく挨拶をした韮山が颯爽と研究室を後にする。祥子がそんな韮山を見送ってから研究員たちに声を掛ける。澄は指示通りに集計したデータを祥子の端末に電信で送った。それと同時に祥子がここの研究員たちはもれなく機械化人の幹部になってもらうと宣言する。澄はそれを聞いて驚きに目を丸くした。
「ああ、多村さんはいいのよ。何もしなくて」
澄の視線に気付いたのか、祥子がすげなくそう言って他の研究員たちに目を戻し、話を続ける。澄はぞんざいに扱われたことで堪らないものを感じ、スカートに手を入れて自慰をし始めた。
ぞんざいにされると余計に嬉しいという!
澄は機械になったことで幸せなのかもと思います。