あ、冒頭に単語は入ってます。
ぐったりと倒れた桂の股間に伸びたクリトリスアンテナがぴこぴこと上下に揺れる。どうやら一号はずっと読書中らしい。桂の腿の間に開いて挟まれているのは分厚い本だ。桂は眠っているらしく、規則正しい寝息を立てている。その股間で一号が熱心に本を読んでいるのだ。その様をそっとドアの隙間から見てから佑は静かに扉を閉じた。
あれから翠と奈月はここを出てどこかに行ってしまった。きっと彼らも家に戻ったのだろう。佑と桂はラスティの家に居候している最中だ。
「あの、そろそろ行きませんか?」
両腕に大きな籠を抱えた蒼藍が小声で言う。佑は我に返って慌てて蒼藍を見た。
「あっ、はいっ! じゃなかった、わかったわ」
そう答えて佑はにっこりと笑った。すると不思議そうに蒼藍が首を傾げてにこりと笑みを返す。蒼藍の顔立ちは水輝によく似ている。そのことからついつい見間違えそうになってしまうのだ。佑はそんな自分を心の底で叱りつけた。
「この季節はきのこもたくさん採れますよ」
微笑みを浮かべて言ってから、蒼藍がキッチンにいる常磐に行ってきますと声を掛ける。食事の後片付けをしていた常磐が気をつけていけと答える。ちなみにラスティは裏庭で薪割りの最中だ。
蒼藍に促されるままに佑は家を出て森に入った。ラスティの家は広大な森の中に建っている。木の根に足を取られないように気をつけながら佑は蒼藍と一緒に森の中を歩いた。
「やっぱり森はいいわ」
胸一杯に空気を吸い込んで佑はうんうんと頷いた。隣を歩く蒼藍がくすりと笑って佑を見つめる。
「ぼくも森は好きです。そう言えば佑さんは破壊将軍だとお聞きしましたけど……本当ですか?」
少し怖々とした様子で蒼藍が訊ねる。それを聞いた佑はぴしりと顔を強ばらせた。この二日であの二人は蒼藍にどういう説明をしたのだろうか。
「ずっと疑問に思ってたんだけど、その、破壊将軍って何?」
破壊神と呼ばれていたのとはニュアンスが違う気がする。そう思いながら佑は訊ねた。すると蒼藍が少し困ったような顔をして空を仰ぐ。しばし黙してから蒼藍は佑を見つめた。
「はるか昔、この世界を襲った伝説の……ええと……」
途中で蒼藍が言いにくそうに言葉を濁す。それを聞いた佑は眉を寄せて横目に蒼藍を見た。
「伝説の、何よ」
「き、巨悪とか……悪魔とか……歴史書にはあります。あっ、で、でも、それは最初で! 破壊将軍と勇者の間には戦ううちに友情が芽生えて! 守護神を率いて恐ろしい化け物を倒すんです!」
最初は言いにくそうに、だが途中からはやけに力強く蒼藍が言う。それを聞いた佑は難しい顔をした。
「なんとなく、わかったわ」
それがお仕事ってわけね。そう続けて佑は頷いた。ほっとしたような顔をした蒼藍がおずおずと言う。
「あの……本当に破壊将軍なんですか?」
「さあ、どうかしら」
佑はにっこりと笑ってみせた。すると何故か蒼藍が頬を赤くしてそっぽを向く。ぶつぶつと口の中で何かを呟いてから蒼藍はまた正面を向いた。
「ここを右です」
小声で言ってから蒼藍が小道を右に折れる。佑は素直にそれについて歩いた。時折、蒼藍が足を止めては草むらに入って何かを拾って籠に入れる。
「何を拾ってるの?」
「木の実ですよ。ほら」
微笑みを浮かべて蒼藍が籠を佑に向ける。蒼藍の抱える大きな籠の中には幾つかの木の実が入っていた。
「木から無理に奪うといけないんです。木が落としてくれたものだけ拾うんですよ」
そう説明しながら蒼藍が大きな木に駆け寄り、根元に屈み込む。佑はそれを真似て木の根元に落ちた木の実を拾い上げた。
「栗もあるじゃない」
「この森は食べるものがたくさんあるんですよ。ほら、きのこも」
栗を拾い上げていた佑に蒼藍が声を掛けて木の根元を指差す。そこに生えていたものを見て佑はぎょっとした。慌てて大きな木を見上げる。どう見てもこれは松には見えない。それを確かめてから佑は蒼藍の示したきのこを見た。
何故、松茸が生えているのだろう。そんな佑の疑問を余所に、蒼藍が丁寧に松茸の周囲を指で掘り、そっと松茸を取り上げる。
「ちょっと、貸してごらんなさい」
佑は蒼藍の手から松茸を取り上げ、匂いを確かめた。確かに松茸の香りがする。かつて水輝がどうしてもとせがんだので『下』世界の通信販売で仕方なく買った、あの高級松茸と同じ香りだ。
「どうして松茸が……」
ショックを受けて呟いた佑を余所に、蒼藍がまたしゃがみ込んで地面を指で掘り始める。にこりと笑って蒼藍が拾い上げたのは、さっきのものより随分と大きい松茸だった。
「この辺りは松茸ゾーンなんです」
微笑みを浮かべたまま蒼藍がさらりと言う。
「松茸ゾーンって……」
翠の奴……相変わらず無茶な……。そう呟いて佑は木の根元にしゃがみ込んだ。きっと翠が面白半分に空間を繋げ、松茸を強引にここに生やしているに違いない。
「割と細かいことを気にする人ですね」
籠に松茸を放り込みながら蒼藍が笑う。それを聞いた佑は頬をぷくっと膨らませた。
「喧嘩売ってる?」
「じゃあ本気で売りましょう。年増ばばあ」
にこにこと笑いながら蒼藍がさらっと言う。引きつった佑を余所に蒼藍が立ち上がってふう、とわざとらしくため息を吐いて髪をかき上げる。佑はショックを受けて目に涙を浮かべ、やがてぽろぽろと涙を零し始めた。
「これでもいい子にしてたつもりなんだけどなあ。そんなこと言われると喧嘩売りたくなっちゃうじゃん。あー、泣けば済むと思ってるだろ? やだなー、そういう態度」
控え目で優しくて大人しい。そのイメージを根底から覆す底意地の悪い笑みを浮かべて蒼藍がすらすらと言う。どうやら蒼藍はあの家では完璧な猫を被っているらしい。
「そうよね……水輝さんとあいつの息子なのに、性格いいわけないわよね」
泣きじゃくりながら佑はしみじみとした口調で言った。すると蒼藍がけっ、と喉の奥で言う。その態度は水輝の機嫌の悪いときを彷彿とさせる。
「誰の息子かなんて関係ないじゃん。それともなに? あんたオレ見て誰かさんのこととか考えてんの? やだなあ、オレの人格無視かよ」
ずらりと並べ立てて蒼藍がへっ、と馬鹿にしたように笑う。
「ごめんなさい。似てるから、どうしても……」
頬を濡らす涙を拭って佑は顔を上げた。その瞬間、蒼藍がふわりと身を屈めて佑の唇に唇をくっつける。何が起こったか理解出来ず、佑はその場に硬直した。
破壊将軍と呼ばれている佑w
蒼藍もこの時点ではかなり猫かぶりなんですよね……。