「慰謝料げっと。ご馳走様」
にこにこと笑って蒼藍が籠を抱えて身を起こす。
「年増ばばあじゃ無かったの?」
「年増加減じゃ、あんたよりラスティとか常磐のが上だし。それに結局、時間ってのは個人の上に流れるもので、実はあんまり年は関係ないとか思ったり」
すらすらと言いながら蒼藍が歩き出す。佑は慌てて立ち上がって蒼藍の後を追った。
「わりと理論武装もするタイプなのね」
そう言ってふむふむと佑は頷いた。蒼藍が呆れたような顔をして佑を見てからため息を吐く。
「別にそんなつもりないけど? 気に入った女がいたら意地悪したくなるのって普通じゃん。あ、林檎みっけ」
蒼藍が足早に木に寄って根元にしゃがみ込む。佑はその後を追って草むらに落ちた林檎を拾い上げた。蒼藍が拾った林檎を籠に次々に放り込む。
「あなた小学生? ってまだ、それくらいの歳なのよね」
「十二になったばっかり。ほら、これ食うか?」
そう言いながら蒼藍が拾った林檎を服で擦り、佑に差し出す。佑は手にしていた林檎を籠に入れ、何となく差し出された林檎を取った。
「ありがと」
にっこりと笑って佑は貰った林檎にかじりついた。次の瞬間、佑は林檎を口にしたまま硬直した。林檎にはあり得ない凄まじい辛さが口の中に広がる。蒼藍がそんな佑を腹を抱えて笑い飛ばす。
「美味しいわよ」
怒りに震えながらも佑は根性で林檎を全部食べた。すると蒼藍が唇を尖らせてつまらなさそうな顔をする。
「ちぇーっ。もっと動揺するかと思ったのに」
「ふっ、年の功よ」
どうせ、わたしはおばちゃんだし。佑がそう付け足すと蒼藍が眉を寄せてそっぽを向く。つまらない、と呟いて蒼藍が籠を抱えて腰を上げる。
「あーあ。泣き喚いて怒ると思ったのに。口の中、凄いことになってるだろ? そうなったらまたキスできると思ったんだけどなあ」
ぶつぶつと言いながら蒼藍が歩き出す。佑は首を傾げつつ蒼藍の後を追った。歩きながら蒼藍は木の実やきのこを拾って籠に放っていく。
「わたしみたいな魅力の無い女に、キスして楽しい?」
「だから気に入ったってさっき言ったじゃん。オレはあんたが好きなんだよ」
ぶっきらぼうに言って蒼藍がそっぽを向く。横を向いた蒼藍の耳が赤くなっているのを見つけて佑は思わず笑った。どうやら蒼藍は照れているらしい。
「やっぱり、きちんと学校とかに行くべきね」
佑はそう言ってうんうんと頷いた。蒼藍が嫌そうな顔をしてため息を吐く。
「何だよ。不勉強だからか? もしかしてあんた、オレのこと馬鹿だと思ってる?」
まあ、否定はしないけど。やけに小声で蒼藍が付け足す。
「違うわよ。頭はいいと思う。ちょっと自信過剰なところはあるけど、あなたくらいの歳ならそれくらいのほうがいいし」
蒼藍が足を止めて佑をまじまじと見る。佑もつられて足を止めた。
「じゃあなんで学校?」
「いろんな人と接して、いろんな経験をしたほうがいいと思うの」
わたしは、それがなかったから……。そう言いながら佑は俯いた。ふうん、と呟いた蒼藍が頭をかく。
「修行って滝壺に放られたり、どっかの家の軒下に吊られたりするから、色んな街の人とはけっこう接触するけど?」
何故か機嫌悪そうに言ってから蒼藍がまた歩き出す。佑は蒼藍の後を追いながら木の実やきのこを拾っていった。二人がかりで拾ったからか、蒼藍の抱えた籠があっという間にいっぱいになる。
「そういうのとも違うのよね……」
常磐さんや奈月さんの方針が悪いとは言わないけど……。立ち止まった蒼藍に合わせて足を止め、佑は呟くように言った。すると蒼藍が何故かやけに機嫌の悪そうな顔をする。
「まあ、そう思うなら帰って常磐とかに言えば? オレは大人の決めたことには従うし、あんた、オレが近くに寄るの何か嫌そうだしな」
ふん、と鼻で言ってから蒼藍が足早に来た道を戻り始める。
「嫌なわけじゃないわ。あなたに失礼だろうから……。わたしってだめよね。まだ引きずっちゃって……」
「あのさあ」
嫌そうに言ってから蒼藍がくるりと踵を返して振り返る。傍に寄ろうとしていた佑は思わず足を止めた。
「要するになに? オレ見て別の奴を思い出すから、オレのこと追い出そうって腹?」
鼻の頭に皺を寄せて蒼藍が嫌そうに言う。佑は言われた意味が判らずに首を傾げた。
「追い出す?」
「学校に行くってそういうことだろ? どこも全寮制なんだから」
疲れたような顔で言ってから蒼藍がまた来た道を戻り始める。佑は慌ててその後を追った。
「この世界ってそうなんだ……」
「そうじゃない学校なんてオレは知らない。で、さあ。オレ、あんたに一応、告白したと思うんだけど? 返事はどうなんだよ」
追いついた佑を横目で睨んで蒼藍がぶっきらぼうに言う。佑はさっき蒼藍に好きと言われたことを思い出した。
「えっと、あの、本気だったの?」
そう言いながら佑は無意識のうちに頬を染めた。蒼藍がぴたりと足を止めて軽く手招きをする。佑は頬を染めたままで足を止め、呼ばれるままに何となく身を屈めた。
ちゅっ、と音を立てて蒼藍が佑の唇に軽くキスをする。
「本気に決まってるだろ。ばーか」
真っ赤な顔をして吐き捨て、蒼藍がそっぽを向く。
「本気なら、本気で考えてあげる。だけど、待って、今はまだ……」
佑はそう言って蒼藍が触れた唇を手で覆った。眉を寄せた蒼藍がまじまじと佑を見つめる。
「龍神の童貞だの処女だのって、けっこう高値で取引されるの、知ってる?」
早くしないと売れるかもなー。籠をどすんと地面において蒼藍がのんびりと頭の後ろで手を組み合わせる。それを聞いた佑はぎょっとした。
「売ったりしたら、だめよ! やっぱり、あなた、学校に行くべきだと思う」
「何だよ。やっぱりオレと居るの、嫌なのか? あーあ、つまんねえの」
不機嫌な顔をして蒼藍が籠を佑の方に押す。それから蒼藍はころりと態度を変えてにっこりと愛想のいい笑みを浮かべた。
蒼藍の本性というかまだ子供なのでw
そろそろ学校の話が始まります。