ラクタート神聖王国は地図で見ると龍宝珠界の中心に位置した大陸にある。王国の歴史は他国と同様に古く、王宮と神殿は密接な関係がある。神殿の奥に祀られた守護神は国民の前に姿を現すことはなく、国王とだけ言葉を交わすという。
王城を中心に街は栄え、別名魔法大国とも呼ばれるこの国には魔法学校が多く設立されている。中でもこのラクタート中央魔法学院はラクタート神聖王国だけでなく、龍宝珠界の中でもトップクラスの学校と言われている。その学校の教室で蒼藍はにっこりと笑って挨拶兼自己紹介などをしていた。
「あ、それとですね。隣のクラスに編入した佑さんに手を出したら相手が誰であろうと殺しますので。そのつもりで」
教室の前に立ち、身体の後ろで手を組んですらすらと言った蒼藍を教室にいた生徒たちがぎょっとしたような顔で見る。教卓前にいた若い女教師が焦ったように蒼藍の口を塞ごうとする。
「それで、ぼくの席はどこですか?」
にこやかに笑って蒼藍は教師に訊ねた。それが蒼藍が学校に編入した第一日目の始まりだった。教師がうろたえながら教室の後ろの空席を指差す。判りました、と優等生の顔で頷いて蒼藍は席に着いた。
教室に詰められた生徒の数はざっと四十人というところだろうか。年齢には多少のばらつきがあるようだ。教室の中を見回してそのことを見て取った蒼藍はふうん、と心の中で呟いた。
編入試験を蒼藍は優秀な成績で切り抜けた。対する佑は少しドジを踏んで指定された魔法ではないものを暴発させたため、危うく不合格になるところだった。が、そこはやっぱりラスティの関係者だけあり、学校側も佑を不合格にすることは出来なかったようだ。ちなみにこの学校はラスティたちのいるタイラード王国からはずっと離れている。そんな離れたこの国の中にもラスティの名前を知る者がかなりいるのだ。
ぱらぱらと教科書をめくりながら蒼藍はぼんやりと考えを巡らせた。支給された教科書に書かれた内容などすっかり頭に入ってしまっている。やり方は乱暴で容赦はないが、ラスティや常磐の教えることに間違いはないのだ。
学校ねえ……。蒼藍は心の中で呟いて窓の外に目をやった。他の学校より数段大きなこの学校は、生徒たちの詰める学舎もやたらと大きい。窓際の席を運良く確保できた蒼藍は開いた窓の外をじっと見つめた。学舎に取り囲まれた形で校庭があり、そこでは数人の生徒たちが魔法実践をしている。何のことはない、高い棒につるされた木の実を狙って落とす授業のようだ。恐らくあれは幼年クラスの授業だろう。
「え、えー。それではですね。蒼藍さんのお世話は」
「あ、別に世話は必要ないので。各種注意事項は入寮の際に頂いたパンフレットに記載されていましたし」
女教師が弱々しい声で言ったことに蒼藍はきっぱりと言い返した。すると何故か教室にどよめきが広がる。蒼藍は少し眉を寄せて教卓前に立つ女教師を見た。もしかしたら少し言い方がきつかっただろうか。女教師は泣きそうに顔を歪めている。
「なにか問題が?」
他にどうとも言いようがなく、蒼藍は難しい顔をして教師に訊ねた。すると女教師がいえ、と小声で言って首を振る。
それから女教師が今日の注意なるものを二、三述べた後、短い休憩時間が来た。どうやらこの休憩時間で授業の準備をしたり、教室を移動したりするらしい。蒼藍はため息を吐いて今日の授業内容を確かめた。幸い、今朝は一番に隣のクラスとの合同授業がある。よし、と頷いて蒼藍はさっそく必要な教科書などを揃えて席を立った。
「あの……蒼藍さん」
教室を出ようとしたところで見知らぬ生徒に呼び止められる。蒼藍は訝りを覚えて足を止めた。
「なんですか」
「あ、あの、次の授業の、教室、判らないかと思って」
数人の女子生徒がいつの間にか蒼藍の前に並んでいた。中の一人が言うのを聞いて蒼藍は少しだけ眉を寄せた。
「いえ。先に確認しましたから。第二棟の二階、東から三番目の教室でしょう?」
すらすらと答えてから蒼藍はそれじゃあ、と会釈をして教室を出た。がっかりとしたような女子生徒の声が後ろから聞こえてきたが無視する。何しろあの手の者をいちいち構っていたらきりがない。蒼藍は足早に廊下を進み、隣の教室の前で足を止めた。
窮屈な制服も気に入らないし、周囲の目も鬱陶しい。まさか今さら学校に通うなんてことになるとはね。そんなことを心の中で呟いて蒼藍はため息を吐いた。そうしている間に隣の教室の扉が開く。
「佑さん」
廊下に出てきた佑に蒼藍はにこりと笑みかけた。佑は女子用の制服にきっちりと身を包んでいる。自分が着るには窮屈だが、佑が着ているところはとてもよく似合って見える。
「蒼藍。この学校、どうなってるのよ」
小声で言いながら佑が近付いてくる。自然と並んで歩きながら蒼藍は何がですか、と首を傾げた。佑は子供の姿になってもとても綺麗で、横にいるだけでつい目を奪われてしまう。
「龍宝珠界に、どうして龍神とかが居るの?」
ごくごく絞った声で佑が言う。それを聞いた蒼藍は訝りに眉を寄せた。
「ぼくや佑さん以外にですか? まあ、居ても不思議はないかも知れませんけど」
少なくともこの学校に通う誰も、佑が実は破壊将軍だなんてことは知らないはずだ。それ以上に奇異なことはないのではないだろうか。そんなことを思いつつも、蒼藍は大人しく佑の返答を待った。
このエピソードから九章です。
佑の感覚がかなりずれているというか。
蒼藍もずれてますけど!w