優一郎は苛々しながら情報局情報管理部に急いでいた。緊急の呼び出しということで水輝の誘いを振り切ったのだが、これで緊急でなかったら解体処分にしてやる。そんなことを思いながら優一郎は荒い足取りで問題の部屋に辿り着いた。
ドアをノックすると返事がある。優一郎は失礼しますと挨拶して部屋に入った。優一郎を待ち構えていたのは愛華と蘭だった。
「里中さん。こんにちは」
今は部長の席についているのは蘭だ。にっこりと挨拶して優一郎は蘭の席に近付いた。蘭がこんにちは、とかたい顔で挨拶をし、愛華に目配せをする。慣れたもので愛華は蘭の合図を受けて優一郎を応接室に招いた。三人で応接室に入り、ソファに腰掛けたところで蘭がスーツの内側から一枚の封筒を出す。
「緊急の報告ということで預かりました」
そう言いながら蘭が封筒を優一郎の前に滑らせる。優一郎は黙ってテーブルから封筒を取り上げ、中身を改めた。
「例の学校から、なるほど……。派遣したのは那季さんと阿衣里さんだっけ?」
まさかうちの世界に卒業生がいるとはね。諦めなければ手段はいろいろあるものだ。理子、ありがとう。そう思いながら優一郎は読みにくい手書きの文字を早速解読にかかった。
「はい。二人とも優秀な情報員で……」
かたい顔でそこまで言って蘭が唇を噛んで俯く。その横に座る愛華が気遣うように蘭を見る。愛華は今は韮山ではなく、蘭をマスターに登録しているのだ。いち早くいなくなった韮山に代わり、蘭は愛華を引き取ったらしい。
「ハイブリッドと機械化人にコンビを組ませるのはいいかもしれないね」
優一郎がそう告げた途端、蘭が怒りの顔をして頭を起こす。だがすぐに蘭は諦めたような顔になり、そうかも知れませんね、と小声で答えた。優一郎はちらりとそんな蘭を見てから報告書に目を戻した。
いま、佑は龍宝珠界と呼ばれる世界のとある学校に通っている。佑の動向を探るため、優一郎はそこに情報員を送り込んだ。この報告書はその情報員二名から送られたものだ。
「初日分の報告書にどんな意味があるかと思ったけど、これは確かに緊急で判断が必要だね」
佑に手を出したら相手が誰であろうと殺す……か。優一郎は紙面に書かれた文章をじっと見つめて目を細めた。どうやら佑と一緒に学校に編入してきた生徒が真っ先にそう宣言したらしい。
「どう、思う? こちらの動きが漏れているのではないかとの指摘もあるけど」
「あり得ないとは言いませんが、その可能性は低いかと。ゲートはこちら向きのものは全て封鎖されていますし、新たなスパイが紛れ込む可能性はほぼゼロです」
蘭が無表情に淡々と説明をする。
「だけど、護衛らしきハイブリッドが佑についているのは事実だよね」
考えを巡らせながら優一郎は厳しい顔をした。あの学校にはかなりの数のハイブリッドが紛れ込んでいる、という報告は先に受けた。が、佑と同時に編入してきたことといい、問題の発言をした生徒は佑の護衛と見て間違いないだろう。
「そのようですね。ですが、迂闊に行動を起こすのは逆に危険かと。向こうにこちらの動きが読まれてしまう可能性もありますし」
難しい顔をして蘭が腕組みをする。それからふと気付いたように蘭は愛華にお茶を用意して欲しいと頼んだ。愛華が素直に頷いて静かに退室する。
「受動的な情報収集に限定して、こちらから能動的なアクションは極力起こさない方向で行くしかないですよね? 那季さんは不満かもしれないけど」
「その方が無難と思います」
神妙な面持ちをして蘭が頷く。優一郎は報告書の最後にまで目を通してから、紙を元通りに折り畳んで封筒にしまい込んだ。そうしているうちに愛華が茶を運んでくる。出された茶をありがたく啜ってから優一郎は顔を上げた。
「愛華さん、調子良いみたいだね。良かった」
優一郎は目の前に並ぶ二人を見てにっこりと笑った。すると愛華が少し恥ずかしそうな顔をし、その隣に座る蘭がやけにかたい表情をする。
「吉良博士のおかげですわ。素晴らしい身体をくださってありがとうございますの」
嬉しそうに言う愛華とは対照的に蘭の表情はどんどん暗く、かたい物へと変わっていく。だが優一郎と目が合うと、蘭はその表情を消して元通りの感情のない顔をした。
「それでは、また何かありましたらご連絡します。お忙しい中、わざわざすみませんでした」
そう言って蘭が立ち上がり、ぺこりと優一郎に会釈をする。
「いえ。有益な情報をありがとう。向うに派遣されている二人にはくれぐれも無理をしないようにと伝えてくれないか? 貴重な戦力だからね」
うんうん、と頷きながら優一郎が言うと、蘭は無言でもう一度会釈をしてから応接室を出て行った。そんな蘭を見送ってから愛華が戸惑った面持ちをしてテーブルを見る。蘭は自分に出された茶には手をつけていない。
「僕は里中さんに嫌われているのかな?」
「そ、そんなことはないと思いますの!」
優一郎が問うと、愛華が慌てたように言う。それから愛華は二人分の湯飲みをそっと盆にのせた。
「もしかしたら、君を管理するために無理をしているのかもしれないね」
優一郎がそう言った途端、愛華が盆を取り落として床に湯飲みをひっくり返してしまう。けたたましい音を立てて湯飲みが割れ、残っていた茶が床に広がる。愛華ははっと我に返ったような顔をして慌てて後始末をし始めた。
「里中さんに負担がかかっているかもしれないって、考えたことは無かったの?」
床に屈んで後片付けをする愛華を見下ろして優一郎はくすくすと笑った。ぎくりと身を竦めた愛華が泣きそうな顔をして優一郎を見る。
「わ、わたくし……ああぅ!」
掠れた声を上げた愛華がスカートの中に手を突っ込んで股間を弄りはじめる。その様をのんびりと眺めて優一郎は意地の悪い笑みを浮かべた。
「里中さんに伝えておいてくれないか? 管理に負担がかかるようなら、いつでも解体処分にするからと」
機械化人は解体すれば部品は別の機械化人に再利用も可能だ。多くの女性たちが機械化人化している今、部品などはどれだけあっても足りない状況になっている。意地悪く嗤いながら言った優一郎を見つめて愛華が股間をかきむしる。
「緊急事態でもあるし、不要な機材を放置しておけるほど余裕は無いしね。里中さんのような優秀なエージェントの士気を高めるなら充分価値はあるけど、逆に負担になっているようなら」
嗤いながら優一郎が言うと、愛華が切なそうな声を漏らして床にへたり込む。愛華は足を開き、股間を晒して機械で出来た女性器を弄り始めた。余った手でブラウスに包まれた乳房を揉みしだく。機械化人らしい当たり前の動きに優一郎は満足をこめて頷いた。
「それじゃあ、きちんと里中さんに伝えてね。解体を望むなら機械化人管理局に連絡すればすぐに回収に向かうからと」
そう言いながら優一郎は立ち上がった。嗤いを浮かべて愛華をちらりと見る。悲鳴のような嬌声を上げて愛華は夢中で自慰をしている。そんな愛華を残して優一郎は応接室を出た。足早に情報管理部の部屋を出た優一郎は研究室に戻りながら廊下をすれ違う人々を見た。非常事態ということで機械化人以外の人の顔はやけに暗い。だが彼らもじきに悩まなくて済むようになる。
問題は……蒼藍と言ったか。読みはソウランかな……。
報告書の内容を思い出して優一郎は渋い顔をした。佑の護衛ということらしいのだが、蒼藍というその人物は生徒として学校に紛れているらしい。まさか子供が佑の護衛に付くはずもないから、恐らくハイブリッドの誰かが子供に化けているのだろう。
翠さんの手の者だろうな。優一郎は心の中で呟いてため息を吐いた。翠の息の掛かった者となると余計に手を出しにくい。ここはやはり静観し、情報収集に努めた方が良さそうだ。そう考えながら優一郎は研究室に戻った。
どうやら佑と蒼藍のとこにエージェントが派遣されていたようです。
さすが優一郎w