賑やかなクラスメイトたちに連れられて佑は学舎の一階にある食堂にいた。佑を取り囲んでいるのは数人の女子生徒たちだ。途中まではクラスメイトの男子生徒も一緒だったのだが、混雑していたために近くのテーブルにはつけず、少し離れた場所で食事をしている。
ううう、知らない人ばかりでどうしよう。佑は表面的には微笑みを浮かべて周囲の話に合わせていたが、内心では蒼藍に助けを求めていた。佑を囲んで食事をしている彼女たちは、口々に佑に蒼藍との関係の説明を求めるのだ。
「そういえばぁ、蒼藍さんと佑さんって、凄いいい成績で飛び級したって聞きましたけど」
平たいパスタをつつきながら一人の女子生徒が意味ありげに笑って言う。すると佑を囲んで食事をしていた他の女子生徒が目を丸くして佑を見る。
「自分のあげた成績がどういう位置づけにあるのかわからないんです。学校に通うこと自体初めてで……」
消え入りそうな声で佑は正直に言った。すると質問した女子生徒がふむふむと頷きながら腕組みをする。
「それはそうですよね。学校に行ったことがなかったら判りませんよね」
「またー。いつもの早耳? 焦らさないで教えてよー」
意味ありげな笑みを浮かべて別の女子生徒がからかう。すると佑に質問した女子生徒がばれた、と笑って舌を出す。
「えっとですね。飛び級試験の成績はお二人ともトップクラスだったそうですよ。実は先生たちに聞いたんですけどねーっ」
嬉しそうに言って女子生徒が明るく笑う。すると何故か佑を取り囲んでいた女子生徒たちが一斉に賑やかに笑ってみせた。佑は表面的には彼女たちに合わせて微笑みを浮かべていたが、内心では彼女たちの反応が理解出来ずに苦しんでいた。
他人の成績を知って、何か良いことがあるのかしら。佑はそう思いながら皿に乗った料理をちびちびと口に運んだ。彼女たちに勧められて選んだ料理なのだが、少し辛すぎて食べづらいのだ。
「やっぱり佑さんってお姫様なんですか? どこの国の? その髪だとー……ラクタートってことはないでしょうし……」
テーブルに着いていた女子生徒の一人が佑をまじまじと見ながら首を傾げる。髪、と呟いて佑は胸の前に垂れた自分の長い髪に目をやった。佑の髪はこちらの世界に来てから本来の虹色に戻っている。ちなみに蒼藍の髪と瞳は目のさめるような美しい蒼い色をしている。そう考えてみると、この学校に集まった生徒たちの頭は実にカラフルだ。金髪、銀髪、青に赤に紫色。白や黒などと言った色もあれば、中には複数の色をした斑の髪を持つ者もある。瞳の色もバリエーションは豊富だ。どうやらさっきの女子生徒の口ぶりだと、髪の色や瞳の色などで出身国がある程度は判るようだ。
「わたしの出自については申し訳ないですけど聞かないでください。ごめんなさい」
素直に詫びて佑はぺこりと頭を下げた。すると何故かテーブルに着いていた女子生徒たちが一様におお、と声を上げる。
「謎のお姫様! ですか! ますます素敵ですねっ」
「ああ、いいなあ……私も一度でいいからあんな風にかっこいい子に傅かれてみたーい」
「そうですよね。根掘り葉掘り訊くのも失礼ですし。こっちこそごめんなさい」
女子生徒たちが口々に言って佑をじっと見つめる。佑は反応に困って思わず視線を彷徨わせた。
「わたし、そのような身分の者ではありませんから」
自分で始めた作戦ではあったが、蒼藍に見破られてしまったのなら意味はない。諦めて佑は自分からそう白状した。すると騒いでいた女子生徒たちがぴたりと口を噤む。それから彼女たちは何故か気の毒そうに佑を見た。
「もしかして気を遣わせました? あの、私たち、何もそんな騒ぎ立てようってことではなくて」
「そ、そうですよ。身分なんて関係なくて、佑さんとはお友達になりたいなって。ねえ?」
「そうそう。あの、もうお訊きしませんから!」
一転して心配そうな顔で言う女子生徒たちを見回して佑は困惑に顔を歪めた。どうやら彼女たちはさっきの作戦を信じ切っているらしい。
我が侭姫にこき使われる可哀想な騎士という路線で行こうと思ったのに……。内心でそう呟いて佑はそっとため息を吐いた。憂いを帯びた佑の表情をどうとったのか、女子生徒たちが焦ったように口々に佑を慰めようとする。
「皆さん、ありがとうございます」
そう言って佑はにっこりと笑った。よし、これでとりあえず演技はやめてもいいだろう。正直に白状したつもりだった佑はそう信じ切って頷いた。
不意に女子生徒たちがあっ、と声を上げて口を噤む。佑は不思議に思ってテーブルに着いた数人の女子生徒たちを見回した。
「この料理は佑さんの口には合わないでしょう。これをどうぞ」
背後から蒼藍の声が聞こえ、佑の前に別の料理の入った皿が置かれる。佑は慌てて振り返った。いつの間にか真後ろに蒼藍が立っている。
「蒼藍……」
佑はほっとして表情を緩めて蒼藍を見上げた。蒼藍が佑の前に置かれていた皿を静かに取り上げる。
「あ、あの……」
戸惑った顔をした女子生徒の一人が小声で言う。すると蒼藍は声を発した女子生徒に愛想良く微笑んでみせた。
「この学校で流行っている料理のようですが、佑さんは薄味がお好きなんですよ。すみません、こちらはぼくが頂きますから」
そう言って会釈をした蒼藍が静かに離れていく。少し離れたテーブルに着いた蒼藍を見つめてから佑は困った顔をした。
「もう、蒼藍ったら……」
ここで蒼藍を追いかけたら、一緒に食事をしている彼女たちに失礼だ。そう思いながら佑はスプーンを取り上げて蒼藍が持ってきた料理に口をつけた。
柔らかい甘さのある味が口に広がる。佑は目を見張って皿に乗った料理を見つめた。ごくシンプルな煮込み料理に見えるのに、随分と食べやすい味になっている。
「あ、あの、佑さん。ごめんなさい。私たち、佑さんがああいう味が苦手だって、その、知らなくて」
申し訳なさそうな顔をして一人の女子生徒が詫びると、他の女子生徒たちも口々に佑に謝った。
「いえ、苦手なのに言い出さずに無理して食べようとしていたわたしが失礼だったと思います。今日、お会いしたばかりで料理の好みが解るはずないですし」
佑がそう答えると、女子生徒たちはほっとしたような顔をした。それから彼女たちは一斉にテーブルに身を乗り出してきた。
「あの。時にお訊きしますけど。蒼藍さんとはどういったご関係で?」
「もしかして禁断の恋とか? ですか?」
やけに真剣な顔で問われて佑は思わず息を詰めて何度か瞬きをした。
「蒼藍は、わたしなんかに囚われるべきでは無いと思っているんです。わたしは……」
しょんぼりとした顔をして佑が言った瞬間、テーブルに乗りだしていた女子生徒たちが何故か一斉にブーイングの声を上げた。その意味が理解出来ず、佑は驚きに目を見張って彼女たちを見回した。
「なんでですかっ! あんなにお似合いなのに!」
「もっ、もしかして、蒼藍さんの、か、片思い!?」
「うわ、まじっすか! でも蒼藍さんってガード硬そうで落ちそうにないんですよねーっ」
テーブルに身を乗り出した女子生徒たちが口々に言う。
「違うの。わたしは……」
佑は小声で呟いて俯いた。こみ上げてきたものを堪えきれず、頬を涙が伝う。実際のところ、自分は蒼藍のことをどう思っているのだろう。もしかして好きなのだろうか。だが年の差は驚くほど開いているのだ。そんなことを考えながら佑は声を殺して泣き続けた。
「うっ、す、すみません、余計なこと、訊いちゃいましたか」
またやった、とばつの悪そうな顔をして女子生徒の一人が言う。彼女たちは困惑したように顔を見合わせ、食べ終えた食器を手にいそいそとテーブルを離れていった。一人、取り残された佑は顔を手で覆って声を殺して泣いた。
「もう。また泣いてるんですか」
ふと、間近から声が聞こえてくる。佑ははっと息を飲んで慌てて顔を上げた。渋い顔をした蒼藍が手にしていた皿をテーブルに置き、佑の隣の席に腰掛ける。それから蒼藍は制服のポケットを探って取り出したハンカチを佑に差し出した。
「わたしって、どうしようもないほど、愚かだわ……」
震える手でハンカチを受け取って、佑は涙を拭った。蒼藍が片手で本を読みながら皿に盛られたあの辛い料理をスプーンで口に運ぶ。
エロシーンがないことに作者が安心しました!w
佑と蒼藍は今のところエロはないです。