機械ですけども!
なのに何故、優一郎は気が付かないのだろうか。釈然としないものを感じつつ、桂はため息を吐いて股間に手をやった。足を開いてかかとをソファにのせ、ショーツの中に手を突っ込んでクリトリスを操作しようとしたところではたと気付く。何故か女性が額を手で覆って力なくうなだれているのだ。
「あの……恥ずかしくない?」
唸るような声で女性が言う。桂ははっと気付いて慌てて足を閉じてスカートを下ろした。
「も、申し訳ありません」
ついつい相手が女性ということで油断をしてしまったのかも知れない。そんなことを思いながら桂は素直に頭を下げた。
「あなたが恥ずかしくないなら、別にわたしは構わないから。っていうかけっこう面白いし」
「いえ、あの、恥ずかしいですけど、ご覧になりたいのでしたら……」
困惑しつつも桂は小声で言った。何しろこの女性は恩人なのだ。それに防御システムのレベルを上げるには、どうしても股間を弄る必要がある。桂は閉じた足の上で手を握り、上目遣いにちらちらと女性を伺った。
「見せてもらうわ。これまでヒューマ……じゃなくてなんだっけ? 改造人間だっけ? には興味なかったけど。あなたは面白可愛いし」
そう言って女性が桂の傍に寄る。桂はおずおずとスカートをめくり上げ、いそいそとショーツを脱いだ。足を開いてかかとをソファにのせると桂の股間が丸見えになる。桂は恥ずかしさに真っ赤になりつつ、目の前に屈んだ女性の様子をちらちらと伺った。女性は物珍しそうに桂の股間を覗き込んでいる。
「あなたのって赤いのね。つるつるしてて、ゴム製?」
「はい。あの、形状とか、おかしいでしょうか?」
不安を覚えつつ桂は小声で訊ねた。そう言えばこんな風に人に股間を見て貰うのは初めてだ。形は一応、画像などで確認してそれらしくは造ったつもりだ。が、やっぱりどんなに凝ってもそっくり同じには作れなかった。それに凝れば凝るほど股間部分の部品は壊れやすくなってしまうのだ。
「可愛くて、いいんじゃない? 上手くデフォルメしてあると思う」
真剣な顔で桂の股間を覗き込み、女性が頷く。桂はほっとして胸に手を当てた。恥ずかしいけど見て貰って良かったかも知れない。
「もともとの自分のものがグロテスクな形で好きではなかったんです。それに予算も、できるだけ抑えたかったから」
自分の元の身体のことを思い出しながら桂は小声で説明した。すると女性がふと顔を上げる。
「無理に敬語を使う必要は無いわよ。それから、わたしは佑っていうの。呼び捨てで構わないから」
佑と名乗った女性がそう言ってまた桂の股間に目を戻す。恥ずかしさに耳まで赤くなりながら桂はこくんと頷いた。
「もしかして、佑は理子のお母さん?」
ふと桂は思い出してそう訊ねた。そう言えば佑の面立ちはどことなく理子というあの女性に似ている気がする。それに確か、佑という名には聞き覚えがある。
「理子の奴、珍しいわね。わたしの事、母親だって言ったんだ」
「分裂の件で、理子には酷い事言ったから」
理子がこの研究室に乗り込んできた時のことを思い出して桂はそっと息を吐いた。あの時は随分と酷い喧嘩をしたような気がする。
「自分には佑って言う立派な母親が居るって。佑はちゃんと妊娠してお腹を痛めて産んだって」
自嘲を込めて桂は呟くように言った。あの時、理子は妊娠していたのだ。だが桂はそのことを知らずにきつい言葉をぶつけてしまった。考えてみれば自分がディザブラだからと八つ当たりをしてしまったのかも知れない。
「あいつが、そんな事言ったの?」
ふふふ、と楽しそうに佑が笑う。貴重な情報ありがと。立派な母親か。と呟いてまた佑が笑う。桂はそんな佑の態度を不思議に思って首を傾げた。もしかしたら理子は面と向かって佑に生んでくれてありがとうと言ったことがないのだろうか。
「私、理子が羨ましくて。佑みたいなお母さんが居て、もうすぐ、博士の子供を産んで。妬んでいたんだと思う」
思ったままにそこまで言って桂ははたと気が付いた。そう言えば理子は確か自分とそう変わらない年齢に見えた。なのに目の前に居る佑も自分と変わらない年に見える。妊娠して子供を産んだということだから、それなりに成人してから佑は理子を産んだのだろう。
となると、佑は一体、幾つなのだろうか。そんなことをつらつらと考えていた桂を佑がうろんな目で見る。
「佑の年齢はいくつ?」
桂は思ったままをストレートに訊ねた。すると佑がひくりと口許を引きつらせて上目遣いに桂を見る。
「時の流れが、ひとそれぞれ違うのは知ってるかしら?」
佑が引きつりつつもそう告げる。桂は頷いた。
「教科書には世界を単位とすると書いてあったし、世界が個人に影響を与えるのは確かだけれども……」
確かに佑の言う通りなのかも知れない。桂は素直に頷いた。すると佑がにっこりと笑う。
「それなら、さっきの質問は意味がないわよね?」
にこやかに問われた桂は考えを巡らせてみた。人それぞれに流れる時が違うのなら、年齢はあまり関係ないのかも知れない。そんな結論に行き着いて桂は何となく頷いた。
でもお母さんと娘がまるで姉妹か双子のような年に見えるのはどうかと思う。そんなことを思いつつも桂は身の安全のために黙っておいた。
「佑は、どうしてここに?」
作業を終え、ショーツを穿いて元通りにスカートを直したところで桂はふと訊ねた。さっきまで興味津々の顔で桂の股間を覗き込んでいた佑が屈めていた身を起こす。
「わたし、明日から仕事なのよ」
話によると、佑は作戦部に所属しているらしい。もしかしたら仕事の準備で『塔』に来ていたのだろうか。そんなことを考えて桂はなるほどと頷いた。
「今度の赴任先はヒュ……じゃなくて人造人間だっけ? に仕切られてる世界らしくて」
「あの、佑。機械化人です」
言いにくそうにする佑のせりふを聞いて桂はさりげなくそう説明した。するとそれそれ、と佑が頷く。どうやら佑は仕事で『下』の世界に行くようだ。
「そう、それそれ。で、仕事を控えて、よく考えたらわたし、これまで機械化人をきっちり観察したことって無かったのよね。特性とかいろいろあるんでしょう?」
そう言って佑が笑う。桂は戸惑いの表情で佑を見た。確かに機械化人にはタイプにより特性が異なる。だが桂がそれを知っているのはあくまでも優一郎が資料を見せてくれたからだ。実際に色んなタイプの機械化人を桂は目にしたことがない。
「佑、私は一般的な機械化人とは、違うと思う」
資料にあった機械化人は桂とは随分とタイプが違っていた。資料にあった機械化人はマスターと呼ばれる絶対者が必要だったり、被虐的な趣味を持っていたりする。性的な刺激がなければ維持できない、という点だけが同じだろうか。
「それでも、根本的な部分は同じなんでしょう? 維持に必要な行為とか」
意味ありげな笑みを浮かべて佑が言う。桂は頬を染めて少し俯いた。脳裏にまざまざと口づけの感覚が蘇る。初めてのキスは桂には衝撃的なくらいに気持ち良かった。維持のために自慰をするのとは気持ちの良さがまるで違っていた。想定していた以上の快感を覚えたために、桂のシステムはあっけなくダウンしてしまったのだ。
「佑、端的に目的を言って」
水輝との口づけを思い出し、居心地の悪さを感じた桂はかたい声音でそう促した。
「今晩、あなたの部屋に泊めて、機械化人の事を色々教えて。作戦上、必要な事だから、もちろん協力してくれるわよね?」
にっこりと笑って佑が言う。桂は不思議に思いながらも何となく頷いた。作戦上に必要ということなら拒否する理由もないだろう。自分の部屋に他人を上げるのには多少の抵抗はあるが、佑なら特に問題もなさそうだ。
桂の暮らしている場所は『塔』の敷地内にある女性専用の寮だ。桂は佑を連れて客室を出て、研究室に残っていた研究員たちに挨拶をして寮に向かった。ゲートを越えて一気に寮の棟に移動する。各棟に備え付けられているこのゲートは『塔』内部の施設に一気に跳べるという特性を持っている。寮の入り口で身分証明を済ませ、桂は佑を自分の部屋に案内した。
佑の誘いに乗った時点で桂の運命が決まった気がしますw