「蒼藍、正常な龍神は覚醒期に入ったら性欲の虜になってしまうのは知ってるわよね?」
「なんだ……ばれてたんですか。知ってますよ」
蒼藍は眉を寄せて小声で答えた。やっぱり近付き過ぎたのかも知れない。きっと佑は蒼藍が欲情していることに気付いているのだろう。蒼藍は諦めのため息をついてそっぽを向いた。
「あなた、そろそろ覚醒の時期なんじゃない? 生まれてから十二年、経ってるのよね?」
「本来は十七年は大丈夫なんですけどね。少し、早いようです」
横を向いたまま答えて蒼藍は肩を落とした。
「大丈夫ですよ。これまでも抑制出来ましたし、最悪の場合は処理しますから」
「理子は二年であなたくらいまで成長して、一気に覚醒したわ。個人差があるのは当然なんだから」
「だから、なんですか? まさかそれが理由でぼくのものになると?」
心配そうな面持ちをする佑をちらりと見やり、蒼藍は低い声で言った。
「蒼藍、あなたのことが心配なの」
「お気になさらず。性欲の処理の仕方くらいは心得ています」
言いようのない怒りがこみ上げてくる。蒼藍は横を向いたまま、自分の足首を強くつかんだ。佑を傍に感じているだけで身体は勝手に反応している。だがこのまま佑の言葉に甘える気にはなれない。
「処理って、適当にそのあたりの子を抱いて棄てるつもりじゃないでしょうね?」
「まさか。そんな遺恨の残る真似はしませんよ。自己処理します、と言っているんです」
淡々と答えて蒼藍は佑を見やった。佑は心配そうな顔をして蒼藍を見つめている。
「自己処理って……」
不思議そうな顔をして佑が呟く。ぎり、と歯軋りをして蒼藍は睨むように佑を見た。
「龍神の童貞は特別ですから、誰彼構わず交わる訳にはいかないでしょう? 自己処理、というのはつまり、自分でペニスを扱いて精液を出すという作業のことです」
やけくそになって蒼藍は口早に説明した。無意識に顔に血が上り、蒼藍の頬が赤く染まる。
「ご、ごめんなさい! 蒼藍! そうよね、男の人も自慰ってあるのよね」
焦ったように佑が言う。蒼藍は苛々しながら俯いた。勝手に血が上って耳まで熱い。
「別に謝らなくてもいいです。佑さんがぼくのものになる、と言ったのはそのせいですか?」
蒼藍が問い掛けると佑が首を振る。上目遣いに佑が首を振ったのを見て取り、蒼藍は眉を寄せた。
「じゃあどうしてです。ぼくに同情したからじゃないんですか?」
「逆よ。いろいろ考えて、やっぱり、わたし、蒼藍のこと、好きになってるって気付いて……」
そこで佑が言葉を切る。蒼藍は驚きに目を見張って顔を上げた。
「蒼藍がまだ、わたしの事を好きで居てくれるうちに、いくとこまでいっちゃえって……ごめんなさい」
「ぼくはそんなに薄情に見えますか」
小声で言った佑を見つめて蒼藍は静かな声音で問い掛けた。
「誰もそんな事は、言ってないでしょう?」
「一年後には見向きもしなくなると言いませんでしたか?」
そう言いながら蒼藍は少し佑に身を寄せた。間近に顔を覗き込むと佑の頬が少し赤くなる。
「わたしのほうがおかしいから、それが普通だと思う」
「どこがおかしいんです?」
そう囁いて蒼藍は素早く背筋を伸ばし、佑の唇に軽く口づけた。
「自分で、自分のことはわからないけど、客観的な他人評価を聞いているかぎり、普通じゃないわ」
「ぼくはそういう佑さんが好きなんですが、それだけじゃ不満ですか」
そう言って蒼藍はぺたんと床に座り込んだ。ペニスが痛いくらいに勃起しているのが判る。無意識に呼吸が速くなり、手が震えてくる。蒼藍は佑から顔を背けて歯を食いしばった。
「でも、わたしを抱くよりも、自分で処理するほうがいいんでしょう?」
しょんぼりとした顔をして佑が言う。蒼藍はがばっと顔を上げて反射的に叫んだ。
「そうじゃない! 抱き方がわからっ……!」
そこまで叫んで蒼藍は慌てて口を手で覆った。
「……本当に意地っ張りなんだから」
佑が蒼藍を見つめてくすくすと笑う。蒼藍は耳まで真っ赤になって俯いた。触りたいという欲求だけが強くて、実際にどうしていいのか判らないのだ。
「き、キス、してくれますか? ぼく、佑さんにどうやって触れたらいいのか、判らないんです」
「だから、誰でも最初から百点取れるわけはないでしょう? 自分でどうすればいいか考えて、自分でやってみなさい」
「う……」
微笑みを浮かべた佑を上目遣いに見つめ、蒼藍はよろけながら立ち上がった。佑の手をつかんで俯いて部屋の奥に向かう。
「べ、ベッドで、した方が、いいんですよね?」
そう言いながら蒼藍は目の前のベッドと佑を見比べた。
「いちいち、確認しないの! あなたのやり方で、あなたの好きなようにやってみればいいじゃない」
「あっ、は、はい!」
蒼藍は慌てて返事をして、佑の身体を両腕に抱き上げた。よいしょ、とかけ声をかけてベッドに静かに佑を横たえる。蒼藍はいそいそとベッドに上がって佑の唇に自分の唇をそっと被せた。
ええと、どうするんだっけ……。理屈では性行為のやり方は判るのだが、実際に佑に触れたところで蒼藍の頭からはそれらのやり方が完璧に抜け落ちていた。切羽詰まった感覚だけがやけにはっきりしていて、焦りが募る。目をかたく閉じて蒼藍は震える手を伸ばして佑の髪に触れた。指の間を通る柔らかな感触が心地いい。
「もう、緊張しすぎ。ほら、肩の力を抜きなさい」
そう言って佑が急に蒼藍の肩をつかみ、乱暴に揉み始める。蒼藍は強烈な痛みに悲鳴を上げた。
「いたっ! や、痛いですってば! あっ、や、やめて」
痛みに顔をしかめながら蒼藍は身を捩った。
「緊張解けた?」
微笑みを浮かべて言って佑が手を離す。蒼藍は痛みの残る肩をさすって眉を寄せた。
「もう。急に何するんですか」
そう言ってから蒼藍はもう一度、佑の唇に自分の唇をくっつけた。確か、ここで相手の唇をこじ開けて。そんなことを蒼藍が考えている間に佑が軽く唇を開く。蒼藍は自然に唇を開けて舌を伸ばした。
「ん」
蒼藍は佑の口の中のあちこちを夢中で舐めた。甘い味のする佑の唾液を啜っては飲み込む。そうしているうちに佑が蒼藍の舌を舌で絡め取る。温かい舌が絡んだ感触に蒼藍は思わず目をかたく閉じた。
「んっ……。くぅん!」
甘い佑の声が微かに聞こえる。それを聞いた瞬間、蒼藍の中で何かが弾けた。蒼藍は荒い息を吐きながら貪るように佑の舌を舐めた。そうしながら佑の身体にのし掛かり、胸に手を当てる。服の上から佑の乳房を揉みながら蒼藍は佑の舌を吸い立てた。
「ゆ、佑さん。服、脱がせますね」
昂奮のままに上ずった声で言い、蒼藍はぎこちない手つきで佑のブラウスのボタンを外し始めた。早く佑の身体に直に触りたい。焦る気持ちを抑えて蒼藍はボタンを外してブラウスを開いた。そこで佑が軽く背を浮かせる。蒼藍は慌てて佑の背に手を回し、胸を覆う下着のホックを外そうとした。だがなかなか上手く外せない。
初心者か。
まあ、初心者なんですけどね!w