ここから二部です。
消滅の危機を脱した! 1
むう。また消滅危機ね。これで何度目だったかしら。思い返して、数えるのを諦める。佑は小さな妖精の姿になって自分の部屋の照明の上にちょこんと座っていた。ベッドに座った蒼藍は力なくうなだれている。
とりあえず、水輝さんを好きだったわたし、さようなら。成仏してね。佑はベッドに向かって手を合わせてそう呟いた。蒼藍の精液に身体が耐えられなかったのは、きっと水輝専用だったからに違いない。そう考えて佑はうんうんと頷いた。
「最悪、この姿のまま出て行って、納得してもらうしかないわね」
なんとか、身体を再構成できたらいいけど、宝珠もなくなっちゃったみたいだし……。そう続けて佑は難しい顔をして腕組みをした。その瞬間、蒼藍がゆらりと顔を上げて佑の腰掛ける照明を見上げる。
「そこ。一人でぶつぶつ言っていないで、ここに来なさい」
うろんな目で照明を見上げながら蒼藍が低い声で言う。それを聞いた佑はぎくりと身体を竦めた。
「もう、流石に目敏いんだから……」
「素直に降りてこないなら、照明器具をたたき落としますよ?」
機嫌が悪そうな顔をして蒼藍が低い声で言う。
「乱暴なんだからっ」
しかめ面で言ってから佑は仕方なく蒼藍の方に向かって飛んだ。小さな虹色の羽根で飛んできた佑に蒼藍が手を差し伸べる。佑は大人しく蒼藍の手にちょこんと腰掛けた。
「なるほど。妖精ですね」
納得したように蒼藍が頷く。
「そうよ。小さくても美人でしょ?」
そう言って佑は蒼藍の手の中でポーズをとってみせた。すると蒼藍がええ、と微笑みを浮かべる。
「とても綺麗ですよ。ああ、危なかった。危うく佑さんの後を追って自決するところでした」
わざとらしく言って蒼藍が危ない危ないと首を振る。
「蒼藍ってあぶなっかしいから、わたしが傍についていてあげなきゃだめね」
腕組みをして佑はうんうんと頷いた。ついさっきまで心を締め付けていた苦しい感じが嘘のように消えている。自信たっぷりに言った佑に蒼藍は笑ってみせた。
「そうですね。ちゃんと見張っていないと、どこかの女性にさらわれてしまうかも知れませんよ」
「蒼藍、本当に、そうなったらそれでかまわないから。永遠を保証することなんてできないんだし」
それに、女性とは限らないし。そう続けて佑が頷くと蒼藍が怪訝そうな顔をして首を傾げた。
「ぼくが欲しいんじゃないんですか?」
「蒼藍、わたしのした約束、覚えてる?」
「何があっても明日の朝まで待て、ですか?」
佑が問い掛けると蒼藍が首を傾げながら言う。
「それは、きちんと身体をなんとかしようと思ったから……。そっちではなくて、一年区切ったほう」
「ああ。一年後にぼくのものになる、という約束ですか」
そう答えて蒼藍が頷いてみせる。佑は蒼藍の手に腰掛け直して頷いた。
「一年区切ったのは、変に自己卑下してたせいよ。ごめんなさい。今でも蒼藍が欲しいって言ってくれるなら、わたし蒼藍のものになるから」
「欲しいに決まってるでしょう?」
真剣な顔で告げた佑に微笑みを浮かべ、蒼藍がはっきりと言う。それから蒼藍はそっと顔を寄せて佑の小さな頭にキスをした。
「ありがとう」
そう言って佑はにっこりと笑った。蒼藍が静かに顔を離して難しい顔をする。
「でも、ぼくを欲しがるところも見たいんですよね」
少し遠い目をして蒼藍が言う。
「そう、問題はそこだったんだわ」
佑は力強く頷いて言った。すると蒼藍が不思議そうな顔をする。
「もしかしてぼくを欲しいと思って欲しいというのは間違っていますか?」
そう言ってから蒼藍がややこしいな、とぼそりと呟く。佑は眉を寄せて力なく首を振った。
「間違ってるっていうか、どうしていいかわからないの」
「相手に好いて欲しい、自分を見て欲しい、抱いて欲しい……色々あると思いますが、判りませんか?」
蒼藍が静かな声音で訊ねる。佑は腕組みをして首を捻った。
「蒼藍に好いてほしいし、見ていてほしいし、抱いてほしいわ。わかるわよ」
佑の顔はじわじわと赤くなり、やがて耳まで真っ赤になった。ふむ、と呟いた蒼藍が言葉を継ぐ。
「ペニスが欲しいとか、そういう感覚は判るんですね? なのにぼくが欲しいという感覚が判らないんですか?」
「わたしだけを好いていてほしいという意味でなら、わかるわ。だけど……」
「だけど、なんです?」
俯きかけた佑は蒼藍に問われて思い切って顔を上げた。
「蒼藍の言いたいニュアンスはなんとなくわかるの。だけど理解できない。過去の人、水輝さんの話になるけどいい?」
「どうぞ」
穏やかな顔で蒼藍が頷く。佑は蒼藍の指に寄りかかった。
「水輝さんは、奈月さんでも、わたしでもなく優一郎を選んだわ」
「そのようですね」
こくんと蒼藍が頷く。佑は頷き返して言葉を継いだ。
「それは、結局、奈月さんやわたしが、水輝さんの求めていた何かを満たせなかったからだと思うの」
「逆もまたありなんじゃないですか? 彼では佑さんや奈月さんを満たせなかったとも言えますね」
佑の言葉に蒼藍がさらりと言葉を返す。それを聞いた佑は何度か瞬きをした。
「そうね。翠さんと奈月さんはとても良い感じだったし」
やっぱり家庭菜星が決め手だったのかしら。そう言って佑は頷いた。翠は趣味で星一つ丸ごと使って苺を植えたり、紅茶を栽培してみたりと好き放題しているのだ。
「彼らがいま、くっついているのはぼくを生み出す必要があったからでしょう? ちょうどいい時に、ちょうどいい具合で、ちょうど良く知り合って、ちょうどよく結ばれる。それだけの話だと思いますよ」
蒼藍が淡々と言う。
「今の言葉、自分を対象にしてごらんなさい」
そう言って佑は顎をしゃくった。しばし蒼藍が黙ってから口を開く。
「ぼくは佑さんに会えてとても嬉しいし幸せだと思いましたが。例えそれに何らかの理由があったとしても」
そう言ってから蒼藍が首を捻る。
「だったら、それでいいじゃない」
そう答えて佑はにっこりと笑った。蒼藍が眉を寄せて難しそうな顔をしてため息を吐く。
ようやく二部!
いきなり佑が消滅するかと思いきや、ですw
何度目かな……。