BLなので! 警報です!
深々とため息を吐いて優一郎は研究室に戻った。通常勤務時間が過ぎ、研究室にいた研究員たちが次々に帰宅する。優一郎はそんな彼らにお疲れ様と挨拶してから机についた。
どうやら桂も帰ったようだ。最後に残っていた研究員からその話を聞き、優一郎は頷いた。佑がしっかり世話をしてくれたらしい。そのことに安堵して優一郎は残っていた仕事を片付けにかかった。
理子からはさっき通信が入った。今日はキュウリのパックをして早く寝るのだそうだ。おやすみ、パパ。といういつもの理子の挨拶を思い出して優一郎はため息を吐いた。きっと今頃、理子はベッドでいい夢を見ているに違いない。
水輝さん、あんなことを続けていて大丈夫なんだろうか。ふと、仕事の手を止めて優一郎は倉庫で見かけたことを思い出した。水輝は平然とした顔で男性の相手をしていた。慣れた調子で金をチップから抜いていたから、きっと水輝はあの手のアルバイトをいつもしているのだろう。
天人世界の住人との関係全体に影響を及ぼすことに気が付いていないのだろうか。考えを巡らせて優一郎は難しい顔をした。ハイブリッドである水輝はどうしても人の情欲を引き出しやすい。たぶん、水輝はそのことは熟知しているのだろう。だからああいったアルバイトをしているのだ。
彼らは子供を為しにくい体質からか、セックスに強い執着を持つ。『塔』という狭い環境の中で、彼らは水輝を相手に欲求不満を解消する。だがハイブリッドはその特性故に人の性感を狂わせる。今はアルバイトのつもりでやっていることなのかも知れないが、もしも誰もが水輝を性欲のはけ口にすることになったらどうする気なのだろうか。考えるうちに優一郎の顔はどんどん険しくなっていった。腕組みをして考え込む優一郎以外、この研究室には今は誰もいない。優一郎は誰の指摘を受けることもないまま、つらつらと考え続けた。
ハイブリッドは生まれた経緯故に偏見を持つ者も多い。その偏見は水輝の行為により増している感さえある。そのことによってハイブリッドの中にも水輝のことを快く思わない者も増えてきているのだ。だが当の水輝に意見するハイブリッドは今のところはいない。誰もが水輝を敵に回したくないと心の底で考えているからだ。
優一郎は考え事をしながら何気なく実験台の上を見た。研究室の一角に置かれた実験台に並んでいる試薬が切れている。優一郎は重い腰を上げてため息を吐いた。
研究室を出て廊下を歩く。優一郎は疲れた足取りで倉庫に向かった。確かあの試薬は倉庫の奥にあったはずだ。そう思いながら優一郎は倉庫のドアの前で足を止め、いつものように鍵を開けようとした。ドアノブに触れると何故かドアが開く。どうやら鍵が開いているらしい。優一郎はドアを開けて静かに倉庫に入った。
倉庫の中は静まりかえっている。広々とした倉庫の中を歩きながら優一郎は周囲を見回した。倉庫には明るい照明が満ちている。
「……!」
はしごを登り、中二階の奥に向かった優一郎は思わず息を飲んで足を止めた。白衣を着た若い男性が数人、床に倒れている。その中に水輝の姿があった。水輝は裸で手足を針金で縛られ、口にタオルを突っ込まれていた。身体中に殴られたような痣がある。
「水輝さんっ! どうしたんですかっ!」
声を上げて優一郎は水輝に駆け寄った。だが水輝は目を閉じてぐったりと横たわっている。よく見ると水輝のペニスにも針金が巻き付いていた。どうやら水輝はここで男たちに嬲られたらしい。優一郎は力を使って水輝を拘束していた針金を取り除いた。口からタオルを引き抜くと、水輝が苦しそうに顔を歪めて軽く咳き込む。
「何があったんですか?」
優一郎は険しい顔をして水輝に問い掛けた。水輝が薄く目を開けて優一郎を横目に見る。
「わり……。ちょっと、なめてて」
掠れた声で答えて水輝が身を捩ろうとする。だがそこで水輝は苦しそうに顔を歪め、身体から力を抜いた。
「解いてくれて、ありがと。あとは、自分でするから」
「放っておけるわけ、ないでしょう?」
険しい顔でそう言って、優一郎は白衣を脱いで水輝の身体に被せた。散らばっていた水輝の服を拾い集め、それごと水輝を抱え上げる。
「いや、いいって、まじで」
優一郎の腕に抱え上げられた水輝が困ったような顔をして言う。だがろくに身体が動かせないのだろう。抵抗らしい抵抗はしない。
「行きましょう」
水輝を抱えたまま、優一郎は歩き出した。水輝が掠れた声を漏らして時折、身震いする。どうやら怪我のせいか、熱が出ているらしい。優一郎は足早に倉庫を後にし、研究室の隣の仮眠室に水輝を運び込んだ。狭い仮眠室にはベッドが設えてある。優一郎は暗い仮眠室のベッドに水輝をそっと下ろした。呻きを漏らした水輝の頭をそっと撫でる。すると何故か水輝はのろのろと手を上げて優一郎の手をそっと退けた。
「あんま、さわんな。欲しくなるから」
掠れた声で言って水輝が咳き込む。優一郎は目を細めて水輝の身体にかけていた白衣をそっとめくった。窓からさし込む微かな光の下で見ても水輝の身体がそうとう痛めつけられていることが判る。
「そうか! 食事か! そういうことだったんですね」
佑が言ったことを思い出して優一郎はうんうん、と頷いた。すると水輝がいぶかしげな顔をして優一郎を見る。
「あ? 何の話だ」
小声で言ってから水輝が仏頂面をして白衣を引き寄せ、腰に掛ける。だが優一郎は水輝の腰を隠した白衣をまためくった。水輝の股間ではペニスがそそり立っていて、そのペニスの表面は傷だらけになっている。
「治療、必要でしょう?」
そう言って優一郎は水輝の股間に顔を伏せた。ペニスを口に咥え込まれた水輝がぎょっとしたような顔をする。
「こ、こら、よせって」
慌てたように言って水輝が優一郎の頭を退けようと手を伸ばす。優一郎はそれを無視して水輝のペニスを根元まで口に咥えた。その途端、水輝が掠れた声を漏らして身震いする。優一郎は治療の力を少しずつかけながら、優しく水輝のペニスに舌を這わせた。
「だ、だから、こら、止せって、ヤバいってば」
ごく小さな声で言って水輝が優一郎の頭に手をのせる。優一郎はペニスを口に咥えたまま、頭に乗せられた水輝の手をつかんだ。指輪の嵌った水輝の右手に左手の指を絡めると、水輝がぴたりと身体の動きを止める。
「怪我人は大人しくしていてください」
少し顔を上げて言ってから優一郎はにっこりと笑った。今度は舌を伸ばしてペニスの表面を舐める。不思議と口に水輝のペニスを入れることに抵抗はない。優一郎は左手に水輝の手を捕まえ、右手で水輝の腿を撫でながらペニスをしゃぶった。苦しそうに顔を歪めた水輝の呼吸が少しずつ荒くなる。
表面にまんべんなく舌を這わせてから、優一郎はまた口の中にペニスを咥え込んだ。それまで黙っていた水輝が諦めたような息を吐く。
「ちょっと顔上げろ」
言われるままに顔を上げた優一郎は驚きに目を見張った。素早く身を起こした水輝が片手で優一郎の頭を支え、唐突に唇を合わせたのだ。硬直した優一郎の唇を水輝が舌でこじ開ける。水輝は深く口づけながら、優一郎の身体を軽々と抱え上げて自分の上に下ろした。水輝を跨いだ格好になった優一郎を、改めて水輝が両腕で抱き寄せる。
「み、水輝さんっ!」
「堪らなくなったんだから仕方ねえだろ」
慌てた優一郎の声に憮然と答え、水輝がまた優一郎の唇を塞ぐ。優一郎はかたく目を閉じてされるがままに唇を開いた。ためらいがちに開いた優一郎の口の中に水輝の舌が滑り込む。
「んっ」
じん、としたものがこみ上げて優一郎は思わず呻いた。いけないと思うのに水輝との口づけは心地がよく、無意識に舌を絡めてしまう。水輝が優一郎の舌を優しく吸いながらそろそろと手を伸ばす。股間に触れられたところで優一郎はびくんと身を竦めた。
「がちがちだな」
口づけの合間に言って水輝がするりと優一郎の股間を撫でる。
「ちょっと、やめて、んっ!」
「駄目」
何度も優一郎の唇を吸いながら、水輝が慣れた手つきでするすると服を解く。緩んだズボンの中に水輝の手が入ってきた瞬間、優一郎は掠れた声を上げて身を強ばらせた。直に優一郎のペニスを握った水輝の手が艶めかしく動く。
「水輝さん!」
「優一郎。キスして」
優一郎のペニスを指で愛撫しながら、水輝が囁く。その声にぞくりとしたものを覚え、優一郎は困惑に顔を歪めた。水輝が苦笑を浮かべてためらう優一郎の首に片腕を回して引き寄せる。
「んっ!」
抱き寄せられた優一郎は水輝と唇を合わせ、無意識に舌を伸ばした。水輝の舌を探り当てて夢中で舌を絡める。その間に水輝は慣れた手つきで優一郎の穿いていたものをずらしにかかった。
「すっげえ気持ちいい」
笑い混じりに言って水輝がまた優一郎の唇を塞ぐ。水輝の手の中では優一郎のペニスが勃起しきっていた。触られるところが全て心地よく、撫でられるたびに頭がくらりとするような快感が襲ってくる。
「水輝さん、約束していただけますか?」
快感に囚われてしまいそうになる意識を何とか留め、優一郎は間近に水輝を見つめた。水輝が首を傾げて口許に笑みを浮かべる。
「なにを?」
「もう、アルバイトはしないと」
そう優一郎が言った直後、水輝が唇を引き結んで笑みを消す。しばし黙してから水輝は低い声で何で、と訊ねた。
「必要無くなるからです」
そう言って優一郎は自分から水輝の唇を塞いだ。驚いたように目を見張った水輝の唇をこじ開け、優一郎は舌を伸ばした。だが水輝が呻きを漏らして顔を強く横に振る。
「ちょっと待てこら。つまりなにか? お前が連中の代わりにおれを抱くって意味か?」
剣呑に言って水輝が優一郎を睨む。
「必要なんでしょう?」
にっこりと笑って優一郎は訊ねた。そんな優一郎をしばしじっと見てから水輝が深々とため息を吐く。
「やめやめ」
けっ、と喉の奥で言ってから水輝は覆い被さっていた優一郎を押し退けた。優一郎の身体の下から這い出した水輝がベッドにあぐらをかく。
「餌は自分で調達する。気にしなくていいぞ」
そう言ってから水輝はベッドの端に丸められていた自分の服を取り上げた。優一郎はベッドに座ってじっと水輝を見つめた。
「水輝さん。そういうところは変わっていませんね」
「何がだよ」
不機嫌な顔で言って水輝がシャツの袖に腕を通す。ボタンを掛けながら、水輝はちらりと横目で優一郎を見た。
「あ、なおしてくれてさんきゅ、な」
「自分の行動が、他人に与える影響を軽視しすぎてます」
「そうかあ? 別におれが客を取ったところで誰も困らねえだろ」
のんびりと言って水輝は振り返って今度は下着を取り上げた。手早く下着を穿いてから、今度はジーンズに手を伸ばす。優一郎は険しい顔でそんな水輝を見守った。
「わかりました。そう、選択されるんですね」
真剣な表情で優一郎は水輝を見つめた。すると水輝が着替えの手を止めてまじまじと優一郎を見る。
「……相変わらず真面目だなあ。どうせおれが『塔』にいる時間なんて短いんだし、アルバイトも続けられねえだろ。そんなむきになって言うようなことか?」
そう言ってから水輝がジーンズを引っ張り上げてボタンを掛け、ファスナーを上げる。
「いえ。問題無いと思います。変なこと言って、すいませんでした」
優一郎はにっこりと笑って乱れた服を整えた。ふうん、と呟いて水輝が頷く。
「ま、妙なことして悪かったよ。これからは気をつける」
呟くように言ってから水輝はベッドを身軽に飛び降りた。
すれ違ってばっかりなのです。