※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


愛華って名前、辞書登録してなかったぽい(作者

「第二十三研究室はこちらでよろしかったかしら?」

 

 ぴったりと身体に張り付くような服を身に纏った女性が言う。豊満なバストの形が付け根から先端までばっちり判ってしまうようなデザインの服に戸惑ったのか、入り口付近にいた研究員たちが困った顔をして女性から目を逸らす。色香の漂う美人というのもまずかったのかも知れない。優一郎は平然と立ち上がって女性に頷いてみせた。

 

「あなたが吉良博士でいらっしゃいますのね? わたくしは情報部第三課から参りました。佐山愛華と申します」

 

 そう名乗った女性に応じて優一郎は会釈をしてみせた。来客ということなら研究室の入り口で応対するのもまずいだろう。優一郎は再び研究室の奥の部屋に向かった。悠々と研究室を横切った愛華が優一郎に従って奥の部屋に入る。

 

「こちらをご覧になっていただけます? 辞令ですが、機密保持のために直接手渡すようにと言われておりますの」

 

 悠然とソファに腰を下ろした愛華が小さなコイン型のチップを差し出す。優一郎は向かいの席に腰を下ろしてそれを受け取り、携帯端末のスロットに差し込んだ。ほどなく画面にずらりと文字が表示される。

 

「これはあなたに対する出向の辞令で、これはうちの研究室に対する出向受け入れの辞令ですね。つまり、あなたはしばらくの間、うちの研究室で働くことになったと?」

 

 ざっと内容を確かめてから優一郎は顔を上げた。優雅に足を組み合わせた愛華が微笑みを浮かべて頷く。だが情報局の人員がこの研究室に来てどうするのだろうか。借りは確かにあるが、特にすることなどないような気がする。考えを巡らせながら優一郎は端末を白衣のポケットに戻した。

 

「あ、そうでしたわ。課長の韮山から、吉良博士に預り物がありますの。以前、お食事をご一緒させていただいた時に大変おもしろい話を聞かせていただいたと」

 

 ふと、気付いたような顔をして愛華が胸のポケットを探って別のチップを取り出す。優一郎は訝りに眉を寄せつつもそれを受け取り、端末を取り出した。挿入口に入っていたチップを差し替えて画面を覗き込む。

 

「要求仕様書……?」

 

 優一郎は眉を寄せて画面に映る文字を目で追いかけた。

 

「あの……。これは、つまり……」

 

 かつてよくこの手の仕様書は目にしていた。が、優一郎はあくまでも仕様書を書く側で、決して誰かから請け負う側ではなかった。画面に表示されていたのは機械化人というネーミングには変わったが、つまるところヒューマノイドの仕様書だったのだ。

 

「その、Mタイプと申しましたかしら? わたくしをそれに作り替えていただきたいというのが、韮山の要望です」

 

 事もなげに言って愛華がにっこりと笑う。それを聞いた優一郎は困惑に顔を歪めた。ヒューマノイドに関しては自分の出来る研究は全て終えたつもりだった。だが桂といい愛華といい、どうして改造を自分から望むのだろうか。

 

「諜報用途としては、ちょっと不可解な要求も含まれていますが……」

 

 困惑しつつ、優一郎は仕様書を読み返した。この仕様書の通りに造るとなると、愛華の性癖が俗に言うマゾになってしまう。おまけに性行為に関する要求項目がやたらと多く、しかも実戦では到底役に立ちそうにない隠し武器の要求もある。その上、マスター登録システムの搭載まで要求されているのだ。

 

 ヒューマノイドと呼ばれる者たちは一様にこのマスター登録というシステムを搭載していた。被虐趣味を持つ女性に限り、ヒューマノイド化が可能で、その性質故にヒューマノイドは特定の主人に仕えるというシステムがなければ維持できなかったのだ。が、優一郎の推奨したプロジェクトの機械化人は、このマスター登録システムがなくても維持できるように改良を加えてある。

 

「あと、この仕様書の通りにしましたら、あなたは韮山さんに逆らうことは出来なくなりますよ?」

 

 戸惑いつつ優一郎はそう訊ねた。

 

「まず、あくまで試作であって、実戦投入は行わないことになっております。実は韮山は一月後に部長昇進が内定しておりまして、わたくしはその秘書に抜擢される予定ですの」

 

 愛華が微笑みを浮かべてすらすらと説明してみせる。まるで用意されていたかのような滑らかな口調に優一郎は僅かに眉を寄せた。恐らく先方は優一郎がそう言うことを予測していたのだろう。

 

「ディザブラであるわたくしが情報局に入れましたのは、韮山の引き立てもありますし、わたくしもその仕様書に目を通しまして、何も、懸念すべきことは無いと確認しております」

 

 滑らかに語る愛華の目が潤み、薄い布地越しにはっきりと判るほどに乳首が隆起する。それを見て取った優一郎は困惑に顔を歪めた。真っ正面からそれを指摘するのもどうかと思うし、かといってあからさまに目を逸らすのも失礼だろうか。つらつらと考えを巡らせた優一郎は、愛華が欲情しているのを完全に無視することに決めた。

 

「予算のほうは、この金額でですか?」

 

 仕様書に比べて支払い予定額がかなり多い。優一郎は端末画面を見ながらそう訊ねた。これなら大した苦労もなく材料は集められるだろう。

 

「はい。こちらから試作をお願いする立場ですし、余裕を持たせてあると韮山からのメッセージをお伝えいたします」

 

 それを聞いた優一郎はため息を吐いた。情報局には借りもあるし、これだけの金額を提示されてしまっては受けるより他はないだろう。多少、目的は違うが機械化人の製造に加わることは、この研究室に詰める研究員たちにとってもいい経験になるだろう。プロジェクトに携わっていながら機械化人の製造について何も知らないよりはずっといいはずだ。

 

 それを考えると桂はたった一人で作業をこなし、他の誰にも身体を見せないようにしていた。優一郎に対しても気を許さなかった。そのことを思い出して優一郎はそっと息を吐いた。

 

「お受けいたしましょう。スケジュールについては、こちらに記入して、今お返ししたほうがいいですか?」

 

 そう言いながら優一郎は画面をスクロールさせた。仕様書には空白のスケジュールシートが添付されていた。改造するとなるとどうしても準備には多少の時間がかかるし、実際の機械化には手術も必要となる。それなりに手続きや準備がいると説明をして優一郎は顔を上げた。

 

「はい。よろしくお願いいたします。韮山のほうは、一週間後から休暇に入りますので、可能でしたらそれにあわせて稼働試験のスケジュールを組んでいただけましたら」

 

 そう説明した愛華に頷き、優一郎は手早くスケジュールシートを埋めた。仕様書とスケジュールシートを端末にコピーしてからチップを愛華に返す。愛華は大事にそれを胸のポケットにしまい込んでから立ち上がった。

 

 派手な愛華が去ると途端に研究室にも元の穏やかな空気が戻ってくる。優一郎は席に戻って深々とため息を吐いた。今日はやけに朝から慌ただしい。すっかり冷めてしまったコーヒーを喉に流し込んでから、優一郎は祥子にお代わりを頼んだ。快く返事をした祥子が新しくいれたてのコーヒーを運んでくれる。

 

「そう言えば博士。ちょっと気になるものを手に入れたんですけど……」

 

 周囲を素早く伺ってから祥子が小声で耳打ちをする。優一郎は不思議に思いながらも手招きされるままに立ち上がり、祥子の席に寄った。はい、と手渡された小型のイヤホンを耳に当て、優一郎は祥子の机の端末画面を覗き込んだ。

 

「じゃあ、表示しますね」

 

 小声で言った祥子が端末を操作する。画面をじっと見つめていた優一郎は表示されたものを見て硬直した。

 

「どうも、裏で密かに出回ってるらしいんですよ、これ」

 

 祥子が眉を寄せて小声で囁く。だが優一郎の耳にはそれは届いていなかった。片方の耳にあてがったイヤホンからは、聞き覚えのある甘ったるい声が聞こえている。無意識に傾けた優一郎のコーヒーカップから、コーヒーが筋になって床に垂れる。

 

「……」

 

 呆然と画面を見る優一郎の手から祥子がそっとコーヒーカップを引き取って机に乗せる。だがそのことにすら優一郎は気付かなかった。画面に表示されているのは水輝と優一郎が交わる光景だった。しかも優一郎には全く身に覚えがない。

 

「こ、これは一体!?」

 

 動画の表示が終了したところで我に返った優一郎は素っ頓狂な声を上げた。研究室にいた研究員たちが不思議そうな顔で優一郎を見る。だが優一郎の代わりにさりげなく祥子が彼らに微笑みを向けると、彼らは意図を察したようにさりげなく優一郎から視線を逸らした。が、動揺しきった優一郎は彼らの様子を気にする余裕がなかった。

 

「出所は判らないんですが、密かに取引されているらしく……」

 

 ごくごく小さな声で祥子が言う。

 

「ありがとう。よく知らせてくれた」

 

 かたい声で言って優一郎は外したイヤホンを祥子に返した。祥子が不安そうな顔をして優一郎を伺う。

 

「あの、博士の端末にコピーしますか?」

「ああ」

 

 頷いてから優一郎は自分の席に戻った。祥子が端末を操作した後、机に置いたコーヒーカップをそっと優一郎に差し出す。仇のように端末画面を睨みながら優一郎はコーヒーカップを受け取った。そんな優一郎を伺いながら、祥子が零れたコーヒーを始末する。優一郎はコピーが終わるのを待ってから、改めて問題の動画をチェックした。

 

 やっぱり覚えがない。動画を見ながら優一郎は考えを巡らせた。これは相談するしかないか、と結論を出して優一郎は問題の動画を閉じた。




韮山が出した要求はは、愛華を前に優一郎が作っていたヒューマノイドと同じような仕様にしろというものです。
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