ちょっとだけそれっぽい描写はありますけども……。
BL駄目な方は避けて下さい。
今日は柚子風呂に入るのだー! じゃあ、パパ、まったねー!
耳に残った理子の元気な声を思い出して優一郎は深々とため息を吐いて通信を切った。定時連絡として毎日、夕刻には通信を入れているのだが、いつもいつも理子は元気だ。
「今日は居残り組はありませんねー。それじゃあ、博士。私もそろそろ失礼します」
慌ただしく机の周辺を片付けた祥子がぺこりと会釈をする。ぼんやりと机についていた優一郎は我に返って頷いてみせた。
「あとは、脳手術の手配か……」
次々に研究員たちが帰って行く中、優一郎は陰鬱な顔をして端末画面に向き直った。脳手術の手続きは医療局を通して行わなければならない。この手続きがけっこう手間取るのだ。優一郎は手順を確かめてから必要な箇所に電信を入れた。ほどなく返送された電文にはやはり形式通りの手続きを行う旨が書かれているだけだ。どうやら医療局に直接出向いた方が早そうだ。だがこの時間に訪ねても門前払いを食うだろう。
仕方ない、と諦めた頃、研究室のドアがノックされた。返事をすると静かにドアが開いて水輝が顔を覗かせる。
「よう。そろそろ大丈夫か?」
そう言いながら水輝が無人になった研究室を見回す。
「水輝さん、ようこそ」
そう言って優一郎はかたい表情をして立ち上がった。水輝が頷いて研究室に入ってくる。優一郎は空いていた祥子の席の椅子を引っ張り、自分の席の傍に据えた。水輝が少し眉を寄せてから無言でその椅子に腰掛ける。
「まず、見ていただきたいものがあるんです」
優一郎は端末を操作して問題の画像を表示させた。画面に現れた動画を水輝がじっと見つめる。不思議なことに水輝の表情はぴくりとも動いていない。無言のままで動画が終わるまで見つめた後、水輝がおもむろに優一郎を見る。
「で?」
「この映像が、不特定多数の人間に販売されているようです。CGで合成したのか何かだと思いますけど……」
「それならもう相当ばらまかれてるだろ? 今さらどうにか出来るもんでもねえだろうしなあ」
考えるような顔をして水輝が口許を手で覆う。優一郎は眉を寄せてちらりと水輝の様子を伺った。
「何か、恨みを買うような相手とか、心当たりはないのですか?」
「おれはありまくりで逆に見当がつかねえなー。まあ、優一郎はいい迷惑だと思うが」
悪い、と水輝が小声で詫びる。
「いえ。確かにもうどうしようもありませんからね。放置して、様子を見るしかないでしょう」
「そだな」
そう言って水輝がゆらりと立ち上がる。ポケットから煙草を出して咥えたところでここが禁煙だと気付いたらしい。水輝が唇に挟んだ煙草をポケットに戻す。
「用、それだけか?」
「わざわざお呼び立てして申し訳ありませんでした」
「いや別に」
素っ気ない態度で言ってから水輝が座っていた椅子を祥子の席に戻す。そこで水輝はふと気付いたように優一郎を見た。
「さっきのやつ、消しとけよ」
低い声で水輝が言う。あの動画を見始めてから水輝の表情は驚くほど変化がない。優一郎はそのことに訝りを覚えつつ水輝を見つめた。
「ウィルスでも混入されているとか?」
優一郎が何の気なしに言うと、水輝がしばしの間、沈黙する。それから水輝は優一郎を見てため息を吐いた。
「いいから消しとけ。それと、不愉快な思いをさせて悪かったな」
小声で言ってから水輝がゆらりと祥子の席を離れる。
「いえ、水輝さんのせいでは……」
「おれが妙なバイトしてるからだろ? おれには近付かない方がいいかもな。変な噂が立ってるかもだし」
足を止めて振り返ってから水輝が笑い混じりに言う。優一郎は水輝の態度に訝りを覚え、まじまじと水輝を見つめた。
「水輝さん、もしかして、わざと?」
「何が? おれはセックスが好きで好きで仕方ねえから、趣味と実益を兼ねてバイトしてるだけだが?」
肩を竦めて水輝が事もなげに言う。
「わかりました。この程度のことで動揺してすみませんでした」
にっこりと笑って優一郎はそう言った。一瞬、水輝が全くの無反応になる。だがすぐに水輝はそれじゃあな、と手を上げて研究室を出て行った。優一郎は閉まるドアをじっと見つめてから画面に向き直った。
勘違いとすれ違いが同時に発生しています。
大体、水輝のせいですw