BL警報です!
「水輝さん。水輝さんが、このまま危険な目に遭い続けるなら、僕は僕の基準に従って判断を下します」
「だから、あのくらい……あー、もう」
途中で言うのを止めて水輝がため息を吐く。それから水輝は優一郎を指差した。
「お前は何のためにここにいんだよ? おれの保護者かよ?」
剣呑な目をして水輝が低い声で言う。
「いいえ。ですけど、明らかに危険な状態だったでしょう? 想定を超えた? 違いますか?」
「死なねえだろ。あの程度じゃ。回復には時間かかるかもだが」
そこまで言ってから水輝ががっくりとうなだれる。いや、助けてくれたことには感謝する、と言ってから水輝が顔を上げる。
「すみません。ちょっと熱くなりすぎていたようです」
「とにかく、おれに構うな。今度は見かけても知らん顔しとけ。関わると妙な噂になるし、飛び火するかも知れないだろ」
疲れたような息を吐いて水輝が言葉を継ぐ。
「水輝さんがそう望むなら、そのように振る舞いましょう。ですけど、想定外の事態が続くようでしたら、僕の判断で僕の権限における処置をとります」
「あー、今度から事前に武器のチェックはするようにする。なるべくお前の目の届かないところを使うようにする」
仏頂面で言って水輝がベッドを飛び降りる。その拍子に水輝の身体がぐらりと傾いだ。優一郎は咄嗟に手を伸ばして水輝の身体を支えた。触れた瞬間に優一郎は思わず目を見張った。水輝の身体が妙に冷たいのだ。
「くそ、きもちわりぃ……」
ぼやくように呟いて水輝がぶるりと身体を震わせる。優一郎は有無を言わせず水輝の唇を塞いだ。驚いたように目を見張った水輝の身体からがくん、と力が抜ける。
「暖めてあげますよ」
笑い混じりに言って優一郎は両腕に水輝をしっかりと抱きしめた。力なく優一郎に寄りかかった水輝が乾いた声で笑う。
「さすがに……ちょっと今日は……参った」
「これで二回、それも、だんだんエスカレートしてますよね」
「いや、刺されたりとかは……良くないけど……いいんだよ」
抵抗せず、優一郎に身を任せたままで水輝が囁くように言う。優一郎は訝りを覚えて眉を寄せた。
「突っ込まれた精液の、量が、ちょっと……」
困ったような水輝の頼りない笑い声が耳許に響く。
「なるほど……」
「優一郎」
身体の力を抜き、優一郎に身を預けたまま水輝が小声で呼ぶ。珍しく気弱な呼びかけに優一郎は何となく緊張した。
「水輝さん……?」
「頼み、あんだけど」
小声で言った水輝がぎこちなく優一郎の背中に腕を回す。
「何ですか?」
「抱いてくんないかな。気持ち悪かったら別にいいけど」
聞き取りにくいぼそぼそとした声で水輝が言う。それを聞いた優一郎は何度か瞬きをした。
「精液の入れすぎだって先ほどは……」
疑問を覚えて優一郎はそう訊き返した。すると水輝が微かに笑う。
「ここの、天人世界の奴らのな。体質的に、あわねえんだよ」
「だったら、出したほうがいいですよ」
そう答えて優一郎は自分の胸に手を突っ込んだ。すると水輝が慌てて待て待て、と優一郎の手をつかんで胸から引っこ抜く。
「出すわけにはいかねえんだよ。要るから」
そう言ってから水輝はため息を吐いて静かに優一郎から離れた。
「わりい。変なこと言った」
「水輝さん?」
「ごめん、やっぱ嘘。冗談。気にすんな」
そう言って笑ってから水輝は慌ただしく踵を返した。
「結局、どうしたいんですか? この前みたいなことはごめんですよ」
少し怒りをこめて優一郎は言った。振り返った水輝が後ろ手に仮眠室のドアを開ける。廊下から差し込んだ明るい光に優一郎は思わず目を細めた。
「判った。もう二度と言わない」
それだけ言ってから水輝はするりとドアから外に出て行った。
「水輝さんっ」
慌てて呼んで優一郎はドアから廊下に出た。廊下を走っていく水輝の姿を見つけ、優一郎は駆け出した。追う気配を感じたのか水輝が走りながら振り返る。
「だーから! もう言わないっつってんだろ!」
「何の説明も無しに、何が必要で何が必要で無いのかも教えてもらえず、どうやったら正しい答えを返せるのか教えてください」
走りながら優一郎は憮然とした顔で言った。すると水輝がぴたりと足を止めてその場にへたり込む。優一郎はそんな水輝にすぐに近付いた。
「あー……もー……」
廊下の真ん中にへたり込んで水輝が顔を上げる。
「あれ以上、何をどう説明すんだよ……」
「あの時は、僕を置いていったのに」
拗ねて唇を尖らせながら優一郎は水輝の傍に屈み込んだ。あの時っていつだよ、とぼやきながら水輝がのろのろと立ち上がる。
「とりあえずこっちに来てください」
そう言って優一郎は水輝の腕をつかんで引っ張った。水輝が特に抵抗もせず、大人しくついてくる。優一郎は時折振り返って水輝がついて来ていることを確認しつつ、先に進んだ。
仮眠室に戻ったところで優一郎は水輝の腕を放した。
「この前、ここで逃げたでしょう?」
「あ……えーと」
難しい顔をして水輝が頭をかく。ちらりと優一郎を見てから水輝が観念したようにため息を吐く。
「だから、餌なら他から摂るし、そんな理由でわざわざやってくんなくてもいいって意味だったんだがな」
「今日と言ってることが違うじゃないですか!」
優一郎は怒りをこめてそう言い返した。だが水輝がけろりとした顔で言い返す。
「いや、大筋違わねえだろ。おれはお前の精液を餌として欲しいから抱けっつったつもりはねえんだけど?」
「だから、餌とか、そういうことは関係ないでしょう?」
「優一郎は連中の代わりにはなんねえんだが?」
優一郎が憮然として言い返したことに水輝がまた切り返す。
「だから、あの時逃げてなかったらこんな無様な姿、晒すこともなかったのでしょう?」
「だから、お前とやろうがどっちだろうが、連中としねえわけにはいかねんだよ」
困ったような顔をして言ってから水輝がため息を吐いてベッドに腰掛ける。額を覆って深い息を吐いた水輝の腕が少し震えている。
「だから! 彼らにやられた時にあんな醜態さらすようなことは無かったでしょう? って聞いてるんだけど」
腰に手を当てて優一郎はじろりと水輝を睨みつけた。しばし黙った水輝がああ、と掠れた声で言って顔を上げる。
「何だ。醜態ってこの間のおれが途中で止めたことじゃなくてか?」
「雑魚な彼らにけっこう深刻なダメージ受けたことです!」
「……なに怒ってんだ? ペナルティ食らってるだけだろ? え、ああ、ええと、今か?」
憤然とする優一郎とは対照的に水輝はどうやら混乱しているらしい。そのことに気付いた優一郎は苛々と頭をかいた。
「ペナルティ計算に入れても……ってもう! めんどくさいっ!」
ぷちっ、と優一郎の頭の中でなにかが切れる。苛々しながら叫んだ優一郎をしばし見つめ、水輝がため息を吐く。
とうとう優一郎がブチ切れましたw
水輝が理解しないというか、気持ちが判らないというか。
すれ違ってるからなのですけども。